七章-5
「校舎に帰った、 と言いながら部活の時間が終わりを告げたので寮に帰りました」
「誰に向かって説明してるんですか? ケンジさん」
それはまあ、 察してくれアカネ。
三人で校舎に着いた時点で四時三十七分を針が指しており、 そのまま寮に向かうと、 アカネとアンヌの二人が風呂から上がってきているところだった。
その際、 イツキが「風呂上がりの女性を見てもなんら動揺しない……ということは、 もうそれなりの関係を……?」などと邪推して来たが、 当然の如く、 なにもない。
「時間無かったからイツキ先輩にしか会えなかったわ」
「まあ、 テニスは試合時間が長いですからね」
ケンジが制服を脱ぎながら今日の活動を、 語り始める。
「しかも全部フルセットまで行ったし」
「ケンジくんが思ったよりも強くてね。 テニスしたことないとか言ってたのに」
「いや、 テーブルテニスはやってたんだよ」
「関係無いように思えますわ」
「思えるというか十中八九無いでしょ。 それから、 ケンジくん」
「ん? なに?」
「約束、 忘れてるよ」
約束……ああ、 あれか。 あれか〜。 アカネとアンヌの前で?
この二人の前でイツキをあの呼び方をするというのはハードルが高い。
しかし、 イツキが目をキラキラさせながらこちらを見ている! これはやるしかない。
「イ、 イツキ姉ちゃん……」
少し吃ったのは勘弁してくれ。 そんな流暢に言えたら、 それはそれで自分のキャラが崩壊する。
「よく出来ました」
「イツキ、 お前弟が欲しいとかそんなこと言ってたっけ?」
アンヌが濡れた髪をタオルで拭きながらイツキに質問する。
というかこの女上着てねえ!? タオルで乳房が隠れているだけで下もズボンを履いていなかった。
そりゃあ、 イツキに言われるわけだ。 動揺してなかった俺がおかしい。
「あら学園長。 女性は望みも、 本性も、 心の奥の底は決して見せないものだよ? まあ、 この寮の空気を見れば、 そんなのは関係無いのかな? とも思うけど」
この寮の空気か……。 まあ、この寮できて初日はケンジ一人だったが(というか、 初日しか一人で使っていなかったという事実がケンジの脳内で循環する)、 次の日の朝にはアンヌが居て、 アカネが来てカスミも入って、 今に至っている。
これまでの人生を振り返れば、 ケンジにこんなに友人が居るというのは考えられないことだ。
いや、 そもそも友人の存在に仰天するだろう。
カスミとイツキには先程話したが、 ケンジには友人が存在しなかった。
幼稚園や保育所には通っておらず、 そのため小学校に上がった時、 周りは友人同士で固まっていて、 ケンジは友人の作り方がわからなくて、 それは姉のジュリ、 妹のアリス、 そして幼馴染のリンカもそれは同様だった。
だから、 常に四人で行動していた。 住んでいる家も同じだったし、 トイレに行く際も外で待っている程だった。
そんなことをしていたら、 まあ、 当然可能性としてあるのかもしれない。 イジめというものは。
靴を隠されるのはまあ、 別に何とも思わなかった。 教科書を隠されたり、 仲間外れにされたりもまだ大丈夫だった。 一番ダメだったのは、 やはり暴力だろうか。
休み時間は常に殴られ蹴られ、 教師の誰もがその様子を目撃しながら介入しなかった。
リンカたちも女子同士の暴力には晒されており、 より一層ケンジたちは四人で行動するようになり、 それがまた油を注ぐという気色悪い悪循環に陥っていた。
終いにはリンカたちに対し、 セクハラまがいの行動を取る教師も現れた。 今でも思い出すと腹が立つ。
次第にケンジたちは、 授業にも出なくなる。 義務教育だから、 出なくても進級は出来る。 勉強も学校じゃなくても出来る。
その点からケンジたち四人は家と図書館を行き来する生活を始める。
その行いも、 友人を作る機会を失わせていった。
中学に入ってからもそれは変わらなかった。 それはそうだろう。 小学校のメンバーがそのまま入り、 そしてまた別の人間たちと新たなグループを作るだけなのだから。
結局、 中学校には入学式と卒業式の二回しか登校していない。 テストの日は放課後に登校して試験を解いていた。
ケンジたちの姿を見たことがない生徒たちからすれば、 何故登校して来ないのか不思議に思ったかもしれない。
まあ、 ケンジは否定するだろうが、 その容姿は人の目を惹き付けること間違いなしなのだから。
高校は普通の公立校に入学した。 高校では普通に登校して、 授業にも参加していたが、 それでもやはり友人は作らなかった。
四人は噂を立てられないよう、 住居を変えながらも四人で行動していた。
そんな時に、 あの異空間に飛ばされて、 アカネと出会って……。
……今更ながらジュリとアリスはどうしているだろうか。 二人で何とかやっているのか? 無事だというのはわかるが……。
「うん? どうしたのケンジくん」
どうやらそれなりに難しい顔で考え込んでいたらしい。 イツキに顔を覗き込まれていた。 かなりの美人であるイツキの顔がこんな間近にあると、 流石に頬に赤色が差し込む。
「何でもないよ。 ただ、 姉貴たちは今どうしてるかなと思ってさ」
ケンジの言葉でアンヌも腕を組んで考え出す。
「ケンジの姉妹だからな……。 それなりの護衛を付けることは出来るが」
「アイツら人見知りだからな。 それに多分家に引き篭もってるだろうしさ」
「え、 引き籠もりなの? 意外な感じだね。 ケンジくんがスポーツ万能なタイプだから、 活発な女の子たちだと思ったんだけど」
「活発ではあるよ。 モテるから周りを何時も騒がせてたし。 まあ、 だからこそ外に出なくなったというか……、 煩いのが嫌いというか、 だな」
「前は心配ではないから、 別に連絡もしなくていいと仰っていましたけど……」
確かに、 試験合格の祝いとしてファミレスに行った際に、 その話はしたことがある。 とは言え
「流石に会ってない期間が人生で一番長いからな。 どうしてんのかな〜っていう疑問はある」
それでもケンジはどちらかと言うと、 苦笑の度合いが強い表情をしていたのだが。
「そのケンジくんのお姉さんと妹さんは、 魔法使いなの?」
これはイツキからの質問。
「あ〜、 そう、 だな。 あんまり魔法使ってるの見たことないけど」
「ケンジさんって意外と知らないこと多いですよね」
アカネの言葉がグサッと胸に刺さりながらも答える。
「まあ、 俺は今でこそ普通に喋ってるけど、 前の学校までは話す人とか居なかったからな。 物事を知る機会とか少なかったんだよ」
「なるほどな……。 どうする? この学校に転入させるか?」
アンヌからの提案に一同は驚く。
そうか、 そういうことも出来るのか。 確かにあの二人が近くに居てくれれば、 心強いし、 魔法使いが増えるということもこの学園にとっては有益だ。
「なら、 頼もうかな」
二つ返事のケンジの言葉にアンヌはサムズアップする。 任せとけ、 という意味だろうか。
ケンジは姉妹のいる家の住所をアンヌに教える。 ケンジ自身の家とはそれなりに離れているため、 住所の他に周りの風景、 家自体の形等も頭にインプットしておかないと迷う人たちもいるぐらいだ。
いや、 迷う以前にあの家に行ったことがある人はケンジとリンカぐらいか。 それほどまでに交流が少なく、 また、 そもそも外に出ない姉妹だった。
「よしOK。 こんだけありゃそう時間は掛からずに見つかるだろ。 ……で、 この後なんか予定あるか?」
「予定? いや、 特には無いけど……。 何すんの?」
「ここにいるメンバーで飯を食いに行こうと思ってな。 丁度、 重要な話もあるし」
重要? それだけ言われても正直ピンと来ない。
ケンジが頭に疑問符を浮かべていると
「「あ、 もしかしてMMSの話かな(ですか)?」」
イツキとアカネの言葉が被った。 MMS? なにかの略称だろうか。
「そう、 MMS。 魔導長は自動的に選ばれることになってるから、 カスミも話に加わってOK」
ケンジ以外のメンバーはすぐに分かるらしい。 気になるところだが、 詳しくは外食先で話すと言われ、 財布や端末等の小物だけを持って外に出た。
向かった先はファミレスや喫茶店などではなく、 少し小洒落た大人な雰囲気を持つ店だった。
正直、 学生が入るには多少の躊躇いがある。 アカネやカスミもそうだったらしく、 二の足を踏んでいたが、 アンヌに構わず進むため、 仕方なく着いて行った。
暗めの照明だな……。 落ち着いた空間、 周りにはワインやシャンパンの瓶が置かれ、 カウンターには席が十二。 奥には個室が八つ。 それなりに大きい店のようだ。 これは、 BARというやつかな?
「マスター、 いつもの個室空いてるか?」
アンヌが親しそうに、 グラスを拭いている女性に話し掛ける。 二十代後半ぐらいでこういう店としては比較的若そうに見える。
「あら、 アンヌ学園長。 久し振りね。 ええ、 空いてるわよ、 というよりも貴女たち以外に人は来てないから、 一層の事貸し切っちゃう?」
「そうしてくれるなら有難いが、 迷惑じゃないか?」
「別に。 この店は売上目的じゃなくて、 私の趣味でやってる店だから」
アンヌが礼を言い、 カウンターに座る。 ケンジたちもマスターに礼をしながら席に着く。
「私、 こういうお店初めて来ました……」
「私もですわ……」
「あ、 二人ともそうなんだ? 私は、 大学部の付き合いで何回か此処には来てるよ。 流石に、 男の子と来るのは初めてだけど」
「いや、 イツキ姉ちゃんそんな目で見るな。 何考えてんのか知らんけど、 目が怖い」
ケンジたちの呑気な会話中に貸切の札を下げて来たマスターがカウンター内から声を掛けてくる。
「へ〜、 君が男の子の魔法使いか。 居るもんなんだね〜。 世界は広いねやっぱ」
「マスターはあんまり気にしないんですね。 まあ、 考えてみれば学園以外で魔法使いだって明言したのはここが初めてなんですけど」
マスターはタバコを吸っていいかの確認をすると、 一度煙を吐いた後(因みに銘柄はWinstonのCABINだった)
「魔法なんて自分にとっては常識外のものを知ってからは、 そっち方面のことで驚くなんてのは暫くしてないね。 仕事柄、 情報自体は色々入って来るから、そっちでは驚きの毎日さ」
アンヌがオススメを注文し、 マスターがそれを調理している間にアンヌが話を進める。
「MMSってのは、 簡単に言えば一番強い魔法使いを決める大会だ」
「天下〇武道会的な?」
「まあ、 違わない、 か? 学生たちによる様々な種目、 競技をクリアして行って、 順位による得点で総合順位を決める感じだな」
「体育祭の方が近かったか。 ん? 学生たちってウチだけじゃないよな? それなら、 大会にはならないだろうし」
ケンジの疑問にアンヌは頷きを返しながら、 指折り数えで学園の名前を口にする。
「黄金の航海者魔法情報学園
銀の盾魔法武器学園この二つが日本にある魔法学園だ。 他に
赤い十字架魔法医療技術学校 アメリカ
青い王冠魔法王政学院 イギリス
黒の書庫魔法文学学園 中国
緑の森林魔法自然学校 オーストラリア
そして、 白い天使魔法教会学校 ヴァチカン市国
この七つの学園が現存する魔法学園だ。 MMSはこの七つの学園・学校の代表メンバーによって行われる、 武を中心とした交流会だな」
「は〜。 初めて他の学園の名前聞いたな。 それで、 種目は?」
アンヌが書類を取り出して話出そうとすると横からカスミが口を挟む。
「これは、 まだ外に漏らしてはいけない情報ではありませんでしたの?」
「ええ、 まだ私たち生徒会も拝見していません」
「え、 それ良いのか?」
ケンジが汗を一筋垂らして、 アンヌの方を確認すると
「だから、 ここに来たんだよ。 マスターの口は固いからな」
マスターは早速出来た一品をカウンターに出しながらウインクした。 一々こういった仕草が似合う人だと思った。
「種目は八つ。 一ヶ月掛けて行われるのがこの大会だ」
一ヶ月か……。 長いようにも感じるし、 八つの種目を行うには短いのかもしれない。 どうだろうか。
「一つ目、 ジャベリン。 通称やり投げと言われる物だ。 これは簡単どんな魔法を使ってもいいから、 兎に角遠くに飛ばしたやつの勝ちだ。 予選、 決勝ともに二回投げれて一投につき使える魔法は三つまで」
その後もアンヌからの競技説明は続く。
二つ目、 ターゲット。 通称的当て。 全ての的に対し、 どれだけ時間をかけずに当て終えるかの競技。 得点が的に書かれているのではなく、 あくまで時間による決着。
三つ目、 テニス。 ボールを常時三十個使い行われるテニス。 イツキからすればこれは、 テニスサークルの花形競技らしい。
四つ目、 アルヒミヤ。 錬金術……。 何も無い場所から魔法のみでどれだけのものを作り出せるのかを争う。 それは、 物の大きさでもいいし価値あるものでもいい。
五つ目、 ロッククライミング。 常に掴む場所、 掴んでいる場所さえも縦横無尽に動き回るもので、 高さ五十メートルの壁を登りきる速さを競う。
六つ目、 アルペンスキー。 魔法による天候改変で会場にのみ雪を降らせ、 そこで行われる競技。 決められたコースを踏破し、 旗につけられたアイテムをどれだけ多く集められるか、 そしてゴールさまでの時間を競うもの。 使える魔法は属性魔法一つのみ。
七つ目、 鬼ごっこ。 様々な障害物に覆われ、 囲まれた地形を舞台に制限時間、 十分間の中、 互いに追いと逃げの立場の二連戦を行う。 経過時間の差で勝敗が決まる。
八つ目、 世界魔法格闘一陣《Fazione di wrestling mondiale》大会のラストにしてクライマックス。 完全なるタイマン勝負で、 どんな攻撃どんな治癒方法でもその全てが自由という最も華やかで最も危険な競技。
因みに、 魔法の制限について言及されていない競技は、 各々の常識に任せるというスタンスをとっているらしい。
「最後の面白そうだな……」
「確か去年は、 ステージが半壊してダブルノックアウトの同率優勝だったような……」
「え、 怖っ」
ケンジはわざと身体を震わせながらビビる様子を再現する。
「でもよ、 これ見せられたところで俺のことは秘匿になってるんだから、 見に行けなくね?」
「あ、 確かにそうですわ!? 学園長どうにかなりませんの!?」
「私もケンジくんが来てくれないと燃えるものも燃えないかな〜」
「わ、 私も……」
三人が三人ともそれぞれの態度で、 ケンジについてアンヌに問う。
「そのことなんだが、 ハノネと既に決めてある」
「お? どうにかなんのか?」
「錬金術の種目なんかは、 ケンジの金を作る、 いや創るか? それがあれば優勝間違い無しだ。 そんな戦力を出さない理由がない。 だから」
アンヌが口角を歪める。 ケンジは嫌な予感が背中を駆け巡る。
「ケンジには女装してもらう」
お待たせ致しました!ゲームばっかりしていた訳では無いんです!(言い訳)
バイトが忙しかったのと、学生として最後のテストもありまして、時間が無さすぎる!
そんな中、書かせて頂きました。
七つの魔法学園、学校の全ての名前を書いてみました。場所はいい感じに散らばらせてみて、調整してみました。
八つの競技も色々考えながら、書いてみました。
これからもよろしくお願いします!