栄連合は加速していく
午後の陽が差し込む、政庁西館の会議室。
加賀谷、リィナ、そしてヴァルド、ミロの四人が、円卓を囲んでいた。
窓の外には、拡張工事の進む開発区と、帆船がひしめく港湾が広がっている。
この短期間で、公国は劇的な変化を遂げた。
ヴェステラの成長、共栄連合構想の発表、国家ファンドの立ち上げ、若者たちの育成。
そして、ついに公開株式制度が、この地に生まれた。
「……あなた、最初は“売ろう”としてたじゃない」
少しからかうようにいたずらっぽくリィナが呟いた。
加賀谷は視線を窓の外に向け、わずかに息を吐く。
「……まさか。今となっては、想像すらできないよ」
その言葉に、リィナは目を細めて微笑む。
「そう。……ちょっと安心した」
加賀谷はゆっくりと背にもたれかかり、天井を見上げながら続けた。
「俺はさ、別に王様じゃない。
偉そうに国家を語れるほどの人間じゃないし、正直、至らないところだらけだ。
あくまで本質は“商人”なんだよ。価値を見て、拾って、育てて、繋ぐ。……その繰り返しだ」
ヴァルドが静かに頷く。
「ですが、その価値の中に“人”があると気づいておられる。だからこそ、我々は動けたのです」
「それも……俺ひとりじゃ無理だった。
ヴァルド、あんたが見出して送り込んでくれた学生たち――あれがなきゃ、育成なんてできなかった。
ミロも、レーネを現場で支えてくれて、本当にありがとう。
リィナ、お前がミュリルを連れてレーナ連邦に交渉行ってくれたから、取引所とのコネクションが生きた。あれはでかい」
加賀谷は一拍おいて、ふと視線を伏せる。
「それと……ここにいないけど、ガロウにも。
あいつがいなきゃ、この国はとうに潰されてた。
制度も技術も人材も、武力がなきゃ守れない。マジで感謝してる」
誰も言葉を挟まなかった。
その空気は静かで、けれど確かにあたたかかった。
加賀谷は再び顔を上げ、二人を見渡す。
「そうして積み重ねてきたこの国を、“売る”なんてさ。
──もう、考えられるわけないだろ」
リィナは短く頷いた。
「……うん。それでいいのよ」
ヴァルドが静かに立ち上がり、深く一礼する。
「この都市が……いえ、この国が、新たな時代を切り拓く先駆けになると、私は信じております。
どうか、これからも共に歩ませてください」
「もちろん。あなたにもまだ、やってもらうことが山ほどありますからね」
リィナの言葉に、加賀谷は肩を竦める。
「ま、逃げてもどうせ仕事回されるしな。だったら前向いてやるしかない」
窓の外には、港に向かう魔導輸送船がひとつ、光の軌跡を描いて進んでいた。
かつて“売却”から始まったこの国は、今や“創出”という名の未来を育てる地となった。
これはまだ、始まりにすぎない。
だが今は確かに、希望がここにある――自分の手で育てた“価値”として。
――第六章 完




