七章-6
「ケンジさん、 なにもそんなに気にしなくても」
「気にしてないです……」
「敬語になってますわ……」
「そんな嫌だったの? 似合ってたのに」
あの後、 アンヌに無理矢理店の奥に連れて行かれ、 いつの間に持っていたのか女装セットをその場でされてしまったのだ。
その時のマスターの顔ときたら、 大笑いも大笑いで腹を抱えていた。
「いや、 ごめんよ。 思ったよりも似合ってて、 感心の笑いだったんだ」
そう言いながらマスターは己の涙を指で拭っていた。
アンヌからは「他になにか方法が無いか考えといてやるよ」と言われ、 そのまま寮に帰されたというわけだ。
因みにアンヌは、 仕事を残してきたとか言って、 学園に戻った。 仕事が終わってないのに、 寮に来るのはどうなんだろうな……。
「女装自体は初めてじゃないんだよ」
「え、 まさかそういう趣味が……? 」
アカネとカスミが目を見開いてケンジの顔を凝視してくる。 因みにイツキはニコニコ顔。
「いや、違うよ!? そんな趣味無いからな!? 」
ケンジが必死に手をぶんぶん振って否定する。
「家族の間でな、 されることが多かったから……」
「ケンジさんの家族の印象がいまいち掴みにくいんですのよね……。 性格はかなり濃いというのはわかりますわ」
ケンジは苦笑しながらそれを否定することはなく、 みんなに向き直る。
「ほら、 幼馴染のリンカを入れて女子三人に、 男子一人だとバランス悪いし注目されるだろ? だから女装してたんだよ」
「へ〜。 てかケンジくんさっきメイクしてたけど、 あれ学園長にやってもらってたの? 」
「いや? 自分でやった。 ……いや引くなよ」
目に見えて三人がケンジから距離を置いたので少し悲しくなった。
「三人も出掛けるのにそれぞれお洒落したいじゃんか。 なのに俺のメイクに時間取らせるのもなあって思って、 それで……」
「優しいのか、 阿呆なのかわかりませんよケンジさん……」
「アカネに阿呆って言われたの初めてだよ! 」
その後、 色々とお互いのことを話していく。 と言っても、 ケンジ以外の三人は同じ魔導長として互いについて知っているため、 殆どケンジとイツキの会話になった。
ケンジは、 元の高校時代、 同級生相手に話していたのは最初の一週間だけで、 それ以降はいつものメンバーとしか話さなくなったこと。
その理由は、 幼少時代からの虐めに対する防御のようなものだったということ。
会話によれば、 イツキは元々イスラエルに住んでいたらしく、 出身も一緒らしい。 日本に来たのは中学生の時で、 それなりに文化の違いには戸惑っていたとのこと。
因みに宗教は入っていなかったらしい。 両親どちらとも純日本人で、 イスラエルには仕事の関係で住んでいただけで、 特に深い意味は無いとのこと。
そういった話を小一時間ほど続けていると、 夕飯の時間が近付いてきたので、 ケンジが席を立つ。
今日はケンジが料理の担当だった。
「あ、 ケンジくんって料理するんだ」
「私たちよりも美味しいの作りますよね」
「とても綺麗に形のいい盛り付けしてきますわよね」
「そんなんいつも食べるお母さんの料理よりも、 たまに作るお父さんの料理の方が美味しく感じるのと一緒だろ」
うーん? と頭の上に疑問符を浮かべるイツキとアカネ。
「どした? 」
「私は母の料理しか食べたことないので、 わからないというか」
「私もそうだな〜。 父さん仕事ばっかだったし」
アカネは本人が小さい時に両親が離婚している。
まあ、 それを言うなら、 ケンジの両親は殆ど記憶にもないぐらいの時に事故死と蒸発で両方とも居なくなってしまっているのだが。
「私はわかりますわ。 確かに母よりも父の方が美味しく感じる時がありましたわ」
「それってなんでなの? 」
「たまに食べるから美味しいのでは? 毎日外食よりも、 たまにの外食の方が美味しく感じるのと一緒で」
「なるほど……」
「いや〜、 それは違うんじゃないかな。 微妙に」
そこでケンジが異論を挟む。
「いや、 本当に微妙なんだけどな。 普段から作ってる人は、 時間が無いから手早く簡単に作れるものになるだろ? 」
まあ、 確かに。 専業主婦ならまた違うのかもしれないが、 共働き夫婦なら仕事終わりで夕飯の準備をしないといけないため、 ケンジの言ったような手早く簡単に作れる料理になるのだ。
「その点、 男性が作る時って時間がある時なんだよな。 だから凝った料理になるんだよ」
因みに会話している間もケンジの料理を作る手は止まらない。
今日の料理はハンバーグだ。 ちょっと今日は重めの食べたいと思ったためである。 アカネとカスミは百五十グラム。 イツキは三百。 ケンジは七百五十。 四百の上に二百を置いて、 その上に百五十という三段重ねだ。 プレート皿に盛り付けてサラダと白米。 ドレッシングはごまだれ。 デミグラスソースはこの前の作り置きがあるから、 それを使うか。
そこまでやって、 あとはハンバーグを焼くだけとなったところで、 ケンジがイツキに
「さて、 今日からはイツキ姉ちゃんもこの寮に住むわけだが、 住む上でのルールを決め」
バンッッ!!
「ケンジ先輩! 私も今からここに住むことにしましたよ! 」
突然、 ドアの開く音がして(というか自動ドアじゃなかったか? どんな開け方したらそんな音が鳴るんだよ)その方向を見ると
「げっ、 ルイビっ!? 」
そこに居たのは数時間前にケンジたちがおじゃました、 茶道部所属、 中等部にして魔導長、 潮鳴ルイビだった。
「今からご飯でしたか。 じゃあ、 今日は出直しますね! 」
そのまま勢いで来て勢いで帰っていこうとするルイビを慌てて止め、
「色々聞きたいことはあるけど! まだ飯食ってないんだったら、 やるから! 」
「本当ですか! 」
ルイビのテンションが何故か高い! 着いていけないなと思ったケンジは、 後の対応をアカネたちに任せ、 料理の方に集中する。
幸いサラダは大量に作ってあったし、 白米もまだまだある。 ケンジは自分用のハンバーグの一番上をルイビの分にした。
「よし! じゃあ、 いただきます! 」
「「「「いただきます! 」」」」
完成した料理をテーブルに並べ、 みんなで食べ始める。
「美味しい! ケンジくん、 将来はいい旦那さんになるんじゃない? 」
ニコニコとニヤニヤの中間のような笑顔で、 イツキがケンジに世辞を言う。
「俺は奥さんの手料理が食べたいタイプだけどな。 そういう意味なら、 いつもアカネの手料理食べてるからな。 アカネの手料理は美味しいぞ〜。
特に、 オムライスがな。 卵料理って、 誰にでも作れるぶん他の人よりも美味しく作るってのは難しいもんなんだけどな。 今度食べてみてくれよ」
いや、 本当にアカネの卵料理は美味いんだ。 オムライスなんか卵がトロトロっとしていて、 見ているだけで食欲がそそられるし、 ケチャップも市販の物にオリジナルの手間を加えて味付けを変えている。
因みにこの寮のメンバーの中では、 料理ができるのはケンジとアカネのみ。 カスミは、 最近挑戦し始めた。
最初にカスミが作ってくれた料理はなんと言うか、 外観完璧の中身が無い! 状態だった。
いや、 本当になんと言えばいいのだろうか。 例えば、 割ったら中からトロトロの卵が出てくるオムライスを作った時なんかは、 割ったら中空洞みたいな。
まあ、 それは極端な例で殆どは味付けを間違えまくってたりというような感じだ。
閑話休題。
「あ、 ありがとうございます/// でも、 ケンジさんみたいに大きな料理を短時間にはまだ作れませんね」
「あれ? でも初めてあった時、 ステーキとかカルボナーラ作ってたじゃん」
ケンジはアカネと初めて出会い、 一緒に食事した料理を思い出していた。 あの時は、 短時間でそのふたつの料理を作って見せた。 あの時は驚いた。
ケンジが寝ている間に完成させていたし、 アカネ自身もそう変わらない時間に起きていた筈だ。
「作ったのは二人分でしたし、 私はそんなに食べていなかったので、 実質少し大盛りぐらいでしたよ」
「そうだったっけか」
そのまま五人は食事を進め、 ある程度まで食べ終えたところで
「ルイビ。 本題に入るけど、 今日は何の用で来たんだ? 見た限り、 荷物めっちゃ持ってるけど……」
ケンジの言う通り、 ルイビはキャリーバッグを二つ持って来ており、 肩からも大きなバッグを掛けていた。
「あ、 はい。 イツキ先輩が今日からここに住むとお聞きして」
「うん、 いつもの通り何時の間にか情報を得ているよね〜ルイビは」
ケンジはこの時点でビビりまくりだったが、 他の三人が大して気にしていないようだったため、 平静を装う。
(いや、 大丈夫だ。 特に何かイベントが起こる訳でもないんだ。 焦るなよ俺……)
ケンジは落ち着くために水を一口含む。
「私もここに住もうと思って」
「ブーーーっ!? 」
思い切り水を吹き出してしまう。 いや、 展開が展開過ぎる! テンプレが過ぎる! そういや最初に言ってたなあ!
「予想できたことなのに何故俺もこんなテンプレリアクションを……」
「え、 ショック受けるのそこですか」
「私が住むということに関しては……? 」
アカネからジト目のツッコミがあり、 ルイビは心配そうな目でこちらを見る。 ルイビはケンジの判断を仰ごうとしているのだが……
「いや、 これって俺の判断なのか? 実際。 別に俺寮監じゃねーぞ」
そうこの寮、 MEMORIA寮はケンジの住むところが無いから、 ということで作られた理由なのだが、 だからと言って生徒であるケンジが寮監になっていいと言うことでもないと思うのだが……。
「別にいいんじゃないかな? 」
そういうのは年長者のイツキだ(因みに学園長であるアンヌよりも歳上)。
「ケンジくんも嫌って訳では無さそうだし、 そもそもケンジ君の頼みだったら学園長も断らないでしょ」
「嫌ではないけど……それって俺がアンヌに頼むのか? なんか誤解されそうじゃね? 」
自分のために建ててもらった寮に女の子を住まわせたいから、 学園長に頼みに行く男子生徒。
満貫だろうそれは。 チャラ男満貫だ。 流石に俺はそんなのやりたくない。
「じゃあ、 誰が頼むのさ。 勝手に住むの? 」
イツキがジト目でケンジを見る。
う〜ん。 腕を組んで頭を悩ます。
いや〜、 そもそもの話、
「誰もアンヌの許可取ってないんだけどな〜」
「え? 」
イツキの間の抜けた声とアカネ、 カスミのどこへとも向かない視線。
実際アカネもカスミもアンヌからは許可を得ていない。 言ってしまえば、 この寮の管理者は、 ケンジは否定するが、 ケンジにあるのは明白だ。
「住むなら住め。 俺にはそうとしか言えないかな」
お久しぶりです。KAITAです。
仕事が始まってなかなか書く時間が取れず、またゲームにハマり、そんな毎日でした。
要所、終わりは出来てるのに経過が無い。そんなプロットなのでどうしても時間がかかりますねw




