やはり同志はモフラーの先導者にして守護者。素晴らしいわ
久しぶりに大幅に遅れました…。連休は寝落ち後に起きる時間も遅いから(言い訳
「いらっしゃ~いデュー君!」
カウリエン様が駆け寄ってきたので、俺は片膝をついて手をとってキスの動作をする。
「お待たせいたしましたカウリエン様。和睦にご協力いただきまして、ありがとうございました。あらためて感謝申し上げます」
俺は立ち上がって深く頭を下げた。
「使徒に協力するのは神なら当たり前だよ~。それよりもお姉ちゃんとミアーナちゃんも待ってるから、早くお家の中に入ろ~」
「はい。こちらにお伺いするのも久しぶりですね」
カウリエン様の神殿は黄金の穂が実る穀物畑の真ん中にあるわりとこじんまりした神殿で、その大きさはラグラントの王都の神殿より一回り小さいくらい。
神様の神殿といったらなんかでっかい柱が沢山立っててやたらと高い天井になんか凄い精巧な絵や彫刻がされてたりするものだと思っていたから、初めて来た時はどこの田舎の神殿だと思ったら女神様在住と知ってびっくりした。
「おー、デューク。久しぶりだね」
「久しぶりね、同志デューク」
「お久しぶりです、ミアーナ様、ルナリア様」
毛先がウェーブした長い黒髪に青い瞳と青いドレスがマッチしたスラッとした細身の女神ミアーナ様。
こちらも長い腰まであるストレートの銀髪に薄い金色の瞳が神秘的な細身だけど出るとこはでている均整のとれたスタイルの女神ルナリア様。
どちらも抜群の美女神だが、美女神慣れした俺は極々普通に挨拶した。
「やー、私達二人を前にしても相変わらず落ち着いたリアクションだねー。そこが気に入ってるんだけどさ。元気そうでよかったよ」
「ありがとうございます。祝福の件はありがとうございました。これであの神紙をどうにかしようという不埒者は現れないでしょう」
「いやいや、私も祝福をやってみたかったからさ。運命の女神なんかやってると中々祝福ってかける機会がなかったからちょうどいいタイミングだったよ」
「そこには驚きました。運命の女神様ならばこういった機会も多いものだと思っていましたから」
「そんなにあるものじゃないね。祝福はね、私達神自身が人界を覗いていないと出来ないんだよ。私は普段は運命を観測するって仕事があるから人界は覗かないし興味もないから。デュークくらいだよ、人界で行動を気にかけているのはさ」
「身に余る光栄にございます。そのお礼としては些細なものですが、こちらのブラシを献上したく存じます」
「ありがとー。これ、気になってたんだ」
ミアーナ様は俺からミリカ特製ブラシを受け取ると、上機嫌で髪を梳かし始めた。
「ルナリア様も、月明かりの件ではお世話になりました。ルナリア様用がこちら、ペット用がこちらとなっております。ペット用は職人も初めて作ったので、ペットの子達に合うと良いのですが」
「ありがとう同志デューク。……なるほど。これは良さそうね。これであの子達のモフモフ具合がさらに向上すると思うと待ちきれないわ」
「我が妹の髪のサラサラ具合も耳やしっぽのモフモフ具合も向上いたしましたし、髪に艶が出てさらに愛らしさが増しました」
使い出してからあきらかに髪艶がよくなり、シャロも驚いていたからな。
「作成者の話では、グリューグリュー大森林の大足猪は生息地域によって毛の質に違いがあり、ミアーナ様のようにウェーブされている方には固めの毛、ルナリア様のようなストレートの方には柔らかめの毛がおすすめとの事でそれぞれご用意させていただきました。またペットもまずは柔らかめで試していただき、そこから改善点をご指摘いただけたら、と申しておりました」
「艶が出るのはいいね。固さも私はこれくらいでいいよ」
「妹さんのモフモフ具合は私の目から見ても人界トップレベル。そこに艶を出して見た目の美しさも目指すとは、やはり同志はモフラーの先導者にして守護者。素晴らしいわ」
モフラー仲間からの最上級の誉め言葉に胸が熱くなる。ちなみにルナリア様はモフラーの守護神を自称しており、俺を守護者認定されている。間違ってはいない。
「は、もったいないお言葉ありがとうございます」
お二人ともブラシには満足していただけたようだ。さすがミリカ謹製。帰ったらお礼を言おう。
「皆~お茶が入ったよ~」
途中キッチンでお茶を淹れに行っていたカウリエン様が、湯気の出ているカップの乗ったお盆を持って戻ってきた。
女神様手ずからお茶を淹れていただける使徒など世界中でも俺くらいであろう。最初は凄くおそれ多かったが、本神からお茶を淹れるのが好きだから気にしないでと言われ、以来味を楽しむ方に全力を注いでいる。
「ありがとうございます、カウリエン様。こちら、お茶請けによろしかったらお召し上がり下さい」
俺はマルチン特製の新作パンやマフィンを机の上に並べる。
「あ、これ叔父様が絶賛していたマフィン~?」
「はい。ヅミロス様にはこちらにお伺いする前にカムユラ山脈の祠にてお供えさせていただいたところ、大変お喜びいただけました。他のパンもカウリエン様からいただきました麦から作りました。私もいくつか試食させてもらいましたが、流石はカウリエン様特製の麦、味が大きく向上しておりました」
「わ~楽しみ~。いただきま~す」
「甘いもの好きの叔父上がまた食べたいとよく口にしていたから気になっていたのよね」
「デューク、私はその渦巻きの形を模したパンが食べたいな」
「どうぞ」
四人でマルチンのパンを味わう。流石同志マルチン。女神様達にも好評なようだ。
「わ!すっごい美味しい~」
「叔父上が絶賛するだけはあるわね」
「お、この渦巻きパンはコーヒーが使われてるんだ。ほろ甘い感じとほろ苦い感じが絶妙。いいね」
「お喜びいただけたようで何よりでございます。店主も涙を流して喜ぶ事でしょう」
その後もしばし談笑しながらお茶会を楽しんだ。
「なるほど~。香辛料を先に煮出ししてから茶葉を投入するんだね~」
「はい。お湯が色づいてきましたら茶葉を投入。沸騰直前で火を止め二分ほどお待ちいただき濾していただければ完成です。牛乳を入れてミルクティーにするのも美味しいですよ」
カウリエン様にお願いされて香辛料入りの紅茶の淹れ方を説明する。シャロに教えてもらったからスムーズにできたな。
「へ~。何か不思議な味だね!ほかの香辛料も試してみようっと~」
「私は牛乳を淹れたマイルドな飲み口で冷たくしたら凄く美味しいと思う」
「スッとした感覚が良いね。仕事中にこれほしいな」
三者三様の反応だったがどの反応も好意的なので練習してよかった。
「デュー君にお茶を淹れてもらうのは初めてだったね~」
「そう言えばそうでしたね。カウリエン様のお茶が美味しいのでいつもご馳走になってばかりでしたから」
「私の使徒になってもらってから結構ここには来てもらってるけど私が淹れてもらう側なのはこれはこれで新鮮~」
カウリエン様はニコニコしながらカップを傾けていた。
最初こそお互い緊張しながら喋っていたが、今では近所のお姉さん扱いだ。
「はぁ~、美味しかった。やっぱり私の使徒がデュー君でよかったよ~」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。私も偶然とは言えあの時カウリエン様をお助け出来た事、終生まで誇りとします」
そう、初めてこの場所へ来た時、カウリエン様は絶対絶命のピンチだったのだが、俺が空中から落ちてきて男を下敷きにしてノックアウトした事によって助かったのだった。
俺が下敷きにしたのは愛の神、ブラフエンズ。
こいつは愛の神とか言いながら人界の色んな女性を無理矢理その毒牙にかけてきたクソ野郎で、ついに神界の女神様達にもその矛先が向いた。
カウリエン様は豊穣の女神様だったがその抜群のスタイルと美貌でも人界神界ともに人気があり、それを妬んだ美の女神レヴィーナと組んだブラフエンズがカウリエン様に狙いをつけた。
だがブラフエンズの怪しい動きを察知したミアーナ様の忠告によってカウリエン様は身を守るため自分の神殿に引きこもるようになる。
神界では神様一柱一柱が己の神殿のある世界を持っている。その代表例がルナリア様の月の神殿だ。
カウリエン様はこの穀物畑の小さな神殿なのだが、本来神殿はその神様の領域なので、本神が許可しない限り入る事は出来ない。
だからレヴィーナはカウリエン様を騙して友人のふりをして何度も訪れ、その度にブラフエンズからの贈り物だとカウリエン様の従者にこっそりプレゼントを渡し、ついには完全に誑かされた従者によって手引きされて侵入に成功したブラフエンズによってカウリエン様が襲われそうになったまさにその時、俺が降ってきてブラフエンズを気絶させた。
あっけにとられるカウリエン様に、何が起こったのかよくわかってなかった俺。しかも目の前にいるのは絶世の美女神。
思わずその美貌に見とれてしまうが、カウリエン様にあなたは誰?と聞かれて我に返り自己紹介をした。
お姉さんは誰なのか?ここはどこなのか?と質問したら、自分は豊穣の女神カウリエンで、ここは私の神殿だよ、との返答に最初は信じられずに失礼な返事をしてしまったが、本当だもん!と女神様の力を見せられてやっと本物だと理解して謝り倒した。
カウリエン様はすぐに許して下さったが、俺はブラフエンズを下敷きにしていた事を思いだし、カウリエン様に俺が下敷きにしてしまったこの人ももしかして神様ですか?と質問したら、カウリエン様はその存在を思い出して、襲われそうになって怖かったと泣き出してしまって、なだめながらとりあえず拘束しちゃいましょうとカウリエン様に神力で作り出してもらった縄をいただいてグルグル巻きにしてやった。
その後カウリエン様から細かい話を聞いて、こんなクソ野郎はち○こ切り落としてやった方が世界のためなのでは?と思ったが、それをすると人界にオカマが大量に増える可能性があると言われて断念。
しかし何かしらの罰を与えて二度とカウリエン様や他の女神様を狙わないようにしてやらなければと二人で考えた結果、髪の毛を頭の上に一本だけ残して剃ってやり、顔や身体に落書きをしまくってパンツ一丁で人目につく所に放置して恥をかかせてやる事に決まった。
神様は自身が司る役割から外れた行いをしたりされたりすると神様としての格がグンと落ちるらしく、この場合は愛と称して欲望のままに騙し討ちを行ったブラフエンズはカウリエン様に強烈に拒絶され、愛などではなかったと証明するため他の神様にそれとわかる罰を与えるのが最良だとの結論からこの罰がいいのでは、となった。
椅子に縛りつけ直して頭を剃る俺とご機嫌で落書きをするカウリエン様によって完成したブラフエンズ酔っぱらいだめ親父バージョンを吊るす場所として、主神ガイナス様が住まう神界の中心、神天宮の入口の門にしようって事になった。
だが流石にそんな所にただの人である俺が入るわけには行かず、カウリエン様も一人では心細いし運べない、どうしよう?となって、ミアーナ様に連絡して相談した結果じゃあとりあえずその普人を使徒にすれば?との返答により俺はカウリエン様の使徒となった。
その際に加護もあげるよ~というカウリエン様に、俺は単なる冒険者で、豊穣に関わる何かの成果を出したこともないからと遠慮した。カウリエン様からは結構粘られたが、これだけは譲れなかった。
その後カウリエン様は布に隠して背負子にブラフエンズを背負った俺をお供に心配して様子を見に来たミアーナ様と合流して神天宮の門に向かい、高い場所にある門の出っ張りに縄を引っかけてブラフエンズを吊るし上げた。
ちなみに布をとって全身をさらしたブラフエンズを見たミアーナ様はお腹を抱えて大笑いしていた。神生で一番笑ったと言っていたな。
ミアーナ様がお母上のアレッサ様にこの場で審判を下してもらうようお願いしてあるから、あなた達はひとまず戻りなさい、とおっしゃっていただいたので、お言葉に甘えてカウリエン様の神殿に戻って一息ついたのだった。
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