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第十八話 抱いてはいけない「想い」

 ヤズノことオウスは、葉月から訊いたナシメの話を考える。

 最近はミヤズがオウスの傍にいることも多くなった。

 ナシメの出来事からか、男性よりも女性の傍にいることを好むミヤズ。

 葉月が忙しい時は、こうして乙女おとめの姿をしているオウスを女性と信じて、傍にいることが多い。

 今もヤズノと部屋におり、膝の上でスゥースゥーと可愛らしい寝息を立てている。



 しかしヒミコが自害した……と。もしくは誰かに殺されたと考えることも出来る。

 他国にあれほど名を響かせた[女王]の末路。

 百二十(六十)をこえた老齢の身に、どのような重圧があったというのだろうか?

 もしくは[魏]からの圧力か?チョウセイが、[ヤマト]にやって来た後に起こったということも関係はあるだろう。



 しかし一番に考えられるのは……「日が闇に覆い尽くされた」ということ。



 それはヒミコが死ぬ一年前に起こったことだ。

 天が隠れてしまったあの出来事。



 オウスが驚いたのは、それを葉月が[にっしょく]という言葉で表したことだ。

 シュナが止めていたが、それは天が隠れたという意味のことではなく、[たいよう]が[つき]の影に隠れたがために起こることであって、この世界に何か災いが起こる前触れなのではないと言っていた。

 それを葉月の国の言葉で[にっしょく]というのだそうだ。



 [天さきの国]の国のことはわからない。

 指先から火が出るという話も、よくよく聞いてみると違うらしい。

 便利な火おこしの器具のことらしいし……。



 ヒミコの跡目もどちらになるのか……イヨなのか、トヨなのか。

 いずれも殺してしまい、より[ヤマトノ国]に混乱をもたらしてやろうか。



 だがカムヤの存在が邪魔だ。

 思いのほか、ヤマトの民に慕われており、チョウセイたちとの仲もよい。

 話ではタケハヤの王より覇気に恵まれた、良い王となるかもしれない器を備えているらしい。

 タケハヤはヒミコの右腕として、政にはその手腕を発揮したかもしれない。

 が、けして[王]の器ではなかった。

 だがカムヤはそうではないとしたら……。

 ナシメを使い、この国に内なる揉め事をより大きくすることも出来るだろう。

 チョウセイは相当の堅物で、自分たちのことは今だに疑っている。

 葉月やシュナでさえあの調子なのだ。

 どちらかと言えば、ナシメの方が楽に利用出来るかもしれない。

 


 だが。どうしてそう考えると、心の奥底で抵抗を感じるのだろうか。

 カムヤや葉月たちと、こうして接しているせいなのだろうか……。

「あまり馴れ合っていると……こちらまで影響を受けてしまうのかもしれないな」

 オウスは呟いた。

「……う……ん」

 眠りが浅いせいだろうか?

 ミヤズが小さな声を漏らす。

 オウスは微かな微笑みを浮かべると、ミヤズの長い髪を優しく撫でてやる。

「これがいかんのかな……」

 再度、オウスは苦笑いで……ため息とともに呟きを漏らした。



◆◆◆



『葉月。あれはいかんっ!!

 何故、我が止めたにも関わらずに、[日食]の話をヤズノたちにしたのだ?』

「それで人が一人死んでるとしたら、こんなバカな話はないでしょうがっ!!

 父さんは私にしてくれた話を思い出したの。

 卑弥呼が亡くなる数年前に[日食]が起こって、卑弥呼は女王を下ろされたって話。

 まさか本当だと思わなかったんだから……。

 この時代の人には、私たちはそんなこと神様の仕業でもなんでもないことでも、全部神様とか悪魔の仕業として怖がっちゃう。

 でもそれは違うとわかれば、死なないでいい人もいるはずでしょ?」

 


 ここは葉月の部屋。

 朝餉の準備はこれからで、今は葉月とシュナのふたりで部屋にいる。

 しばらくナシメにされた話を聞くために、ヤズノとミヤズがこの部屋にいたのだが。

 最近はヤズノのこともお気にいりで、ミヤズはヤズノといることも多い。

 葉月といると、ミヤズは葉月にベッタリなので少々困っていたところに、ヤズノがミヤズを預かると言ってくれた。

 本当に申し訳ないのだが、こういう込み入った話をする時などは助かっている。



『葉月。今一度きつく言おう。

 ここは過去じゃ。過去の時代じゃ。

 よいか?人一人死なないで済む……だがそれで歴史は大きく変化してしまう場合も考えられる。

 御身おみがこの時代に来ている理由も同じじゃろう?

 トヨが女王になれば、この後の時代の流れが変わってしまうために、御身おみはここにおるのじゃ。イヨが正当な女王になるために。

 それは変わらぬ事実じゃ。そうして時間は流れる。

 残酷に思えるかもしれぬが、御身おみはだからこそここにおる』

「すごく矛盾してるんだけど……。私、イヨが女王に就くことが正しいことだって、カムヤとオオネさんとヤズノさんとゴウノさんとチョウセイさんにチョウシンさんに、ミヤズにも話してるんだけど……それってまずくないの?」

 葉月はシュナをそう言って睨みつける。

『本来はかなりまずいの。

 だがそう言って、この[ヤマトノ国]が荒れてしまうほど、今は御身おみの力は大きくはない。

 それに御身おみがそう言ったからといって、他の者たちもそうは信じておらぬだろう。

 それを利用しているにすぎん。

 しかし御身おみの力が大きくなれば、発言も気をつけねばならん。

 特にカムヤの前では、御身おみは発言を気をつけられよ。

 カムヤは御身おみを命の恩人として大事にしているがゆえ、御身おみの言葉を大事に受け取っている節がある。

 あくまでカムヤは葉月を恩人として大事にしているのだから、あまり勘違いはされるなよ。それこそ歴史が変わってしまうからのう』

「……わかってるわよ。

 ヤズノさんたちがああ言ったけど、カムヤはイイやつだから、私が放っておけないだけだって……」

『ならば良い』

 


 カムヤが自分を抱きしめた時。

 一瞬間違えそうにもなったが、カムヤが葉月のことを酷く心配しているからこそ、こうして抱きしめてくれているのであって、自分へ恋愛感情など抱いていないのだと理解した。

 残念……ではあるけれど、シュナの言うとおりでもあるため、葉月は胸をなでおろした。



「……ハヅキ」

 部屋を仕切る御簾の前で、カムヤの声が聞こえた。

「な……何っ!?」

「おはよう。朝飯を持ってきた。

 一緒に食べようと思ってな」

「う……うん、おはよう。そうしよう……」

 葉月は慌てて正座をして居住まいを整えた。

 そこへ朝食の膳を運んできたカムヤが部屋へと入ってくる。

「ありがとう」

「いいや。そうしたかったから、俺が勝手にやっただけだ。気にするな」 

 葉月の前に膳を置くと、カムヤは葉月の頭にそっと手を乗せた。

「あのねぇ……」

「……はは。元気でよかった」

 睨みつけた葉月にカムヤは笑いながら、残りの膳を運んでくるために御簾の方へと向かう。



 そんな時。

 葉月の心の中にちくりと痛む何かがあった。



 その思いがなんなのか。葉月にはわかっている。

 たぶん自分は……カムヤが好きなのかもしれない。



 でもそれは[弥生時代このじだい]には、抱いてはならない感情だということも、葉月にはよくわかっていた。

 だから……切なかった。


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