五章-1
「森って、 昨日ニュースでやってたアレか? 」
アンヌが先に学園に向かった後、 ケンジたち三人はグラウンドに向かっていた。
「ニュースの時は、 そこまでのものでは無いと思われてましたけど、 緊急ということはそれなりに難しい任務になるらしいですよ」
「前に緊急任務が出された時は私たちは、 中学二年生。 なので、 前回の時には参加出来てないのですわ」
「つまり、 二人にも緊急任務がどれだけのものか分からないってことか」
話が丁度終わりグラウンドへ着く。 生徒たちはそれぞれのクラスの列へ並んでいた。
ケンジは唯一の男子ということで教師側の所へ来るように指示が来る。 アカネたちと分かれてケンジは指示された場所へと向かう。
その時、 アンヌが生徒たちの前に置かれた朝礼台へと登壇した。
「やあ、 生徒諸君。 各々の端末に届いた通知を見て、 驚いた者も多いだろう。 しかし、 厳しいことを言うようだが、 これは現実だ。 差し迫った危機でもある。
だが、 周りを見て欲しい。 ここには現在四十二のクラス、 チームがある。 君たちは一人じゃない。 魔導長もいる。 それに、 教職員たちもつく。 みんな、 安心して任務についてくれ。 最後に、 死ぬなよ」
アンヌがゆっくりと降壇する。 一人の生徒が拍手をして、 それが周りにも広まって最終的にグラウンドに集まった全ての者が拍手をする。 全員がそれぞれ緊張を顔に出しながら……。
「魔導書については、 それぞれメンテナンスを済ませておくように。 任務開始は二時間後。 それと、 後で昼飯を配布するので、 各自しっかりと受け取っておくこと。 あと、 ケンジくん」
学園長の秘書であるハノネが補足説明をする中、 唐突にケンジに話が振られる。 転入式の時以上の数の視線がケンジに突き刺さる。
「なんですか? 」
「君の端末にだけ、 別にメッセージを送ったのだが見てくれたかな? 」
「ああ、 アレですか。 結構キツかったっすね」
「過去形ということは、 もう既に? 」
「ええ、 なんとか」
ケンジとハノネの謎の会話に皆が興味を持つ中、 ケンジが登壇する。
「はい、 え〜。 昨日転入しましたケンジです」
落ち着くために、 軽く自己紹介するのも愛嬌だろう。
「今、 ハノネさんと会話していたものは、 僕が魔導書そのものを武器として扱うという点に重点を置き、 他の者でも使える武器そのものである魔導書を作って欲しい。 というものでした」
ケンジがそう言うと、 後ろから大量のナイフが運ばれてくる。
「名前は龍星刀。 まあ、 見た目はただのナイフですし、 魔導書というには、 全然なって無いものですけど、 グリップのボタンを押しながら魔力を流し込めば魔力そのものが、 刀身となってくれます。
一応、 流し込む魔力の属性ごとに、 効果は違うようにしてあります。 まあ、 こんな胡散臭い奴が作った武器なんか使いたくないとは思いますが、 全員確実に所持して下さい」
「オレからも頼むよ」
アンヌがケンジのフォローとして声を上げる。
「それでは、 高等部一年A組から龍星刀を取っていってください」
ケンジが降壇すると、 生徒たちが次々とナイフを持っていく。 アンヌの言葉が功を奏したのか一応全員所持してくれたらしい。
「では、 チーム分けについてだが、 二クラスで一チーム、 魔導長セレストはそれぞれのクラスに着け。
被っているものは、 他のチームに。 その他のチームにはそれぞれ教師が着く。
高等部の教師は一人で、 四クラス持つように。 大学部も、 現在魔導長が、 地方任務に行っており不在な為、 教師が四クラス持つように。
ケンジくんに関してだが、 彼には遊撃を任せたいと思う。 具体的には、 彼にはかなりのスピード、 そしてスタミナがある。 その為、 全チームの様子を見ながら、 サポートに入ってもらうことになる」
その言葉を最後に生徒が解散する。 スピードもスタミナも、 その二つに関しては伝えていないが、 実戦テストの時と動きで評価したのだろうか。
任務会の二時間後まで、 各々の過ごし方をする。 魔導書のメンテナスをする者、 生徒同士で集まり励まし合う者、 食堂に行き遅めの朝食を摂る者や部活や委員会等で集まり士気を高めあうグループもいる。
しかし、 一番多かったのは、 ケンジに群がる生徒たちの姿であった。
「だから、 龍星刀のグリップ部分にボタンがあるから、 ここを押しながら魔力を流し込むと……」
ケンジが龍星刀に魔力を流し込む。 すると、 魔力が刀身を包み込むようにその形を変える。 つまり、 簡単に言えば龍星刀の刀身部分が伸びたようなものだ。 それを見た生徒たちから感嘆の息が漏れる。
「まあ、 イメージによっては刀にも、 斧にも色々な形に変えれると思うよ。 他に質問ある? 」
ケンジが辺りの生徒を見回すと一人の女子生徒が手を上げる。
「どうぞ、 名前は? 」
「リーフ・シミッドです。 高等部二年A組。 歓談部に所属する魔導長です〜」
「魔導長か……。 先輩で三人目ですよ、 魔導長に会うのは」
「あらあら、 そうですか〜」
なんだかおっとりというか、 ポワワンとした喋り方をする人だった。 歓談部というのもベストマッチしているのかもしれない。アッシュブロンドの髪色が良く似合っている。
「こんな時にどうかと思うかもしれませんが〜、 いえ、 緊張を解すためにも質問しますね」
「あ、 そういう質問も皆良いからね? 緊張解そ、 ね?」
ケンジからも周りの生徒に緊急を解すのを勧める。
「あ、 で質問が? 」
「ケンジさんは、 どの部活に入るか決めましたか〜? 」
その質問で周りの生徒が一気に騒がしくなる。 どの言葉も、 要はケンジはどの部活に入るのか、 という質問と全く同じものである。
「部活って強制ですか? 」
「そうですね〜。 入らないと午後から暇になりますからね〜」
「あーそっか。 まあ、 ゆっくり午後に回って決めますよ」
「その時はぜひ、 歓談部ににも来てくださいね〜」
「ありがとうございます」
他の質問は無いかと周りを見回すと、
「ケンジさん」
「ん? 」
そこに居たのは、
「あれ、 確か風紀委員の……」
「タニカです、 風飛タニカ。 健全に過ごしてましたか? 」
風紀委員のタニカだった。 会うのは、 あの歓迎会のあと、 寮の前で怒られて以来だった。
「健やかに過ごしてたよ」
「そうですか。 まあ、 アカネさんとカスミさんと、 一緒に寮に住んでいるという情報はしっかりと入っているので」
「……何で? 」
タニカの言葉に周りのざわめきが一層大きくなる。 リーフも
「あらあら、 まあまあ」
と、 年上のお姉さんらしい反応をしながらも好奇心に目が光っていた。
「新井島先生に聞きました」
「聞いちゃったのか……」
「風紀委員としては、 そういうことに関していち早く情報を得ていないと動けませんので」
「でも、 新井島先生に聞いたってことは、 俺がした約束も聞いてるんでしょ? 」
「聞いてる上でブラックリスト入りしてます」
「酷い……」
「当然です」
「まあ、仕方ないか」
その他の質問にも答えながら皆の緊張が解れるのをケンジはしっかりと確認していた。
龍星刀は実際にある刀「流星刀」から取らせていただきました。