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第9話 榊家の過去

「母さん、行ってきまーす!」

「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい、気を付けてねー」

幼い子供二人が家から出て、学校に向かう。


それは、小学5年生の裕也と、小学2年生の妹亜美であった。

裕也には3つ下の妹がいた。


近くのコインパーキングの側で、5人の小学生が集まり、みんなで登校する。


「じゃあ、亜美、また帰りなー」

「はーい、お兄ちゃんまたねー」


2人は仲が良く、登下校も一緒で、家でも二人でゲームしたり、外で近所の友達と遊んでいたりしていた。


周りの大人たちからも、仲良しの兄妹だと評判であった。


その日は、雨が強い日であった。


裕也と亜美は、長靴にカッパを着込み、家を出る。

「「行ってきまーす」」

「行ってらっしゃーい、気を付けてねー」

いつも通り由美が見送り、いつも通り5人で登校する。


溝から雨水が溢れ、道路には小さな川のように水が流れている。

「お兄ちゃん、雨すごいね」

「うん、あまり車道に近づいちゃだめだぞ、車が通るたびに泥水が飛んでくる」

「はーい」


その時、大型トラックが背後から横を通っていった。


バシャァァ


道路の水がまるでアトラクションのようにトラックの両サイドへ跳ねる。

「すごーい!」

亜美が興奮する。


反対車線を走っていた乗用車が大型トラックの跳ね返りの水で全く前が見えなくなり、慌ててハンドルを切った。

運転手の視界がクリアになった時には、正面には小学生の団体が居た。


「あっ!」


キキーッ!

慌ててブレーキを踏む。


亜美は道路を流れる水に興味津々で、全く前を見てなかった。

そして、若干裕也との距離が開いていた。


「亜美!危ない!」

裕也は車道に向かってくる車に気付き、亜美を見る。


その瞬間、裕也の真横を車が過ぎ去る。

路面は水が流れているような状況で、すぐには減速も出来ず・・・


ドン!


そのまま車は家の外壁に突っ込んだ。亜美を巻き込んで・・・


「亜美―!!!」


すぐに、6年生だった先輩が榊家に走り、両親へ事故の報告、車が突っ込んだ家の人が警察、救急車を呼び、病院へ運び込まれたが、亜美はそのまま帰らぬ人になってしまった。


裕也は亜美を本当に愛していたし、大切な妹だった。

そして、失った。


その週末、亜美の葬式が行われ、翌週から学校にも行かず、ほとんど部屋から出なくなった。


「裕也」

「ん?」

「ちょっといいか?」

「うん」

裕次郎が部屋に入ってくる。


「悲しいな」

「うん」

「寂しいな」

「うん」

裕次郎は裕也の肩へ手を回す。

「俺も悲しいし、寂しいよ」

「悔しい・・・」

「ん?」

「亜美を守ってやれなかった」

「事故だったんだ。お前の責任じゃないだろ?」

「お兄ちゃんだし、守ってやらなきゃいけないのに・・・」

「そうだな。お兄ちゃんだもんな」

「お父さん、守れなくてごめん」

「いいんだ・・・このままいつまでここに引きこもってるんだ?」

「だって・・・」

「そろそろ、一緒にご飯食べよう。ほとんど何も口にしてないって母さんから聞いたぞ」

「うん」

「ほら、いこう」

「うん」

裕次郎は裕也の手を優しく握り、一緒に部屋から出る。


「裕也、ご飯食べれそう?」

「うん」

「そう、よかった。今日はオムライスよ」

「ありがとう」


裕次郎と由美は裕也がいないところで二人で泣いた。散々泣いた。

そして、2人よりも傷ついている裕也の為に乗り越えようと誓ったのだ。

少しでも笑顔で、優しく裕也に接する。


「裕也、そろそろ学校行けそうか?友達も心配してたぞ?」

「そうそう、一回家に健治くんと正樹くん来てくれたんだよ」

「うん」

健治と正樹は小学校の時から仲良しで、よく亜美も一緒になって遊んでいた。


「明日から学校行くね」

「おう、それがいい」

「じゃあ、明日起こしてあげるわね」


次の日、

「行ってきます・・・」

「いってらっしゃい」

由美に見送られ家を出る。


「よう!」「おはよう!」

「え?」

そこには健治と正樹が居た。


「今日から学校来るっておばさんから連絡もらったから迎えに来た」

健治が言う。

「一緒に行こうぜ」

正樹が続く。

「うん、ありがとう」

「いいよ、気にすんな、友達だろ」

「そうそう、ほら、行こうぜ」


3人で歩く。


いつも一緒に登校していた3人も合流し、6年生の先輩も優しく声をかけてくれた。


そして、亜美が事故にあった場所を通る。

そこには花束がたくさん置いてあった。


涙があふれ、足が動かなくなる。


「ううう・・・」

ガシッ


健治と正樹が体を支えてくれる。


少し離れたところから由美も見ていた。

「裕也、頑張れ・・・」


「裕也、亜美ちゃん良い子だったな」

「元気で明るくて、可愛いし」

健治と正樹が言う。

「うっ、うっ」

裕也は話せない。


「裕也、辛いときはいつでも俺たちを呼んでな!一緒にいてやる」

「俺らも亜美ちゃんが居なくなって辛いのは一緒だ。裕也ほどじゃないかも知れないけどさ」

「ありがとう・・・本当にありがとう」

裕也は絞り出すように感謝を伝えた。


そして、そこから暫く健治と正樹が迎えに来る日々が続いていった。

少しずつ裕也の気持ちも落ち着き、中学生になったころから健治と家が近い京子とも仲良くなり、4人で遊ぶことが増えて行ったのであった。

書きながら泣いていたのは内緒です( 一一)


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