第2節:正当なる後継者
「ふひひ、纏身!」
シープも、左胸を叩いて装殻を纏った。
漆黒の外殻に長い両腕、そしt禍々しい翼。
シープは、。肆号・強襲形態と黒の一号を混ぜ合わせたような邪悪な姿へと変貌する。
それを。
ミツキは、目線だけを動かして見ていた。
「ケイカ……さん」
ミツキは、聞こえていた会話のやり取りで、状況はある程度把握していた。
ケイカが素早く振り向いてミツキを見る。
「ミツキくん……!?」
「ぎゃひゃぁ! 殺せェ!」
シープの合図で、エータと母体複製体が動き出す。
「出力解放 the Second。《黒の天蓋》」
『実行』
参式が、ミツキたちの周囲に防御陣を展開した。
「パイル。一時休戦しないか?」
参式の言葉に。
「いいだろう。だが、こちらはこちらで好きにやる」
パイルが答えて、エータとの交戦に入った。
マサトは動かない。
状況は、このままではジリ貧だろう。
幾ら参式が強くとも、彼のエネルギー残量とて無限ではない。
《紅の爆撃》を使用した今は、巨殻形態にすらなれないだろう。
打てる手は、ほとんどない。
しかし、少しでも状況を良くする為に。
「俺に纏われ……ケイカさん」
ミツキの言葉に、ケイカは目を見開いた。
「無茶よ! その怪我じゃ!」
「このまんま寝とっても……どないもならんやろ……」
ミツキは、全身を襲う痛みに呻きながら、それでも体を起こそうとする。
装殻は、損傷が大きく既に解除されていた。
そんなミツキを、ケイカの手が抑える。
「じっとしてなさい……! そんな状態で動いたら死んじゃうわ!」
ミツキは聞かなかった。
「いける……! 体の頑丈さと、ヤセ我慢だけは、親譲りや……」
腕に力が入らない。
それでも、ミツキは奥歯が鳴るほどに強く顎を噛み締めて、ジリジリと上半身を起こした。
「やめなさい、ミツキくん!」
「ゼェ……ッ、今、動かんで、どないするんじゃ……!」
唸るように、ミツキは言ってケイカを睨みつけた。
「コウは動けんのやろ……花立さんと、少尉しか、襲来体と戦われへん……」
ミツキから父親を奪った仇。
母親が足を失った原因。
コウとマサトをハメた敵。
そして今、ケイカやラムダを含めた、全員の命を奪おうとしている、理不尽な存在。
「今、動けるのは、動かなアカンのは、俺と、あんたちゃうんか……!?」
上半身をようやく持ち上げて、四つん這いの姿勢になり、ミツキは荒く息を吐く。
「あなたが、私を纏っても、そんな状態で動ける訳ないじゃない! お願いだから、大人しく……」
ケイカの泣きそうな声を遮り、ミツキも必死に声を張る。
「イケるやろ! ユナにやったアレなら、俺も、動けるように、なるんちゃうんか!?」
強襲形態。
ユナを死の淵から救い上げた、あの形態なら。
「ダメよ! 私だって、もう解除する力は残ってない! 今あの状態になったら、あなたは死ぬまで……」
「自分に出来る事を、しなあかん時やろがッ!」
カッと頭に血を上らせたミツキは、支えようとするケイカの手を振り払った。
視界が霞む。
痛みは、最早感じないほどに感覚が麻痺している。
それでも、ミツキは上半身を起こして、立てた片膝に手を付いた。
ジリジリと立ち上がろうとするミツキに、ケイカが呆然とした顔を向けている。
「参式は……黒の一号は……おとんと、おかんは……俺の尊敬するあの人たちはなぁ……ッ!」
今にも倒れそうになりながら、ミツキは。
気力だけで完全に立ち上がって、ケイカを怒鳴りつけた。
「どんだけ絶望的な状況でも、絶対に、諦めたりせぇへんのじゃ! 万ケイカァ! おどれも、あの人たちと肩を並べる、《黒の装殻》ならァ……!」
げほ、と一度咳き込んでから。
ミツキは、ケイカを見下ろして拳を突きつけた。
「グダグダ言わんと、さっさと俺を使って戦わんかいッ!!」
ケイカが、呆然とその拳を見つめる。
「許してええんか! あんな奴らを! 俺は許されへんぞ! 人の事を好き勝手弄びよって、あのクソ共を一発ブン殴ってやりたいと思えへんのかッ!?」
「ミツキ、くん……」
「ミツキ、お前……」
「ミツキ……」
ジンも、そしてラムダも、信じられないものを見たようにミツキに目を向けている。
ケイカが、不意に目を伏せた。
「なによ……」
そして、逆にギッと睨み上げられる。
「せっかく人が心配してあげてるのに、そんな言い方しなくても良いでしょ!?」
「どーでもえーからさっさとやれやぁ! げほっ、甘っちょろい事言いよって! それでも人類最強の一角か!? お前おとんとおかんの何見て来たんじゃ! もいっぺん幼稚園からやり直して来いやぁ!」
「何で年下のあなたに、そこまで言われなきゃなんないの!?」
ケイカはがばっと立ち上がって、ミツキに逆に指を突きつける。
「お前がビビってヘタレとるからやろが!」
「別にヘタレてないわよ! そんなに元気なら最初から死んだふりしてるんじゃないわよ! あなたこそビビってたんじゃないの!?」
「上等じゃコラ! やるかぁ!?」
「私に投げ飛ばされてた程度の実力で、大口叩かないでよね!」
「いつの話じゃ! 俺かて成長しとるわ!」
顔を押し付けるように間近で言い合いをするミツキとケイカに、ジンがため息を吐いた。
「お前らがこの状況で喧嘩すんなよ……」
にらみ合ったままジンを無視したミツキとケイカは、ふん、全く同時に顔を逸らした。
ミツキは、ジンの言う通りこんな状況であるにも関わらず。
内心、少し嬉しいと思っていた。
花立やジン、ヤヨイに接するように。
ケイカが、ミツキに対しても感情を剥き出しにして接してくれている事に。
「……私だって」
その呟きに、ミツキは顔を戻す。
ケイカは、少し膨れた顔で横目にミツキを睨みながら、言葉を続ける。
「私だって、《黒の装殻》なんだからね! そこら辺の装殻みたいに操れると思ったら大間違いよ!?」
「ハッ! 誰に向かってモノ言うとんじゃ」
あくまでも憎まれ口のままに、ミツキは腕を組んで顔を上げ、見下すように言葉を投げ返す。
「装殻のエネルギー操作は、俺の十八番や! 甘ちゃん装殻ぐらい、余裕で操って見せるわい!」
「ガキんちょのクセに……そこまで言うなら、絶対失敗するんじゃないわよ!?」
そして、ケイカが戦う参式の背中を見つめる。
ミツキも目を向けて、彼の背中を見つめた。
共に、カズキとヤヨイに育てられ。
参式に救われて。
その背中を追って、ミツキとケイカは戦う力を磨いたのだ。
「女は度胸。男も度胸」
ケイカが、ヤヨイの口癖を口にする。
「人間、最後の最後は根性や」
ミツキは、カズキの口癖を。
「戦うのに必要なのは、相手の喉を食い破る気合いと……!」
横に立つケイカが、ミツキに向かって右腕を伸ばし。
「絶対に守り抜いてみせるっちゅー、決意じゃッ!」
ミツキは、その腕に左腕を重ねる。
描かれたのは。
二本の腕による、長さも向きも歪な逆十字。
「行くで! Veild up!」
「共鳴憑依!」
ミツキの声に呼応して。
ケイカが、聞き慣れない状態変化を口にした。
ケイカの肉体が解けて、ミツキに融和し始めるのと同時に、ミツキは彼女の肉体に駆け巡るエネルギーへと意識を集中した。
吹き荒れる暴威のようなエネルギーの奔流に、ミツキは内心舌を巻く。
今まで身につけて来た装殻とは、比べ物にならない程のエネルギー量だ。
だが。
ーーー上等じゃ!
それでも、自分に扱いきれないとは、ミツキは微塵も思わなかった。
ケイカの心を体現したようなそのエネルギー・ストリームは。
彼女と出会ってから見つめ続けて来たミツキとって、次の動きが予測できる程に動きの分かりやすいエネルギーだったのだ。
ケイカが、宣言と同時に展開した壊れた『青蜂』を修復して融合しながら、同時にミツキの体すらも健常な状態に戻して行く。
戻ってくる活力、高揚する意識。
どこまでも上り詰めるような全能感に、ミツキはますますエネルギーの流れを支配下に置くのが容易くなる。
そしてミツキがエネルギー制御を行い、ケイカに還元して行くと、ケイカである流動形状記憶媒体も、どんどん力強さを増していった。
お互いが、お互いを高め合う、完璧な共鳴。
ヤヨイですらなし得なかった高みへと、二人は上り詰めた。
そして、外殻が現出する。
『青蜂』を基礎として、そこに肆号の特徴を加えた四つ目の頭部外殻。
蜂の触覚のようなブレードアンテナに、精緻な造形の出力供給線が鋭い面差しを描き。
口元は、牙を剥き出しにした破壊牙顎。
体は、流麗なラインを残しながらもそれまでと違う、男性的な力強さを秘めた胸部と腕部の装殻が形成。
両肩は、《ハニー・コム》を小型化したような蜂の巣状のショルダーパットを纏い。
前腕部には、鋭い剛刃爪を備えた指と、水撃形態に似たガトリングガントレット。
ガントレット側部には、強襲形態に似た鋭い破壊刃。
そこから体の後ろでマントのように広がった、地撃・風撃形態に備えられた、それぞれ二対の薄羽型の機動補助装置とブレードスラスター。
そして肩甲骨から尾のように伸びる大針を備えた触手。
脚部は前二本、後ろ一本の爪で地面を踏みしめる足の踵から、くるぶし丈の太く短い大鉈刃が伸び。
足に沿って形成された膝より長い鋸長刃が足の前面に。
脚部機動補助機構が、最後にふくらはぎを覆うように形成されて。
真の力を遂に手に入れた紫黒の装殻者が、誕生した。
凶悪にして優美。寄生殻と襲来体の特性を備えた唯一無二の存在。
装殻の形を〝偽る魔性〟ーーー四番目の《黒の装殻》。
その名を。
肆号・融合形態。




