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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
3章
72/78

東門での戦い

 マーシャルの鼓膜を揺らした微かな音、それは圧搾空気が解放されるようなものだった。

 音がしたと同時に動けたのは奇跡だったのかも知れない。マーシャルは考えるよりも早く反射的に躱していた。 背後の扉に音を立て当たる魔弾は、深々と突き刺さり消えていった。

 咄嗟に振り返り確認すると、分厚い鋼鉄製の扉に小さいが確かな窪みとして深々と刻まれていた。


「おいおい、マジかよ! 魔術的保護をしている扉がこのザマかよッ!」


 魔弾の軌跡を辿り敵の居場所を突き止めようとしたマーシャルだが、予想外の余りの速さに対応しきれず正確な位置を掴むことは叶わなかった。

 それでも扉に穿った窪みの角度を見て大まかな方向だけは推測することができた。

 マーシャル自身が身を隠すことを得意としているだけに、敵の隠伏の見事さに舌を巻く。

 乱立する植物が視界を遮っているのも確かに大きいな要因だが、お互いが同ジャンルの隠密型だというのにマーシャルだけが一方的に狙い撃ちされている現状、焦りを憶えても仕方がない。


 マーシャルのジョブは【重者】。能力は自身や触れている物の重量を自在に操るというもの。

 マーシャルにとってロールの【路傍の石】は気に入っているものだが、【重者】というジョブはハズレであった。

 自身の体重を増やすことは、やりようによっては使えるかも知れない。しかし、触れている物を重くするのは手で触れていないと元へ戻ってしまう。

 敵は小さな音で遠距離から攻撃するスタイルだ、逆にマーシャルは近付き一刺しで獲物を仕留めるスタイル。見つけ出さないことには攻めることができないのだ。

 相手任せに大音を立てて仲間に危機を知らせる手は使えない。かと言ってこのまま狙い撃ちされつづければ何時かは打ち抜かれてしまう。

 マーシャルは近くの大木の陰に咄嗟に隠れ、流れる冷汗をそのままに敵が居るであろう方向に向け声を掛ける。


「おいおい、なんだよ今のはよ。魔術の気配はなかったってのにさ!」

「魔術じゃねぇからな!」


 再びパシュと音がした。気づけば身を寄せていた大木の一部が削り取られている。

 木片が飛び散り、抉られ無残な姿を晒す。マーシャルは咄嗟に別の木へ跳び移るように身を隠す。

 敵は的確にマーシャルの居場所を把握して狙っている、このままでは一方的に攻められるだけだ。

 逸早く敵の正確な居場所を特定しなくてはマーシャルにとって不利な状況になる一方だ。彼には広範囲攻撃も遠距離攻撃もないのだから。


「くそっ、やっぱ俺1人でどうにかできる相手じゃないっての!」


 そこでハッと思い出す。

 腰に装着しているショルダーバックをそっと触る。


「 ……仕方ない、こいつを使うか」


 マーシャルは腰のショルダーバックに手を入れ小さな骨を幾つか取り出す。

 このショルダーバックは、嘗て鳥田で相談役をしていた占い師の魔女青山の館で手に入れた代物だ。

 文月の説明では、中に入っている骨から霊を呼び出せるという。但し、それは呼び出すだけであり、命令を受け付けるものではないらしい。

 信頼関係を築くことができれば願い事を叶えてくれる頼もしい味方となるが、そうでなければ我儘で自分勝手に行動する厄介な霊達だ。下手を打てば攻撃さえしてくる連中だった。

 マーシャルはそれを入手にしてからは暇をみては霊を呼び出し交流を交わしてきた。

 彼等の話し相手をし信頼関係を築こうと努力した。

 築けたかと訊かれれば首を傾げるしかないが、それでも最初は悪さばかりする厄介者であった彼等だが、今ではまともに会話が成り立つようになっていた。


「頼む、力を貸してくれッ!」


 藁にも縋る思いで持っていた骨を中空へと放る。と、骨は次第に輪郭を失い大気に溶け込んでいくように消え、その直後に投げた骨の数だけの霊が呼び出された。

 宙に浮かぶ半透明な霊達は、多くは人のそれであるが少数亜人や獣も混じっていた。


「また……おまえ、か」

「ガァウゥ」

「……あまり、われらを、おこすな」

「あ~、あぁ、ああ~……」


 霊によっては意識レベルが低く、言葉すら忘れてしまっているものもいる。しかし、そんな彼等ですら誠意をもって接すれば味方となってくれる。

 呼び出したことに拒否を示すものもいるが、


「よお兄ちゃん、また会えたな」


 肯定的なものもいる。


「でも、……少し起こし過ぎだと思う」


 少女の姿をした霊がマーシャルに言う。最近少し呼び出し過ぎたのかも知れない。

 少女は齢12で病によってこの世を去った哀れな女の子、名を六華(りっか)と言う。


「緊急事態なんだ。力を貸してくれないかリッカちゃん?」

「めんどくさい」

「そう言わずにさ。俺、このままだと殺された挙句に門を突破されちゃうよ」

「う~ん、……やっぱりめんどい」


 面倒臭がる六華。彼女にとって時勇館がどうなろうと正直どうでも良いことだからだ。それに霊が存在する以上、マーシャルが死亡したとしても霊として生きていけるのだと考えている。

 そんな六華に中年の姿をした霊が近づき声を掛ける。


「リッカちゃん、そう言わず手伝ってやろうや。兄ちゃんが俺達の仲間入りしちまったら、今後俺達はこの世に顕現できねぇぞ?」

「う~ん、……分かった。タロウのおっちゃんが言うなら手伝ってもいい」

「おうっ、良い子だなリッカちゃんは。兄ちゃん、俺達は何をすりゃいいんだ?」


 六華は太郎と呼ばれた中年の男性の霊には懐いているようだった。

 太郎は否定的だった霊達に声を掛けて回り説得してくれた。


「タロウさんにリッカちゃん、それに皆もありがとうッ! 頼みたいことは二つ、門に近づく奴がいたら知らせて欲しいのと、この付近に姿を隠している敵がいる、場所を特定してくれないだろうか?」

「了解だ!」

「うぅ、めんどい、けどガンバル。みんな、行く!」

「あぁあ~」


 六華の号令と共に霊達はバラバラに四方に散っていった。

 意識レベルが高いためか六華と太郎は他の霊達に指示を出し従わせることができた。


「ああ、ありがとう。これで敵の居場所が特定できるかもしれない! そこからが反撃の開始だ」


 仲間に知らせに走らせることも考えたマーシャルだが、見慣れない者の目には敵だと映り混乱を招く恐れがあるのでそれは避けた。


 ほどなくしてベキの驚きの声が響いた。


「うお、ゴーストかよッ! こいつ等急に何なんだ!? 何処から現れやがった!」


 霊がベキの居場所を特定した。

 その直後に、


「きゃ、なに? ゴーストッ!」

「気を抜かないでロイナッ!」


 マーシャルの背後、扉付近で2人の女性の声が響いた。


「ち、やっぱ居たのか伏兵がッ!」


 想像してはいたが最悪の気分を味わう。

 しかし、ロナやロイナも想定外の霊の索敵により露見され焦りを見せる。

 そんな2人にベキが素早く指示を出す。


「2人はそのまま門を潜れッ! こいつは俺が抑えるッ!」


 言葉と同時に敵へと向かい駈け出し、ライフルを背に背負い二丁拳銃へと持ち替えるベキ。バンッバンッと続け様にマーシャルに向けて発砲するが、この時点で確実にベキの姿を捉えたマーシャル。


「みんな、ありがとう!」


 霊達は役目は果たしたと順に消えていく。霊の活躍により居場所を掴んだマーシャルは打って出る。

 姿を捉えた敵へと、帯刀していた短剣を抜き一直線に駆けだす。銃口さえ見えていれば躱すこともいなすことも可能だった。

 2人の男は邪魔な樹木を巧みに躱しながら近づき、必殺の一撃を放つ。


「ここまで近付けば外すこともない!【乱れ撃ち】ッ!」


 ベキの乱射が始まる。


「ここでやられてたまるかよッ!【穿牙千斬(せんがせんざん)】ッ!」


 ベキの乱射とマーシャルの千の刺突がぶつかり合う。


 一方、ロナとロイナは兄の指示を受け扉へと向かった。マーシャルの気の乱れにより扉を認識できるようになったからだ。

 

「ね、姉さん! 止まってくださいッ!」


 ロイナの危機察知が反応してロナへと静止を促す。

 2人の前に立ちはだかるは、半透明な体をした半人半漁だった。


「な、あれは深きものどもッ!」

「の、ゴーストなんて見たことありませんッ!」


 深きものどもとは、半人半漁の亜人であり、邪神を信仰する人と同等の知能を有する種族だ。

 そして、神を信仰するということは時として、


「シュヨ、メザメタマエ、”水の裁きを”」


 魔法を使える者も出てくる。

 深きものどもの使った魔法の効果により、大量の海水が突如として現れ2人に向けて放たれた。

 海水は轟音を伴う津波となって樹木諸共2人を呑み込もうとする。


「魔法ですってッ!」

「クッ、『アイスウォール』ッ!」


 ロナが咄嗟に2人を囲う様に逆Vの字型に氷の壁を造り出す。しかし、魔術では魔法は止められない!


「「きゃあぁあああぁ――ッ!」」


 氷の壁は津波を一瞬受け流したが防げたのは一瞬のことだった。氷の壁はたちまち砕かれ押し流される。

 

「クッ、『フライ』ッ!」


 ロナは咄嗟にロイナの腕を掴み空へと逃れ難を逃れた。

 津波は障害物を悉く押し流し、その後に跡形もなく消え去った。

 津波が去った跡は酷いものだった。

 抉られた大地に悉くへし折られた樹木、チラホラと残っていた家屋跡すらが綺麗さっぱりと洗い流されてしまった。

 広範囲に渡って開けた空間となり、今後、扉を隠すことは困難になるだろうと予測される。

 だが、侵攻する側である魔物にとってはもう一つの攻口が誕生したこととなる。が、魔王の命である秘密裏に潜入とはいかなくなった。


「チッ、こうも開け広げられては秘密裏に侵入するのは不可能ですね」

「ですが姉さん、怪我の功名かも知れません! あれでは門を隠すことは難しいでしょう」


 津波が押し開いた剥き出しの大地は、魔物の進路として使えるものであり、大群で攻めても十分な広さがある。護り手は同時に二ヶ所を護らなくてはならなくなった。


 ほんの少し時を巻き戻し、マーシャルとベキの激突だが、


「な、なんだとッ!」

「マジかよッ!」


 突然の津波により中断させられた。

 ベキは素早く空へと逃れ、マーシャルは咄嗟に自身の体重を極限まで増してその場に留まった。

 大地を掴み耐え忍ぶマーシャルだが、膨大な量の濁流をその身に浴びて、四肢が引き千切れそうな衝撃を受けた。

 息もできず、口を塞いでいても自然と水が口から鼻から侵入してくる。呼吸は勿論できず、身動ぎ一つ取れない。

 肌は引き剥がされ激痛を感じ、大地を掴む指は既に感覚が無くくっついているのかどうかも分からない。

 流されてくる木片や地面を抉った際の石や岩が身体を傷付けていく。それでも死ぬ思いで耐えた。

 耐えられたのは彼が【路傍の石】だったからなのかも知れない。

 おそらく生身で魔法の洪水を耐え抜いた人物など世界広しと言えどマーシャル1人ではないだろうか。

 水が引き、ゴホゴホと呑み込んだ水を吐き出し、何とか呼吸をして酸素を確保する。

 そんなマーシャルを無視するかのように上空の三兄妹が集まる。


「2人とも大丈夫か!? いったい何があったんだ?」

「兄上、私達は大丈夫です。深きものどものゴーストが現れ魔法を使ったのです」


 魔法を使える者は稀な存在だ。強い信仰心が必要で、尚且つ信仰対象に認められる必要があるからだ。

 使用可能となったとしても、体力のない者、また想像力が貧困な者には扱えない。それ故に強力な力なのだ。

 彼等の主である魔王天一翔奏(あまいちかなた)でさ魔法を行使するに至っていない。


 ベキは魔法を使える者が敵側にいることに対して焦りを見せる。

 魔術師が魔法使いを相手にするには、強い運と隔絶した実力差がなくては勝てないからだ。


「兄さん、既に時勇館の連中にバレていると思います。ここは退きましょう!」

「そのゴーストはどうなった?」

「分かりません。魔法を放った後に消えていなくなりました」

「ですが、また何時現れるとも知れません」


 そのゴーストだけは脅威であると判断したベキは即座に撤退を指示する。


「クッ、仕方がない。退くぞ2人とも」

「「はいっ!」」


 空中で踵を返し撤退の姿勢を見せたベキ達、まさに東門を背にした丁度その時、巨大な火球を放つ者がいた!


「逃がさないよ。『ファイアボール』ッ!」


 ベキは振り返り舌打ち一つして即座にライフルを構える。 火球を狙い澄まし引き金を引き火球を迎え撃った。

 魔弾が火球と接触した瞬間、上空で激しい爆発を起こし大気を揺さぶる。熱気が辺りを包み爆風が大地をなぞる。


「援軍か、少し決断するのが遅かったか」

「援軍と言っても僕1人なんだけどね。大丈夫かいマーシャル?」

「来てくれたのか賢人!」


 マーシャルは受けたダメージが大きく、その場を動くことができずにいた。

 そんなマーシャルの危機に駆け付けたのは白崎賢人(しらさきけんと)だった。

 賢人は敵から眼を放さずにマーシャルへと声をかける。


「柏葉さんが交代に来てくれたんだ。おかげで何とか間に合ったみたいだね。恋鞠は正門へ向かったよ」

「そ、そうか。ちょっと、ギリギリ間に合ってない気がするが、サンキューな賢人」

「え、なに? たった1人なの? 私達を舐めてるのかしら!」

「先程のゴーストならいざ知らず、貧弱な魔術師がたった1人だなん」


 マーシャルにとっては頼もしい援軍だが、ベキ達からしたら唯1人の援軍など知れている。正直拍子抜けした程だ。

 どちらか一方を潰しさえすればもう片方を倒すのは容易い。

 秘密裏に事を成すのが不可能になった以上、形振り構う必要がなくなったベキ達は全力を尽くせる。

 唯1人の助っ人など来ない方が良かっただろう。

 兄妹は撤退する気でいたのだから、半端な助っ人は状況を悪化させたに過ぎない。ロナ達がこの場に留まることになるのだから。

 それを理解した上で来たのならば、2人だけで兄妹を倒せると判断したからだ。


 ロナは舐めた態度の賢人に狙いを絞り、仲間に黙したままに合図で指示を出す。

 兄と妹は瞬時に理解を示し、撤退を撤回して賢人を標的とする。


「この場に来たことを後悔させてあげます! 合わせて姉さん『ウォーターヴォルテックス』ッ!」


 ロイナの伸ばした手の先から透明感のある青い水の渦が防壁へ向けて突き進む。


「行くわよロイナ、【三重魔術(トリプルマジック)】『ウィンドカッター』『ライトニング』『スパイラルプロテクション』ッ!」


 ロイナの水渦を追うようにロナの風刃が雷撃が放たれ、圧縮されたマナが螺旋状となり水渦を囲い保護する。そして【三重魔術(トリプルマジック)】によりそれぞれが三重の効果を発揮する。

 標的となった賢人は、


「あちゃあ、これは厳しいな、来るとこ間違えちゃったかな? でも、大人しく受ける訳にもいかないよ。『術式強(ストレングセ)化魔術(ンマジック)』『ファイアウォール』『プロテクトフィールド』『アンチマジック』【魔力障壁】ッ!」


 前方に強化した炎の壁を創り出し、保護領域と魔力霧散領域を自身を中心に展開する。さらに魔力障壁を張り護りを固めた。

 それを見たベキが即座に対応する。


「無駄なことを、その努力も露と消える!【超速射出】【雲散霧消】【ギガントマグナム】!」


 ライフルの銃口から極大の魔砲弾が、今までにない爆音を立てて空を斬り飛翔する。

 魔砲弾はロナとロイナが放った魔術を瞬く間に追い抜き、青白い閃光となって炎の壁へと突き刺さった。

 魔砲弾は【雲散霧消】の効果を受け炎の壁を霧散させ消し去り、『プロテクションフィールド』内に突入して威力を削られ、『アンチマジック』により完全に消滅した。


 マーシャルはその光景を目に「よしっ」と呟いたが、賢人は真逆の反応を見せた。


「マ、マズいッ!」


 只の一撃で消失した炎の壁に焦りを見せたのだ。

 続くロナのロイナの魔術が次々とプロテクトフィールド内へと突入する。

 それらは威力を削られ、アンチマジックの領域に達し更に減退するが、完全には消し去ることはできなかった。


「わぁああぁぁぁ――!」


 賢人が立っていた防壁を魔術が吹き飛ばしていく。


 水渦に風刃、雷撃と同時に着弾し、減退した威力でなお凄まじい爆発を起こした。

 結果、防壁に穿たれた巨大な傷跡は見るも無残なものとなった。

 通用口だった扉も綺麗さっぱり消し去られ、10mはあった高さは地面スレスレまで削られてしまった。巨人ですら余裕で通り抜けられる通行口になったと言っても良いい。


「賢人ぉ――!」


 ここに来てマーシャルは自分の迂闊さに漸く気が付いた。

 ベキが銃を構えるより前に、再度霊達を呼び出し阻止するべきだったのだと。

 仲間が仕掛けたのならベキもまた仕掛けることは考えれた筈だ。

 深きものどもの霊であるオーベットなら奴等に対抗できる戦力だ。魔法を使える彼が手を貸してくれれば防げていたのは間違いない。

 少なくとも炎の壁が健在なら後の魔術を防げていたかもしれない。

 そうであれば防壁を破壊される事も無く、また賢人も無事だったに違いない。

 だが、結果は防壁を破壊された、何より肝心なのは大事な戦友である賢人が死んだかもしれないということだ。生きていたとしても大怪我は免れないだろう。

 連携していればこうはならなかったとマーシャルは自責の念に駆られる。

 この後、この場は魔物の進行に脅かされることだろう。より一層防衛は難しくなる。


「ちきしょう、俺はなんてバカなんだッ!」

「落ち込まなくても大丈夫です。すぐにでもお友達と合わせてあげますから」

「苦しまないよう全力で殺して差し上げますわ」

「くそっ、てめぇらはぜってーに許さねぇ――ッ!」


 立ち上がったマーシャルの絶叫が響いた直後、


「ぐふッ」


 マーシャルの腹部を二発の魔弾が通り抜けていった。

 腹部からの大量の出血に伴い意識が混濁する中、マーシャルの視界には地上に降り二丁拳銃を構えるベキの姿が映った。


 通常なら確実に致命傷となる傷だが、システムの影響を受け頑丈になっているマーシャルは辛うじて生きていた。


「はぁはぁ、な、なんて間抜けなんだ俺は……」

「そう悲観するな、妹達すら認識できないお前の能力は素晴らしかったぞ。状況が違えばお前は妹達を殺せていただろう」


 ロナとロイナにはマーシャルを認識することができなかった。

 そのことを十全に活かせていれば、少なくともロナやロイナは反撃することなく命を奪われていたことだろう。


「勝敗は決した、お前の血肉は我等が頂く。我等の糧として活きよ」


 魔物は口にした者の知識や能力の一部を吸収することができる。加えて人間は魔物にとって最高の高栄養剤となる存在だ。

 吸収できる知識は一般常識から専門知識まで幅広いが、その者にとって当たり前となっている知識ほど吸収しやすい。それ故、魔物は人間を食せば確実に言語を理解する。只の獣型の魔獣ですら繰り返し食すことで言語を理解するだろう。

 能力とて同じことだ。魂まで根付いた能力ほど吸収しやすく強力だ。

 ベキ達にとってマーシャルを食さない選択肢はない。マーシャル程の隠密は彼等にとって喉から手が出るほど魅力的なものだからだ。


 マーシャルは辛うじて立ってはいたが、その場から一歩たりとも動くことはできなかった。

 意識は朦朧とし、手足の感覚を失い、大量の血を失ったことで吐き気を催す。

 一歩踏み出せばそのまま倒れてしまうことだろう。

 それでもマーシャルは敵を見据える。

 翳む視界で捉えたベキは、一歩また一歩と近づいて来る。

 その姉妹達は上空でその様子を窺い、手を出す気は無いようだ。

 何も出来ぬままベキの接近を許してしまうマーシャルの額に銃口が押し付けられた。


「悪いが、ここで終わりだ。言い残す事があれば聴いてやる」

「……ぁ、……くっ」


 声すら真面に出せなくなった。

 銃で額を討たれずとも時間経過で失血死は免れないだろう。だが、そんなことよりも、何もできず、只の一太刀も浴びせられずに逝くのが悔しい。友の仇を討ちたかった。だが、それはもう叶わない。


 しかし――、


 「————兄上ッ!」「避けてくださいッ!」と2人の女性ダークエルフの声が上空から響き渡る。

 その瞬間、ベキは恐るべき速度で後退した。一筋の光り輝く斬光の軌跡だけがその場を飾る。


「何者だ!」

「あれだけ騒いでいれば助っ人の1人や2人は来ると思うぞ?」


 一振りの刀を携えた若者がマーシャルを護るかのようにベキの前に立ち塞がる。

 その者、システム上ただ一人の存在、唯一の役割を持つ【主人公】剣南創可(けんなみそうか)だった。 




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