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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
2章
48/78

天空ダンジョン?

 優斗が昴を鍛えている数日の間に、鳥田の全ての住人の引っ越し準備がで完了した。

 俺がダンジョンで助けた天野那美やその他の女性達には再びカプセルの中に入って移動してもらうこととなった。

 折角表に出られたのに申し訳なく思うが、ルシファーが用意してくれた虎車には入りきらない人数になってしまったからだ。

 ちなみに師匠は先に戻ると言って既に居ない。

 師匠が居らず帰り道で魔物に襲われたとしても、今の俺達なら問題なく皆を護れるだろう。


 鳥田の皆には虎車で移動してもらう。

 いつの間にか仲良くなったのか子供たちが虎車を牽く大虎に抱きつき戯れていた。大虎の方も子供好きなのかまんざらでもなさそうで構ってくる子供達を丁寧に扱っているよう見える。

 その様子を見ていた涼葉が羨ましそうに眺めていたのが印象に残っている。


 時勇館組の俺達は涼葉の持つ式紙を使いリョカの分身体を創り出し虎車を護衛しながらの移動となる。

 式紙は嘗て涼葉が倒した鬼人ミルトニアとの戦いの中で回したガチャから排出されたものだ。

 因みにだが、燦翔(きらと)が召喚して涼葉がテイムした白蛇は、小っちゃくなって涼葉の腕に巻き付いて大人しくしている。

 この本来巨大な白蛇に付けられた名前は涼葉が”メフィ”と名付けた。涼葉に頼もしい仲間が増えるのは望ましいことだ。


 リョカの分身は普通の馬と比べると大きめなので乗るのに少しコツが必要だった。が、皆短時間で乗ることができるようになった。


 道中魔物に襲われる事を警戒していたが、そんな心配はいらなかったようだ。行きと同様に帰りも大虎を恐れてか近付く魔物がいなかったんだ。

 だが、予想だにしていないことは起きた。


「ねぇねぇアレなぁにぃ~」


 虎車に乗る一人の女の子が身を乗り出し後方上空を指差した。


 仲間達からは「なんじゃありゃッ!」「え!? 渦? 何んなのあれ」「で、でけぇー」と声が上がる。

 確かにデカく訳の分からないモノが遥か彼方の上空に出現していた。

 距離的には鳥田よりも更に離れてはいるが、紫色した雲が集まり捻じれて渦の様になっている。直径はここからでは分からないが、相当に巨大だろうことは見て取れる。


「創ちゃん、今何か渦から落ちてきたよッ!」


 涼葉の視力はどうなってんだ? ここから相当距離は離れているであろう上空からの落下物に気づくとは。


「おい涼葉、何が落ちたのか分かったか!」


 優斗が落下物の正体を問うが、


「ううん、ダメだった。でも動物の様な、多分魔物だと思うんだよ。それが数体」

「ちっ、ってことは、アレはダンジョンだってことじゃねぇのかッ!」


 落ちてきたモノは魔物、となるとアレはダンジョンだといえる。

 一見紫の雲が渦巻いているだけのように見えるが、魔物が落ちてきたとなるとそこは別世界へと通じる穴、つまりダンジョンコアが存在していることになる。ダンジョンコアが存在するなら、アレはコアを護るダンジョンであると言い切れる。


「どうするよ創可! このまま戻って対処するか?」

「いや、今戻れば鳥田の人達が巻き込まれることになる。このまま時勇館へ送ろう。……位置的には首都の上空か? 厄介なことにならなければいいんだが」


 俺達は不審なものを目撃はしたがこのまま時勇館へと鳥田の人達を送る事にした。


「ち、暁識(さとる)を連れてきてれば何か分かったかもしれねぇな」


 伊志嶺暁識(いしみねさとる)は美織の兄で【相談役】の【アドバイザー】なるロールとジョブを持つ男だ。

 彼は特殊なスキル【アーカイブ】を持ち、多くの情報を得ることができると聞く。

 師匠がポツリと言っていたことだが【アーカイブ】とは、ゼロポイントフィールドなる場にアクセスできる権能なんだそうだ。

 ゼロポイントフィールドは宇宙誕生からのあらゆる全ての情報が保存されている場を指し、【アーカイブ】はその場の一部分にアクセスして情報を読み取るスキルだと言っていた。


 余談だが過去に死んだ生命も情報子としてこの場に保管され、そこで永遠に情報として生き続けると言う考え方もあるらしい。

 死者を甦らせたいのであればゼロポイントフィールドにアクセスすることが必要だとかなんとか。


 まあ、その話は置いておいて、兎に角急いで戻らなくてはならなくなった。

 あのまま放置して良いものではないだろう。伊志嶺兄に情報を貰わなくては次の行動が決まらない。迂闊に手出しはできないからな。


 速度を上げる虎車にリョカと分身体、そのお陰かそれ程時間も掛からずに時勇館へと到着できた。

 俺は直ぐに天野達をカプセルから解放して時勇館へと預け、涼葉を連れて女神家(おみながみけ)へと急いだ。

 伊志嶺兄に情報を訊かないのかって?

 それは優斗達に任せ、俺達は女神家(おみながみけ)の方から情報を集めようと思ったんだよ。情報源は多いに越したことはないからな。


「只今戻りました」

「ただいま~」


 俺達が帰ると、(つむぎ)(あざな)が出迎えてくれた。


「わぁ、二人共久しぶりなんだよ!」

「ええ、お二人とも無事でなによりです」

「ぷぷっ、二人だけの旅じゃなくて残念だったね涼葉ちゃん」


 糾が涼葉をからかい始めた頃、新たに燿子さんがやって来た。


「お帰りなんし、あちらはどうでありんしたか?」

「色々とありましたが、お陰様で無事に解決できました」

「 そうでありんすか、立ち話もなんでありんす、あがりでも飲んでゆるりと訊きんしょう」


 燿子さんに連れられて居間へと向かい、茶を入れてもらい経緯を話す。

 燿子さんはゆっくりとお茶を啜りながら黙って話を訊いてくれた。

 話し終わるまで待ち、燿子さんは口を開いた。


「上空に現れんしたダンジョンでありんすか? 確かにアレはダンジョンだと言えんしょう。あれ程の規模、挑むんでありんしたら相応の準備と覚悟が必要でありんすよ」

「今の俺達で攻略は可能だと思いますか?」

「そもそもお空の上のダンジョンにどうやって潜入するのかな?」


 対象は遥か彼方の上空だ、そこに行くまでの手段すらないか。


「それでありんしたら涼葉はんの従魔でありんしょう。問題はヌシさん達の実力でありんすよ」

「やっぱり俺達では攻略できませんか?」

「でありんしょうね。時折上空から降ってくる魔物が放つ気配は、嘗てヌシさん達が対峙した魔王天一翔奏(あまいちかなた)に比肩しんす。アレに勝てなかったヌシさんでは勝つ道理がありんせん」


 天空ダンジョンが出現してから、時折魔物が落ちてくる。その魔物の気配が前にやり合った魔王と同等だと言う。

 当時は天一が魔王に進化したてで力を十全に扱えなかったようだが、それでも俺達は勝ち切ることができなかった。

 その時よりも俺達の実力は上がっている筈だが、それ程の魔物がダンジョン内では溢れる程の数存在するのだと予想される。なら俺達が踏み込んでも攻略できる可能性は低い。であるならば、俺達は早急に力を付けないといけない。

 そんな話を訊きしんみりしだした間に、


「ふぃー、神獣様課題は終わったぜ」

「フィカス、神獣様への言葉遣いに気を付けろと言っただろ」


 「細いことはいいじゃねぇか」と笑う息子に「やれやれ」と呆れる父親、フィカスとバルサム、鬼人親子だ。その2人が居間に居る俺達を見て声をかけてきた。


「おう創可、やっと帰ってきたか。どうせテメェも空の上に行く気なんだろ? その前に俺の修行に付き合えよ。神獣様に鍛えられた実力を見せつけてやるぜ」

「帰ったか創可殿に涼葉殿。フィカスの言うことをいちいち聞く必要はないが、空に行くなら修行を積むのも決して悪いことではないだろう」


 鬼人親子からの修行のお誘い。

 天空ダンジョンから魔王天一と同等の実力を持つ魔物が排出されていると言うことは、コアを護るダンジョンマスターはそれ以上の実力を持っている強者と言うことだ。おそらくは魔王そのもの、今のまま突入しても勝つ算段がつかない。修行を積むのも悪くない。 


「いいね。ボクも付き合うから創ちゃんもやろうよッ!」


 涼葉はその気になっているな。


「ああ、寧ろ俺の修行に付き合ってもらおうかフィカスにバルサム、それに涼葉もな」

「うん!」

「ケッ、俺の修行に付き合えだと。テメェ、一人で行く気じゃねぇだろうな!?」

「そうじゃないけどな」「勿論俺も着いてくぜ」「私もだ」


 皆やる気に満ちいい感じに盛り上がってきた。が、


「涼葉はんはわっちと修行でありんす。天空ダンジョンへ行くには涼葉はんのアルヒコや飛行系ユニットが必要になりんす。今のままでは行くことさえ困難でありんしょう」

「ええぇ、良い感じで纏まってたのにぃ~。創ちゃんと修行できないのぉ」

「修行の目的が違うでありんすよ。創可はんは地力の底上げ、ヌシさんは従魔との連携ないし飛行持続力の強化でありんす」


 天空ダンジョンへ行くには飛んで行く必要がある。それだけでなく、内部に入ってからも飛び続ける必要があるのかも知れない。

 いくら【天駆】や【飛行】のスキルを持っていても永遠に飛び続けられる訳じゃない、いつかは力尽きてしまう。涼葉の従魔の助けは必要不可欠だろう。


「そうだな涼葉には飛行できる従魔の強化に専念してもらうしかないか。良いか涼葉?」

「うぅ~、仕方ないんだよ。でも、創ちゃんと一緒に修行ができると思ったのになぁ」

「それはまた今度な。あそこに行くには涼葉の力が必要だ、期待してるぞ涼葉」

「う、うん! 期待されたらしょうがないんだよッ!」


 こうして俺と鬼人二人、涼葉と燿子さんとで別れて修行することになったんだ。



 ◇◇◇◇◇



 俺は時勇館の勇者里山優斗だ。俺達が時勇館へ帰還したのは昼を少し過ぎた頃だった。

 創可と涼葉は早々に冥閬院流(めいろういんりゅう)道場、つまりは女神家(おみながみけ)の方へ帰って行った。

 俺達は先ず創可がダンジョンで助けたっつう女性達に部屋を割り当て、ルールを教え、仕事を与えた。それらが終わったのは日が傾き始めた頃だった。

 その後に暁識や美咲を含む主要メンバーを呼び出し、天空に現れたダンジョンの事を話し合うことにした。


「魔物が空から降ってくる天空ダンジョンか。ここからでも視認できる程の大きさだ、並大抵のモノではないだろうね」

「ええそうね。ここからでも見て取れる巨大な入口を持つダンジョン、それは即ち今までのモノとは規模が違う強大なダンジョンってことよね」


 暁識と美咲が空に現れたダンジョンについて感想を述べる。見たまんまの意見、知りたいのはそんな事ではない。


「暁識、あの中はどうなってる?」

「俺の【アーカイブ】で情報を視ても良く分からない、中の情報が何も出てこない。

 恐らくはこれまでとは全く次元の異なった造りだろうね。例えば地面のない空のダンジョン、或いは上下左右の概念を持たない宇宙空間などだな。

 俺が分かった事はアレが紛れもなくダンジョンだということだけだよ」

「あれだけ遠い場所に現れたダンジョンなら、現地の誰かが既に対処してないかしら?」

「アレの真下って首都の辺りよね? 首都に勇者っていたっけ?」


 美咲の疑問に美織が質問で返す。

 確か首都には……。


「勇者はいないが王はいるよな。前のクエストで【国王】から【賢王】へとジョブアップしているって話だから既に対策を講じているかもしれない」


 ハッキリ言ってあの状況下で見てるだけの王など王とは言わない。


「【王】のロールには防衛と発展、それと徴兵と立法の権能がある。更に【王】の力の範疇で絶対不可侵領域を創り出し魔物を一切近づけさせない安全な都市となっている」


 ええっと、魔物の入れない空間を作り、兵を集めルールを定め、発展させていくってことで合ってるか?

 暁識は続けて説明する。


「ジョブの方の【賢王】は自らの配下に強力な強化を施し、それらとの意思疎通を可能にするとか。強制命令もできるらしい。

 これ程の権能を持つ王なら、アレを放置はしていないだろう。既に軍を強化し、何らかの対処をしていてもおかしくはない。逆に何もしていなければ無能のレッテルを貼られている事だろうな」


 暁識の言葉に続けて美咲も付け足すように言葉を発した。


「ええそうね。王は国を治め護る者、この状況下で手をこまねいている者を王とは誰も認めないわね。問題となるのは対処できているかどうかよね。

 国の首都だもの、優れた人材が揃っていることを願うわ」

「天空ダンジョンは定期的に魔物を排出しているからな。彼等が食い止められなければ魔物が溢れ、王が討たれる事にでもなればこの国は亡びるしかない。実力のある者は首都を目指し動くだろう。いくら不可侵領域だといえ魔物に囲まれて正常な精神状態を保つのは難しいだろう」

「俺達もいずれは行くことになる。勇者の俺がアレを放置する訳にはいかねぇからな」


 この状況を無視する勇者がいるものか。王同様にここで動かなかったら俺は勇者を名乗れなくなってしまう。


「中に魔王が居るのかな?」


 居るだろうな。あれだけの規模で展開された入口を持つダンジョンに魔王が一人も居ないとは考えづらい。


「どの魔王かまでは知らねぇけど、多分居るだろうな。

 今の俺達じゃ力不足だ、俺は魔法を使いこなせねぇしお前達だって誰一人魔王に対抗できる力はねぇだろ? あそこに向かうなら力を付けてからじゃねぇとな。幸いなことにもう一人の勇者がこの時勇館にやって来たことだし、互いに高め合いたいもんだぜ」


 俺は目の前に座る鳥田で出会った一人の勇者の少女蓮池恋鞠(はすいけこまり)を凝視する。

 彼女は勇者として覚醒し、今ではジョブアップまで果たし【魔を秘めし勇者】へと至っているらしい。その影響かそれとも逆なのか知らないが、種族が人間から魔人に変わってしまったらしい。

 このことを仲間達には黙っていて欲しいと言われた。何でも自分の口から言いたいそうだ。だからこの場で口に出すことはできない。その後に仲間内だけで話し合うらしい。

 何も問題無いだろうな。今まで命を預けていた戦友の種族が変わった程度で問題になる事はあるまいよ。

 どちらかと言うと俺は【魔を秘める…】の意味が気にはなる。本人もそのことが気がかりで仲間に打ち明けられなかったんだろう。内面に影響が出なければいいが……。


「な、何でしょうか? 私にできる事ならお手伝いしますので何でも言って下さい」


 凝視していたせいか恋鞠の奴が顔を赤らめ俯き加減に言ってきやがる。

 やめれ美織が誤解するだろうがッ! 俺にロリコンの趣味はねぇ、お前まだ16かそこらだろッ!


「ちょ、ちょっと優斗さん、まさか恋鞠に好意を寄せてるんですか!?」


 白崎賢人(しらさきけんと)までんなことを言い出しやがる。

 随分と上手く隠しているようだが、コイツは恋鞠に惚れてるっぽいから他の男の目が気になるんだろう。今までは恋鞠が勇者だから手を出す者もいなかったんだろうが、俺は同じ勇者だから可能性を考えてんのかもな。


「ちげぇよ、俺の修行相手になれる奴はこの時勇館にそうはいねぇから相手して貰おうと思っただけだ!」


 すかさず美咲のチャチャが入る。


「でも気を付けなよ。優斗は彼方此方の女に手を出してるからね」


 ぐっ、確かに少し前までは色んな女に手を出してはいたが、今はそれどころじゃねぇだろうが!


「おい、いい加減にしとけよ。俺の評判を落とすようなこと言うんじゃねぇよ。隆成からも何とか言ってやってくれよ」

「……」


 黙して語らずの隆成。少し苦し気にも見えるな。


「おいどうした隆成? まだ具合が悪いのかよ?」


 隆成はこの間の戦闘で色欲魔王のティリイスによって傲慢の因子を植え付けられている。その事による反動か先程まで意識を失い眠っていた。この感じでは今も調子が悪いんだろうな。


「あ、ああすまん、なんだっけ?」

「はぁ、大丈夫かよ。体調が戻ってないなら休んでて良いんだぜ?」


 心配するが「大丈夫だ」の一点張りの隆成、そのために奴の体調を細かく把握できている者はいないんだよな。


「ったくよ、体調が悪いなら素直に言えよ。いざって時にこの調子じゃ命取りになるぞ」

「ああ、ホントにすまん。俺なら大丈夫だから話を進めてくれ」


 ホントに大丈夫かコイツ? 何処か心ここに非ずってな感じになってんぞ。

 身体の中に入り込んだ傲慢の因子が、今もコイツを苦しめているんだろう。どんな感覚なのか俺には分からないが、因子に負けることになれば晴れて隆成も魔王の一員ってことだな。

 スキルによって精神が引っ張られるとでも言うのか、いまの隆成は傲慢スキルの因子と己との戦いで忙しいんだろう。

 何としても魔王化は阻止しないといかん訳だが、どうすればいいのか見当もつかない。隆成の精神力に賭けるしかないか。

 暁識に見てもらったが魔王化は本人の精神力次第だと言っていた。できるだけ早く取り出さなけりば可能性は高まっていくとも……。が、死ななければ取り出せないとティリイスが言っていたのを思い出す。

 ホントっ厄介事に巻き込まれたもんだ。が、今は天空ダンジョンと同時進行で考えていくしかない。割と創可の方でサクッと解決してくんねぇかな?

 俺が思考の渦に囚われていると、暁識が話を進めてくれた。


「では話を進めよう。天空ダンジョンだが、攻略するにはどうしたって空を飛ぶ必要がある。その為にはどうすればいいか考えてみてくれ」


 空の上のダンジョンだ空を飛んでいくしかない訳だが、考える必要もなくないか?


「あ、あの…、空は涼葉ちゃんの空を飛べる仲間に乗って行くんじゃないんですか?」

「そうだよね? 柏葉さん竜の仲間がいるって言っていたものね」

「ええっ竜! 乗ってみたい! 私乗ってみたいよ!」


 騒がしく声を上げたのは恋鞠の親友である知地理茉子(ちちりまこ)だ。


「茉子、騒がなくてもその内乗ることもあるだろうから、静かにな」


 乗りたい乗りたいと騒ぐ茉子を諫めたのは彼女の彼氏である大守龍護(おおもりりゅうご)だ。

 続くマーシャル・ディオン。


「そうそう、あんな上空に大人数で行くには竜でもなけりゃ無理だって。飛行機なんて今はないだろ? そもそも魔物が相手だ、戦闘機ですら落とされる可能性だってある」


 やいややいやとここに来て鳥田の勇者組が騒がしくなってきた。


「でも、竜だけでも不安もあるよね? ほら、竜がもし一体しかいなかったら別行動もできないし。倒されでもしたら全員で真っ逆さまだよ」

「白崎君の言う通りだ。そこで此方でも何かいい手は無いか考えたい。Bプランだな」

「だがよ暁識よ、俺達に飛行系ユニットを操れれる人物なんて涼葉以外に居ねぇじゃねぇかよ?」


 俺達の仲間には一人もテイマーがいない。空を飛べる仲間などいないんだ。

 だが、よく考えてみると鳥田からの帰り道はリョカとかいう魔馬の分身体を涼葉は事も無げに作り出していた。なら、飛行系ユニットも複数作り出せても不思議じゃない。


「涼葉に分身体を作ってもらうとかか? でもよ、あれは戦力が落ちるって言ってたぞ?」


 彼女の式紙で作り出した分身体は本体の実力の何割か程度の力しか出せないとか何とか。個体差で引き出せる力が上下するらしいが、大体は五割程度の実力しか引き出せない。

 それでは量産したとところでダメだろうな。数より質が今の世の中だからな、強力な魔物が降ってくることを考えれば力の落ちた式紙では直ぐに落とされることになる。

 それは即ち、乗っている俺達の命の危機ってことになるからな。

 できるなら信頼の置ける乗り物に乗り、分身体にその周りで警護について貰うのがベストだと俺は考える。問題はその信頼できる乗り物だ。


「大急ぎでテイマーを探し出して育成するとか?」

「それは時間が掛かり過ぎじゃね? その後に飛行系の魔物を見つけてテイムする必要もあるしな」

「そうだね。だとやっぱり、飛行機を手に入れて結界を常時張っておくとか?」

「結界魔術は絶対じゃねぇぞ? 常時張り続けるのもな、……美織の聖域なら可能だが、移動する物にも可能なのか? どうなんだ美織?」


 美織の聖域はこの広い時勇館全体を覆うように常時展開されている。が、それは動かない土地に対して張っているからだ、常に動き続ける飛行機ともなると勝手が違うだろう。

 俺は隣に座る美織を視て訊いてみる。


「う~ん、やった事ないけど多分無理。一度張った聖域は私が動いてもその場に留まるから……」


 だろうな、でなければ美織は時勇館を出ることができなくなる。


「じゃあ結界師を大勢乗せて交代制で結界を張ってもらうとか?」

「そもそも飛行機なんて何処で手に入れるんだ?」


 飛行機などその辺に落ちてるものでもない。手に入れるとなると空港とか国の防衛基地とかか?


「あっ、ドクターヘリってのもあるか? そうなると成畑病院か?」


 成畑病院は天一が拠点としていた場所だ。あそこにはヘリポートがありドクターヘリが一機置いてあった筈だ。

 俺の呟きに暁識がフムと言って頷いた。


「確かにあそこにはヘリが一機あるな。旅客機などは狙われれば一巻の終わり、ヘリなら小回りが利く、いい案かも知れない。が、その一機だけでは心許ない。それに燃料の問題もある」

「でもお兄ちゃん、あそこって天一翔奏(あまいちかなた)が消えてからは誰も居ないんじゃなかったっけ? 確か放棄されたとか何とか?」


 そう、リーダーであった天一が消え、拠点を維持できなくなった住民はそれぞれ別の拠点へと移っていった。時勇館でも受け入れている人物がそれなりに居るからな。

 そうなると護り手の居なくなった成畑は既に廃墟となりヘリも無事ではない? いや、あれからここいら一帯では魔物の出現が極端に減っている。強い魔物は一切見なくなった。周囲に在った三つのダンジョンを潰したからだ。

 この状況ならヘリが無事で在る可能性はなくもない。


「ああ、今は確かに誰も居ない。だが、魔物の襲撃は受けていない筈だ。なら、ヘリが無事で在る可能性は高い。問題は燃料の方だな。それにやはり一機では心許ない」

「そうだな、燃料さえ確保できればそのヘリで別のヘリを探しに行けるしな」

「燃料ってガソリン? 確か極端に度数の高いアルコールで代用できるんじゃなかったけ?」


 エチルアルコールやメチルアルコールのことか?

 あれは対応されたエンジンじゃないと動かないような? それに燃費は最悪、故障の原因でもある。アルコールはないな。

 そんな事を考えていると龍護が提案する。


「いや、それよりも有効な物が有る、魔石だ。大量に消費するかもしれないが、魔石に内包されているマナを利用して機体に飛行の魔術を掛けるのはどうだ?」


 魔石か、……無理じゃね?

 確かに魔石はマナの結晶体ではあるが、そのマナを取り出して飛行魔術を使い続けるには相当な技術がいるだろう。そもそも飛行魔術が使える者が少ない。


「そのやり方では飛行魔術を扱う者の負担が大き過ぎる。そもそもそれが可能なら別にヘリを用意する必用も無いだろう。小舟を何艘か用意すればいいんだからな」

「む、それもそうか」

「結界魔術も掛ける必要があるからな。やっぱガソリンスタンドの跡地を巡ってアイテムボックスにガソリンを詰め込んでくっきゃないか?」


 家には通学用のバスが何台かあり、その燃料はガソリンスタンドを巡って拝借している。

 ガソリンを燃料にして飛び、涼葉の仲間の分身体で周囲を固めれば何とかならないかな?


「残念だが、近場のガソスタは全て空だよ。既にバスの燃料も尽きている。だからの話し合いなんだよ優斗君」

「ちっ、だったら遠出するしかねぇのか?」

「そうなるな。だが、ここから離れた場所の安全は保障できてない」


 つまり無事であるかは分からないってことだよな。


「あ、あのぉ、素朴な疑問なんですけど、ヘリコプターは誰が操縦できるんですか?」

「「「…………」」」


 さあ解散解散!

 パイロットの事なんか考えてもなかったぜッ!

 ち、暫くは昴と恋鞠とで修行だなッ!





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