第11節:崩壊の序章
「来るぞ! 総員、装殻展開!」
花立の鋭い声音に応えて。
「纏身!」
両腕で、斜めの逆十字を描いたコウが、零号装殻を。
「Set up!」
『π』
ミカミが、グレイブを現出させてプロト・パイルへ。
「Veild up!」
ミツキが、ユナを抱いたまま装殻具を撫でて『青蜂』へ。
「装殻、展開!」
ジンが、両腕で天に突き立つ逆十字を組んで伍号装殻を。
最後に、花立が。
「参式、纏身!」
両腕で逆十字の太い軌跡を描いて、参式装殻を。
それぞれに、身に纏った。
「もう! 台無しじゃない! Λ、着装!」
「あの野郎、後で覚えとけよ! Set up!」
「……Veild up」
ラムダ、パイル、マサトの三人も、それぞれに装殻を身に纏った。
そこに。
「不意打ち。……私も、好き」
天から、マサトたちへ向けて、声と共にブレード・スラスターの雨が降り注いだ。
直前に察知して散開したマサトたちの中央に、舞い降りるように出現したのは……肆号。
しかし、纏っているのはカオリでもミカミでも、ましてヤヨイでもなく……。
「リリス……ッ!」
ラムダの憎々しげな声に、応えたのはブレード・スラスターだった。
『こういう事になると思ってたのよ!』
現れた肆号は、普段と違い外装を纏っていた。
頭部形状は、通常同様牙を剥き出しにした破壊牙顎の意匠を模っているが、凶悪な剛刃爪を備えた腕や、肆号の細身の体は隠されている。
覆っているのは、鮮やかな翡翠色。
大きく盛り上がった両肩からマントのように無数のブレード・スラスターを垂らす、二対の薄羽を備えたその肆号は。
話だけは聞いていた、リリスが肆号を装殻した姿。
肆号・風撃形態。
着地したベアードたちを肆号とコウらで挟み込むように展開し、鍵となるラムダたちを散らした状況は、戦闘になった時のこちらの想定通りの布陣だった。
「出力変更! 蜜蜂球形態!」
キラービィ3030を改造したダミーではなく、本来の『青蜂』を身に纏ったミツキが。
装殻形状を変更して、ユナを抱いたまま中空に舞い上がり防御球を形成する。
ラムダが放ったブレード・スラスターが防御球を襲うが、幾つかはリリスのブレードに叩き落とされ、残ったものも防御球にはじき返された。
「硬ッ!」
「当たり前。私の《ハニー・コム》は優秀……私の傑作」
「いちいちムカつく女よねぇ、あんたも!」
肆号とラムダが交戦に入り、コウらも花立の合図で動き出した。
「ベアードの殲滅は引き受ける。パイルはミカミとコウ。マサトは任せたぞ、ジン」
「「「了解!」」」
コウらは、それぞれの標的に向けて自身らも散開した。
※※※
「始まったねぇ」
極小の装殻共鳴による遠隔操作型無人偵察カメラ……『インゼクター』を飛ばして、戦場の要素を装技研のメインスクリーンに映し出しているヤヨイが言った。
「戦いになったんですね……」
敵からの本拠地攻撃に備えて装技研残ったカオリは、ヤヨイの横で通信席に座り沈んだ声で言うアヤの肩を叩いた。
「当然だろうな。相手には、ユナもケイカたちも見逃す理由がない……。罠だと分かっていて出向いたんだ」
「そう、ですね……」
カオリは、ジッとメインスクリーンに目を向けて先頭の光景を見つめるアヤとヤヨイの後頭部を見て。
ス、と薄く目を細めた。
「悪いけど」
そう言いながら。
カオリは、無造作にアヤとヤヨイの体に無針注射器を押し付けて、即効性の睡眠剤を注射した。
「え?」
「なっ……」
違和感を感じて二人が振り向いた時には、もう、カオリは二人の手が届かない位置に跳び離れていた。
「これだけ好都合な状況で、私が動かない理由はなくてね。しばらく眠っててくれ」
注射した薬物は、二人が何かを口にする前に、彼女らの意識を刈り取った。
背もたれに倒れるように意識を失った二人をジッと見つめてから、カオリはその場を後にする。
向こうは約束を守った。
ユナの身柄と引き換えに、ケイカたちを装技研から誘き出す取り引きを、彼女はシープと交わしていたのだ。
すべては、自分自身の目的の為に。
彼らは、自分から誘いに乗る事を決めたが、もし渋った場合はカオリが焚きつける手筈になっていた。
そして、カオリは真っ直ぐに薬物保管庫へ向かうと、D.Ex関連の薬物から、病状の進行を抑えるものを全て手にすると、堂々と外への入り口へ向かう。
警備の全ては、彼女が握っている。
咎める者など、いるはずもなかった。
以前、寄生殻化した男が失敗した薬物の奪取を成し遂げて。
カオリは装技研から姿を消した。
「生き残れるかどうかは、後はあんたたち次第だ。……せいぜい、頑張りなよ」




