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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
3章
73/78

防衛戦

 ボクがアルヒコを伴って西門に着くと、こまりんと賢人くんが門の外で話し込んでたんだよ。


「龍護さんは少し奥手すぎると思うの、もう少し茉子に積極的になってもいいと思うんだけど」

「えぇ、でも茉子の方が積極的に動いてるから丁度いいんじゃないかな?」

「こないだなんて、デート中に隆成さんに着いてちゃって茉子のことほっぽいたんだよ」

「いや、だってアレはしょうがないんじゃないかな? 死活問題なんだしさ、隆成さんだって必死なんだよ?」

「うん、仕方ないとは思うんだけど。……優斗さんと美織さんもあんまり一緒にいないね? どうしてなんだろ、 恋人同士なんでしょ?」

「あまり人の事情に首を突っ込むのもどうかと思うよ、恋鞠」


 何か、緊張感ないん会話をしてたんだよ。

 仕方が無いのかな? 2人だって不安なんだろうし、ほのぼのした話しで和みたいのかもね。


「こまりんに賢人くん、こんにちは」


 不意に話しかけたからビクリと反応を示した2人。

 2人の恋話は聞かれたくなかったのかな? 話を聞かれたせいか耳まで赤くなってるこまりんは可愛いなぁ。


「わっ、ビックリした! あ、あれ、涼葉さん? 広場の方で殺伐としたゲームをしてるんじゃ?」


 さ、殺伐って……、ま、その通りなんだけどさ。


「ゲームの結果はどうなったの?」


 本来ならボクたちは魔王とのバトルに興じている頃だから2人の疑問は当然なんだよ。


「うん、魔王軍が契約を破って進軍してきたからね、ゲームは中止になっちゃったんだよ」


 ホントにヤになっちゃうよね、創ちゃんにいいとこ見せるチャンスだったのに!

 そんなことを考えてると、賢人くんが現状を説明してくれるんだよ。


「魔王軍は通告もなくやって来たんだよ。何の前触れもなく先遣隊が攻めてきてさ、龍護が正門で対処してる筈だよ」

「賢人、みんなは大丈夫だよね? 龍護さんは正門で戦闘中なんだよね? 茉子も龍護さんに着いてっちゃったし、マーシャルくんは1人で東門を護ってるし、みんな怪我してないといいけど……」


 魔王軍の進軍を確認した時、真っ先に龍護さんが正門へと向かい、茉子ちゃんも龍護さんに追随したんだって。

 初めは他の戦闘員も参戦する旨を伝えたみたいだけど、危険だから要らないと龍護さんが却下。それは皆を気遣うと同時に、足手纏いになりかねないと考えたんだと思う。

 門を護ることに特化した龍護さんにとって、他の者まで護っていては本領を発揮できない。そのことは本人が良く理解している筈だからね。

 その他の戦えない人は非難を、少しでも戦える人は戦えない人達を護る形になったんだって。

 侵入された場合は彼等の出番になるんだよ。けど、龍護さんを突破する程の者が相手だとキツイだろうな。


「きっと大丈夫だよ恋鞠。皆は強いし経験だって積んで来たんだから負けっこないさ」

「そ、そうだよね。みんな強いもんね!」


 空元気かもしれないけど、少しは元気が出たかな?


「2人共、ここはボクが任されたんだよ。こまりんは正門へ行って欲しいって暁識(さとる)さんが言ってたよ。賢人くんは正門か東門へ行ってくれるかな」


 2人はこの場をボク1人に任せても良いのか心配してくれたけど、最終的には納得してくれてそれぞれ別々の門へと向かったんだよ。

 てっきり賢人くんはこまりんに着いてくのかと思ったけど、彼は東門の方へと駆けて行った。


「さて、あれをどうにかしないといけないよね」


 実はボクの【広域気配探知】に上空高くに引っ掛かってるものがあるんだよ。あれは広場に現れた竜人の娘だと思う。

 視認するには高すぎて見えないけど、広域気配探知の名は伊達じゃないんだよ。


「流石にこの場を離れる訳にはいかないから、アルヒコに任せちゃおう、頼めるかなアルヒコ?」

「クゥイィー」

「あっ、ちょっと待って、アルヒコ1人じゃ寂しいよね。スラティンもついってってくれるかな?」


 1人で飛び立とうとするアルヒコを引き止めて、ボクの頭の上に乗っかっているスライムのスラティンをアルヒコの背中に乗せるんだよ。

 あの小さなスライムくんは実は非常に強い個体なんだよ。

 嘗てはダンジョンコアだったからか知能も高く、アルヒコの助けになってくれるに違いない。

 「じゃあ2人共頼んだよ」と2人を見送ってボクはボクの仕事をすることにするんだよ。


「あのさ、そこのおじさん、そろそろ出て来ても良いんじゃないかな?」

「よう、また会ったな嬢ちゃん。儂は兎も角、ミィルナの嬢ちゃんに気が付くとはやるじゃねぇか」


 木陰から現れたのは、金の体毛に覆われた人狼コウキなんだよ。


「儂が居るのに気づきながら仲間を行かせちまったのか。随分と舐められたもんだ、それとも仲間を死なせないがために逃がしたってのか? だったら失敗だ、この拠点に居る限り儂からは逃れられん」

「心配ご無用なんだよ。ちゃんと準備はしてあるからね」


 いざという時のためにボクのダンジョンに出入口の無いただ広いだけの階層を創っておいたんだよ。

 ダンジョンポイントの全てをつぎ込んで頑丈にしてある、そこに鬼人の2人に待機して貰ってるんだ。

 ダンジョンはボクのフィールド、ボクはコアだからね。金狼さんにはそこでボク達と戦って貰う予定、そこでボク達が負けちゃったとしても、あそこから抜け出すのは不可能だから安心できるんだよ。

 もしも、何らかの方法で出られたとしてもあそこは女神家(おみながみけ)内部にあるんだよ。脱出されても問題にはならない。


「ガハハッ、自信ありげだな嬢ちゃん、さっきの儂等とはまるで逆だ。できれば生かしといてやりたいが……、おぉそうだ、生きていたければ先程ミラァーの嬢ちゃんを殺った娘の居場所を教えてくれ、さすればお嬢ちゃんぐらいは見逃してやれる」

「でっかいお世話なんだよ。ボクはおじさんを討伐する気なんだよ」

「威勢の良い嬢ちゃんだな。いいだろう、儂とどれ程やり合えるか勝負といこうじゃねぇか」


 金狼コウキが戦闘態勢に入ったんだよ。

 ボクは何時でも準備はオッケー、さあ来い!


 ————!!!


 決して油断なんてしていなかったのに、警戒し瞬き一つしなかったのに、視界からおじさんが消え痛烈な蹴撃を脇腹に喰らってたんだよ。気づけば吹き飛ばされ木々をへし折って地面に倒れてた。

 ぐぅ~、今のであばらの何本かいっちゃったかも。生まれたての小鹿のように脚が震えて上手く立てない。少し舐めてたかな、バクヤとの戦闘で金狼は強いって分かってたのに!


 口内に鉄の味が広がるのを感じながら、震える脚に活を入れ木の幹を掴んで立ち上がる。

 警戒してなお動きが捉えられないコウキの速度、このままじゃ一方的に嬲られて終わっちゃうんだよ!


井氷鹿(イヒカ)ッ!」


 追撃を怖れて咄嗟に氷のドームを創り出すんだけど、


「ほう、こりゃ凄げぇな」

「!!!」


 ドームを形成する瞬間、内部にコウキが入り込んでたッ! 


「なっ、ぐッ!」


 再び腹部への衝撃、瞬間にドームは霧散して吹き飛ばされる。

 尋常じゃなく速いんだよ!


「がはっ」


 一瞬、息が詰まっちゃった。意識を保てたのは幸運だよ。


「どうよ、儂は強いだろう。意地を張ってる場合じゃないぞ、娘っ子の居場所を教えんと嬢ちゃん、次は死ぬぞ!」


 はぁはぁ、確かにこのままだと何もせずに殺されちゃうかな、身体中が痛いや。


「嬢ちゃんが何かする前に儂の攻撃が届く、嬢ちゃんには何も出来ん。さあ、いらん痛みを感じる前に居場所を教えてくれ」

「じょ、冗談じゃないんだよ。そもそも居場所を教えてもおじさんにセフィーさんは倒せないんだよ」


 セフィーさんの強さは少し意味合いが違うとはいえ、コウキと呼ばれるこの金狼では瞬殺されるのがオチなんだよ。


「じゃあ教えてくれても良いじゃねぇか。もっとも儂がそのセフィーとやらとやり合う訳じゃないがな。やるのは魔王だ」

「同じこと、なんだよ。セフィーさんに勝てる存在なんていない」


 セフィーさんが誰かに敗れるイメージが湧かないんだよ!

 可能だとすればそれは師匠しか居ないけど、師匠が奥さんに手を上げるなんて考えられないからね。


「実は儂もそう思っている。なぁ嬢ちゃん、魔王を倒したいならあの娘っ子に任せるのが一番だと思うんだがよ、どうよ?」

「はぁ? まるで魔王を倒して欲しいみたいな言い方するんだね」

「別に死んで欲しい訳じゃねぇんだけどよ、正直に言ってどっちでも良いんだよ」


 どういうこと? 魔王軍は内輪もめしてるのかな?


「儂は魔王が攻めて来た時に同族を護るために軍門に下った。あのままやり合ってれば人狼族は滅んでいただろうからな。魔王の傘下に入れば滅びることはない。魔王が死ねば儂等の脅威は減り、生きていれば護って貰えるって訳だ」

「どっちつかずはどう…なのかなぁ?」


 人狼族にとって魔王は危険な存在で死んでくれれば安心できるけど、仲間の内は護ってもらえるからどっちでもいいってことかな?


「別にそんなつもりはねぇんだがよ、儂とて思う所はあるんだ。あの時、儂1人なら魔王と思う存分戦えたんだ。だがよ、魔王軍にはミィルナの嬢ちゃんが既に居やがったからな。あのままやり合ってればたとえ儂が魔王を倒せてもミィルナの嬢ちゃんに一族は滅ぼされただろうよ。だから儂は戦う前に降参した」


 コウキは魔王と個の力は同等以上ってこと?

 つまり魔王軍には魔王を含めてコウキとミィルナの三強が存在するんだね。

 でも、金狼より格下である銀狼バクヤの強さを知ってるボクには納得できない話なんだよ。


「人狼族はそんなに弱くはない筈なんだよ」


 人狼族の強さはよく知ってるんだよ。


「甘く見るもんじゃねぇ、あの2人は別格よ、間違いなく化け物だ。いくら勇者が相手であろうと魔王はおろか竜人であるミィルナの嬢ちゃんにも勝てん。儂ならどちらか一方となら何とかなりそうではあるがな、同格がもう一体となると分が悪い。故に儂は軍門に下ったわけだからよ」


 その話が事実なら、竜人の相手をアルヒコとスラティンだけで行かせたのは間違いだったかな? 魔王と肩を並べると称される相手は手に余るんだよ。

 このおじさんが化け物呼ばわりする存在は間違いなく化け物、誰か助っ人を呼んだ方が良いのかな?

 空戦を得意とする仲間はボクのダンジョンにはアルヒコを除けば、鬼人のダンジョンでテイムしたポイズンクイーンビーのホーネットが妥当なんだけど?

 でも、彼女じゃ足手纏いになりかねないね。少し酷だけどアルヒコ達に頑張って貰うしかない。一秒でも早くコウキを倒して援護に行かないと!


「ほれ嬢ちゃん、回復のための時間はくれてやったぞ。早く居場所を教えねぇと本当に死んじまうぞ。その若さで死にたかねぇだろ、さっさと言っちまいな」

「お断りこなんだよッ!」


 再びおじさんが戦闘態勢を取ったその時なんだよ。

 地響きを伴う地鳴りが聞こえてきたんだよ。


「何だ~、ミィルナの嬢ちゃんか?」

「アルヒコッ!」


 心配で思わず上空を見上げるけど、でも違った。上での戦闘はそれ程派手なやり合いはしていないんだよ。

 となると、正門か東門になるんだよ。創ちゃんは大丈夫かな?

 時は一刻を争うんだよ、躊躇してる場合じゃないよね!


「ダンジョンコアって空間の穴そのものなんだよ。だから――」

「ああん? いきなり何のことを言ってんだ嬢ちゃんや?」


 ダンジョンにおじさんを引きずり込むんだよッ!


「おいでましッ! なんだよ」


 ボクは戦闘専用として設置したダンジョン階層におじさんを引き連れてダイブしたんだよ。





「おい、今の地鳴りはなんだッ!」


 正門にて、魔物の大群を相手に奮戦していると突如として地響きを伴う地鳴りが鳴り始めた。

 敏感に反応したのはたった今一体のホブゴブリンを斬り伏せた優斗だった。


「ちょっとちょっと、今のは何ッ!? 誰か分かる人、報告してッ!」


 防壁の上で弓矢で援護してくれている武弓美咲が声を張り上げている。


「報告します。東門にて戦闘があった模様、守護しているマーシャル様の安否は不明です!」

「くっ、回り込まれたのね。分かりました、では貴方は数人をつれて様子を見て来て。危険な様なら予備戦力を呼んで防衛線を張ってちょうだい」


 東門で戦闘があったらしい。

 東を突破されれば途端に不利になる。何としても持ちこたえてもらわなければならない。


「待て美咲、行くなら俺、は駄目だから創可、行ってくれ!」


 まさか俺に話を振られるとは思わなかったな。いや、妥当な判断か。


「構わんがここはいいのか?」


 勇者である優斗や藤瀬をこの場から離す訳にはいかない。かと言って戦闘能力の乏しい者を行かせても無駄死にさせるだけだろう。俺なら大抵の事は対処できる。


「良くはねぇが、向こうをほっとく方がもっとやべぇ。龍護も治療を済ませて戻って来るだろうし、恋鞠も来るはずだ」


 俺よりも魔王へ特攻を持つ勇者である恋鞠が居た方が良いか。

 俺は邪魔とまでは言わないが、居てもいなくても大差ないのかも知れない。なら、


「分かった。俺は東門へ向かう。マーシャルを保護してその場に留まると思うから戻っては来ないぞ?」

「ああ、それでいい。龍護が戻ったらそっちにやるから、龍護と交代してくれ。マーシャルを頼んだ!」

「分かった」


 こうして俺は東門へと向かった。





 上空では、竜人と成竜に擬態した幼竜との戦闘が繰り広げられていた。


「グゥワァアア————!」

「うるさい、黙れ、このバカ竜!」


 激しくぶつかり合う両者、アルヒコの背に乗るスラティンが魔術を放ち援護するが辛うじて互角のぶつかり合いとなっていた。

 竜人は他の亜人と比べ格別とされる優れた種族であるが、純粋な竜と比べれば竜の方が遥かに優れた上位種となる。ミィルナが互角に持っていけてるのは、アルヒコが幼いからに他ならない。

 そもそもが強者である竜に天敵はおらず、それが故に幼少期は長く戦闘経験は少ないのが通常だ。

 2歳そこそこのアルヒコはまだまだ子供であり、本来なら親に護られている時期である。が、特殊な産まれのアルヒコに親はいない。強いて言えば涼葉が親と言えるだろう。

 既に涼葉のため、つまり親のために戦うアルヒコの精神は強靭であり強くなろうと頑張ってきた。

 己を鍛えるに適した状況にあり、高いポテンシャルを有しているのが幼竜アルヒコの現状だ。幼くとも歴戦の戦士であるミィルナと互角の実力を手にしていた。

 逆にミィルナは隠密での行動であり、派手な攻撃を控えての戦闘だった。

 彼女は幾度として死線を越える経験を積み、生と死の狭間で強さを磨いてきた。自身よりも強大な敵との戦闘は慣れている。結果彼女は同種族でも上位の実力者となっていた。


 幾度となくぶつかり合う両者だが、突如として轟音が鼓膜を揺らす。

 地上で大洪水が起こっている。それを見たミィルナが焦った様に悪態をつく。


「む、早く聖女を確保してお兄ちゃんの元に行きたいのに、ホント邪魔者ばっかなんだから!【ドラゴンフィスト】」


 ミィルナの拳を竜気が覆い、数倍にも巨大化したかの様な視覚効果をもたらす。

 実際にその拳で殴られたアルヒコは本物の巨竜の一撃を喰らったかのような衝撃を受けていた。


 悲鳴を上げ体勢を崩すが、速やかに整えミィルナへと鋭い爪を振り被る。

 光りを反射し輝く爪は一直線にミィルナへと向かい振り下ろされる。が、ミィルナは余裕綽綽と受け止めた。


「このバカ竜! 隠れて侵入する筈だったのに! ガキの分際で私の行く手を阻む、後悔するッ!」

「ガァアー」


 ミィルナが大きく口を開けると、口先に光の粒子が集まり小さな光球を創り出していく。


「【ドラゴンブレス・フレア】ーッ!」


 光球が解き放たれ、連鎖する爆発がアルヒコを襲う。 

 空には多連する爆発、伴う衝撃波は狂気じみた威力を持っていた。

 硬く傷つくことの無かったアルヒコの鱗に幾筋ものヒビが入り、衝撃は内臓をも傷つけた。

 背のスラティンが『ヒール』を掛けるが連続する爆発の中では焼け石に水だった。


「ふぅふぅ、コレに懲りたらあっち行く!」

「グァ、グゥガァ……」


 回復を担うスラティンだが、ダメージを受けたのはアルヒコの背に乗るスラティンも同じことだ。

 それでもアルヒコを癒そうと懸命に『ヒール』を繰り返していた。


「む、まだやる気?」


 再びぶつかり合いが始まる。しかし、先程の様に拮抗したものではなくなっていた。

 アルヒコの飛行能力は先のブレスで低下し、酷く緩慢な動作となったためだった。

 そんなアルヒコにスラティンが回復を試みてギリギリの状況で戦闘は続行された。

 状況は一方的なものへと変わり、アルヒコは肉を裂かれ骨を砕かれ尚立ち向かう。

 そんなアルヒコにミィルナは不気味なものを感じ始めていた。

 これまでに幾度となく死闘を重ねてきたミィルナだったが、アルヒコのソレは実に不気味だった。アルヒコは一切の防御行動を取らなかったのだ。

 全ての精神を攻撃に集中し、どれ程身体を傷つけられようとも痛みを無視して突撃していた。


「おかしいの、そんなの生物としておかしい!」


 ミィルナにある種の恐怖が宿る。


「いい加減、落ちるッ!!!」


 ブレスは非常に大きなエネルギーを必要とする。その為に消耗が激しく温存しておきたいものであった。が、焦るミィルナはアルヒコを正面に捉え、避けようのないブレスでトドメの一撃を放つ。


「ハァハァハァ、やっと落ちた……」


 ブレスを正面から浴びることとなったアルヒコは、背に乗るスラティンを庇いより大きなダメージをその身に受けると、その場に留まる力も無くなり墜落していく。

 落下していくアルヒコを見て、恐怖に打ち勝ったと安堵するミィルナ。


「ハァハァ、これで聖女の元へ――!」


 安堵からか、不屈の精神で舞い上がるアルヒコに気づくのが遅れた。

 致命的な油断だった。視界の正面には大口を開けるアルヒコの姿が映っている。

 その口内には、今にも吐き出されそうな炎の塊が、


「グァガァアアアァァァ――ッ!」


 竜人にできて竜にできない筈はなく、アルヒコのブレスがミィルナを捉えた。

 成長しきっていないアルヒコとはいえ、竜は竜。そのブレスは凄まじい高熱を放っていた。遥か上空でのブレスの熱が地上を熱するほどに。

 正門、東門での戦いの最中、一時中断せざるを得ない熱量が辺りを襲う。


「おぅおぅあちぃな、さっきからなんなんだ!」

「今の見たか? 今度は炎が奔ってったぞ。誰がさっきから戦ってやがる」


 そこで恋鞠が合流した。


「優斗さん、遅れてごめんなさい。私が来るときにアルヒコちゃんが上空に登ってくのを見ました。きっとアルヒコちゃんが戦ってるんだと思います」

「ちっ、上から侵入しようってか!」

「ああ、上で阻止するためで戦ってんだな」


 遥か上空で、点の様に見えるものがぶつかり合っているのが視認できた。

 点と点はぶつかっては離れを繰り返しているようだ。感覚を研ぎ澄ませると空気を振動させる激しい衝突だと分かる。


「あれ、大丈夫なのか?」

「空の上じゃどうにも手が出せんな。飛行ユニットはねぇのか?」

「ヘリなら在るけどよ、近づいただけで墜落だな」

「私なら飛んで行けますけど?」


 恋鞠は魔人へと進化しており、魔人の特性で空を飛ぶことが出来る。


「勇者が抜けるのはやべぇだろ。ただでさえ創可が居ねぇのによ」

「でもこのままじゃアルヒコちゃんが……」


 劣勢であるアルヒコを放ってはいずれ敗北するは必至だ。だが勇者である恋鞠が魔王を目の前に戦線から抜けるのは危険である。

 この場に居る者はティリイス戦で魔王の恐ろしさを知っている。魔王特攻を持つ勇者を外すことはできずにいた。


「でも、このままじゃ美織さんが危ないんですよ!」


 アルヒコが突破されれば狙われるのは聖女である美織だ。


「んなこたぁ分かってんだよ。だがここを突破されても同じことだろがッ! 今は目の前の敵に集中しやがれ!」


 優斗も内心の焦りが感情に出てしまい、思わず怒鳴るように返してしまう。

 シュンとしてしまう恋鞠に悪い気はしたが、キツく言わなければ納得もいかないだろう。それだけ危機的状況だと分かって貰える筈だと優斗は考えた。


「魔物達は最低でも500体は居るだ、実際はそれ以上か。波状攻撃されているこの状態で、戦力を分散させる訳にはいかない。それをしてしまえば物量に押し込まれ、肝心な時に力を出し切れない。俺達勇者は特にそうだ。1人でも欠ければ憤怒の魔王は倒せないかも知れねぇ。奴をここで倒さなければ、いずれまた同じことが起こりより多くの犠牲者が出ちまうだろうよ」


 優斗の考えを汲み取った藤瀬誠が恋鞠を諭すように声を掛けた。


「はい、分かってはいるんですけど……」

「おぅ、深く考えずにとっとと終わらせて聖女の元へ向かえばいいさ。俺達勇者に関して言えば魔王さえ倒せば役目は終わる。その後は予備戦力と交代すればいい」


 魔物達は数十体ずつのグループとなって波状攻撃を仕掛けて来ている。本来なら勇者の力は温存しておきたいところだが、時勇館の予備戦力では力不足で押し込まれてしまうため彼等が抜ける訳にはいかない。

 勇者を分散させてしまえば魔王へのアドバンテージは下がってしまう。魔王は正門から見える位置から動こうとはしていない以上ここを移動する訳にはいかないのだ。

 かと言ってこのまま勇者の体力を削られ続けるのも大問題な訳なのだが。


「時勇館に多くの回復アイテムが山のようにあって助かったぜ」


 ポーションをラッパ飲みする藤瀬が言う。


「はい、聖女である美織さんの創るポーションは格別な効果が有りますから助かります」


 聖女が存在する時勇館に、ポーション不足は有り得ない。美織は今もせっせと回復用アイテムを作っている。

 聖域が機能していればポーションに頼ることもなく事を運べるが、今は何故か聖域が破られてしまう。


「こっちはまだ良いが、西と東の門はどうなんだろうな? 創可にはポーションを持たせてるが、西に向かった涼葉はどうなんだ?」

「い、いえ、マズいですよ! 私がいた時にはありませんでした!!」

「ち、誰かに持ってかせるか!?」

「くっ、そんな暇はないようだ。今度のは多いぞッ!」


 正面からドタドタと近づくのは百にも届きそうな数の魔物の群れだった。




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