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一生カムユラ山脈をフリーパスにするからまたマフィンをお供えに来て欲しい


 前回のあらすじ


 デューク、ジャム欲しさに過酷な旅に出た思い出を語る。




「アーバン商会の協力を得た俺達は、装備を整え直し、万全の準備で商会長の孫娘とともにカムユラ山脈へと旅立った」


「待て、突っ込みが追い付かん。まず、ジャム探しはデュー坊一人じゃなかったんか?」


「もちろんシャロや当時のパーティーメンバーと一緒でしたよ」


「そ、そうか。シャロちゃんも苦労するのう。で、商会長と言ったがまさか、話に出てきた年輩の店員とはアーバン商会の創始者のグリンダム・アーバンか?」


「そのアーバンさんですよ」


「北の大陸じゃあその権勢は一国の王すら超えると言われとる超大物じゃぞ」


「本人はただ商売が好きなだけだって言ってましたけど。それに今は第一線から退いてクルンヴァルト支店でご隠居やって暇潰ししてますよ。実際俺が店にいくと店番してたりするし」


 で、おまけしてもらって世間話をして帰るまでがいつものパターン。


「だめじゃ、こいつ話にならん。まあええわい。で、ジャムはどうなったんじゃ」


「………………」


 監視役はさっきから下を向いたままだが、たまに俺の話を聞いてビクッとしたりしていた。


「孫娘はグリナといってまだ駆け出しの商人だった。歳もシャロより下で、クルンヴァルトから外に出るのも初めてって箱入りだった」


「箱入りを外にだしていきなり死地に向かわせるとかアーバン商会長も恐ろしいのう」


「グリナは箱入りだったが中々メンタルの強い娘で、カムユラ山脈につくまでには冒険者としてもやっていけるくらいの腕前になり、大足猪までならソロで殺れるようになった」


「大足猪はパーティーで狩れるようになって一人前じゃなかったかのう。カムユラ山脈につくまでに何があったんじゃ」


「………………」


「カムユラ山脈の麓の村、アンダースラントに着いた俺達は、グリナが村人と交易している間に情報収集をし、山脈越えの道を探した。そこで村の古老が過去に偶然北方エルフと出会った道を教えてもらい、そこからルートを探しながら越える計画をたてた」


「何が計画じゃ。完全な行き当たりばったりじゃわい」


「………………」


「あらかた村人との交易を終えたグリナに山越え計画を話し、明日出発する、と伝えたらグリナもこうなったらとことんまで付き合うとやる気満々だった」


「完全に自暴自棄になっとる気がするのう」


「………………」


「翌朝は吹雪だったが、シャロが大丈夫だというのでそのまま出発。視界はほぼゼロだったが一本道だったので迷わずつき進み、気づいたら吹雪を抜けて、古老が言っていた辺りに到着した。俺達はどの方向に行くか検討し、シャロがまだしも安全と判断した道を登って行くと、アイスドラゴンが昼寝しているやや平たい場所にでた」


「シャロちゃんもお前のこととなると大概じゃな。そしてまだしも安全な先がアイスドラゴンの巣ってどういう事じゃ?」


「ッ!…………」


 何か監視役がすごいビクッてなったな。


「とりあえず起こして暴れられたら面倒だからと寝ている隙をついてそいつの首を切り落として、そいつを昼食にする事にした」


「アイスドラゴンを昼食扱い?その話どこまで本当なんじゃ」


「ッ!ッ!ッ!」


 おーおー監視役が見ていて面白くなるくらいビクッビクしてる。


「アイスドラゴンの毛は素晴らしくモフモフで暖かく、俺達は北方エルフの土産にと毛皮を剥いで持っていく事にした。ちなみにアーバン商会からマジックバックを借りてきていたため無事収納できた。肉は筋ばっていてそれほど美味しくなかったためあまり採らず、念のため牙と爪は全部回収して再び山越えに戻った」


「アイスドラゴの牙と爪は在庫は残っとらんのか?!ドラゴンの牙と爪は素晴らしい鍛治材料なんじゃあ!」


「…………」


 エキサイトするゴルズのじいさんを尻目に、監視役は顔をあげて脂汗をだらだら流し始めた。


「そこから先は非常に山が険しく、ロープとツルハシを使ってなんとか進み、気づいたら雲は視界の下にあり、山の頂上がすぐ近くにあった。頂上まで登っていったら小さな祭壇があり、石で作られた神像が奉られていた。何やら神聖な匂いがしたのでアイスドラゴンとおやつにとっておいたクルンヴァルト一番のパン屋のマフィンをお供えした」


「お供え物のバランスが著しく悪くないかの?」


「(コクコクク)」


「すると祭壇から石像の体を借りた山の神ヅミロス様の分神が現れ、久しぶりのお供えにお誉めの言葉をいただき、アイスドラゴンは酒のつまみにと持ち帰られ、マフィンは初めて食べるからとその場で食されたらうめぇうめぇを連呼され、お代わりを所望されたがそれ一つしかないとお伝えすると、大層残念がられたが、たった一つしかない甘味をお供えした俺にたいして何か褒美をとらせるとおっしゃっていただけたので、北方エルフの居住地まで無事たどり着けるようお守りくださいとお願いしたら快く了承していただけた」


「ヅミロス様、気さくすぎじゃろ。いや甘い物も行けるくちの酒飲みとしては話が合いそうじゃが」


「(ブルブル)」


「ヅミロス様はお別れの際に、最近はお供えしに来なくなったが昔は北方エルフがお供えをしに来てくれていた事、もしまたお供えをしてくれるなら強いお酒と甘い物もお供えして欲しい事、俺達は一生カムユラ山脈をフリーパスにするからまたマフィンをお供えに来て欲しい事をお伝えなされると、神界へと帰られていかれた」


「わし、ヅミロス様とさしで飲んでみたくなった」


「(もはやリアクションすら起こせない)」


「こうして難易度がだだ下がりした山越えを終えて、俺達はついに北方エルフの居住地域に足を踏み入れた。山を降りてくる途中に見えたそこは山脈に囲まれた小さな平野部で、北東は海へと繋がっているのが見えた。とりあえずまずは集落に向けて歩いていった。すると途中で狩り帰りの村人に遭遇した。彼は物凄く驚いた顔をして、どこから来たのかと問われ、山の向こうのアンダースラント村からだ、と答えたら、何用でここまできたのか?と再び問われたので、ホワイトハニーサックルが欲しくて来た事と、色々持ってきたから物々交換してくれないかとお願いしに来たんだ、と答えたら、何故か大喜びして、今すぐ村まで来てくれと言われた、ちなみに彼は自分が知っている限りじゃあ俺達が初めて自分達の足でやってきたお客さんだったらしい」


「長命なエルフ族が初めてって百年二百年じゃすまんぞ多分」


「…………」


「俺達が案内された村は、遠くからはわからなかったが、何かに襲撃された後で村中怪我人だらけだった。幸い俺達は今回はマジックバックに多目に物資を入れていたから傷薬や包帯は沢山あった。とりあえず村の中でも一番強い酒を持ってきてもらって、うちのアル中神官に飲ませてやる気にさせてから治癒の光を怪我人全てに当てて、そこからは手分けして傷口を縫ったり傷薬塗ったりして、全員の処置を終えた。俺達がこなきゃ危なかった人もいたが、何とか持ち直した」


「アル中でも、神官はできるんじゃな。ちなみに一番強い酒とやらはデュー坊は持っとらんのか?」


「そんな……皆…」


「最初に出会った狩人がせめてご馳走させてくれと狩った鹿を捌こうとし出したからそれならこれも使ってくれとアイスドラゴンの肉を渡したら、何の肉かと聞かれて、アイスドラゴンだと答えたらめちゃくちゃ驚かれた後、両手を握られてよく倒してくれたと泣いて喜んだ。と言うのも村を襲ったのはアイスドラゴンで、この数百年奴がカムユラ山脈に居ついてから何度か襲撃された事、山の頂上にお参りも出来なくなった事、交易も奴に見つからないルートを慎重に選ばなければならず中々行けなくなった事を涙ながらに語った。とりあえず俺達は昼食代わりに狩っただけだからと肉を全部提供した。どうもドラゴンの肉は滋養強壮で怪我人や病人が食べた瞬間踊り出すくらいだというから、ちょうどいいなって感じでアイスドラゴンの残り全部を村の人達と手分けして村まで運んだ。その晩は飲めや歌えやの大騒ぎのどんちゃん騒ぎになった」


「結果的にデュー坊達がアイスドラゴンを狩ったのは正解だったんじゃな」


「お、俺………」


「翌日になり、村中から改めてお礼を言われた。俺達はただホワイトハニーサックルが欲しくて来たんだと言うと、ちょうど今年の初狩りの時期だから一緒にこれから行こうと誘われ、俺達は彼らに続いて森に入り、ついにホワイトハニーサックルの群生地へとたどり着いた。村人が選んで摘んでくれたホワイトハニーサックルは、甘味と酸味がちょうどよい芳醇な香りただようベリー界の女王というべき旨さだった。その後皆で沢山摘んだホワイトハニーサックルを使って、村でジャムを作ってくれた。俺はもっちもちりふわり食パンをマジックバックから取り出し、ジャムを塗って食べた。今まで生きてきた中でも最高の食パンになった」


「パンの名前が変わっとらんか?」


「…………」


「その後狩人やその奥さんに食パンをふるまって、大満足の俺達はヅミロス様からの神託?伝言?を伝えて、ホワイトハニーサックルを大量に持ち帰ることに成功した。アーバンさんは死ぬ前にまたホワイトハニーサックルのジャムが食べられて大喜びだったし、ついでに差し入れたアイスドラゴンを食べたら十歳は若返ったと喜んでいた。最後にグリナがよくもあんな過酷な旅をさせやがってとアーバンさんを殴り倒してたのが印象的だった」


「何か物凄い濃い内容の冒険譚じゃったが、結局この話をなんで今したんじゃ?あと村で一番強い酒の在庫はないんじゃろか?」


「今回北方エルフの村がアイスドラゴンに襲われて大きな被害を受けた理由の一つが、とある若者の出奔でした。彼は常々この村を出て外の世界をめぐりたいと口にしていたそうです。だけど村人は一人で山の中を抜けるのは危険だ、と彼をずっと引き留めていました。実際森の中にはホワイトファングベアという五メートルにもなる大型の熊や、ブリザードウルフという氷の矢を飛ばしてくる大型の狼、さらに極めつけにアイスドラゴンがいて危険なのは間違いなかったんです」


「そんな過酷な環境でよう生きとれるのう。そんな環境なら酒もきっと凄い強さなんじゃろうな」


「北方エルフは魔術は生活魔術中心で攻撃魔術はからっきしでしたが、雪国で生き抜く彼らには他のエルフ族にはない特技があったからです。彼らは、気配を断つのが抜群に上手かったんです。魔力を周囲と同調させるように放出量を調整し、あたかもそこにいないかのように気配を消せました。だから森の中でも何とか生きていけました。ただそれは複数人で、常に警戒しながら、ですが。村は常に不寝番を立てていました。アイスドラゴンに襲われた夜も、不寝番を立てて警戒していたはずだったのに、何故か緊急を報せる鐘は鳴らず、いきなり襲われた村は多くの負傷者を出しました。ただ、最後まで不寝番は見あたらず、翌朝になって村の外へと続く足跡を発見しました。その翌日、俺達が村に着いたってわけです」


「最悪のタイミングで出奔したわけかの。飲んだ事のない強い酒、飲みたいのう」


「北方エルフがさらに珍しかったのが身体的特徴です。あの地はその寒さが半端ないです。人体は寒さで凍えるのは決まって体の先からです。手足の指が最初で次は耳の先などです。指は動かしていればなんとかなりますが、耳はそうはいかない。彼らは独自に進化して、エルフ族なのに耳が普人とそこまで変わらない長さまで短くなったんですよ。だよな、監視役さんよ。ちなみに酒はあります」


 頭をたれる監視役には、髪の間からピョコンと見えている短い尖った耳がはえていた。


「なるほど。こやつがその出奔した若造か。ミスリルの投げナイフ打ってやるからくれんかの」


 監視役はガバッと顔を上げるとその場にいない誰かに向かってかのように言い訳を始めた。


「俺は、俺は、外の世界が見たかっただけで、村を危険にさらすつもりは、なかったんだ。アイスドラゴンなんて、まさか、そんな」


 ブツブツ言い訳を続ける監視役に、俺は質問した。


「で、外の世界はどうだ?」


「どう、って、外は広くて、色々な物があって色々な人がいて」


「俺は感想を聞いてるんじゃない。外の世界は楽しいのか?と聞いている」


「たの、しいさ」


 全然楽しそうな顔には見えない。どっちかっつーと苦しくてしょうがないって顔に見えるがな。


「そーんな後ろ暗い仕事してクズの貴族から金貰って、楽しいのか」


「い、生きていく、ためには、俺には、これしか」


「何人殺った」


「一人も殺ってない!俺は監視だけだ!」


「じゃあ実行役はどこにいる?」


「それ、は、」


「今さら隠しても意味ないぞ」


「あ、う……王都の、パルダス侯爵家、だ」





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