貿易王が切り拓く突破口
──フィルノにて
「……すみません、今回は見送らせてください」
問屋の男が、硬い表情でそう言った。
続いて、織物商も、金貸しのレイフォードも──どこか言い訳がましく、だが確固たる拒絶の意志を示してきた。
ジル・アルヴァは、それでも笑みを保とうと努めた。けれど、店を出て路地裏に抜ける頃には、その足取りは重くなっていた。
「うーん、失敗……ですよね、これ」
「まあ、そうだな」
加賀谷の声には、とくに責める響きはなかった。それでもジルは、自分の胸に生じた悔しさをごまかせなかった。
「準備したのに。全部、理にかなってたと思ったのに……」
「理屈だけで人は動かない。ってやつだな」
肩を落としたジルに、加賀谷は小さく笑って続けた。
「俺もな……最近はずっと、“理”で押してた気がするよ」
「え?」
「数字、構想、システム、改革。どれも正しい。でもな、誰かの気持ちや思い出を飛ばしてきた気もする。押し切って、奪って、走ってきた。その先に、本当に信頼が積めるかどうか……考えることはあるよ」
静かな夕暮れの風が、ふたりの間を抜けていった。
そしてその夜。
ふたりはフィルノの酒場で、反省会と称して木のコップを傾けていた。
「……やっぱり現地の人、難しいですねぇ」
「この辺りは特に“よそ者”に厳しいからな。外から来て、うまくやって、勝手に去る──ってのに慣れすぎてる」
「はあ……」
ジルが項垂れた、その時。
「ちょっと待って、話は最後まで──え、ウソ、そこでビンタ!?」
隣のテーブルから、派手な声が響いてきた。
見れば、ナンパに失敗したらしい男が、頬を押さえて立ち尽くしている。
加賀谷は、ふとその横顔に目を留め──そして、思わず吹き出した。
「……レオン・グレイブ」
「え?」
「なんでここにいる」
そう言うと、件の男──加賀谷とともに公国の中継貿易を成功させた"貿易王"と呼ばれたレオンが、にやりと笑って振り返った。
「お前こそなんでいる。……って、あれ? そっちの子は?」
「あ、えっと……ジル・アルヴァです。インターンで、いま一緒に商圏再編の仕事を……」
「ふうん。かわいい顔して、胃に穴あきそうな顔してるな。失敗?」
「う……はい」
素直にうなだれたジルに、レオンは急に真顔になる。
「どこで断られた?」
「フィルノの織物商と問屋、あと金貸しの……」
「あー……あそこ、昔、俺が助けたことあってさ」
「えっ?」
「ちょっと待て」
加賀谷が言いかけるより先に、レオンはコップを一気に空け、言った。
「明日の朝、俺も連れてけ。あいつら、俺の顔見りゃ話くらいは聞くさ」




