表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第3話:体得せよ! 出力変更!
32/111

第15節:仲間の資質

「井塚ミツキ。機密情報取扱いに関する社内処分規定により、三ヶ月減給処分と一週間の謹慎処分、及び『青蜂(ククールス・ベスパ)』試験装殻者資格を剥奪します」


 所長室でミカミがミツキに告げた処分は、重かった。

 ケイカはそれを聞いて、何も言わずに黙ってミツキを見つめる。


「納得出来ません」


 部屋の中央で俯くミツキに代わってコウが口を挟むと、ミカミは冷たい視線を彼に投げた。


「北野コウ。事態に対する処分にしては、これでも比較的軽い部類です。本来ならここに、無断出撃と局長命令違反に関する処罰も加わり、懲戒免職でもおかしくないのですよ。所長の落ち度と貴方の意見を鑑みての軽減処分です。少しは井塚ミツキが何をしたのか、ご自身で考えてください」


 淡々と告げられた事実に、コウは黙らない。

 挑むような目でミカミを見て、反論した。


「ですが、襲来体を放置すれば被害が増えていた可能性もありました。それに、『青蜂』はミツキ専用に調整しています。彼の試験者資格剥奪は、開発の面でも大きなロスになります」


 コウの言葉に、今度は隅に控えていたジンが答えた。


「資格剥奪については装技研経営陣と【黒殻】幹部連で議題に掛けるよ。でもな、それでもミツキがやった事は、重い。俺たちは慈善事業をやってる訳でも、仲間内で馴れ合って装殻開発をしている訳でもない。その辺りの事情は、俺らの一存でどうにかなる訳じゃないんだ」

「でも」

「最悪、ミツキでなければ俺に消されてた可能性もある」


 ジンが不意に表情を消して言った。

 焼けるような殺気に、コウは息を呑む。


 《黒の装殻(シェルベイル)》の本気は、まだコウには荷が重いだろう。

 しかしジンの言葉は事実だった。


 ミツキが仮に、ケイカらのよく知る人物の息子でなければ……あるいは参号の、彼の人柄に対する保障がなければ、処分されていてもおかしくはないのだ。


「最新鋭装殻の開発と機密保持は企業の生命線であり、同時に【黒殻】にとっても重要な事なんだ。ガキのワガママで覆るほど甘くない。―――いい加減黙れ。この場では、お前は部外者だ」

「……はい」


 コウが納得できなさそうな顔ながらもうなずくと、ジンは息を吐いてケイカを見た。

 同時に、ミカミがケイカに訊ねる。


「所長の方から、なにか?」


 ケイカは、部屋の真ん中で顔を伏せているミツキに目をやった。

 彼女にはミツキの気持ちはよく分かるのだ。


 ケイカ自身も、襲来体には思うところがある。

 下手をすれば、ミツキ以上に。


 それでも、規律は規律。

 所長であるケイカ自身が、横車を入れる訳にはいかなかった。


 だからケイカは、自分が何かを言う代わりにミツキに訪ねた。

 自分と同じように黙して語らない彼に。


「ミツキくん。なにか言うことはある?」

「……ありません」


 ケイカと目を合わせないミツキは、一言、それだけを小さく答えた。

 彼自身も、自分が何をしたのかを十分に理解している。

 それだけに、やりきれなかった。


 ケイカは言いたいことの全てを押し殺して告げる。


「では、追って正式な通達を出します。今日は二人とも帰宅しなさい」


 ケイカの言葉を合図に、 ミツキとコウの二人は部屋を出た。

 気心の知れた三人だけになって、ケイカが言う。


「実際のところ、どうなりそうなの? ジン。ミツキくんの処遇は」

「旗色は良くねぇな。表向きにはミツキにこだわる理由が、装技研にはない。ハジメさんに事情を耳打ちはしてるが、会議の内容次第では正式にミツキ外す事になるだろう」

「……ここまで来て」


 ケイカは唇を噛んだ。

 全て、これからなのだ。


 『青蜂』とミツキの件さえ上手くいけば、【黒殻】は装技研に全てをくれてやっても問題がなくなるのに。


「頑張ってはみるよ。俺もな。でもミツキにこだわれなくなる事も、覚悟しとけ。ケイカさんにとっちゃ、待ちに待った相手なのにな……」


 重い沈黙を破ったのは、ミカミだった。


「言っても仕方がありません。……何故こう、《黒の装殻》に関わりの深い方々は直情的なのでしょうね。もう少し落ち着いて行動してくれれば、私が苦労する事もなくなるのですが」


 ケイカは、ジンと目を見交わした。

 ジンは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 自分も、似たような顔をしている事だろう。


「ミカミ。何だか私まで後先考えてないような言い方に聞こえるんだけど」

「ケイカさんはともかく、俺はそれなりに考えてるぞ。一応」

「私からすれば、似たり寄ったりです」


 ミカミはぴしゃりと言い、仕事中には珍しく微かな笑みを浮かべた。


「まぁ総帥からしてあの性格ですから、仕方がありませんけどね」


 ケイカそうだが、ジンも自分が尊敬している対象を引き合いに出されては、それ以上抗弁する事は出来なかった。


※※※


「何で、何も言わなかったの?」


 退出した後、そろそろ慣れてきた二人での帰り道を歩きながら、コウは言った。


「別に言うことなんか、何もないやろ。命令違反もそうやし、『青蜂』を持ち出したらマズかったんもその通りや」

「……組織って、シビアだね」


 大勢の人が居れば、ルールが必要になる。

 そのルールに違反すれば、規律によって裁かれる。

 そこで、個人の事情は斟酌(しんしゃく)されない。


 コウがこの地に来た事情にしても、思えば組織のそうした面に触れたからだ。

 組織に属すれば、金銭に見合った働きを、立場に見合った振る舞いを求められる。


 それに値しなければ、弾かれるのだ。

 ミツキもコウも、それでも恵まれている方だろう。

 でも、コウは思ってしまう。


「窮屈だね」


 一人で生きていた時は良かった。

 何かあっても全て自分の責任で、客からの求め以外は何もなかった。


 ハジメとコウの関係にしても、一対一の時は個人的な事情以外のしがらみなど何もなかったのに。

 【黒殻】に入ってしまうと、自由に会う事もままならないほどに、彼との距離は遠い。


「そういうモンや。そういうモンやって分かってて、俺は動いたんや。後悔はしてへんで。もしまた同じ状況になっても、俺は動く。それは、俺の譲られへん部分や」


 コウは微かに笑った。


「ミツキは、強いね」

「アホ、弱いわ。何の権力もないしな。吹かれりゃトバされる、ほんまもんの雑魚やで」


 ミツキも笑っていた。


「資質を疑う……嫌いでは、ないけれど」


 不意に、自分たち以外の声が聞こえてコウは面食らった。


「リリス、さん?」


 いつの間に後をついてきていたのか、リリスが居た。

 黒い日傘を差して、相変わらず暑そうな格好をしている。


「私は、その程度の意識なら今日の処分は妥当だったと思う……好きではないけれど」

「その程度……って」


 リリスは、言葉と裏腹にひどく不機嫌そうにコウたちを睨んでいた。


「あなたたちは、何も分かっていない……【黒殻】の事も、ケイカさんたちの事も」


 いつもの語尾を失うほど、彼女は怒っていた。

 理由が分からず、コウとミツキは顔を見合わせる。


「どういう意味っすか?」


 ミツキが問い返すのに、むすっと押し黙ってから、リリスは言った。


「総帥や、ケイカさんが、どれだけあなたたちを待ち望んでいたか、あなたたちは知らない。知ろうともしない。だから、未だに仲間と認められない」


 リリスは吐き捨てるように言って、コウたちに背を向けた。


「今のあなたたちには、『青蜂』を纏う資格も、《黒の装殻(シェルベイル)》を名乗る資格も、ない」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ