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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第4話:覚醒! 零号装殻者!
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第9節:入れ替わる攻防

「……強い」


 コウが思わずつぶやいたのを聞いたが、ミツキは答えられなかった。

 攻撃を払うだけで、手一杯だったのだ。


 ラムダの操るブレードスラスターは、思考によるマニュアル制御としか思えない軌道で、コウとミツキを攻め立てていた。

 お互いをカバーしながら防戦一方の二人に、ラムダが楽しげに笑う。


「あははっ! どうしたの? 早く行かないと大事なコが手の届かないところに行っちゃうよ? ほら!」


 ラムダが飛行場の方を指差すと、轟音を立てるヘリが丁度飛び立ったところだった。


「こ……の……!」

「ユナ……!」


 コウとミツキがそれぞれにヘリを見て、止まない攻撃に意識を逸らされる。


「……ミツキ!」


 コウの呼び掛けに、ミツキが即座に反応した。


出力変更(オーダー)大雀蜂形態(ギガント)!」

変更(メイキング)


 『青蜂』の視覚スリットが、青く輝いた。

 《ハニー・コム》の形状が変化し、多節連結されていた薄羽が背中に追加スラスターとして接続される。


 両肩の反応装甲部分が、前腕部までスライドして手甲となり。

 ガシャン、と音を立てて上部が二つに割れると、一対の瞬発機動補助機構(トルク・スラスター)が現れた。


 ミツキは。

 『青蜂』を高速機動モードに変更し、ぐ、と足をたわめる。


「させないよ?」


 何をしようとしているのかを読んだラムダが、ミツキの背後からブレードスラスターを突撃させようとしているのが分かった。

 しかし、ミツキは回避しなかった。


 コウは、止める。


 そう信じたミツキは迷いなく地面を蹴り、一瞬だけコウに視線を向けた。


「残念だが、こっちも読んでいる!」


 コウが、ミツキとブレードの間に割り込んだ。

 そして自身の全身を撃ち抜く軌道のブレードを、ゲル化する事ですり抜けさせ―――。


「凝縮!」


 液化状態のまま、全身を引き絞って刃に圧をかけ、ブレードを止めた。


「流石や!」

「うそ!?」


 驚きに動きを止めたラムダに向けて。


「うぉおおおおおおッ!」


 ミツキは、全てのスラスターを使って全力で突撃した。


「ッナメないでよね!」


 ラムダが操る、コウに抑えられたのとは別のブレードが、斜め上二方向から襲って来るのを見たミツキは。


「無駄や!」


 ブレードを、両腕で受けた。

 接触した瞬間に反応装殻の指向性爆圧が炸裂して、ブレードを吹き飛ばす。


 ラムダに向かって突っ込むミツキを見て、咄嗟に防御姿勢を取るラムダ。

 の、脇をすり抜けて。


 ミツキはーーー飛んだ。


「そんな、飛行ですって!? くっ……!」


 スラスター全開でヘリに向かって飛んでいくミツキを、ラムダが追ってくる。


 ギガントモードは本来は超高速機動形態だが、徹底的な軽量化が図られた『青蜂』に短時間の飛翔能力を与えた。

 ロケットのような、強引な推進。


 しかしその推力は莫大で、短時間の飛行速度はラムダを超える。


「逃がすかぁあああああ!」


 吼えながら、ミツキが武装を展開した。

 ギガントモード唯一の兵装……ノーマルモードと同形状のスティング。


出力解放(アビリティオーダー)!」

命令実行(ゲットレディ)


 エネルギーがスティングに供給され、青く輝く。

 そのまま、ヘリの横っ腹に突き立てようと追いすがったミツキは……。


 ヘリから、何かが吐き出されるのを見た。


 花弁を下に向けたような形状の四基の大型機動補助機構(メガ・コンバット・スラスター)

 斜め後ろ方向に向いて固定された筒状の大型出力増強心核(プロペラント・コア)と、両翼と接地面に当たる姿勢制御用補助機構(スラスト・スタピライザー)

 対装殻ではなく、拠点強襲、大量殺戮を目的とした様々な兵装を搭載したそれは。


「ガンベイル、やと……!?」


 射出後、即座に自分に向けてガンベイルから放たれた機関銃の掃射に、ミツキは咄嗟に急減速して機動変更を行った。

 代わりに、『青蜂』が推力を失って自由落下を余儀なくされる。


「くっそ、目の前まで来とんのに……!」


 ギリ、と歯を噛み締めるミツキに、背後から追いついたラムダが怒りの声を上げた。


「私を出し抜こうなんて!」

「やかましいわボケ!」


 言いながらも、ミツキは即座に装殻状態を切り替えた。

 出力解放の為に溜めたエネルギーを流用する。


出力変更(オーダー)蜜蜂球形態(スウェア)!」

変更(メイキング)


 バシャン、と音を立てて砕け散るように宙に散った両腕の反応装殻が散り、単方向エネルギー送信機と化した薄羽が二対、両肩でフィンのように立つ。

 そして中空に固定された反応装殻のパーツ同士が青いラインで繋がり、巨大な蜂の巣のようなインビジブルシールドを形成した。


出力解放(アビリティオーダー)!」

命令実行(ゲットレディ).出力低下警報(ワーニング)


 シールドに向けて、ガンベイルとラムダの両方がミサイル弾とブレードスラスターを飛ばし。


「〈青の分封(スウォームスウェア)〉!」


 独立機動領域(スウォームビーズ)が、ミツキの宣言に反応して青く輝いた。

 ミサイルの着弾とブレードの接触が、衝撃でシールドを揺らす。


 そのまま、ミツキは落下の勢いのままに地面に墜落した。


※※※


 ラムダのブレードスラスターを受けた直後。


 コウの耳が、不審な音を捉えた。


 目を向けると、螺旋回転で飛び来るグレイブが目に映る。

 機動は、コウの頭を狙うもの。


「ーーーッ!」


 コウは動けなかった。

 ブレードスラスターは、未だ推力を失っていない。


 ゲル化を解けば、それはコウの体を引き裂き。

 グレイヴを避ければ、ブレードがミツキを背後から襲う。


 しかし、迷い続けたら直撃する。


 ゲルスタイルは、先ほど手に入れたばかりの力だ。

 慣れていない頭部のゲル化を敢行して、元に戻れる保証はない。


 コウは、死を間近に意識した。


 そのまま、一か八かで頭部ゲル化による回避を……コウが試みる前に。

 何かが、迫り来るグレイヴを弾き飛ばした。


「させません」


 言いながら現れたのは―――ひっつめ髪に銀縁眼鏡を掛けたスーツの女性。


「……ミカミ、さん?」


 勢いを失ったブレードスラスターを排除し、コウはゲル化を解いて彼女を見た。

 ミカミの手には、弾き飛ばしたのと同じ形のグレイヴが握られている。


 険しい面持ちで、ミカミがグレイヴの飛んできた方向を見るのに釣られて、そちらに目を向けると。


「やれやれ。まさか邪魔が入るとはな」


 現れたのは、声から判断するにパイルだろう装殻者。


「ユナを、何処へ連れて行った!」

「答えると思うか?」


 噛み付くように威嚇するコウに、軽く肩を竦めるパイル。


「答えて欲しいんですけどね、〈パイル・イプシロン〉……いいえ。海野ケイタ」

「お名前をご存知とは光栄だね」


 あくまでも軽いパイルに、ミカミは険しい顔をしたまま答えた。


「知っているのは、名前だけではありません。……貴方自身の事も、私は良く知っている」

「そりゃますます光栄だね。美人さん、お名前は?」

「名前ですか?」


 ミカミは、まるで自嘲するように笑い、銀縁眼鏡を取った。


「照宮ミカミ……今は、ですが」


 そして、ひっつめ髪を一気に解き、髪が幾本か引き千切れるのも構わずに両手でピンを引き抜く。

 大きく広がった髪を波打たせて、ミカミが鬼気迫る笑みで言った。


「昔は、天宮ヒルメって名前だったんですけどね〜……ねぇ、ケイタ?」

「お、前は……!?」


 素顔を晒したミカミに、パイルが驚愕する。


「ちょっと変装したくらいでヒルメを見分けられないなんて、所詮その程度の男なんですよね〜、ケイタは。……その方が、遠慮しなくて済んで良いですけどぉ!」


 ミカミがグレイヴを回転させて風切り音を立て、ヒュン、と振り下ろして薙刀のように構えた。


「Set up!」

『π(パイル)』


 装殻具を身に付けていないミカミから。

 補助音声(サポーター)の無機質な声が聞こえた。


 彼女の全身を、装殻が覆う。


 それはコウよりも、さらにパイルに良く似た装殻だった。

 パイルの外殻が白であるのに対して、ミカミの装殻は淡い青。

 色目と、体型が女性的である事以外は瓜二つと言っても過言ではなかった。


「何でお前がここに……!?」

「何故? 貴方が、それを訊くんですかぁ? 理由なんて、貴方もよく知ってるでしょ〜?」


 ミカミはグレイヴを構えたまま、殺気を放った。


「フリードコントローラーを、貰いますよぉ。……殺してでも、ね!」

 

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