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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
3章
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スライム

 ある日、突然自然発生(ポップ)した一匹のスライムの話をしよう。

 この個体は生まれた時点では他と何ら変わらない極々普通のスライムだった。地球で産れ此方側の世界にやって来た個体だ。

 日々思考もなく地上を彷徨い、また水面を漂う毎日。偶然に触れた植物や虫、小動物などを捕食する日々を過ごす。只本能のみで行動する生命体、この時点でこのスライムには自我と呼べるものはなかった。


 ある日、プカプカと水面に浮かんでいると別のスライムとぶつかった。それは軽いタッチ、ぶつかると言うには少しばかり大袈裟なのかもしれない。だが、触れあった次の瞬間、そのスライムが此方を覆い尽くすように広がってきた。


 ──コ、ワイ……。


 思考もなければ自我もないスライムに恐怖の感情が生まれた瞬間だった。

 捕食しようと覆い被さるスライムに、喰われまいと藻掻くスライム。跳ねるはずのない心臓が大きく跳ねたような気さえしていた。

 相手は此方を完全にその身に内包し、捕食しようと強酸を分泌しだす。


 ──イヤダ。


 恐怖、ただ無条理に捕食されることへの恐怖がより一層高まる。

 このままでは抗う事もなく相手に吸収されてしまう。無我夢中に足掻き藻掻いて相手を突き破ろうとする。恐怖の次に生まれた感情、焦りだ。


 必死に足掻いた結果だろう、気付けば相手の体を突き破り外へと飛び出していた。スライムボディをスライムのボディで突き破ったのだ。

 我が身を喰らわんとした存在は、獲物を逃がしたというのに何事もなかったかのようにプカプカと呑気に水面に浮かんでいる、追おうともしてこない。此方を認識しているのかさえも判断が付かない。

 このスライムに更なる感情が生まれる。怒りだ!

 自身を喰らおうとし、逃げられたにも拘らず追撃もしてこない相手に対し無性に腹立たしさを感じた。


 ──ジブンニハクウカチスラナイ?


 何時しかこのスライムは思考することを始めていた。


 ──クワレルマエニコチラカラッ!


 先程の相手のように今度は此方が相手に覆い被さる。

 気付けば相手の体をを呑み込み吸収し終えていた。


 ──オ、…イシイ!


 初めて食した同族は美味しかった。味覚というものを初めて感じた。これからもこの美味しい同胞を食していきたい。

 この喰い合いにより彼は曖昧ながらも自我を確立した。


 これ以降このスライムは、同族を見つけては狩るようになる。そして何時しか彼は意思を持つスライム達から”同胞喰らい”と恐れられるようになっていた。


 ある日のこと、自らと同じように同族を喰らう一匹のスライムと出会った。

 二匹はお互い貪ろうと争い始める。

 自我を持つスライムはそう珍しいものではないようで、このスライムにも自我はあった。欲求を満たす為に効率的な行動を取り、端的だが少しの会話すらした。

 それでもやるべきことは変わらない。互いに喰らい合う。

 相手をいなしては攻める、攻めては躱すを繰り返す。喰らい合いは長く続いた。


 ――美味しいッ!


 勝利した同胞喰いのスライムは、曖昧だった自我が明確なものへと変化していた。


「別の個体はどこ?」


 何時しかこのスライムには声帯を模写した発声が可能になっていた。


「ああ、もっと食したい!」


 彼の行動原理が確立された。食のための冒険が始まる。

 森を彷徨い、湖を渡り、山を降って気付けば村へと辿り着いていた。その道中、見たモノ全てを片っ端から喰らっていった。

 辿り着いた村には見た事のない生物、人間が大勢いた。

 見た事がない生物故に味が分からない。分からないなら食せばいいッ! と、彼は出会い頭に最初の人間に襲い掛かる。

 相手は手に光る物を持っていた。それを振り回しながら抵抗をしてきたが、今のこのスライムに斬撃など意味を成さなかった。

 人間を丸呑みにしたスライム、あっという間に食事を終えた彼は考える。


 ――同胞よりもこの生物の方が美味しい?


 いや、人間は雑味が強く美味しくはない。だが、食したことにより体内に何らかの力が生まれたような気がする?

 それは僅かではあるが、確かな力となって我が身に宿る。


 人間は同胞よりも美味しくはない。が、


 ――同胞は旨い、が人間は美味しい。


 味を占めた同胞喰は次々に人間を襲っていく。 

 抗う者、逃げ出す者、こびへつらう者、その全てを喰らった。

 そして、我が身に変化が訪れる、進化だ。

 只のスライムだった同胞喰いは種族名”巨粘体生命体(ギガントスライム)”へと至った。

 ギガントスライムはそれまでの体の数十倍もの巨体で、秘めた力は数百倍にもなる化け物だった。


「これで効率よく食事ができるぞ!」


 彼の考えは食べることだけ。

 この後もこのスライムは出会うもの全てをその巨体で押し潰すように食していった。

 何時しか彼は”同胞喰い”から”暴食の魔王”と呼ばれるようになっていた。


 とあるある日のこと、彼は巨大な洞窟の入口に辿り着いた。


「ふむ、俺の巨体でも十分広いと感じられる大きさだな。こここそが俺の住処に相応しい」


 と考え洞窟内へと入って行った。

 中は魔物の巣窟となっていた。出会う魔物は強力な力を保持しており、魔王と呼ばれる彼でも命懸けの戦いが続けられた。

 辛うじて勝利を掴み続けた彼は、更に戦いを続けながらも奥へ奥へと進む。 

 運を味方につけ彼は終に最深部へと辿り着く。

 そこには巨大な闇の塊のような物があった。巨体を誇る彼の数倍の大きさだった。

 それは全ての闇を凝縮したかのような真なる闇。何ものをも、それこそ光さえも呑み込むブラックホールの様にさえ見えた。

 彼は興味を抱く。


 ――この闇を喰らったらどれ程美味いのか? どれ程の力が手に入るのか?


 彼は躊躇うことなく闇の塊を喰らわんと体を引き延ばし包み込むように広がる。

 だが身体の一部が触れた瞬間、彼は逆に闇へと呑み込まれることになる。彼はこうしてセカンドアースへとやって来た。


 彼が闇に呑まれ再び現れたのは森の中に佇む一本の巨大樹の根元だった。正確には根元に空いた穴とでも言おうか?

 彼はそのまま外へと出る。外へ出るときに多少の違和感を憶えたが特に問題なく外へと出れた。

 生まれ故郷を彷彿とさせる似通った世界。だが、彼にはここが先程まで居た世界でないことが直ぐに分かった。直感としか言いようがないが、ここは先程とは違う世界だ。

 確信を得る為にもその辺を動き回り探索する。

 そうして出会った冒険者風の集団。剣や杖を持った男女六人の人間族。

 スライムは容赦なく喰らう。

 人間は容易く喰えたが、これまでの相手とは実力差があったように感じた。多少ではあるが抵抗され、傷を負う程でもないが時間が掛かったのだ。

 それよりも、彼等を倒したことによりこのスライムにシステムが付与されることとなる。



極々希少な役割(URロール):【魔王】

職業(ジョブ):【美食戦士フードファイターLv6】

●種族:巨粘体生命体ギガントスライム

●スキル:

【狂打】【刺突】【強酸】【溶解】【腐食】【多重分裂】【捕縛】【重圧】【重力操作】【斬撃無効】【魔術極大軽減】【魔王覇気】【超速思考】【分裂思考】【魔術大強化】【多重魔術】【無詠唱】【痛覚無効】【衝撃耐性】【熱変動耐性】【状態異常無効】【超速再生】【高速飛行】【無限飛行】【空間把握】【亜空間収納】【空間移動】【水移動】【高速移動】【探知】【第六感】【鑑定】【妨害】【偽装】【擬体】

●固有スキル:【暴食之王】

●特殊スキル:【レベルアップ】

●種族スキル:【スライムボディ】【補食・吸収】【形状変化】

●魔術:【四大魔術】

●備考:

レベルアップにより経験を積む度に強さを増していく。

暴食之王の効果により、あらゆるものを食材とし力を取り込むことが可能。

食した者の力を、知識をその身に宿す、また回復効果、エネルギー充填などが可能となる。



 人類にとって【暴食之王】一つでも脅威になる得る存在が、【レベルアップ】スキルの影響でより強大な人類の敵へとなっていた。

 だが、それだけにとどまらない。

 この魔王は更に得物を目指して旅を続ける。


 森の中で沼へと訪れた魔王は、その畔で毒を吐き続ける奇怪な巨大蛙と出会いソレを喰らう。

 喰らった時に【猛毒】のスキルを入手した。

 更に毒に塗れた沼は、毒を吐く蛙が消えたことで息を吹き返すが如く澄み渡る美しい湖へと変貌を遂げる。

 これには少なからず驚く魔王だが、更に驚く事が……。


「お礼を申し上げます。美しかった湖を毒の沼へと変えた憎き蛙を倒して下さり有難う御座います」


 土着の女神である湖の精が現れたのだ。

 彼女はお礼にと【水精の加護】を魔王に与え、湖に住むことを許可した。

 湖はこうして魔王の拠点となり、水を求めてやって来る魔物を魔王が狩る日々が始まった。

 そうこうしているうちに魔物は寄り付かなくなり、喜んだ湖の精が魔王に名と神格を与えてしまった。

 神格を得た魔王は進化を果たす。



●名:ヒルコ

極々希少な役割(URロール):【覚醒魔王】

職業(ジョブ):【美食戦士フードファイターLv8】

●種族:暴食粘体生命体ベルゼスライム

●加護:【水精之加護】

●神格位:【水精】

●スキル:new 

【浄化】【神水生成】【水系魔術適性】【水系魔術極大強化】

●備考:

【神水生成】は神水を生み出すもの。

神水とは服用した者には強力なバフをかけ、傷ついたものに振りかければどんな傷だろうとたちどころに癒し、汚染されたモノを浄化し、念じればどんな形にも変化し硬度を持つ神の創りし水。攻撃にも、回復にも、防御にも使える万能水である。

【水精】の神格を得たことで魔王の全能力は桁違いの上昇を見せ、水を支配下に置き、寿命からは解放され限りなく不死に近くなる。



 化け物はより強力な化け物へと進化した。

 まだ救いなのは、人類がまだこの化け物と接触したのは極僅かだったということ。

 不幸なのは、魔物が近寄らなくなり自ら食材を探しに動き出した事だろう。


 こうしてスライムの魔王は人里へと降りる。

 そこで目にしたものは、大勢の人間と複数の魔物との戦争だった。




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