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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第4話:覚醒! 零号装殻者!

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第6節:圧倒的な力


 思わず、装殻したヤヨイ見たまま、動きを止めたコウたちの間を。

 ヤヨイの姿が掻き消えると同時に、風が吹き抜けた。


 それが、ヤヨイの限界機動だと、コウたちが気付いたのは。


限界機動終了(ブレイク・オーバー)


 という、ケイカの声が響いてから。

 振り向くと、視界が開けていた。


 壁のようになっていたウォーヘッドたちの断ち切られた触手の一部が、ヤヨイの両腕に絡め取られている。


「この場は引き受ける」


 ヤヨイから、言葉と共に放たれる気配は。

 〝圧〟が、違った。


 存在感が。

 放たれる戦意が。


 まるで、質量を持っているかのように、周囲を圧している。


 ヤヨイに怯えたように。

 自我のないはずのウォーヘッドたちが、じり、と彼女から離れた。


 ―――彼女は、紛れもなく《黒の装殻(シェルベイル)》。


 コウは、この気配に覚えがあった。


 姉の死んだ場所で。

 姉を殺した者たちを始末した、飛行場で。


 黒の一号、そして伍号が纏っていた気配。

 ただ在るだけで、強者であると理解出来る。

 そんな、気配。


「行きな、コウ、ミツキ」


 激しくはない静かな口調が、有無を言わせぬ迫力をもって、コウとミツキを突き動かした。

 コウとミツキは同時に地面を蹴り、ヤヨイが開いた道に飛び込む。


「……ミツキ。やれる?」


 主語のないコウの問いかけに、ミツキはうなずいた。


「性能試験で、何回かやった。コウは?」

「俺も、カオリさんにやらせて貰った。……行くよ」

「おう」


 コウとミツキは突き進みながら、同時に宣言した。


「「出力解放(オーダー)限界機動(ブレイクアップ)!」」

要請実行(オールレディ)

命令実行(ゲットレディ)


 その声に、ミツキとコウの補助頭脳(サポーター)がそれぞれに応えて。


 コウたちは、人知を超えた速度を得て、超知覚領域に突入する。

 相対的に周囲の景色がゆっくり流れ始めたような錯覚の中で、コウたちは足を止めない。


 ―――限界機動(ブレイクアップ)


 それは、十分なコア出力を持つ装殻に与えられる切り札。


 爆発的にコアから過剰出力したエネルギーを生体強化に使用し。

 装殻の限界値を引き出せるよう、〝装殻者の性能〟を装殻に合わせる、ヒューマン・ブースト・システム。


 過剰な使用は装殻者の肉体を蝕み、コアを疲弊させるが。

 代わりに、圧倒的な装殻本来の性能を遺憾なく使用することが出来る。


 制限時間を目一杯に使い、逃亡者に追いつくことだけに注力したコウとミツキは。

 その甲斐あって、視界の先にパイルの姿を捉えた。


※※※



「さて、と」


 コウたちを見送り、ヤヨイは両腕に巻きついた触手を振り払って、ウォーヘッドらに目を向けた。

周囲には、突然街中に現れた化け物を遠巻きに見ている街の人々がいる。

 再び動き出す気配を見せるウォーヘッドに、ヤヨイは悠然と両腕を構える。


「幾ら何でも、ブランクがあるからね。人も多いし、悠長に相手はしてられない……一気に決めさせてもらうよ」


 ヤヨイは薄羽型スラスターを展開し、相撲の四股のように腰を落として、片方の指先を軽く地面に触れさせる。


出力解放(アビリティオーダー)……」

実行(レディ)!』


 ケイカが応じるのと同時に、肆号心核(コア)からエネルギーが放出された。

 荒れ狂うエネルギーを全力で放つケイカ。


「っ……スゥーーー」


 久々に浴びる暴虐な力に意識を奪われかけて呻いたヤヨイは、即座に呼吸を整えて意識を統一した。

 荒れ狂う〝力〟に方向性(ストリーム)を与えるのは、ヤヨイの仕事だ。


 肆号を纏える者が限られている理由。

 それは、ケイカの持つエネルギーが膨大過ぎて、彼女自身にもコントロールが難しいからだ。


 本来補助頭脳が担うべきエネルギーの調整を行えるほど、装殻の扱いに長け。

 かつ力をダイレクトに受けても意識を保ち続けられる程、強固な意志を持つ者。


 それが、肆号適格者の条件だった。


 カオリやミカミは肆号(ケイカ)を纏えるが、それはあくまでも〝纏える〟だけ。

 ケイカが手加減なしでコア・エネルギーを出力してそのも制御を可能としたのは、今まで、ヤヨイただ一人。


 天才的な頭脳、天才的な戦闘センスーーーそして、確固とした己自身。


 ヤヨイがそれらを持ち合わせていた事が。

 ケイカにとって良いことだったとは、決して言えない。


 何故なら、彼女がいてしまった事が。

 未熟なケイカが、対襲来体戦線に投入される理由となってしまったのだから。


 黒の一号をもって『全てが規格外』と言わしめた、彼女の戦闘力。


 その一端が、今、解放されようとしていた。

 〝(チャクラ)〟を練り上げるように、コアからのエネルギーを、鼻から吸う呼吸の流れに乗せる。


 頭頂を通り、後頭部から背骨を添い。

 股下をくぐって、臍下丹田へエネルギーを溜め込むイメージ。

 そこから、全身の経絡系に力を巡らせて。


()ッ!」


 ヤヨイは、鋭く、呼気を吐いた。


 浅く地に触れた手を握り込み。

 次いで、浮かせていた踵を、強く地面に打ち付ける。


 踵から、握った手から、指向性を与えられた(エネルギー)が、一気に腰に溜めた拳へと収束した。


「《紫の地拳(ティタン・デフォルト)》ッーーー()ァ!」


 凝縮されたエネルギーが爆発する直前の、針の穴を通すようなタイミングで。

 ヤヨイが腰を捻りながら手を引き、同時に、溜めていた拳を地面に叩きつけた。


 インパクトと同時に、周囲にエネルギーの波紋が広がる。


 地を鳴動させ。

 大気を震わせて。


 ウォーヘッドたちに到達した瞬間。

 目に見えない波動が、その肉体を触れる側から崩壊させていった。


「ーーー!!」


 声なき悲鳴を上げて、まるで宙に溶けるように消滅していくウォーヘッドたち。

 しかし。


 周囲で見ていた人たちには、一切の影響がなかった。

 ほんの数秒で、音の余韻すらなくウォーヘッドたちを屠り去ったヤヨイは。


「解殻!」


 宣言して、ケイカを人の姿に戻した。


「さすが、ヤヨイさん」


 軽く汗ばんだ顔を上気させて、嬉しそうにケイカが言う。

 久しぶりの全力で彼女も疲れたのか、軽く肩で息をしていた。


「全然ダメだね。肩が凝る。鈍ってる証拠だ」


 軽く肩を回しながらヤヨイが顔をしかめると、ケイカが名残惜しそうに言う。


「また、ヤヨイさんがパートナーになってくれたら……」

「そりゃ無理だ。前にも言ったろう?」


 ヤヨイは苦笑した。


「私はあんたの保護者にはなれても、相方にはなれないんだよ」


 共に戦い、足を失い。

 ヤヨイはそれを悟った。


「装殻を大事に思っても、戦場でそれをわざわざ解除する奴はいない。私は、これから一緒に戦ってもギリギリのとこでは、あんたを守っちまうだろう。あんたが可愛いからね」


 ぽんぽん、とケイカの頭を叩き、ヤヨイは微笑む。


「でも、今のあんたに必要なのは、保護者じゃなくて相方さ。それも、あんたが体を預けられて、あんたを酷使するのを躊躇わない、信頼で結ばれた相方(バディ)だ」


 彼女が真剣な眼差しを見せて言うと、ケイカは悲しそうな目をしながらも、うなずく。


「あんたは、あんたの相方を見つけな。私の相方は……私がそう呼べるくらい信頼出来たのは、カズキだけだ」


 ケイカは何も言わなかった。

 彼女の気持ちは分かる。

 自分の未熟さが、ヤヨイにそれを言わせたとでも思っているのだろう。


 それは事実だが、同時に間違っている。


 何故なら、ヤヨイがケイカの相棒になれないのは。

 その、『自分が未熟である』という弱さを、ヤヨイに対して言えないからだ。


『頑張るから』

 ケイカはヤヨイに、いつもそう言っていた。


 だが、それではいけない。

 どちらかが一方的に頑張る関係は、いずれ破綻する。


 相棒であるべき相手には、その弱さすらも自ら曝け出せなければ。

 曝け出した上でお互いを受け入れ、信頼し合わなければ。

 結局、どちらかが相手を思うあまり、片方を庇おうとするだろう。


 そしてそれは、ヤヨイがどうにかしてやれる事では、ない。

 ケイカが、そして彼女の選ぶ相手が、自分たちで考え、気付かなければいけない事なのだ。


 ヤヨイは、痛む足を摩りつつ、自前の装殻具で別の場所にいる仲間に通信を入れた。



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