表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯りの底で  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/9

終章 雨上がりの朝

五十三歳になった嘉浩は、今も中村区に住んでいる。ただし住まいは、あの傾いたアパートではなく、少し歩いた先にある新しいマンションの一室だ。


窓辺には、坂上カナの家から移した一本の鉢植えがある。カナが大切に育てていたものだった。


ある雨上がりの朝、嘉浩は「ひまわりの家」に向かう途中、かつて自分が住んでいたコーポ弥生の前を通りかかった。取り壊しが決まり、更地になる直前だった。


錆びた郵便受け、傾いた外階段。そこにはもう誰も住んでいない。嘉浩はしばらく立ち止まり、それから静かに一礼した。


「……ありがとう」


誰に向けての言葉なのか、自分でもよく分からなかった。育ててくれた施設の職員に。数字の違和感を教えてくれた自分自身の性分に。裏切られてもなお、何かを気づかせてくれた廣瀬に。そして、何より、初めて自分を丸ごと受け入れてくれたカナに。


雲間から、久しぶりの陽が差し込んでいた。


嘉浩は傘を畳み、ゆっくりと歩き出した。生まれてから五十三年、ようやく彼は、自分の足で立つ場所を見つけていた。


――生きる意味は、与えられるものではなく、自分で選び取るものなのかもしれない。


そう思いながら、松央嘉浩は、朝の光の中を歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ