母の味
注意!
特にないから楽しんで!
「母の味」
ガタンガタンとゆりかごが揺れる。
ゆりかご?何でこの年になってゆりかごに?
ハッと目を覚ます。そうだ、ここは商人の車の荷台だった。
しっかし腰が痛い。
早く国につかないかなぁ…
「嬢ちゃん。駄目だよ勝手に二台に乗っちゃ!」
「は…はい。」
「俺が心優しくなかったら即奴隷になってたぞ。」
「はい…気をつけます。」
国にはついたものの、そりゃまあそうだろという理由で降ろされた私。
旅、ジ・エンド?
というか、ここどこ?
とりあえずそこら辺にいる人に聞いてみよう。
「すいませーんこの国って…うわ!」
話しかけた青年は青白く、げっそりとしていた。
「初対面でうわはないでしょ。うわは。」
「いやぁ。すいません。顔色が悪かったので。」
「まあ別にいいです。いつも言われてるので。」
いつもってことは今日が特別体調が悪いわけではないのか。
「もしかして、この国に来たばかりですか?よければおもてなししてあげましょう。」
「え?いいんですか?ありがとうございます!」
国に入って一番に出会った人が優しい人で良かったー。
ん?いや正確には商人の人が一番か。
「ただいまー父さん。お客さんだよ。」
「おかえり。君は…旅人さん?」
「まあそんなところです。」
その時、部屋に大きな音が響いた。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ。」
うん。私の腹の虫だ。
「あ、お腹が空いてるのですね。それなら料理を作りますよ!」
「ありがとう…ございます。」
すこし顔が赤くなってた気がする。
運ばれてきた料理はすごかった。
サラダに、ご飯に、お肉。
全部が謎の茶色い調味料でひたひたになっていた。
「これはー…。」
「ああ、醤油ですよ。醤油。」
醤油か、聞いたことはあるが見たことはなかった。
東の方の国々では醤油をつけて魚やらを食べるとは聞いたがこれほどとは。
「この料理は私の妻。この子の母の味を再現したものです。」
「いやー母さんの料理は美味しくて。あの味を再現するのはすごいよ!父さん。」
「そうだろう?よし、食べるか。」
「「いただきまーす」」
なるほど、この国では食べる前にそういうのか。
郷に入っては郷に従えというし、合わせてやるか。
「いただきます。」
料理の味は、そこそこ…というか、ひどく言えばしょっぱかった。
毎日食べてたら塩分過多で死にそうだ。
でもふたりともパクパク食べるしこの国では普通なのかなあ。
まあ、残すのはもったいないし全部食べた。
「お皿はシンクの中に?」
「はい。お願いします。」
食べ終わった私は皿を片付けていたのだが。
ふと、一枚の家族写真が目に入る。
真ん中に写ってるのは先程のお母様だろうか。食卓を囲んで楽しそうな雰囲気だ。
「ああ、それは母との家族写真です。唯一の母の料理が残ってる写真です。」
なるほど、と思いながら写真の中の料理を見る。
──違和感。写真の中の料理は普通の料理だ。醤油でひたひたになっていない。
もしかして…
「お母様の料理ってどんな味でしたか?」
「えーっと。味が濃くて、美味しかったです。それに優しい味でした。」
わかったぞ。この家族、母の料理を再現するために。味を濃くするために醤油を。
「すいません。今日の晩御飯は私に作らせてもらえないでしょうか。お礼をさせてください。」
「ええ、もちろんいいですよ。」
「妻の味以外を食べるのは久々だなぁ。」
その後、私は客室で先程の写真を見ながらレシピを書いた。
「できました!」
食卓に料理を並べて、言った。
「おお、色とりどりだ。」
「これは…あの写真に写ってる料理か?」
「はい。真似させてもらいました。」
「しかし…醤油がないが…。」
「いえ、大丈夫です!食べてみてください。」
半ば強引に二人を席に座らせて、三人で言う。
「「「いただきます。」」」
二人が料理を口に運ぶ。
その瞬間、二人は涙をこぼす。
普通の料理人なら、ここで「涙を流すぐらい不味かったのか。」と心配するが私は違う。
二人の言葉はわかっている。
「母の味だ。」「妻の味だ。」
「醤油を使ってないのに味があって…。」
「美味しくて…。」
「それに、優しい。」
二人は勢いよく、ご飯を平らげた。
「おかわり、ありますからねー。」
二人がごちそうさまを言うとき、料理はすべてなくなっていた。
そして、二人はとても満足そうに眠りについた。
翌日、二人はここら辺には「バス」という交通機関があることを教えてくれた。
車もバイクも乗れない私にとって好都合だ。
さよならを言って、私はバスに乗った。
二人が生きている姿を見るのはこれで最後だった。
思い出すのは母の味。
その味は自分の味。




