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記憶の底  作者: 56号
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22/26

第二十二話 政治

数日後、神谷は再び城山に呼び出された。


上司・城山本部長は、扉を閉めた執務室の中で、唐突に言った。


「神谷」


その声は、いつもの柔和な上司のそれではなかった。


「我々警察官僚がやってるのは、“政治”なんだよ」


神谷は、思わず言葉を失った。


「正義だの、法の下の平等だの――そんな理想を掲げたって、現実は動かん。

 この国の中枢を動かすには、時に“正義”よりも、“駆け引き”が先に来る。

 それが今の日本だ。いや、世界だ」


城山は机の引き出しから、銀色の細長いスティックを取り出した。

電子タバコだった。


火は点けず、ゆっくりと吸い込む仕草だけをした。

芳香だけが室内に漂った。


神谷は、思わず唇を噛んだ。


言いたいことはあった。

だが、今それを言えば、すべてが壊れる気がした。


言葉の先にある怒りと葛藤を、

ただ静かに押し殺すしかなかった。


**


それからしばらくの間、室内は沈黙に包まれた。


唯一、電子タバコの淡い光が、机の上に瞬いていた。



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