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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第4話:覚醒! 零号装殻者!
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第2節:救援

 ミツキとケイカの話し合いは、ミツキの予定通りには実現しなかった。


 なぜなら彼女は、 ミツキがルナと話をしたその当日に、大阪区へ飛んでいたからだ。

 幹部会議招集―――事案は、試験装殻者、井塚ミツキの処遇について。


 【黒殻】総帥の発令に、幹部たちは速やかに動き実現された。

 その招集には幾つかの思惑が絡んでおり―――事態は、静かに動き出す。


※※※


 装技研の経営陣と【黒殻(アンチボディ)】の合同幹部会議は、冷たい空気に包まれていた。

 本州、大阪区へと飛んだケイカと装技研経営陣以外の面々は、オンラインでの参加だ。

 ジンも、開発の要である四国支部に一人も《黒の装殻(シェルベイル)》がいないのは問題がある為に、オンライン参加となっている。


「そこまで、井塚ミツキという装殻者に固執する必要があるのですか?」


 冷たい沈黙を破ったのは、副所長。

 経営能力を買われて地位についた人物で、オーナー扱いである【黒殻】が内部事情に口を挟むのを良しとしない相手だ。


「必要があるから、こうして会議に掛けているのです」


 ケイカの反論に、副所長は露骨に顔をしかめる。


(ヨロズ)さん。最近の貴女は少々、目に余ります。莫大な予算に加えて開発期間の延長……その上に問題を起こした試験装殻者に対して優遇措置を取れと? 装技研は貴女のオモチャではない」

「分かっています。ですが、ミツキは……」

『私も、規律を乱した者に対して温情を与えるべきでは無いと思うが』


 怜悧な声音は、風間ジロウ……参式から放たれた。

彼は音声のみの参加者だ。

 【黒殻】側からの賛同意見に自分の優位を確信したのか、副所長が笑みを浮かべる。


「風間さんは分かっていらっしゃる。このような事があった以上、試験装殻者は厳選な人選を……」

『勘違いするな。私は推薦者として、井塚ミツキの行動に責任を負う立場にある。組織の輪を乱したのなら相応の処分が必要だと思っているだけだ。〈ククールス・ベスパ04〉の試験者としての井塚ミツキの資質を否定している訳では無い」


 副所長は黙った。

 机上であればともかく、実際の戦力的には【黒殻】と装技研は比べるべくもない。

 さらに、風間は《黒の装殻》の中でも弁が立つ方だ。

 逆らうのは得策ではない、と判断したのだろう。


 しかし、風間はケイカに甘い訳ではなく、必要ならば処分を覆すだけのミツキの有用性を示してみせろ、と、暗に言っていた。


『滞在している関係上、何度か井塚ミツキと接する機会があったが』


 次に口を開いたのは、ジンだった。

 こちらは立体映像を伴っている。

 足を組み表情を消したジンは、普段とは違う、どこか冷たい印象を纏っていた。


『奴自身は、常から問題のある行動を起こす人物には感じられなかった。そして無断出撃に関しても、事情を考慮に入れる余地はあるように思う。風間さんの言うとおり、結果として無傷のまま戦闘を終えた事を取っても装殻者として優秀であるという点に疑いはない。もし今後も井塚ミツキを試験者とするならば、今後同様の行動を取らない事を条件に引き続き試験者として運用する事に、俺は反対しない』


 彼の口から放たれたのは、消極的賛同だった。

 しかし、ジンの立場ではこれが精一杯なのだろう。


 肩入れしすぎた発言はケイカサイドと取られて説得力を失う原因になる。

 それに、本来なら彼は反対してしかるべきなのだ。

 ジンとて、組織においては自身の発言に注意しなければならない。


「井塚ミツキの処遇に、賛成1、反対1、中立1、という事ですね」


 副所長は、自分の都合の良い事実だけを口にして、風間が反対意見を述べた事にした。

 五人いる装技研側の幹部は、副所長を含む二人が反対、一人が中立の意見をそれぞれ述べる。


「次を認めるには、慎重にならざるを得ない状況です。処分に不満を抱いた井塚ミツキが『青蜂』を持ち逃げする可能性もありますしね」


 副所長の意的で悪意的な物の見方には腹が立つが、外から見れば当然の危惧なのだろう。

 ケイカはぐっと怒りを呑み込み、圧し殺した声で言った。


「その時は、私の首を差し上げます」

「それでは不足ですね。私としては、今後そうした事態があった場合には、装技研の運営や人員配置の決定権をこちらに一任していただきたい。重要案件の裁定に、常にこうした場を設ける現体制は非効率ですしね」


 欲に染まった目をしている副所長に、ケイカは内心歯噛みした。


 ミツキは、どうしても必要だ。

 しかし、その理由を言う事は出来ない。

 厳密にミツキを必要としているのはケイカだけだが、その目的は【黒殻】全体の秘匿事項なのだ。


 ケイカには、現在提出しているデータ以上のミツキの有用性は示せない。

 となれば、相手の条件を呑む以外に方法がない。

 元々腹芸は苦手だった。

 しかし。


「……その条件を呑むかどうかの決定権は、私にはありません」


 ケイカの言葉に、それまで黙って成り行きを見守っていた装技研本部所長が口を開いた。


「では総帥。いかが致しましょう?」


 彼は、副所長と違い根っから研究畑の人間だった。

 まだ意見を述べていないのは、彼と総帥の二人だけだ。

 本部所長は政治や駆け引きにおいては凡庸だが、親【黒殻】派であり、研究者としては有能な男だ。


 場にいる全員の視線が、一斉に一箇所へ向いた。

 そこには『Sound Only』と書かれた黒い板が浮いている。


 【黒殻】総帥、黒の一号がその向こうで会議の内容を見守っていた。

 しかし、彼が口を開くより前に、会議室の入口が開く音が、ケイカの背後で聞こえた。


「そろそろ入るよ」


 聞こえた、その声に。

 ケイカは体を強張らせた。


 女性の声だ。

 気負った様子もない声音で、あっさりと入室した彼女に、副所長が声を上げる。


「誰だ、お前は。今は会議中だ」

「知ってるよ。だから来たんじゃないか」


 どこかからかうような、少ししわがれた声。

 懐かしさと同時に、軽い金属音もケイカの耳が捉えて苦い気持ちが湧き上がる。


 あれは、義足の音だ。

 ケイカの背後から、近づいてくる。


「警備はどうした。誰だ、ドアロックを解除したのは……」

「この施設のセキュリティシステムが、マスター権限のある私を阻むわけないだろ」

「マスター権限だと!?」


 副所長が驚きの声を上げる。


「そうさ。誰が【黒殻】や装技研のシステムベースを組んだと思ってるんだ。役職は退いたが、組織を辞めた覚えはないよ」


 ゆっくりとケイカの横に立った人物を見上げて、ケイカはその名前を口にした。


「ヤヨイさん……」

「久しぶりだねぇ、ケイカ」


 そこに立っていたのは、中年の女性だった。

 黒髪をポニーテールで結び、快活そうな顔立ちをしている。


 体格は女性にしては大柄で、右足は義足。

 ラフな格好をしていて、よく日に焼けた肌が柔和なシワを刻んでいる。

 彼女は、楽しそうに片目を閉じてから、正面に向き直った。


「あんたが今の副所長か。会ったことはなかったね。私は元、装技研の所長さ。あんたが来る前にそこのボンクラと交代したけどね」


 歯に絹着せぬ物言いに、本部所長のみならず風間とジンまでもが微かに吹き出した。


「相変わらずですね」


 所長が懐かしそうに言い、ヤヨイが答える。


「あんたが不甲斐ないから、私の可愛いケイカが苦労してんだろ。部下ぐらいきっちり抑えろ」

「面目ない」


 頭越しに交わされるやり取りに目尻をひくつかせる副所長に目を向けて、ヤヨイは記憶媒体をごとりとテーブルの上に置いた。


「これは、政府司法部副部長、空井カヤからの要請書だ。〈ククールス・ベスパ04〉を、次期司法局正式採用装殻選抜(トライアル)に掛けてくれるらしいよ。良かったな、お前の大好きな利権だ。今回のトライアル、落ちてたんだろ?」

「……バカな」


 副所長が呻いた。

 トライアルへの参画は、彼の部下が担当していた案件であり、ケイカも『青蜂』がそれに落ちたと聞いていた。


 当然、トライアルへの参加希望期限はとっくに過ぎている。

 それを無理やりねじ込み、しかも通ったのは、間違いなくヤヨイと……今名前の上がったカヤのお陰だろう。

 大阪区司法局長から、功績を認められて本部勤務になったとは聞いていたが、ケイカはまさか、カヤの地位が政府司法局のNo.2のポストだとは思っていなかった。


「一体、どんな手を……」

「この子が作った装殻の価値を正しく説明出来りゃ、他のとこのなんか相手になんない性能だってのは一目瞭然なんだよ。外から聞いてたけど、自分の失敗を棚に上げて、予算がどうだのと。金が欲しけりゃ努力しなよ。この〝無能〟が」

「ぐ……」


 辛辣極まる正論に、副所長は言い返す事すら出来ないようだった。

 それ程に、政府正式採用、という利権には価値があるのだ。


「さて。で、ハジメさん。私は約束通り動いたよ。この件はどうなるか、教えて貰っても良いかい?」


 ヤヨイの言葉に、返って来た音声は笑みを含んでいた。


『利権に免じて、ミツキの資格剥奪は取り消しだ。ただし、今後同じ事があった場合には理由を問わず資格を剥奪する』

「それで良いかい?」


 副所長に対するものとは違う優しい口調で、ヤヨイはケイカに言った。


「うん……ありがとう」


 うなずくケイカに、彼女は満足そうな笑みを見せた。


『では、解散だ』


 総帥が言い、オンライン表示が順に消える。


『茶番か』


 風間が呆れたように言って、彼の反応も消える。


『ま、面白い見せ物ではあったかな』


 ジンがケイカに笑いかけながら、映像を切った。


「全く、うちの子たちは手がかかるよ」


 幹部たちが全員出て行った後に、ヤヨイが改めて言い、ケイカは俯いた。


「ごめんなさい」

「ま、良いけどね。ミツキはどう? 元気でやってる?」

「資格の話をした後はまだ、喋れてないけど。喜んでくれるんじゃないかな」


 思えば、ケイカは色んな人に助けられてばかりだ。

 自分一人では、何も満足にこなせない。

 戦闘すらも、人の体を借りなければ行えない。


 そんな自分を腑甲斐なくも思うが。

 それでも、周りの人々はケイカに優しいのだった。


 その中でも、特に優しいのが目の前の女性だ。

 ケイカを育て、装殻に関する知識を叩き込んでくれた母親代わりの人。


 それが彼女、井塚ヤヨイ。


 井塚カズキの妻であり、ミツキの母親でもある女性だった。


 



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