第四十一話 ー巨大兵器②ー
「オイオイオイ……イカレてやがるぜ。ワクワクが止まらねえなぁ……⁉︎」
「……そういう事か」
『なんやこう……めちゃくちゃやな⁉︎』
同じ頃、外では大地震が発生していた。機動兵の高周波による叫びを合図に、二人と一匹を追っていた機兵族と魔工竜が、諸共一斉にマクニール内部へ帰還した直後の事である。
大要塞マクニールはその姿を変え、蠍のような形状になっていた。その背中に舞い降りた鳥型の機動兵は、その形状を変えていき……翼の面影を残したまま、長い鋏のある手となった。
『えらい不細工やな』
「本来は四本あるんだろうな。こっちでぶっ潰したから一本しかねえんだろうよ」
「……奴らが戻ったという事は、全てがパーツに過ぎなかったという事か」
ルエインの言葉に、ヴルムは一つの山脈の如き大きさに変貌した要塞を見て、「さて、な……」と小さく唸る。
「そんな事はさておき……奴ら、失敗したのか。まあ、要塞そのものが兵器だっつーなら陽動の時点で悪手だわなぁ?」
ヴルムは参ったぜと言わんばかりに後頭部をゆっくりと搔いた。ルエインは微妙な変形を繰り返しているマクニールを見ながら、ため息をこぼすようにして、
「……ヴァレリとレイチェルは生きているだろうか」
そう、呟いた。ヴルムは「あー」と気怠げな声を上げると、ジョリジョリとした短い顎髭を触る。
「望み薄じゃねえか? 中にいるとなると諸共ぶっ潰すしかねえな」
『ちょ、待ちやッ‼︎ 見捨てるんかいな⁉︎』
テレシアが声を上げれば、ヴルムは目を丸くした。
「当たり前だろ。これは戦争だ。コイツが自由に動き回りゃそんだけ死人が出る。二人死ぬか、大勢死ぬか。そんだけの事だ、数字見りゃあどっちを選ぶかなんてのは明白だろうが」
『アンタっちゅう奴は……数字とかそういう問題やないやろッ‼︎ 何にも……何にも分かってへんやないかッ!』
「ッ⁉︎」
「チッ……オイ⁉︎」
テレシアは突然その身を小さくし、ヴルムを宙へ投げ捨てた。直後にルエインの襟を咥えると、再びその身を巨獣化させ、青年を背へと放り投げる。
ヴルムは背中からその身に余る巨翼を羽ばたかせ、事無きを得た。
『今のアンタは乗せたないッ! ウチらは助ける術を探す! 第一……隊長はヴァレリやろ! 隊長の命令があるまで、アンタは陽動や!』
「ンな事言ってもそもそもどこにいるかも分かりゃあしねェんだ‼︎ 切った潰した、その時点で死ぬかもしれねえモンを気に掛けてる余裕なんざ、あんのかよ⁉︎」
『ほんなん知らんわ! でも……やらなあかんからやるまでや! 何でそんなすぐ切り捨てられんねんッ‼︎』
そのまま、テレシアはヴルムを置いて立ち去った。取り残された男は、桃色の髪を荒々しく掻き乱すと、懐から煙草を取り出し、咥える。
「チッ、勝手にしろ。……なんだってんだ」
吐き出した煙は、すぐさま風に攫われて大気へと溶け込んでいく。……ヴルムは、面白くなさそうに煙草と一緒に火を吹き飛ばし、燃やし尽くした。
「ケッ。多少のハンディがあった方が面白ェ……とでも考えねえとやってらんねェぜッ」
ヴルムは、テレシアの後を追った。その先では……
「具体的にどうする? 奴が言っていたのは一理ある。かと言って、もしこれを止められなければ敗戦となるだろう」
『んな事言うたかて……ついカッとしてもてんもん。ルエインも頭貸してや』
「知恵と言え。お前が言うと冗談に聞こえない」
『ウチの事なんやと思てんねん……』
失礼な奴ちゃで。と憤るテレシアの元へ、
「んで? 具体策としてはどうすんだよ?」
『ヴルム⁉︎ 来たんかいな‼︎』
テレシアは驚きと、どこか嬉々とした声を上げた。そして、「うーん」と唸る。
『……もしあれが空洞なら、表面切り取っていく。ぐらいしか思い付かへん』
「手間かかるぜェ? 関節にいねえなら関節を落としてくのも手だがなあ?」
『おったらどうするつもりや──』
「待てッ!」
「──!」
「……動くぞ」
テレシアの言葉は、ルエインの制止の声に遮られた。ハッとしたテレシアとヴルムは、交えていた視線を蠍型の要塞へと向けた。
「ンー……こいつァ、当たったら死ぬぞ」
『見たら分かるわいッ! 早よこっち乗り、ヴルム!』
はいよっと言いながらヴルムはテレシアの背に乗ると、巨獣は空高く舞い上がる。要塞はその砲身の先に光の粒子を溢れさせており、
『しっかり掴まっとらんと、落ちるで!』
テレシアが空を駆け出した時、砲身から無数の光線が発射された。光線は途中から枝分かれし、放射状に広がって一同を追い詰めていく。
『ぬっ、こな……くそっ!』
「お嬢、いけんのか⁉︎」
ヴルムの声に、テレシアは答えない。尾の毛が焼け焦げ、煤けさせながらではあった。しかし、テレシアは遂に全ての攻撃を躱して見せた。
『ハッ……ハッ……全部避け、たったわい……こん、ボケ……』
「……テレシア、素が出てるぞ」
ルエインの言葉に、テレシアは「じゃっかしいアホンダラ!」と息巻く。
「お嬢……やっぱいいオンナだなァ?」
『へっ、せやろがい……やるときゃ、やんねん……』
テレシアは、肩で呼吸をしていた。明らかな強がりだったのは誰の目にも取れる。
「……しかし、どうするさ。第二弾、待ち構えてるみてぇだぜ? オレ様がぶちのめしても構わねえが──」
「いや、待て。……あれを見ろ」
「……あーん?」
ルエインの言葉に、テレシアもヴルムも視線を移動させた。
「おい、ありゃあ……」
『敵……やないな、ヴァレリ連れとる! レイチェルや! 髪色変わっとるっていうか戻っとるけど!』
「無事だったみたいだな。しかし、あれは……」
小柄なレイチェルに抱えられたヴァレリが、蠍の上を駆けていた。ルエインが疑問に思ったのは、レイチェルが出てきた場所だった。
ブロックが崩れ去るようにして、背中の一部分が欠けていた。それだけではなく、レイチェルが足を踏んだ場所だけがボロボロと崩れ去っていく。
「ありゃあ……何してんだ?」
『分からへん。ただ……勝てるで、これは!』
懸念していた二人の心配が無くなった為か、テレシアは呼吸も整い、その声はやる気に満ちていた。
「まずはアレをどうにかせにゃあ、ならねえ……と、思ったが、そうでもないようだな」
「魔素を分解しているのか……?」
レイチェルが砲身を蹴ると、砲台は根元からバラバラに分解され、砲口に収束していたエネルギー粒子は霧散した後に、レイチェルへと吸収されていった。
『後はバラすだけやな。どっちがやんねや?』
「これだけデケェと一苦労だ。細切れにして本体を炙り出せりゃいいが……」
「ならば、俺がやろう。刻むぐらいなら、できる」
ルエインは「任せたぞ」と言い残すと、テレシアの背から降りて、自由落下を始めた。
「アイツにできんのか?」
『……アイツはやる時はやる奴』
ヴルムの問いかけに、テレシアはどこか誇らしげにそう返した。ほお。と感心したように目を細くして、男は落ちていく青年を見つめる。
「……よし。鍵嵌解錠」
ルエインはレイチェル達が要塞から離れた事を確認すると、ぐるぐると荒々しく回転してみせた。
「零式・神塵万衝──」
そして、その手にした剣を遠心力任せに大振りで振るった。
「白虎の章」
ズァッと風すらも裂いたような音が響いたかと思うと、剣先から五つの……要塞よりも更に巨大な三日月状の剣圧が飛んだ。それらは回転しながらその身に爪を立てると、いとも容易く鋼鉄の肉体を引き裂いていった。それだけに留まらず、その刃は食らいつくようにして、回転しながら地面を滑り、巨大な要塞をバラバラに分解してみせた。
地上には大質量の鉄の塊が落ちた事で、轟音と共に巨大な地震が発生し、辺りを土煙で覆った。
『おっしゃ、間に合った! こんな砂埃に紛れたら分からんくなるとこやったで』
「やるじゃねえか、相棒ォ」
「……後は、任せる」
テレシアの背に乗せられたルエインは、呼吸を荒くしながらヴルムにそう告げた。
「ゴミの処理なら任せときなァ」
ヴルムはルエインと入れ替わるようにしてテレシアの背を降りた。その身を灼熱の炎に包んで巨大な竜人と化した。
緋色の鱗は月下で妖しく煌めき、剛腕を以ってして烈火の炎を放った。
『あっちち……! こんだけ離れとるのに熱い!』
「熱は上に昇る……。一旦退け、テレシア」
ういよ! と軽い返事をしながらテレシアは、その身を翻して場を離れていく。
大地に広がる業火から離れる小さな影に、テレシアは近寄った。
『おーい! レイチェル、ヴァレリ!』
「む……テレシア、と……ルエイン、か。レイチェル、止まって……くれ」
『はぁーい』
レイチェルはその足を止めて、振り返り……地に降り立ったテレシアと、ルエインを見て、
「むぐっ……⁉︎」
『父様の、仇……!』
ヴァレリを手放し、テレシアの元へとゆっくりと歩み寄る少女。ルエインへ向けてその拳を振るった。
『なん……やねんっ⁉︎』
テレシアは宙へと舞い上がり、少女の足元で身動ぎしているヴァレリへと視線を向ける。
『ヴァレリ、どういうこっちゃ⁉︎』
「ぬ、ぅ……わから、ぬ。敵に、やられて、こうなった。敵意が、あるわけではなかったの、じゃが…………」
「記憶が……戻った、のか」
ルエインの発言に、テレシアがハッとするよりも早く。金髪の青年は地上へと降り立った。
「……殺したければ、殺しても構わない。お前には、その権利がある」
『アホかルエイン! 何言うとんねん! 前と違て動けるとは言うても、今のアンタに神力なんてほとんど残ってへんやろ! 今あの子の攻撃まともに受けたら──』
テレシアがそう言いかけた時。既に行動に移っていたレイチェルの振りかぶっていた拳は……ルエインの眼前でピタリと止まった。
『うっ……ぐっ……なん、で……?』
『なんや……? 何事や⁉︎』
ルエインが目を丸くしているとレイチェルとヴァレリの背後から、二人の人影が歩み寄る。
「それやられると困るんスよ、レイチェル」
『マルクやん! それに、スティア⁉︎ なんでこんなとこにおんねん⁉︎』
片や余裕の笑みで現れた男。片や息も荒く現れた少女。
「オイラが連れてきた……じゃないっスね。連れてきてもらったっス」
「レイチェル、話を……聞いて」
斯くして、業突く張りな商人と藍色の髪の乙女は、戦場へと足を踏み入れたのだった。




