第10節:ケイカの受難
「泊めないから」
結局、片付けや引き継ぎなどの準備を終えて帰宅した時には、午前二時近かったというのに、ケイカは起きてコウを待っていてくれた。
というか、ケイカが仁王立ちで腕を組んで玄関のタタキに立っていたので、普通に驚いた。
多分、ジンを待ち受けていたのだろう。
「ま、いいじゃん」
ジンは全く気にした様子もなくへらへらと笑いながら靴を脱ぎ、ケイカを優しく押しのけて中に入り込む。
「泊めないって言ってるでしょ!?」
「しー。夜遅いんだからさ。ユナちゃんが起きたらどーすんの?」
ジンに言われて、ぐっと言葉に詰まるケイカに、彼は隙を入れずに言葉を続ける。
「まぁ、帰るからさ。ちょっと話くらいさせてよ。結構重要な話よ?」
「むむむ……上がるだけよ? 良い!? あんたは絶対泊めないからね!?」
「分かってるって」
ちなみに、相当な美形と美少女と言っても通じる女性の言い合いである。
端から見ると大変絵になるが、小声で交わされる会話のあまりの残念さに、コウは疲れもあいまって口を挟む気も起こらなかった。
別にジンが泊まるくらいならミツキと部屋で雑魚寝してもいいし、むしろ今すぐ布団にダイブしたい、などと思っている。
しかし先ほど起こった事を説明しなければならないので、まだまだ眠れないのが現状だった。
「ね~、やっぱりダメだったでしょー?」
「チッ。不甲斐ない。こんなヤツ一人追い返せないのか」
ニコニコとジンに手を振るミカミと、同じように振り返すジン。
対照的に、ケイカとカオリは不機嫌そうな顔で卓に着いた。
「あの二人、何であんなに不機嫌なの?」
三人と一緒に待っていてくれたらしいミツキに訊くと、小声で教えてくれた。
「何でも、前にジンさんが来た時に研究所におるコらと片っ端から食事して、帰った後にそれが発覚してえらい事になったらしいで。『あの節操なしが!』って、ジンさんがお前迎えに行った後にケイカさんに苦労話聞かされた。カオリさんは知らん」
なるほど、とコウは思った。
確かに、若い女性の多いこの家に、ジンを入れるのは危険、とケイカが判断してもおかしくない。
それでも、三人は大人しくジンとコウの話を聞いてくれた。
一通り起こった事を話し、後処理を夜勤の警備課に任せてきた事を告げると、ケイカは頭の痛そうな、カオリはうんざりした顔でそれぞれに言った。
「次から次へと……色々仕掛けてくるわね」
「まぁ、よくやった」
労いの言葉とともに退出を許されるが、コウは訊きたいことがあった。
「あの、ケイカさん達に聞いても良いですか?」
「ん?」
小首をかしげたケイカに先を促されて、コウは質問した。
「カオリさんの炎とか、ジンさんの雷撃とか、ああいうのって、どうやってるんですかね?」
結局のところ、コウは現象を引き起こす形状に出力変更出来なかった。
その謎の答えを知っているのは、本人達しかいないだろうと思っての質問だったのだが。
「ああ、そういやお前、なんか面白い事やってたな。最後に見たけど、あれ、なんだったんだ? 追加装殻か?」
「あれって何?」
戦闘そのもののついて詳しく説明した訳ではないので、ケイカたちはコウの『ブラストハンド』の事を知らない。
「どっちかって言うと、出力変更のつもりだったんですけど……」
と、前置いてコウが説明すると。
「お前、小難しく考え過ぎだろ……」
「ていうか、色々おかしいんだけど。何、戦闘中に調整って。頭おかしいんじゃないの?」
「まさか、追加装殻を自ら創り出すとは……お前の装殻は一体どうなってるんだ?」
「というか〜、見ただけで真似しようなんて事自体が普通に無茶なんですけど〜」
「またそんな事やってたんか……コウ、お前しまいに死ぬで」
五人五色の感想を貰って、コウは迷ったあげくに一番まともな返答が期待できそうなジンを選んで質問した。
「小難しい、ですか?」
「そうだよ。ていうか、何で燃料の合成とかいう結論にたどり着くんだ? お前、そんな事しなくても俺らにはココに無尽蔵のエネルギー源があるだろが」
と、ジンが自分の胸をトントン、と叩き。
「……あ」
コウは自分がまるきり見落としていた事実に気付いて、しばし呆然とした。
冷静なつもりで、やはり急な戦闘に混乱していたのかもしれない。
「そうか。コアエネルギー……」
「コアから放出されたエネルギーストリームを操作して変質させたのが、俺や森家の身に纏う現象の正体だよ」
種を明かされてみれば。
それは、至極もっともな話だった。
コアエネルギーは元来、純粋なエネルギー、と呼ばれるもので、その性質は装殻によって変化させる事が出来る。
電流に転化すれば装殻そのものを動かす力に、出力解放時には武装に合わせた性質のものへと変化するのだ。
正に基本中の基本。
「でもまぁ……『ブラストハンド』が出来たお陰で『青蜂』の問題解決の糸口が見えたんで、それは良いです」
「本当!?」
ケイカが色めき立つのに、コウはうなずいた。
「後は分散型の問題解決が必要ですが……それはジンさんに何か考えがあるみたいなんで、期待してるんですが……」
と、コウがジンに目を向けると、彼はもったいぶるように、にやりと笑った。
「ああ、任せろ。解決策はばっちりだ。許可も貰ったしな。ただ……条件付きだぜ?」
「何よ、条件って」
ケイカが警戒感剥き出しの声を出すと、ジンはあっさり答えた。
「一つはまだ秘密だ。もう1つは……俺を泊めてくれ。流石に強行軍で動いたからいい加減、眠いんだよな」
しれっと言い放つジンに、ケイカが実に見応えのある葛藤の表情を見せてくれた。
「本当に、本当に……あんたって奴は……!」
「何だよケイカさん。いーじゃんか泊めてくれるくらい。安いぜ? 代わりに『青蜂』の件の解決はばっちり請け負うし」
二人のやり取りを見て、コウは不意に腑に落ちた。
「あぁ、なるほど」
「どないしたん?」
「ケイカさんにとってジンさんって、根本的に相性が悪い相手なんだな、と思って」
軽口は通じるが基本的に真面目で固いケイカと、万事において要領が良く柔軟なジン。
ジンがそんなケイカを面白がってからかうのに、ケイカはムキになればなるほど勝てないのである。
「見てる分にはおもろいけどな」
「そうだね」
結局、嫌そうで仕方のない顔をしながらケイカが了承するのを見ながら、コウはミツキに同意した。




