承-2.食事、強行
今この場に集まっている人達は、本来なら敵対していた。
奈落の民だった荻と椿さんは居なくなってしまったけど、槐君だけじゃなく、長である朧さんも居る。
そして、皆揃って食事中……。
ゆっくり食べてる時じゃないかもしれないけど、戻って来た朧さんが、“話の前に何が何でも食事する”と言って引かなかった。
何故か蛍が率先して準備をし、私は槐君と二人、お客様のように鎮座しているしかない状態だ。
「ヒナタ、片手が使えないでしょ? 何が食べたい?」
「あ、大丈夫だよ蛍。そんなに気を使わないで――――」
と言った瞬間、眉尻を下げて瞳を潤ませる蛍。
……色々あったから、蛍なりに何か役に立ちたいのかもしれない。
食べづらい状況だから、槐君も気にしちゃうかもしれないし、ここは蛍に頼ってしまった方がいいかな。
ヒナタは戸惑いながらも、一つのおかずを指差す。
「……大根の炒めものが食べたい」
「! うん!」
その言葉に落ち込んだ表情が消し飛び、いそいそとお皿に大根を載せる。
しかし、直ぐには渡さず小さく分けると、その一つをヒナタの口元に持っていった。
「はいヒナタ、口開けて?」
「え、えーと……」
輝かしい笑顔を浮かべる蛍に、ヒナタがどうしようか迷っていると、昴と目が合った。
さっきから昴さんの眼光が鋭い。
たまにチラリと朧さんを見たりしてるけど、まったくその視線に気付かないで、もくもくと食べてる。
だから、結局その視線は私に戻ってくるんだよね。
何だろう……この、急かされている感じは……。
前には満面の笑み。
斜め向こうからは謎の攻撃。
観念したヒナタは、“パクリ”と差し出されたおかずを口に含んだ。
「美味しい?」
「う、うん……」
正直味がよく分からない。
朔さんの料理だから美味しくない訳ないけど、ゆっくりと味わう雰囲気じゃないよね。
――――二人を除いて。
「あ、これ美味しい。煌、もっとちょうだい」
「おーこれか? ほい」
「ん、ありがと」
普通に食べさせてもらう槐と、せっせと世話をやく煌。
それを見てますますやる気を出す蛍。
気付けばちらほら食べ終えている者もいるようであった。
「……食が進んでいないな」
朧が食後のお茶を啜り、不思議そうな表情をしている。
そして、蛍が差し出しているおかずとヒナタを見比べると、深く頷いた。
「蛍、お前が全然食べていないから、ヒナタが気にしている。……俺がやろう」
「そうだったのヒナタ? ごめんね、僕も食べるから安心して?」
違ーう!
ヒナタの心の叫びが聞こえるはずもなく、蛍はすんなりと身を引く。
代わりに朧が若干嬉しそうな表情をしつつ、おかずを差し出した。
「さぁ、遠慮するな」
朧さんのそんな輝かしい表情見たことないよ……。
そんなにやりたかったのかな……よく分からない人だ。
ここまでくると、恥じらっているより早く食べて終わらせた方がいいと判断し、差し出されるおかずをもくもくと食べる。
“やっぱり、気にして食べづらかったんだね”なんて言う蛍に、朧は何度か頷いてほんの少し微笑んだ。
「レ、レアだ……朧様が笑っていらっしゃる……」
「誰かに食べさせるなんて初めてだから、楽しいだけじゃないのか?」
何故か感動している槐に、呆れ顔の煌。
“分かってないなぁ、煌”
“何が?”
と、会話が続く中で“カチャ”と箸を置く音が響く。
一斉に会話が止んで、皆が音の方を見ると、険しい表情をした昴がヒナタを無言で見ていた。
「昴様、お口に合いませんでしたか?」
食事はあまり進んでいなかったが、心配した朔の問いかけに首を振る。
「……食べ終わるまで待つつもりだったが、限界だ。後で好きなだけ食べさせてやるから、今は一旦終わりにしてくれ」
「……? はい、大丈夫ですよ?」
つまり、さっきの視線は結局急かしていたと。
でも、長くなりそうだから待てなくなったと。
――そもそも、私そんなに食い意地張ってないよ、昴さん。
食事を中断されて、不服そうな顔をしていると判断したのか、昴はチラリと朔を見る。
「後で、デザートもつけてやってくれ」
「畏まりました。良かったですね、ヒナタさん」
「は、ははっ……ありがとうございます」
――と、言ったものの……違うんだけど……私の事大食いとか思ってないよね?
モヤモヤしていると、槐と煌が苦笑いしている事に気付く。
そして、“分かってる”と言わんばかりに頷いた。
あ、やっぱりこの感覚、懐かしい。
同じ世界の三人だからかな?
昴が笑っている三人に“意味が分からない”と顔を歪め、その様子を微笑ましく見ている朔。
――――しかし、和やかな雰囲気はここまでだった。




