第3節:カレイドスコープ
「出力変更……対乱戦形態」
『変更』
残り少ないエネルギーを、ケイカたちを保護するための空間遮断障壁に割いた参式は、自身の装殻形状を近接特化へと移行した。
両手足にフレキシブル・スラスターを備えたナックルガードとレッグガードを追加して、母体複製体たちに挑む。
最初に襲い掛かってきたのは、自身と同じ姿をしたサード・コピー。
サード・コピーから放たれた三連のジャブを、参式は前に突き出した左手でいなす。
そのまま、ステップを踏むサード・コピーの足へコンパクトなローキックを打ち下ろした。
しかしサード・コピーにあっさり避けられたかと思えば、彼の背後でアクア・コピーがガトリングを構えているのが見える。
「甘いな……」
ゆら、と揺らめくような歩法で動いた参式は、サード・コピーに影のように追従して攻撃に対する盾にすると、今度は自分からサード・コピーへと攻撃を仕掛けた。
掴み掛かる参式の腕に自分の腕を叩きつけて動きを止めたサード・コピーに、あえて話し掛ける。
「以前戦ったコピーどもは饒舌だったが、貴様らはお喋りはしないのか?」
「……」
サード・コピーは挑発するような参式の物言いを黙殺した。
代わりにその肩口辺りが揺らぎ、滲み出すようにグレイヴの穂先が形成されて参式の顔を狙う。
「……ッ!」
間一髪、上半身ごと体を後ろに逸らせた参式の鼻先を、グレイヴが通り過ぎた。
目線で追うと、参式の肩辺りから液化から半身だけ復帰したパイル・コピーが姿を見せる。
サード・コピーはパイル・コピーを肩から生やしたまま、追撃せずに飛び下がった。
「……?」
疑問に思う間もなく、理由はすぐに知れる。
空へ向けた視線の先に、プサイとラムダのコピーが両手を広げて、ブレード・スラスターをこちらへ向けて射出した。
「くっ……!」
呻いて、即座にトルクスラスターを吹かして姿勢を戻した参式は、頭を両手で抱えて前へダイヴ。
二体のロッカス・コピーが降り注がせたブレードが、全身を掠めて外殻に傷を穿っていった。
状態を確認すると、両腕に計三本のブレードが突き刺さり、ナックルガードが破壊されている。
さらに、背部のトルクスラスター二機と、両足のフレキシブルスラスターまでもが。
「やってくれる……!」
わざと体を外してこちらの機動力を奪ったのだ、と参式は気付いた。
なぶり殺しにする気なのだろう。
「あまりナメるなよ……ただではやられんぞ!」
今度こそ、遮るもののない中で降り注ぐアクア・コピーの水流鞭を地面に這うように姿勢を沈めて避けながら、参式は唸り、反撃の機会を窺い始めた。
※※※
パイルは、エータたちを相手に善戦しているように見えた。
「吸引!」
パイルは、マグネボールに彼自身を引き寄せさせて宙に舞い、エータとストーム・コピーの十字放火を避ける。
「出力解放! 〈迅雷貫渦〉!」
パイルが高速で撃ち放ったグレイヴは、接近してきたフレイム・コピーの足元に突き刺さって粉塵を巻き上げた。
「反発!」
パイルは自分を引き寄せたマグネボールに衝突する直前に方向を変更し、宙に留まるストーム・コピーへと突き掛かる。
が、それはストームを守るグランド・コピーに阻まれた。
「ちぃ……!」
自由落下するパイルに、逆に地面を蹴って拳に雷を纏わせ、迫り来る伍号・コピー。
「磁力干渉!」
パイルは、伍号コピーの動きを磁場によって拘束した瞬間にその頭を蹴って攻撃を逃れる。
相手は一体も倒せていない。
このままではじり貧だ、と考えたところで。
「……何だ?」
縦横無尽に動きながら、パイルはもたらされた通信に答えた。
※※※
「……攻撃が緩過ぎる。奴等、絶対に遊んどるで」
『好都合よ。後は、花立さんのタイミング次第』
パイルの戦況を眺める肆号は、空間遮断の中で参式と連絡を取り、彼の合図を待っていた。
まずは飛行能力を持つ者たちの始末。
それが参式の指示だった。
じっと待つ間にも、パイルと参式は追い詰められていく。
『合図よ。カウント5、4……』
ケイカが言うのと同時に、ミツキはぐ、と身を沈めた。
ヒュィイ……と音を立てて、背に負った薄羽とHBスラスターが準備を始める。
『3、2、1……GO!』
「限界機動!」
空間遮断が消滅するのと同時に、超加速領域に突入した肆号が飛んだ。
目指すは、ストーム・コピー。
/出力解放!」
/承認!
ミツキの要請にケイカが応え、紫の燐光が肆号を包み込む。
/ーーー《紫の万化》!
ストーム・コピーは、肆号の動きに一切反応出来なかった。
/強襲!
一直線に突撃した肆号がエネルギーを込めた両手の爪とヒレを振るい、ストーム・コピーの背面・肩部のスラスターとブレードを破壊する。
そのまま、触手をストーム・コピーの首に巻きつけて無理やり方向転換すると同時に、その首を絞め折った。
『『反応機動』』
数瞬遅れて、反応機動機能を備えた全ての装殻者が超加速領域へ入り込む。
しかし、それは想定内。
「おおおッ! 風撃!」
ミツキは吼えながらブレード・スラスターを解き放ち、その操作をケイカに任せた。
『少しくらいなら!』
相手が飛ばすブレードの嵐に自ら突っ込みながら、自身への直撃軌道上にあるブレードだけを、ケイカの操るブレードが破壊し、弾いていった。
勢いを緩めないままに、ラムダ・コピーとプサイ・コピーの首を掴んだミツキが、両腕のガトリングガントレットを起動する。
「水撃!」
二体の頭部を、両腕から伸びた水流鞭が破壊し、残りの鞭がスラスターを貫く。
グランド・コピーに対して一条伸びた水流鞭は避けられた。
肆号はそれを放置し、敵を吹き飛ばすように突き抜けてから急上昇、そして反転急降下。
ギシギシと、外殻が軋むほどの無茶な機動に、グランド・コピーは反応できずに見逃す。
「炎撃!」
グランド・コピーをスルーした直後、地上から放たれたアクア・コピーのガトリングを空中でロールして躱し。
肆号は膝蹴りの姿勢で頭頂から股下まで、アクア・コピーを縦一直線に炎を纏うカット・ソーで引き裂いた。
『地撃!』
ケイカの声と共に、地面に突き刺さったカットソーの先端から、周囲に凄まじいエネルギーの波が広がる。
破壊の波動受けて、周囲にいたパイル・コピーとサード・コピーが脚部に損傷を受けた。
参式は、その一撃を予知して先に地面を蹴っている。
「やるぞ、ケイカ。エネルギーを。アイハブ!」
『ユーハブ! 心核共鳴!』
肆号の桁外れのエネルギーの一部が参式に受け渡され、ほとんど枯渇しかけていた参式の全身に再びエネルギーが巡る。
彼の出力供給線が輝きを取り戻し、参式の目がギラリと光った。
「出力解放Lv4……《紅の爆撃》!」
地撃の波を追うように解き放たれた一瞬の爆発が、戦場を覆う。
脚部に損傷を受けたサード・コピー、パイル・コピーがひとたまりもなく消滅し。
ゆっくりと落下していたストーム・ラムダ・プサイもバラバラに弾け飛ぶ。
グランド・コピーも、位置的に逃れきれず。
崖までもがその威力に抉り抜かれて散り消えるが、パイルの相手をしていた残りの3体と一号・コピー、マサト、シープは先に崖から飛び降りて難を逃れるのが、ミツキの視覚情報に映った。
飛んだシープが、やられた複製体たちを見て呻く。
「くっ、やってくれる……しかしこれで終わりでしょう!?」
参式が、シープの高速音声に答えた。
「どうかな? 限界機動を継続している奴が、まだ一人残っているぞ?」
「何!?」
そこで、限界機動が解除される。
肆号だけを、残して。
『まだ行けるわよね?』
「当然や!」
ミツキは、ケイカの声に応えて。
両手を腰だめに構えて、足を踏み締める。
最後の目標は―――至近にいる、フレイム・コピー。
「喰らいやがれ! これが、ほんまもんの……ッ!」
『肆号の―――実力よ!』
自身を守る空間遮断の解除と同時に、熱を含む風を裂いて。
肆号は、踏みしめた足先から砂埃を舞わせるのと同時に、深い足跡を残して大地を蹴る。
水のように滑らかな動きで。
再び飛び立った肆号が、外殻が風を弾く、その音すらも置き去りにする速度で。
宙で身動きの取れないフレイム・コピーへと、凶悪なファングを開いて迫る。
「っあぁあアアアッ―――大針ッ!」
ミツキ腕のヒレとガトリングガントレットが変容し、長大な一本の鋭針と化した。
ミツキは、精密極まる出力操作を完璧にこなして。
ケイカは、膨大な出力解放と肉体制御を鮮やかに
完遂させて。
「『これで……終わりや!』」
肆号の放った必殺の一撃は、狙い違わずフレイム・コピーの腹を貫いた。
まるで抵抗なく母体複製体の中に潜り込んだ長針は、先端から発生していた超音速の衝撃によってフレイム・コピーの外殻をズタズタに引き裂く。
肆号が疾り抜けると同時に、フレイム・コピーは粉々に爆散した。




