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しばしのブレイクタイム

 三人が学院の応接室を後にし、校門を出ると、街には夕暮れの光がにじんでいた。

 ほど近くにある学生御用達のカフェ〈バウトレバ〉。古い煉瓦造りの外壁に、吊り下がったランタンが暖かい光を投げている。


「さすがに疲れたね……」

 店に入り、木製のテーブルに腰を下ろすなり、レーネ・アステリアがココアのカップを両手で包んだ。

 面談中には見せなかった、安堵の色がにじんでいる。


「でも、なんか、やっと地に足がついた気がする」

 ミュリル・フェーンが、レーネの言葉にゆるく頷いた。

「ずっと、学んでばかりで。でもあれが、始まりなんだなって。教室の外で、誰かのために動く――」


「外で……な」

 ジル・クラーヴェはスプーンでカフェオレをくるくるかき混ぜていたが、不意に笑みを浮かべた。

「まさか、“国家ファンド”のメンバーになる日が来るとは思ってなかったよ。まるで小説の中の話みたいだ」


「ジル、面談のとき、やけに落ち着いてたよね」

「うん。ずるいくらい落ち着いてた」

 二人のツッコミに、ジルは肩をすくめた。

「緊張はしてたよ。手の平、今もしっとりしてる。けど……怖いより、興味の方が強かったな」


「私たち、これから本当に変わっていくんだろうね」

 レーネがぽつりとつぶやく。

「支援の中身とか、資金の流れとか、学校じゃ教えてくれなかったことばっかり。ちゃんと向き合えるかな……」


「大丈夫。覚悟は決めた」

 ミュリルは真っ直ぐ前を見据えて言う。

「大公が言ってたよね。“選ばれる側で終わりたいか?”って。――私は、動く側になるって決めた」


「だね」

 ジルが立ち上がり、カップを掲げる。

「じゃ、結成祝いしとくか。国家ファンド第一期インターン三名、健闘を祈って」

「乾杯!」

「乾杯!」


 軽く打ち鳴らされたマグの音が、小さな祝福の鐘のように響いた。



✼✼✼



同刻 政庁応接室

 夜の政庁。

 窓の外では、ヴェステラの街灯が点々と並ぶ。その明かりを背に、加賀谷は報告書を閉じた。


「三名とも採用の方向で問題ありません」

「……やはり、そうなりましたか」

 ヴァルド・レヴァンティスは静かに頷く。

「彼らには、言葉にしにくい“温度”がある。冷たい計算でも、熱だけの情でもない、中庸の覚悟といえば良いでしょうか」


「なるほど、らしい言い方だな」

 加賀谷は茶を啜りながらふと問いかける。

「ところで、お前の領地は大丈夫か? こっちに詰めてばかりで顔出せてないだろう」


「実は、先日リデルという遠縁の少年を養子に迎えました。才覚があり、民からの信頼も得ています」

「養子か。初耳だな」

「実子はおりませんので……もしものため、家を託せる存在を、と考えまして」


「良い判断だ」

 加賀谷は、彼の茶にもう一杯を注ぎつつ言った。

「今日見た三人も、お前の目利きの賜物だ。ありがとう、宰相」

「とんでもございません。──この国にとっても、きっと力になります」


 二人の間に深く言葉は要らなかった。

 静けさの中で、新たな芽が静かに根を張り始めていることを、互いに確かめ合っていた。



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