第6話「sequitur(追跡)」
「安藤さん、ちょっと」
灰川さんたちと防犯ビデオを見た翌日。
お昼休みの少し前に、私は課長に呼ばれた。鑑識課長はもうすぐ定年という年で、昔はかなり厳しい人だったという話だ。今は優しいおじいちゃんにしか見えない。周りの話では、出世の先が見えてきてから極端に丸くなったらしい。現金な人でもある。
「何ですか?」
私は課長のデスクに行った。
「あれなんだけど、どうにかならない?気になって仕事にならないって一部から苦情が出てるんだよ」
「はあ」
課長が指さす先を振り返る。
「あ」
鑑識課の入り口付近に、チラチラと人影が見える。グレーのスーツとショートカットの髪型に私は見覚えがあった。
「いつからいるんですか?」
「三十分ほど前から。君は背中向けて座ってるから気づかなかったみたいだけど」
あの子、入り口で三十分も何やってたんだろう。
「君は昨日、九十九の灰川君とあの子とで仕事してたんでしょう?何か用事じゃないの?」
「それはわかりませんけど……とにかく聞いてきます。昼休憩、早めに取りますね」
「はいよー」
私は一つため息をついて、入口へ向かった。
県警でもっとも人の来ない休憩スペース。人気が無い理由は、イスがボロい、喫煙スペースが無い、そして自販機がチェリオしかないこと。
とりあえず闇無さんの手を引っ張って、このスペースに連れてきた。本当は……今日は会いたくなかったんだけど。
「あ、あの」
闇無さんはしばらく足元を見つめてモジモジして、そしておもむろに頭を下げた。
「ごめんなさいっ!」
「何、いきなり」
「わ、私のせいで、安藤さんまで灰川さんに怒鳴られちゃって。まさかあんな風に怒るなんて思わなくって」
この世の終わりみたいな顔してる。ちょっとかわいそうになってきた。
「別にあなたのせいじゃないよ。私も、あんなに大きな声出す灰川さん初めて見たし」
「でも……お二人は、恋人同士なんですよね?もし私のせいで別れるなんてことになったら、申し訳なくて」
ん?恋人?
「ちょちょちょっと、何言ってるの?私と灰川さんはそんなんじゃないから!」
そう見えるのは嬉しいけど、誤解されるのは別だ!
「え?でも昨日、二人で手を握って……」
「あれはその、私がびびってたから、とっさに握ってくれただけで。深い意味は無いから。本当に、何でもない、ただの同僚」
なぜだろう、説明してて寂しい。
「そうだったんですか!すみません、早とちりして」
「あーもう、いいからいいから」
「それでも、やっぱり謝りたくて。私、その……」
また闇無さんがモジモジし始めた。
「まだ何かあるの?」
「えっと……せ、せっかく安藤さんに仲良くしてもらえそうだったのに、これで嫌われちゃったりしたらつらいなって思って」
「そんな心配してたの?」
「もちろんです。連絡先渡してくれた時、すごく、すっごく嬉しかったんですよ!」
必死に訴えかけてくる。私は思わず笑いだした。
「バカだねーあんた。そんなことでいちいち嫌ったりしないって。そりゃ、とばっちり食らっていい気分はしなかったけど。もう忘れた」
「安藤さーん」
闇無さんがおもむろに抱きついてくる。
「わっ、ちょっとやめてよ!胸に顔うずめないで!」
「ごめんなさい。ずっとこうしてみたかったんです」
「このエロ娘!」
何とか闇無さんをひっぺがし、少し離れてイスに座る。
「まったく……それで、灰川さんは今日どんな様子?」
「それが……体調不良で休んでます」
「えっ」
昨日の今日で体調不良?そりゃ、時田さんが関係してるかもって聞いてショック受けてたけど。
「闇無さんは……どう思う?」
「あまり想像したくないですけど、いやな予感はします」
「そうだね……」
二人とも口には出さなかったけど、多分同じことを思ってる。
何かよくない単独行動をしてるんじゃないかって。
「はあ……まずいなあ」
闇無さんは、いつのまにか買っていたライフガードを手にしてため息をついた。
「大丈夫だって。灰川さん、あれでさっぱりしてる人だから、いつまでも怒ってないよ」
「いえ、そうじゃなくて」
「相棒にしてくれなくなっちゃうって、心配してるの?」
「それ……は、ちょっと心配してます」
「どうして灰川さんなの?他にも刑事はいるのに」
できるだけ、さりげなく聞いてみた。闇無さんは、灰川さんをどう思っているんだろう。
闇無さんは言った。
「改めてどうしてって言われると困りますけど、何というか、センスです」
「センスと来たか」
「そうです。直観ともいいますね。プロファイラーに一番大事なのは、実は直観なんですよ」
「へえ。あれってデータを元に犯人像を絞り込むんじゃないの?」
「その通りなんですけど。人間の直観っていうのは、その絞り込み作業の高速版だと思うんです。今までの経験や記憶から共通するものと照らし合わせて、一瞬で答えに突き当たる。その高速突き合わせ作業がいわゆる直観だと思っています」
「なるほど。面白い事考えるね」
うなずいて、私は言った。
「じゃあ、私の直観も聞いてくれる?」
「はい、何でしょう?」
すっかり落ち着いた様子で、闇無さんは笑顔でうなずいた。
「闇無さん、私に何か隠してることあるでしょ?」
「パフッ!」
闇無さんの口からライフガードのしぶきが飛んだ。
「わっ、こっち飛ばさないでよ!」
「ご、ごめんなさい!」
ハンカチを取り出し、慌てて拭いている。このわかりやすさで刑事つとまるのかな?
「で、どうなの?昨日灰川さんに病院のこと聞かれて、高くつきましたけど効果はありそうって言ったでしょ?何か変な表現だなーって気になってたの。今思えば、灰川さんにウソをつかずに都合の悪いことを隠そうとしてたんだなって」
「何も、都合の悪いことなんてありませんよ」
プイとそっぽを向く。子供か。
「ふーん、私もせっかく仲良くなれそうな相手ができて嬉しかったんだけどなあ。短い友情だった」
「安藤さーん!そういうのやめてくださーい!」
また必死にしがみついてくる。
「抱きつかないでって!そうやって、結局話せないんでしょう?」
「わ、わかりましたー!話します!これ、本当に内緒ですよ!灰川さんにバレたら今度こそ嫌われて、組んでもらえなくなっちゃう!」
灰川さんに内緒?
私は立ち上がった。
「待った。やっぱり聞きたくない。灰川さんに隠し事なんてしたくない」
「ここまで来たら聞いてください!」
私は両手で両耳をふさいだ。
「あーあー、聞こえない」
「私、探偵に頼んで灰川さんの先輩を」
「きーこーえーなーいー」
「……探偵に、何を頼んだと?」
突如聞こえてきた男性の声に、私たちは固まった。
ギギギと音がしそうな動きで振り返る。
視線の先に、板東課長が立っていた。
やばい。やばすぎる。
私は自販機に硬貨を入れる課長を見ながら、考えた。
ここからどうやって逃げよう、と。
でも安藤さんを置いて自分だけ逃げるわけにはいかない。ただでさえ歴史の浅い友情が、今度こそ終わる。
ここは腹をくくって、何とか言い逃れるしかない。
安藤さんが先に口を開いた。
「ば、板東課長はなぜここに?ほとんど誰も来ないところなのに」
「チェリオはここにしか無いからな」
「チェリオがお好きなんですか!?」
安藤さんが心底意外そうに言った。
「悪いか?」
ガシャン、と音がして商品が落ちてくる。課長はかがんで取り上げた。
「課長、ジャングルマンXなんて飲むんですか?」
「ああ。頭がスッキリする」
言って、私たちから少し離れた壁にもたれかかり、ペットボトルのキャップを開けて一気にあおる。
……このままチェリオの話題でごまかせないかな。
「で、さっきの探偵の話だが」
無理だった。
「は、はい。えっと、私が、情報屋に頼んで調べ物をしてもらってるって話を、安藤さんとしてたんです」
「ほう」
課長がもう一口あおる。
「その探偵というのは、お前たちが見つけた加東という男か?」
バレてる!
「じょ、情報屋は刑事の生命線ですから、いくら相手が課長でも教えられません」
言った。言ってやった。
課長はジロリと私を見た。ハンサムだけに怖い。
「君はつい最近アメリカから帰ってきたばかりだ。短期間でそこまで親しい情報屋ができるとは思えない。仕事を頼むとしたら、最近知り合った加東しかいないだろう。そして仕事を依頼しに行ったのは、昨日半休を取った午前中だ。違うか?」
「ぐっ」
理路整然と言い返された。この人キライだ。
ちらりと安藤さんを見る。彼女はうんうんとうなずき、口の前で手を何度か開いていた。何だろう。あ、しゃべっちゃえってことか。
私は課長に言った。
「実はその……加東探偵に人探しを依頼したんです」
「誰を探すんだ?」
「灰川さんの先輩で、時田さんという方です。昔組んでいたって」
「時田……?」
安藤さんが目を大きく見開き、その後怖い目で私をにらみ始めた。見なかったことにしよう。
「私はここへきて三年だが、聞いたことがない名だ」
「五年前に辞めたらしいです」
「なぜ灰川に直接聞かない」
「一度どんな人か聞こうとしたら、はぐらかされたので。しつこく聞いても逆効果かと」
「理由はそれだけか?」
「……」
課長は続ける。
「佐野の手帳にあった毎月15日の"T"の文字。あれはタバコではなく、"時田"の頭文字だと思ったんじゃないのか」
「……それは何とも。Tが人名とは限りませんし」
私がさらりと言うと、課長は白けたように言った。
「今さらつまらない言い訳をするな。つまりこういうことか。殺人事件の重要参考人かもしれない人物を、君は上司に黙って探偵に捜索させていると」
「同僚が昔お世話になった先輩を、サプライズで会わせようとしていただけ、とも考えられます」
「詭弁だけは達者だな」
課長はジャングルマンXという、体に悪そうなドリンクを飲み干し、ゴミ箱に放り込んだ。
そして安藤さんの方を見た。
「君は鑑識だな」
「は、はい。鑑識課の安藤です」
「今から最優先で、その時田という元刑事を調べろ。警察のデータベース全部使っていい」
「ぜ、全部ですか。わかりました、すぐやります」
課長は内ポケットから手帳を取り出し、ペンで何かを書いて一枚やぶって安藤さんに渡した。
「私のパスワードだ。管理者権限が求められたら入力しろ」
「いいんですか?パスワードの意味なくなりますよ」
「気にしなくていい。君の作業が終わったらすぐ変更する」
「はあ。あの、えっと」
安藤さんは私をちらりと見て、小さく手を振った。
「じゃ、失礼します。すぐにとりかかります」
「ああ」
休憩スペースには、私と課長だけが取り残された。
……完全に逃げ遅れた。早く私にも仕事振ってよ!そうすれば安藤さんみたいにナチュラルに退場できるのに。
「闇無」
「は、はいっ」
「プロファイラーの目から、今回の事件はどう見える?」
え。
「ど、どうって……」
「率直な意見を聞いている」
「捜査一課は、プロファイラーを認めていないのかと思ってました」
「本当に認めていなかったら、そもそも捜査に参加させていない。で、どうなんだ」
いちいち表現がカンに触るけど、探偵の話題からは逸れたみたいだ。やれやれ。
「パターンとしては、とても変わっていると思います。シリアルキラーが動物を殺すのは通常初期の段階で、それだけでは満足しきれなくなって殺人にエスカレートすることがほとんどですから」
「最初が人間の撲殺で、次が犬の毒殺だな。確かに順序がおかしい」
「それに、シリアルキラーは被害者のタイプに共通するものがあるはずなんです。狙う相手が女性なら、みんな同じ髪の色とか、昔振られた女性に似たタイプとか。実際、母親に似た女性ばかりに声をかけて、わざと嫌われるようなことをしてその後殺す、という理不尽な殺人犯もアメリカで記録に残っています」
「それは動機のねつ造だな。本当に殺したい相手は母親だが、恐怖と憎しみと依存心が複雑に混ざり合って衝動が外へ向かった」
「……くわしいですね」
「私も若いころ、プロファイリングをかじったことがある」
「本当ですか!?」
意外だ!
「別に驚くことじゃない。一時心理分析が流行ったんだ。だが私も含めて、皆すぐにやめた」
「どうしてですか?」
「国土の広いアメリカと違って、日本ではシリアルキラーが出にくい。結局、金と情の流れを追う定番の捜査の方が効率がいいんだ」
「それを言われるとミもフタも無いんですけど」
「それでも今回は、通常の捜査では手詰まりになっている。金でも怨恨でもない、何か別の角度からの突破口がいる」
「……あくまでプロファイリイングは、事実を元にして共通点を探す地道な作業です。あまりこういうことは言ってはいけないんですけど、二件ではデータが足りません」
「共通点か。それならあるだろう」
課長は言った。
「何ですか?」
「犬の件は別として、佐野の事件にはある一人の人間が深く絡んでいる」
「それって……」
「被害者の佐野と、佐野が会っていたかもしれない時田。その両方に共通して関わっている人間は?」
答えたくない。どうしてこの人は私に言わせようとするんだろう。やっぱりこの人キライだ。
「……灰川さんです」
灰川、そう灰川だった。あの姉ちゃんに投げ飛ばされた時、一緒にいた地味な刑事。
あいつこんなところで何してんだ?
あの闇無って姉ちゃんに叩き起こされて、仕事を引き受けてから丸一日。最初は正直チョロいと思ってた。刑事なら、あちこちのホームレスや同業者に顔がきいただろうから、誰か一人くらい覚えてるヤツがいるだろうって。
甘かった。
覚えてるヤツなんて誰もいなかった。そもそも探すにしても写真一枚無い。不慣れなネットも使ってみたけど、時田春哉なんて名前は出てこない。
姉ちゃんの話じゃ敏腕刑事だったらしいが、どういう捜査方法取ってたんだ?足を使うタイプじゃないのか?
大体県警本部に知られないように元刑事を探すなんて、無理に決まってるんだよ。目先の金に目がくらんじまったが、引き受けるんじゃなかった。
それでも、今朝から街を歩き回っているうちに、俺の頭に一つの考えが浮かんだ。
もしも時田が佐野を殺した犯人だとしたら、とりあえず市内に住んではいるはずだ。県外から往復する殺人犯なんて聞いたことねえし、移動距離が長ければそれだけ目撃者も増える。そんなリスクは犯さないだろう。それに姉ちゃんは「直接接触しようとするな」って釘刺してきた。つまり姉ちゃんも、どっかで時田が犯人じゃねえかと疑ってるってことだ。
……そう思って、とりあえず事件現場近くから探索を始めようとして来たんだが。
ゴミが散乱している駅近くの裏通り。そこに私服の灰川がいた。俺は思わず物陰に身を隠す。
あいつ、今日休みなのか?刑事ってのは相棒が殺されたら休みも返上して捜査に当たるもんだと思ってたが、俺が古いのかな。
いや待てよ。ここにあいつがいるってことは、事件の捜査のために来てるに決まってる。じゃあ何でスーツじゃないんだ?
……読めたぞ。
灰川も、時田を探してる。時田が犯人かどうかは俺にはどうでもいい。姉ちゃんが灰川に内緒で俺に依頼した理由は、多分時田が灰川にとって恩人だから言いにくいとか、そんなところだろう。
じゃあ当の灰川は?
疑ってる。じゃなきゃ、ここには来ねえ。ということは、だ。
俺の頭に、天才的なアイディアが浮かんだ。
時田を知ってる灰川の後をつければ、自動的に時田を見つけられるってことじゃねえのか?何だよ、労せずして成功報酬いただきだ!
俺は十分な距離を取りつつ、灰川の後を追うことにした。
尾行する俺には都合よく、灰川は人通りの多い道を歩いてくれた。でも事件現場からはもうずいぶんと離れた。郊外と言ってもいいかもしれない。
電車やタクシーに乗られたらどうしようかと思ったけど、今のところその心配はなさそうだ。
俺はてっきり灰川が時田の住所を知っているのかと思ったが、そういうわけでもないらしい。どういう経緯で退職したのかは知らないが、気楽に連絡を取り合う関係が続かなかったのは確かだ。
途中、コンビニに寄ったりしながら、灰川は黙々と歩き続けている。俺も普段からカモフラージュのためのジョギングはしているとはいえ、さすがに疲れてきた。もう午後三時だ。あいつ、何時間歩く気だ?
「お」
灰川が立ち止まった。何だ、あの古い二階建てアパートは。かろうじて鉄筋だけど、築何十年だ?壁が元々はどんな色だったかわからん。道路に対して垂直に建っていて、ここから見えるのはアパートの側面と階段だけ。時田はこんなところに住んでるっていうのか?俺は道向かいのブロック塀の側から様子を伺う。
錆びた階段を昇りかけた灰川は、途中で足を止めた。そしてくるりと振り返り、階段を降り始めた。俺は慌ててブロック塀の陰にかくれる。
一階の奥に、灰川は進んでいく。ドアを叩く音が聞こえる。
「すいませーん。警察です。どなたかいらっしゃいますかー?」
中に呼びかけている。ドアが開く音は聞こえない。
俺は恐る恐る、塀の陰から移動する。今、灰川はこちらに気が向いてない。少しだけなら、のぞけるかも。
身を乗り出しかけた時、ガシャン!と重い金属がぶつかる音がした。ドアを開けたのか?
「……ひっ」
俺は再び身を隠す。灰川がすごい勢いで道路に飛び出してきたのだ。ば、ばれたのか?
しばらく周りを見回し、携帯でどこかへ電話する。声が小さくてよく聞こえない。
「ええ……また……スプレー……今度……」
しばらくして、灰川はキョロキョロしながら走り出した。何だ、何を見た?
俺は素早く道路を横断し、アパートに移動する。そして一階の部屋へ。真ん中のドアだけが半開きだ。
「……ごめんくださーい」
指紋が付かないように、ジャージの袖を伸ばして手を包み、ゆっくりとドアを開ける。
「……おい、マジかよ」
最初に気づいたのは、きついシンナーのにおい。せまい入り口から部屋の中が見える。
人が……倒れている。恰好からしてばあさんか?
「何だ、ありゃ」
俺は一歩部屋へ足を踏み入れた。
茶色い壁に、赤いスプレーで文字が書かれている。
『君は自由だ』
そしてその下に、もう一言。
『おそいぞ』
と。
「はうっ!」
何が起きたのか、一瞬わからなかった。視界が闇に包まれた。何だ?誰だ?頭に何かかぶせやがった。そして背後から、俺の首に誰かの腕が回る。のどぼとけにものすごい力が食い込んでくる。
俺はその腕をつかみ、必死に抵抗する。
「こおおおおお……や、やめ」
相手は黙ったまま緩めない。遠ざかっていく意識の中、そいつが耳元でささやいた。低い、そして憎たらしいくらいに落ち着いた優しい声で。
「邪魔するな」
つづく