不純な動機でやってきました
一年後、ボクとシーナは手をつないで魔方陣の上に横たわっていた。この時の為に、ボクの片腕はポーの作った義手になっている。
「シャムロウさん、お願いします!」
老シーナも様子を見に来ている。シャムロウの詠唱に混じって老シーナの「達者でな」という声が聞こえる。シーナがボクの義手じゃないほうの手を強く握った。ボクはシーナの顔を見ると、シーナは朗らかに笑っていた。
「ドキドキする!」
「ボクも!」
辺りが真っ白い光に包まれていく。転移が始まる。
「ボブは前回このタイミングでボクに『愛してる』って言った。」
「分かったよ、愛してるよ。」
世界の色彩が急に戻る。ここは
「ここが…異世界…」
シーナと一緒に手をつないで立っているこの場所は、日本の電車の駅のようだ。
「この近くで、タカシが死ぬような事件に会うんだ。探さなきゃ。」
はぐれないようにシーナの手を強く握ったまま、タカシの気配を探る。
「どう?いる?タカシ?」
ボクは転移に失敗したんじゃないかと焦っていた。
「おかしい、この場所にはいない…」
ホームのスピーカーが日本語で何か言っている。
「あれ見て!なにあれ!?」
シーナが指差したのはホームに進入してくる列車だ。
「『電車』だよ、人を乗せてたくさん運ぶんだ。そうか、多分、タカシは電車でここにやってくるんだ。」
ボクは映像でしか見たことがない日本の「満員電車」から人が吐き出されて行く様子に右往左往しながら、明らかにトラブルの起きている集団が降りてくるのを見つけた。
「ボブ!あれタカシじゃない!?」
黒い制服に身を包んだタカシが…あの勇猛なタカシが、あんなに弱っちそうな顔をして電車から降りてくる。すぐ横では何人かの日本人が凄い剣幕で怒鳴りあっている。シーナと2人で人ごみを掻き分けて近付こうとする。なかなか近付けない。そうしている間にタカシを降ろした列車はホームから発進し、次の列車を待つ人の列がそわそわしはじめる。その直後、タカシの身体がホームから弾き飛ばされた。
「ボブ!!」
シーナの声を聞くまでもなくボクは霧となって、突風となってホームの人々の頭上を駆けた。人々が息を呑む音が聞こえる。
「タカシ大丈夫?」
さっきまでシーナの手を握っていたボクの手はタカシの腕を掴んでホームに引き寄せていた。残念ながら全身を人の姿に戻すことは出来なかったけれど、タカシを撥ねる予定だったであろう電車は何事もなかったかのようにホームに滑り込んできた。
「どいて!通してって!…ボブ!やったね!間に合った!!」
空中に上半身だけ実体化してタカシを助けたボクの姿にホームにいる日本人達は呆然としている。その隙を突いてシーナもタカシのところへ駆け寄った。
「あなたたちは?」
タカシは目を丸くしてボクとシーナを見ている。ローブ姿で半身が実体化していないボクもなかなかだけど、シーナもこの日本の朝の通勤ラッシュのホームにふさわしい上等で軽い革鎧を着込んでいる。
「ボクの名前は賢者ボブ、こちらはボクの妻で薬師のシーナ。異世界からやってきた。」
ボクはやっと全身を実体化すると、ホームに両足でしっかり立った。
「なんで、その…お2人はこの世界に?」
ボクとシーナは顔を見合わせて微笑んだ。
「勇者タカシ、キミに会いに来たんだ。」
タカシはボクの目をじっと見て固まっていた。シーナがボクにすがり付いている。泣いているのだろう。
「キミとした冒険の話と、これからする冒険の話と、話せなかった沢山の話があるんだ。」
かっこよく決めたかったけれど、タカシの顔を見たらどうしても涙があふれて仕方がない。きっとひどい顔をしているのだろう。
そして、この先の話はいつかきっと。
最初、2人が死ぬところから再転生するところまでを思いついて書き始めました。不純な動機で冒険すると言うテーマはライトなファンタジーではよくあるテーマですが、昨今、名前を聞く「ナーロッパ」を真っ向から書いてやろうと言うのも今回の大きな目的の一つで、その動機が不純だったので「動機不順ヒーローズ」でいいかと。ストーリーとも合っていたので。
「小説家になろう」でファンタジーの典型になっている「ナーロッパ」ではなぜか地球と同じ物理法則が働くようで、その部分を突いて「ありえない」としたい気持ちは重々分かるのですが、ハイファンタジーでは物理法則字体を弄ることも多く、例えばなんかの世界では「風の精霊の影響力が強く物体が音速を超えられない」設定とかも過去に有ったわけで、ファンタジーはそういう部分を楽しむものなので、ツッコミに対しては「それっぽいことを書いて納得させる」のが書く側の楽しみで、「それっぽいことで納得してしまう」のが読む側の楽しみなんじゃないかなと思うわけです。




