五章-3
「そもそも間違っていたとは思ってねーよ。 つか、 アンヌは行かなくて良いのか? 」
「お山の大将が動く訳にも行かないし、 そもそもオレら魔導王は緊急任務だろうと、 動くことは許されないんだよ」
「そうなのか? 」
アンヌの意外な言葉にケンジが質問を重ねる。
「ああ、 全ての魔法使いの中立立場にあるヴァチカンから御達しが来るんだよ。 オレらの攻撃はあまりにもデカすぎるっつー変な理由でな。
今、 世界の魔法学園の内、 七つの学園の学園長が、 魔導王だ。 自分の生徒たちがどれだけ傷ついても手出し出来ないなんて、 反吐が出る」
本当に生徒のことが大好だからこその、 そういうことが伝わるアンヌの怒りにケンジは安心する。
「アンヌ、 安心しろ。 お前はいい学園長だ。 だから、 皆お前に命を預けられるんだよ。 もちろん、 俺もこの命預けてやる。 アンヌは安心してお山の大将張っててくれ」
「……、 照れることを普通に言うね、 お前は」
アンヌの頬がほんの少し、 赤く染まっている。
「つか、 全ての魔法使いの中立ってことは……」
「あ、 ああ、 フレグランスのことにも関わらないってことだ」
「なんだよそれ……」
その言葉にケンジが呆れた声を出す。 まるで「面倒なことには関わりたくない」と公言しているようなものではないか。
「腐ってんな」
「どの世界もそんなもんだ」
アンヌの身もふたもない言葉に脱力しながらも、 緊張だけは崩さずに話をする。
「さて、 俺は一応待つよ、 通知が来るまで」
「その姿が一番スピードがあるのか? 」
「ああ。 この属性は雷。 限りなく光に近いスピードで移動できる。 つってもまあ、 身体がそんなスピードに耐えきれないんだけどな」
「髪と眼の色が変わるのは? 」
「俺の身体が限りなく龍に近づくからだ。 お陰でこのスピードを好きに使える」
「……それは、 危険じゃないのか? つまり、 お前が人間じゃなくなってるってこと……」
「大丈夫」
そこでケンジがアンヌに向けた笑顔は相手を安心させるようにも、 諦めたような表情という、 相反する二つが絶妙な加減で混ざっているかのようなものだった。 アンヌはそれを見てどう思ったのか。
「もう、 峠は越したから」
「それって、 どういう」
ブルルルルッ! ブルルルルッ!
その時、 ケンジの端末がブザー音を鳴らす。
「何処だ? 」
アンヌが身を乗り出してケンジの端末画面を覗く。
「ここから、 二キロ。 二年A・B組か」
「そこは、 リーフが居る所だろ」
「もしもし、 どうしました?」
ケンジが通話を掛ける。
「思ったよりも魔物が一体一体が強くて、 今三人ずつで一体と戦ってるんだけど、 人数が足りない! 」
「マジか、 思ったよりも多いのかもしれないですね、 ハノネさん」
「うむ……」
「魔物の姿は? 」
「えと、 角が二つ生えてて、 顔は牛かな? ミノタウロスとかいうのに似てるかも! 」
「分かりました、 すぐ行きます」
ケンジは通話を切ると端末を見ずに、 場所の位置を確認する。 ハノネは任務に出ている生徒全員の端末に魔物の名称を、 ミノタウロスとする。 というメッセージを送信していた。
「北か」
「なんで分かるんだ? 流石に端末では他の生徒の位置は分からないから、 翼を持っていて空から全体を見回せるケンジを、 遊撃に指名したんだが」
「ん、 ああ。 そういう意味もあったのか。 大丈夫。 俺が配った龍星刀に、 仕掛けがあるから」
アンヌとハノネが首を傾げる中
「じゃあ、 あとは頼むよ」
「あ、 ああ。 弁当忘れんなよ? あとケンジ、 死ぬなよ」
「はは、 死んでたまるかよっ」
そう言ってケンジは、 背中から黄色い鱗、 六雷火の翼を出すと、 最初からトップスピードを出し、 呼ばれた場所へと向かった。
一方、 アカネは自分のクラスである高等部一年C・D組を率いて進んでいた。
「ここで少し休憩、 お昼ご飯にしましょう」
そこでチーム皆が一斉にその場に座り、 弁当を取り出す。 弁当の中身はいわゆる、 カツ定食だ。 木の根等も近くはないし別にケガはしないだろう。 アカネもその場に座ると、 何人かが近くに座った。
「思ってたよりも、 魔物の数も少ないですし、 大きさもそれ程ではありませんでしたね」
「そうだね、 これぐらいだったら大丈夫そう」
「高等部だけでも充分な気もするけどね」
「まあ、 高等部だけでも五百人ぐらい居ますからね」
ここから話は世間話もとい恋バナになる。
「そういえば、 アカネって、 カスミと一緒にケンジくんと住んでるんだよね? 」
D組の生徒から質問される。 どうやら、 本当にあの話は広まっているらしい。
「え、 ええ」
「何かあった? 」
「何か……とは? 」
「キスとかはもうしたんでしょ? 」
「えっ? ///」
「そういえば、 実戦テストの時に言ってたよね〜」
「あ、 そうなんだ! 」
「……いいな〜」
「……いいな? 」
その言葉にアカネが反応する。 理由は自分にも分からないが、 心の中で何かが反応した。
「どうしたの? アカネ」
「あ、 い、 いえ。 なんでも」
「もしかして……嫉妬? 」
「へ? 」
嫉妬……? まさか。 とは思うが、 その言葉以外に今の自分を表せるものが無いことに気がつく。
「まあ、 ケンジくん本当にイケメンだからね。 少女漫画に出て来そうな感じ」
「でも、 少々ぶっきらぼうな言葉遣いではあるよね」
「変に丁寧でも嫌だけどね」
「それはそうか」
「私は丁寧な方が良いな」
「……アンタの丁寧は執事言葉でしょうが」
「良くない? 執事」
「リアルにそんな言葉遣い使われたら反応に困るよ」
「てか、 クラスメイトがそういう言葉遣いってことだしね」
「あ、 それは嫌だな」
そこで何人かが笑い声をあげる。
(ケンジさんは、 今頃何してるんだろう……)
その中で、 アカネは想い人へと思いを馳せていた。