第2節:ヘコんでたら解決すんの?
ゴウキを含む全員で装技研へと帰った後、先に帰還していたリリスらは大騒ぎだった。
ーーー森宮カオリの裏切り。
その情報がミツキらにもたらした衝撃は、生半可なものではなかった。
「嘘やろ……」
中でも、ケイカとジンは特に受け入れがたい事だったようで。
「何でーーー」
「……カオリ」
あまりにも使い物にならないと、花立に局長室から蹴り出されていた。
同様に頭は回らないが、組織の上の方の事は何も分からないミツキが雑用を細々とこなしていると。
腹に食料を納めた後に暇を持て余したらしいゴウキが、ハジメに強権を振るってミツキを連れ出した。
「どこ行くんすか?」
何となく敬語のミツキに。
「いーから黙ってついて来いよ」
と、ゴウキは一人さくさくと歩いて行ってしまう。
仕方なく付いていくミツキは、どうでもいい事をゴウキに質問した。
「道、分かるんすか?」
「当たり前だろ。コウの記憶は俺も持ってる。逆はねーけどな」
ごく普通に言い返されて、ミツキは気になってい たが聞けていなかった事を口にした。
「コウは、どうなったんすか?」
「あん? ここに居るよ。寝てるみたいなモンで何も出来ねーけどな」
と、ゴウキは自分の心臓辺りを、とんとん、と指で叩く。
「……それは、ゴウキさんが表に出てはるから、ですよね」
ゴウキは少し首を傾げて、半分正解、と言った。
「残りの半分は、自分で引きこもってるみたいな感じだな」
「自分で?」
ゴウキはボリボリと、雑な仕草で頭を掻く。
「メンドクセーなぁ。でも、お前に関わりある事だしな。ほら、コイツさ」
と、ゴウキは自分の顔を指差した。
自信が加わるだけで、コウはまるで別人のように見える。
ーーーちゅーか、コウって結構整った顔立ちやったんやなぁ。
と、まるで関係のない事を考えてしまった。
そんな顔立ちの問題すら覆い隠してしまう『普段』がどれだけ自信なさげだったのか、よく分かろうというものだ。
ゴウキはしかし、そんなミツキの内心など分かろうはずもなく、普通に続ける。
「お前の事、全力でぶん殴っただろ。それを女々しく気にしてんだよ」
ラムダを庇った時の事を言っているのだろうが……その物言いに、ミツキは吹き出した。
「そう聞くと、えらく軽く聞こえますね」
「軽いだろーが。死んだわけでもねーし。大体たかが知り合い殴ったくらいで引きこもってたら、俺どんだけ引きこもらなきゃなんねーんだよ。地球の中心まで潜って突き抜けて反対側に出るレベルだっつーの!」
「……そんなに殴った事があるんすか?」
「ハジメなんか一日一回は殴られてたぞ。俺、寝起き悪くてなー。アイツが起こしに来るんだが、反射的に手も出るし、アイツ生意気だったし」
……それは本当に、元・英雄にして現【黒殻】総帥、本条ハジメの話なのだろうか。
まるで中学生の兄にいいようにやられる小学生の弟のようなイメージが、ミツキの脳裏に浮かぶ。
「学習して結構避けるようになったら、起き上がって殴りに行ったしな」
「ただの暴力やん!」
思わず突っ込むと、お、とゴウキが面白そうな顔をした。
「だってアイツ、俺に命令すんだぜ? 朝飯食えとか寝癖直せとか、朝、歯磨きしろとか顔洗えとかよー。メンドクセーじゃん?」
「いや普通っす。それ超普通っすからね!?」
何だかハジメが哀れになったミツキだが、ふと思う。
「ゴウキさんって、ハジメさんと一緒に住んでたんですか?」
「住んでたっつーか、一緒にブラついてたっつーか。あいつ、放浪してた俺を泊めてくれたママさんと、母子家庭だったんだけどな。襲来体に襲われてママさん死んじまってよ……」
ちょっと落ち込んだ口調で言うゴウキに、ミツキは言葉を詰まらせる。
「……すんません」
「気にすんな。ま、それで石コロぶち殺そうと思ったんだけど、何故かアイツ、付いてきてなぁ」
「……ハジメさんそん時幾つっすか」
「十二くらいだったかな? いや、なんか制服着てたから中学生か」
遠くを見て顎に手を当てるゴウキに、ミツキは二の句が継げなかった。
―――なんかどっちもおかしないか!? 大体放浪って何やねん!?
ゴウキはミツキをじっと見てから、一つうなずいた。
「うん、やっぱお前、頑丈そうだな。俺の目も曇ってねーわ」
「はい?」
「カオリと関係のあった奴等、イマイチどいつも覇気がねーからよ。今からガチヘコみしてるケイカとジンのトコ一緒に行く奴が欲しかったんだよ」
へらりと笑うゴウキに、ミツキは顔を強張らせる。
「マジすか」
「ヘコんでる奴メンドクセーから一人で話とか聞きたくねーもん。ほれ行くぞ」
「いや、いーっすけど……何聞くんすか?」
ミツキの質問に、ゴウキは、はぁー、とこれ見よがしに溜め息を吐いた。
「お前さぁ」
「? はい」
「裏切られたからヘコんでて、なんか解決すんのかよ? 理由知ってそうで暇な奴らが居たら、フツー話聞きに行くだろザコ助が。理由が分かりゃ解決も出来んだよ。分かったかアホタレ」
早口に言い、立ち止まった状態から再び歩を進め出すゴウキ。
―――なるほどなぁ。
と、ミツキは思う。
ゴウキは、口は悪いし、天の邪鬼だ。
自由気ままで、破天荒で。
頭は回る上に力まであって、タチが悪い。
だが。
困っている人間を見ると。
文句言いつつ放っておけない、超特大のお節介焼き。
それが南原ゴウキ……黒の0号という人物なのだ。
ハジメが忙しいのにあっさりミツキを手放してゴウキを送り出したのも、それを分かっていたのだろう。
彼がハジメの兄貴分である事に、なんだかすこんと納得できたミツキだった。




