承-3.陰と陽
光があれば、影もある。
ほとんどの世界には陰陽の理が存在するのだ――――。
和やかな雰囲気を一瞬にして変えたのは、以外にも食事を優先した朧であった。
突然の話に直ぐ様皆反応する。
「皆、色々聞きたい事はあるだろうが……共通の疑問は何であるかは分かる」
そういうと、朧は迷いなく真っ直ぐにヒナタを見つめた。
私……?
――確かに色々謎が多くて、私自身混乱している。
不思議な力もあるし、たまたまこの世界に来たと言っても、誰一人納得しない。
昴さんも頷いているのが分かる。
「異世界では煌達の友……」
「え!?」
昴の発言に思わず腰を浮かせるヒナタ。
しかし、槐がとっさに手を引き、煌が“後で話してやるから”と落ち着かせると、昴は気にせず話を続ける。
「――――だが、お前は言ったな? ヒナタはこの世界に帰って来たと……あいつは、この世界のなんだ?」
私の知らない話ばかりだ。
さっきから二人に懐かしい感じがしていたのは、元の世界で友達だったから?
それさえも記憶にないのに、“帰って来た”って……私……私は一体――――。
朧の深紅の瞳が、混乱しているヒナタを映し、僅かに揺れる。
その様子を皆が固唾を呑んで見守ると、ゆっくりと朧の唇が動く。
「……ヒナタはこの世界……この箱庭の創造主」
「…………意味が、分からない」
朧の言葉は以外だったらしく、昴の表情が困惑に変わる。
「そのままの意味だ。ただその話をするには、あの神の話からになる」
――――あの破滅の神は元々別の世界の神だった。
そう話始めた朧さんは、まるでその場に居たかのように事細かに語る。
二人の神……創造神と破壊神の世界がゆっくりと壊れていく様が、深紅の瞳に焼き付いているみたいだ。
苦しく、今にも消えてしまいそうになりながら、それでも手を差し伸べた創造神。
大事な対を失い、悲しみと怒りに呑まれた破壊神。
陰と陽のバランスが崩れた世界は、助けを乞う……だけど、その叫びさえもかき消え、全て消滅してしまった。
……暗黒の空間に残ったのは、破壊神だけ――――。
「――――あいつは失ってしまった。俺はそれを、世界の外に広がる暗闇の中からずっと見ていた。二人で大地に命を芽吹かせ、創造と破壊……再生と修正を繰り返していた様子を……全てが無に還るまでな」
それが、破壊神から破滅の神へと、名を変えて呼ばれていたものの過去。
「だが、残ったあいつは強大過ぎるその力で、自滅しかけていた……対が居ないせいで破壊の力が制御出来なかったからだ」
――暗闇をさ迷い、消えかけながらもある一つの世界に降り立った。
時刻は黄昏時……人目を避けるように森に入り、町全体が見える小高い場所で倒れ込む。
ゆっくりと瞳を閉じ、そこで力尽きて消えるはずだった――――。
“だいじょうぶ? どこか、いたいの?”
“!”
幼い子供が優しく頭を撫でる。
「あの日、幸か不幸か出会ってしまったんだ。対になり得る逸材……ヒナタ、お前にだ」
「私……?」
黄昏の森で小さい頃に……。
その瞬間脳裏に、白銀の長い髪と透き通る翡翠の瞳の、美しい青年の姿が浮かび上がる。
黄昏時の輝く町並みを二人並んで見下ろし、笑い合う。
“お前は私の――――だから、約束だ”
“うん、私と――――の約束ね!”
まさか、あの毎日見てた夢は――――あの子供は、私だった?
「対ではない……しかも人間だったヒナタを半身にするには、かなりの時間と、創造と破壊という一連の流れを行わなければならなかった。だから、あいつは下準備としてこの箱庭の外側を創り、内側をヒナタの自由にさせたんだ」
そこまで話すと、朧の瞳が僅かに鋭くなる。
“創造と破壊”
この箱庭は創造されて、今に至る……その先は考えるまでもなかった。
「封印が解けてこの箱庭に夜が来れば、あいつはここを破壊し、消滅させる」
――――そして、対の儀式は完了し……青葉ヒナタという人間は消えるだろう。




