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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第5話:連続励起!? 暴走する零号!

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第17節:連鎖する暴走

 ユナに駆け寄っていくケイカを、目にして。

 コウは、自身の心が未だかつてない程の焦熱を宿したのを自覚した。


 ゆらり、と補助頭脳の示す、銃弾が放たれた方角へと目を向ける。


 滾る怒りが。

 今まではコウを翻弄していた全身の細胞に、逆に熱を与えた。


 まるで歓喜するように震えた装殻細胞が、コウの意識に完全に同調する。


「何処マデ……」


 ギシリ、と軋むような声音は、大地の底から溢れ出す溶岩にも似て、周囲を圧する。

 コアから放たれるエネルギーの奔流は、呆気なくコウの理性を押し流し。

 全身を巡るだけでは飽きたらず、周囲に溢れ出して足元に砂塵を立てた。


 ひゅるり、渦を巻いた砂は、どんどんその範囲を広げていく。

 砂を巻き立てる風は次第にコウを発生源とする強風となり。

 下生えの草を、引き千切れそうな程に薙いで行く。


「何処マデ、オ前ラハ……我等ガ〝力〟ヲ愚弄スルノダ……!」


 竜巻の如き風の中、コウは大きく開いた両腕に極限の力を込めて、足を開いて腰を落とす。

 空の雲は、エネルギーの奔流に触れると黒く染まって爆発的に広がり、陽光を遮った。


 バチバチ、と雷鳴が雲を走り、今にも豪雨が降り注ぎそうなほどに、周囲を暗黒に染める。


「赦サレザル邪悪共メガ……ッ! 真ノ〝力〟ヲ、知ルガ良イッ!!」

要請実行(オールレディ)ーーー変更(メイキング).強襲形態(メタルジャケット)


 コウの激情に導かれるままに、彼の全身が変容を始めた。

 彼の周囲の地面が、巨大な顎に喰われたように突如に消滅して陥没する。


 吸い上げた質量を零号装殻が瞬時に流動形状記憶媒体(ベイルドマテリアル)へと作り変え、巨大な外殻を形成した。


 闇より深い色合いの外殻がゴツゴツと岩をそのまま貼り付けたようにコウの全身を覆い。

 前腕の発電機を取り混んでさらに肥大化しながら、肘杭(エルボーバンカー)増幅核(ブーストコア)が形成される。


 大きく鎧われた両腕を起点に、胸部装殻がより鋭い意匠を刻み。

 両肋の下に増幅核、脚部と背部に大型機動補助装置が現れる。


 さらに、膝から突き出した鋭い蹴角(ニーホーン)と、膨れた膝関節の両脇に増幅核。


 腰の後ろに爆轟銃剣(カタナブラスター)、背に砲身を天に向けた破殻槌砲(ハクゲキハンマー)がそれぞれに現出してマウントされた。


 最後に、でたらめに飛び出ていた岩の角のような表層が、粘るようにのっぺりと全身に張り付くように溶けてゆき。

 完全に滑らかな外殻となった所で、コウはようやくマトモな人のシルエットを成した。


 頭部は、彼の激怒を表現するように、顎の先端と左右のエラが鋭いエッジを描き。

 口部には、悪魔の顎のように牙を生やした下顎の意匠。


 爛々と輝く赤黒い双眼の周囲には、大きく隈どりのような頬当てが。

 額では、二対の超知覚器官(ブレードアンテナ)が一本角の両脇に追加されている。

 巨大な逆十字(アンチクロス)を背負う、鬼相の零号装殻。


 ーーー零号(レイゴウ)強襲形態(アサルトスタイル)


 屈んだ姿勢のまま、顔だけを上げて。

 コウは、足に力を込めた。


 ただ、それだけで。


限界機動(ブレイク・アップ).突撃加速(フルブースト)


 コウの全身に備えられた全ての機動補助システムが、最適な形で駆動する。


 ユナを貫いた超音速の弾丸を遥かに超える速度で一足飛びに崖上に到達したコウは、地面に着地痕を刻みながら止まった。


限界機動解除(ブレイク・オーバー)


 目で追いきれずに遅れて振り向いたシープとエータが、最大限の警戒をもって身構えるのを意にすら介さず。

 バチバチと、動くたびに全身で雷電を弾けさせながら、コウは唸りを上げた。


「邪悪ハ、滅ボス……!」


 コウは、殺意に突き動かされるままに、その剛腕を振り上げてエータに襲いかかった。


※※※


「周りが騒がしくなって来たね」


 マサトが言い、無造作にジンに突きつけているのとは逆のブレードを振り上げた。

 金属音が響きブレードの表層で銃弾が弾かれる。


「厄介なのも来た」


 ジンから切っ先を離して、マサトは身を翻した。

 その体が、ジンからは霞んだように見え、同時に16ビートを刻むように連弾する金属音が響く。


 限界機動だ。

 気付いた時には、ジンの前に常速に還った参式が立っていた。


「助かった」

「……殺せなかったか」


 地面とマサト、それにジンを見比べて、状況を把握した参式が複雑そうに呟く。


「花立さんこそ。ベアードたちを、何で殺せた?」

「……奴らは、襲来体の擬態だった」

「何!?」

「何か、《白の装殻》、そして米軍の中で異変が起こっている」


 参式は言って、マサトに目を向けた。


「マサト。お前は、これからどうするつもりだ?」

「どうって?」


 ジンに相対していた時よりも、さらに意識を張り詰めているように見えるマサトが答える。


「お前は、目的を達したのだろう? そちらに留まる理由はない筈だ」

「そうだね。だから?」

「戻って来ないのか? お前は、司法局捜査課の人員だろう。今なら、誘拐と偽って無断欠勤したのは大目に見てやるぞ」

「……はは」


 驚いた事に、マサトが微かに笑った。


「面白い事言うね、花立さん。いつから冗談を言えるようになったの?」

「逆だ。俺は元々いい加減な人間でな。普段が真面目なフリをしているだけだ」


 参式のおどける様な物言いに、マサトはしかし首を横に振る。


「それは、出来ない。真実を知った今となっては」

「真実……か」

「そうだよ。パイル、ラムダ、エータ、そしてリリスとミカミ。……そしてアイリ。俺たちは、異界のシェルベイルなんだろう?」


 マサトの言葉に、ジンは嘆息した。

 参式も何も言わない。

 沈黙は、肯定だった。


「全ての原因は、黒の一号にある。奴が開発しようとしていた人工0号……そのコアの完全起動実験によって発生した時空震によって、《白の装殻(クルセイダー)》はこちらの世界に飛ばされた。そうだろ?」

「……ああ」

「彼らは向こうで、丁度、飛来する襲来体母体を撃滅しようとしていたところだった。ニヒルとの相打ちによって閉じようとしていた円環は、その時空震によって破壊された」


 マサトの声に、険が宿る。


「アイリは、非適合者だった。コウと同様に、コアのない零式。だが、0号コアには適合しなかった」


 ジンも、その話は聞いていた。

 ジンの技術で改造された、元来、非適合者だった少女。

 だが、彼女は黒の一号が探していた存在ではなかった、と。


 今となっては、それも当然だと納得する。

 彼女は、異界の0号。

 こちらの世界の0号コアに、適合する筈もない。


「アイリで実験を行った連中も、元々は人工0号の開発に携わっていた連中だった……」


 マサトの言わんとするところを察し、ジンは口を開く。


「マサト。それは」

「アイリが苦しんだのは。黒の一号が原因だった」


 マサトの口は止まらなかった。


「何が救われた、だ。元々、全ては奴のせいだったんじゃないか。あいつが余計な事を考えなければ、アイリは苦しまなかった。円環は閉じ、平和の中で暮らせたかも知れないアイリを……苦しめたのは、黒の一号だ!」

「だから、敵対するのか」


 参式の言葉に、マサトはうなずく。


「アイリを、苦しめる奴は全員敵だ。君たちはアイリに優しいけれど、黒の一号にあくまでも与するというのなら、容赦はしない。ジンは黒の一号が正義だと言った。だが俺にとっては、既に〝悪〟だ。だから滅ぼす」

「それが、より世界を、人々を苦しめる事に繋がってもか」


 参式は怯まなかった。

 右手にナイフを、左手に銃を握ったまま空を見上げる。


「襲来体は、滅んでいない。大いなる世界論理(デウス・エクス・マキナ)は0号と0式を内包する混在世界を許容した。同時に、人工0号へのカウンター……襲来体をさらに進化させた存在、《界喰使(オーファン・ウィルス)》を生み出した。今、黒の一号が滅べば、奴を止める手立てはなくなる」


 参式が、戦意を込めた気配を放ち、ナイフをマサトに向けた。


「お前は、この世界に生きる人々の死を、己の恨みのみを晴らす為に許容するのか。……そんな事は、俺が許さない」

「許せない、許せない、許せない……そうした連鎖を最初に作ったのは黒の一号。この世界に生きていた、ただの人間だった男だろう」


 マサトも、両腕のブレードを正十字に重ね合わせ、シャラン、と音を立てて左右に払う。


「滅びの原因は、身の程知らずにも己の愚かさを見定められなかった、黒の一号によりもたらされたものだ!そんな世界が滅ぼうと、俺の知った事じゃない!」


 マサトの叫びに呼応するように、彼の全身からエネルギーが溢れ出て、天を闇が覆い、地が鳴動する。


『零号、零式、コア・エネルギーの共鳴増大を確認』

「おいおい……シャレになってねぇぞ」


 本来、世界にただ一つしかない0号コアが、二つ共に荒れ狂うようにエネルギーを吐き出している。

 しかも。


「なぁ、花立さん。……なんか、マサトがおかしくねぇか?」


 マサトの目が、どこか虚ろだった。

 先ほどまでは気付かなかったが、黒の一号への恨みを口にした途端、何かが切り替わった様に激情を露わにしている。


「もしかして、アイツ……」

「ああ」


 参式も頷いた。


「おそらく……何者かによって洗脳されている」

 


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