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単なる反抗期だって


「予想通り過ぎて笑える」

 

 監視役の北方エルフがゲロった内容に、逆に笑いが込み上げてきた。


 パルダス侯爵家をとりあえず近衛騎士団で取り囲んでもらうようフリッツ達に頼んだ方が良いか?


 いや、待て。ここは第一夫人と馬鹿長男も罠に嵌めてやろう。


 やはり、やるなら徹底的に、だな。


「始末屋の特徴は?」


「そこのメイドの倍近い身長で、でっかいこん棒持ってて、皮膚が赤みがかってて、角が生えてる」


「なるほどの。オーガ族か。珍しいのう」


「そのオーガ族、もしかして片方の角が途中で切られたりしてる?」


「してる」


「生きてたのか、あいつ」


「なんじゃデュー坊、知り合いか?」


「知り合いっつーか、そいつの角切り落としたの、俺ですから」


「なんか因縁めいた相手なんじゃな」


「クルンヴァルトにいた頃に酒場で絡まれたんです。あいつ、シャロの事を下等な獣風情がって馬鹿にしたからタコ殴りにしてご自慢の角を片方切り落としてす巻きにして河に流しました。俺も酔ってたから」


 しょうがないよね?と舌を出して笑う。


 シャロがこちらに向かって親指を立てていた。


「よく生きとったのう」


「あいつ、一応裏の世界じゃ有名な始末屋なんだが?」


「別人かも知れないな。右目の下に二本線の傷痕あった?」


「あった」


「本人だわ」


「そういえば、この仕事を受ける時に会ったんだが、めちゃくちゃいい笑顔で殺る気満々だった。以前組んだ時はいつも仏頂面だったのに」


「再戦をご希望か。まあいいや、残りの角も切って牢屋にぶちこも」


「その、あんたは一体……」


「デューク・コスタル。ラグラント王国男爵で、第三騎士団の団長だ」


「いや、そうではなく……まあいいや、俺は牢屋行きなんだからもう関係ねぇ」


「ああ、それなんだがよ、監視役」


「ミッドだ」


「ミッド、お前、恩赦が欲しくないか?」

 

「はぁ?!そりゃ欲しいけどよ、だが俺に裏切れってんならごめんこうむる。そんな事すりゃ今度は俺が命を狙われる。奴らに狙われたらこの先どこだろうと生きていけねぇ」


「村に帰ればいいだろ」


「ッ!帰れるわけねぇだろッ!あんたの話が仮に本当なら村が襲われたのも皆が怪我したのも俺のせいだ!それに村を出てからこんな仕事をしなきゃならないほど落ちぶれちまった俺が、皆に会わす顔なんかありゃしねぇよッ!」


「難しく考えてんなぁ。単なる反抗期だって」


「普人と一緒にすんなッ!」


「ゴルズのじいさん、長命種って反抗期ないの?」


「ドワーフはあるがの」

 

「ああもう!とにかく、今さら村には戻れねぇッ!」


「聞き分けの悪い子だなぁ」


「お前より年上だ!」


「しゃーない。そんな利かん坊なミッドネル君に伝言だ。『お前のせいじゃないし誰も死ななかった。いつでも帰ってきなさい』だと」


「なッ!あ、あんた、その名、なんで?」


「北方エルフの村で最初に出会った狩人の名はミック。村長やってた。奥さんはドリス。ジャム作りの名人。どら息子の名前はミッドネル。二人の名前と北方エルフの古語で『新しい風』って意味の言葉をひっつけた。俺は最初から一切嘘を言っていない」


「お、親父、お袋……」


「心配してたぞ。無茶してなきゃいいがって」


「お、そ、そんな、俺は、おれぁ…………」


 床にうずくまり、泣き崩れるミッド。


 ミックは、別れ際に息子の事を俺に頼んできた。


『もし会えたらで構わない。アイツが困っていたら手を貸してやってくれないか?外は広くて、自由で、物騒だから』


 ミックも若い頃に、外に出た事があったらしい。


 運良く気のいい奴らと知り合って、そいつらと一緒に冒険者になり、十年ほど北の大陸で活動した後、村に戻り、結婚した。


 最初に会った時、彼は一人で狩りをしていた。


 あの森で一人で狩りが出来るほどの腕前なら、冒険者としても相当な腕だったのだろう。


『アイツは俺に似て、無鉄砲で馬鹿だから。ヤバい仕事に携わってたら、命だけは助けてやってくれ。こんな事頼めるの、アンタしかいない』

 

 俺はもし助けたらホワイトハニーサックルジャム一生タダにしてくれ、と言うと、ミックは目を丸くして、笑いながらもちろんだとうなずいた。


「ホワイトハニーサックルジャムが一生タダか。幸せ」


「何を言っとるんじゃお前。それより、酒、頼むわい」


「ミスリル投げナイフ十本」


「十本は多い。五本」


「九本」


「七本に一本は魔石付き」


「ではそれで」


 ミッドが泣き続ける中、俺達はがっしりと握手をした。


「何か、感動の場面だったのに。団長らしいと言えばらしいんですが」


「最後がひどい絵面だ」


「山の神ヅミロス様の分神!聖峰コロムカヒの空中神殿でしかお姿を顕された事がなかったのに!」


 アベイルとシュライザーが何か失礼な事を言っている。


 そしてメラニアの前で神様の話はタブーだった。めっちゃ興奮してるから後で捕まるなこりゃ。


「お話が一段落したところで、団長、これを見てください」


 ランデルが机の上に広げたのは、何かの名簿だった。


「名前の下に金額が記載されていますが、これはおそらくシャハルザハルの目を雇った時の出資者の名簿ですよ」


「えー?こんな重要な証拠、こんな場所に持ってくるか普通」


 本物なのか?っていう俺の疑問に、ランデルがこちらをご覧くださいと別の書類を取り出した。


「えーと?この戦争の中央軍の戦費かこれ?」


 並べられた数字を順に読んでいくが、いくつかひっかかりを覚える箇所があった。


「中央軍の人数が、この書類の数より少なくないか?後兵糧も何か高めだし、武器も中央軍はほとんど破損とかしてないのに何で損害額がこんな数字になるんだ?」


 ほかの数字も微妙に高いような。


「多分ですが、この名簿の金額だけ水増ししているのでは?全体の費用を比較してみると、この名簿の合計金額とほぼ同じになると思われますな」


 こんなセコイ悪事をするためにワザワザこんな重要な証拠を持ち出したのか?本当に?


「なんというか、呆れるくらい迂闊なんだが。数式だけ別の紙に書き出せばよかったんじゃないか?」


 まだまだ疑わしいと感じてしまう俺に、ランデルは再度別の書類を取り出した。


「これは、手紙か。差出人はフェルディナント子爵か」


 金髪ドリルの実家だな。


 確か財務系の文官で、パルダス侯爵家の寄り子だったはず。


 財務かー、嫌な予感しかしないな。


 とりあえず流し読みしていったら案の定だった。


「『足りない分は戦費に上乗せして頂ければ大丈夫です。戦費は多少多い程度なら他の軍や騎士団の来年度の予算から流しますし、可否はこちらが握っているのですからお気になさらず』ふむ、この家、消そうか」


「フェルディナント子爵だけでなく他の家とやり取りしている手紙は不正告白のオンパレードですな」


「もう、全部取り潰しでいいんじゃないか」


「同感ですな」


「ミッド、この手紙はこいつらが仲介していたのか?」


 まだ鼻をぐずぐずさせているが、赤く腫らした目からは涙を止めて顔を上げていたミッドに、下着一丁で椅子に縛り付けられている四人をアゴで示した。


「そうだ、一番右の男が主に行っていた」

 

「やり取りは手紙だけか?」


「いや、何かの物品を持ち帰っているのも見た」


「大きさは?」


「小さなものだ。手のひらくらいの袋に何か入っていた」


「手のひらくらいの袋?宝石とかか?」


「わからん。が、それを持って()()()()がユールディン方面に向かった」


「何?!もう一人いたのか?」


「ああ」


「そいつはいつ出ていった?」


「昨日だ。宴に紛れて出ていった」


「団長、これは」


「ヤバいな。中身が何かはわからんが、ろくなもんじゃなさそうだ。狙いもろくなもんじゃなさそうだが」


「今から追いつくのも探し出すのも無理ですな」


 ランデルもかなり渋い表情でアゴに手を当てている。


「今この状況で、あれこれ考えている暇はなさそうだ。これは知っている奴に聞くしかないな」


 椅子に縛られている四人に視線を向ける。


「こいつら、まだ薬が効いて動けないのでは?」


「いや、一番左の奴はもう喋れるはずだ。さっきから腕や足に力が入るか確かめるために筋肉を動かしていた。あれだけ動くならもう喋るくらいはできる」


 俺の発言に舌打ちしたかのような表情でこっちを睨み返す。


「それだけ元気なら期待できそうだ。なあ?リーセン君」


「俺は何も喋らん」


 視察時に俺の監視役をしていた自称リーセン君は、拷問には慣れている、そんな自信ありげな顔だった。

 

「そうかー。でも頼みの綱の毒薬はもうないから自殺に逃げるのは無理だぜ?舌を噛みきったってすぐに回復できるし」


「ふん、殴るなり切り裂くなり好きにしろ」


 覚悟は出来てますって顔でニヤリと笑うリーセン君。


「殴りも切り裂きもしない。シャロ、ついにあれを使う時がきた」


「本気ですか?」


「ああ、持ってるよな?」


「持っていますが………すみません。私はこれを使うのに抵抗が」


「分かってる。器具だけだしてくれ」


 シャロがポケットから取り出したそれを受け取る。

 

 見た目は細い金属性の管だが、先端に小さな白い何かがはまっている。


「さて、君達は現代に蘇った古代拷問の初体験者になってもらおうか」


 俺の事を若干青ざめた顔でリーセン君が見ていた。










 

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