第1節:フリード・コントローラー
装技研の救護室前で待っていたコウは、救護室から出てきたケイカに尋ねた。
トウガとジンも、ケイカと一緒に出て来るのを見て、コウは二人に声を掛けた。
「ミカミさんは……?」
「今は落ち着いているわ。意識もあるし、このまま何もなければ良いんだけど……」
「何で急に倒れはったんですか?」
歯切れの悪いケイカに、次にミツキが質問した。
「そう言うと思って、ミカミに話していいか聞いたわ。彼女の個人的な事情になるし……リリスも、いい?」
コウらと共に待っていたリリスに、ケイカが問うと、彼女は静かにうなずいた。
「構わない。……良くはないかもしれないけど」
リリスも彼女にしては珍しく、何か躊躇いがありそうな口調だった。
「ミカミはね」
ケイカは、少し間を置いてから告げる。
「人体改造型装殻者であり、同時に不良装殻者なの」
「人体改造型……!?」
「ミカミさんも《黒の装殻》なんですか!?」
「違う。人体改造型ではあるが、彼女は《黒の装殻》ではない」
コウらの驚きは、花立によって即座に否定された。
「でも……人体改造型は《黒の装殻》以外には存在しないと」
「表向きはな。しかし実際には居る。PL社の三人に加えて、ミカミ、リリス。他にもまだ、数名」
「【黒殻】以外に、その技術を持つ者が……?」
世界に、人体改造型は五人だけ。
それが世の中の共通認識だ。
人体改造に関する技術を秘匿したから、【黒殻】は危険な組織とされたのではなかったか。
「情報操作は、民衆を扇動、操作するための常套手段だよ。実際、大阪隕石の再活性化は秘匿されただろ。逆にフラスコル・シティの時は逆に民衆を煽られてあんな事になった。真実を告げてパニックを誘うよりも、隠しておいた方が都合が良い場合が、世の中にはあるんだよ」
壁にもたれたジンが口を挟み、花立はコウを見た。
「【黒殻】以外の人体改造型は、君にも覚えがあるんじゃないのか。フラスコル・シティで君が対峙した連中は、一体何者だった?」
「あ……」
言われて、コウは納得した。
かつて黒の一号によって壊滅させられた組織『飛来鉱石研究所』は、黒の一号へ対抗する手段として、彼と同型の人体改造型を量産していた。
その生き残りが起こしたのが、コウが黒の一号と出会うキッカケとなった、フラスコル・シティの事件だったのだ。
《黒の装殻》以外にも、人体改造型は存在する。
ジンが、再度コウに向けて言った。
「パイル、エータ、ラムダの三名は、自分たちを、《白の装殻》と呼んでいる。奴等は俺達から分離した訳じゃない。別のルートから作られた人体改造型だ。ミカミとリリスもな」
「リリスはラムダと同型の装殻だけど」
次はケイカが説明する。
「ミカミの装殻は、パイルの試験機にあたるものよ。でも、装殻制御が不完全で、暴走の危険があるの」
「暴走するとどうなるんです?」
コウの問いかけに、ケイカは重い声音で言った。
「……意図せずに液化が起こる。そして、制御に失敗すれば、彼女の存在ごと消滅する」
装殻の液化を操る代償。
それはコウ自身が、つい先程実感した事だった。
人間として、在るべき姿に戻れなくなるかもしれない。
しかも、自分の意思に関係なく、それは起こる。
その恐怖は、装殻を解除出来ない不良装殻者以上のものだろう。
「ミカミの装殻に採用されている外殻は、水中行動型装殻の電磁流体外殻を発展させて液化をシステム的に可能にした、フリード・ハイクラスと呼ばれるものよ」
ケイカが言うには、その安定のためにフリードコントローラーと呼ばれる補助心核が必要だという。
「ミカミの〝パイル・イプシロン〟は、常時コアエネルギーを取られているせいで、稼働時間も著しく低いわ。そして、コントローラーを持っているのはパイルだけ。……だから彼女は、パイルが現れた時に、暴走の危険を冒してまであの場に行ったの」
「作ることは出来ないんですか?」
「時間を掛ければ、あるいは。でも、電磁流体外殻はPL社の独自技術で、解析は上手く行っていない。そこからさらに補助心核の開発をしようと思ったら、今から全てが上手くいっても最低半年は必要でしょう」
「そういうことかいな……」
ミツキはうなずき。
コウは、さらに質問を重ねる。
「対処法は、他にないんですか?」
「今のところは。彼女は、いつ爆発するかもしれない時限爆弾を抱えて生きているの」
コウは疑問を覚えた。
「自身がそんな危険な状態で、何故ミカミさんはこちらに付いたんですか?」
パイルの態度から、ミカミが廃棄されたようには見えなかった。
「理由は、私たちが」
と、リリスがケイカの言葉を引き継ごうとして。
「ミカミが相手側をフリードコントローラー搭載前に離反した理由は、《白の装殻》側で【黒殻】と衝突するかどうかで揉めたせいだ」
まるで遮るように、花立が言った。
ジンの目が一瞬だけ鋭く細められ、ケイカが咎めるように花立を見る。
……その態度から察するに、なにか他に理由があるのだろう。
だが、それをコウに明かすことは出来ない、と花立は判断した。
『仲間と認められない』。
リリスが告げた言葉が耳に甦る。
何故か、という解答を、未だにコウは手に出来ていないのだろう。
いいさ、と内心で思う。
仲間と認められていないなら、いないなりにやりようはある。
「装殻の制御……」
小さく、誰にも聞かれないほど微かな呟きを漏らして、コウはそれ以上突っ込まなかった。




