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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第三章・煌~対なる扉、想いの狭間で君を待つ~
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結-4.いつか素直になれたなら

 薄暗い部屋の中、近くで人の気配を感じ、ヒナタは眠りの淵から目覚めた。

 ゆっくりと瞼を開いて飛び込んできたのは、槐の綺麗な顔。


 槐君!?

 ち、近い!


 はわはわと動揺しながら体を起こすと、近くにもう一人いる気配がした。

 障子の方を見ているようで、背中がこちらに向いているが、暗がりの中でもはっきり分かるツンツンした髪形。


「煌君」

「おう、起きたか」


 煌はヒナタの呼び掛けに、にっかりと笑いながら振り向く。


「あれっ? 他の皆は……?」


 不安そうにキョロキョロと辺りを見渡すと、彼は自分の口元に人差し指を当てる。


「しーっ。心配すんな、皆各々個室で休んでる。色々考える事もあるだろうから、そっとしとけ」

「あ、うん……煌君、ごめんね。……槐君も寝ちゃってたし、一人だけ起きてなきゃいけなかったんだね」

「いや、気にすんな。俺は問題ねぇけど、槐は何か体調悪そうだったから寝かせた。念のためこいつが起きたら、後でもう一回浄化っぽいの頼む」


 ヒナタはその言葉にこっくりと頷く。


 “サンキュ”と小さな声と共に、煌はピタリと黙ると、真っ直ぐヒナタを見つめた。

 その瞳は優しいようで、愁いを帯びているような眼差しである。

 沈黙が続く中、どこか落ち着かない雰囲気にヒナタが口を開いた。


「煌君、何考えてるの?」

「……色々」


 そう答えたまま、視線は動かさずにまた黙ってしまう。


 煌君、何かあったのかな。

 このままじゃ話しにくいから近付きたいけど、槐君の手は離せないし……。


 もぞもぞと動くと槐の表情が若干歪む。


「あっ……」

「槐が起きちまう。そのままそこに居てくれよ」


 煌の言葉は“お願い”であったが、どこか拒絶にも似た感じがした。


「煌君、そんなに離れていたら話しにくいよ。もうちょっと近くに来てよ」


 ヒナタは確かめる為に恐る恐る言ってみる。

 ――しかし、彼は僅かに微笑み少しも動かない。


「どうしたの?」

「いや……ただ、今の俺はこの距離が丁度良いんだよ。槐は寝ちまってるし、二人しか居ないようなもんだからさ」

「……よく、分からないんだけど……」


 戸惑うヒナタに、スッと妖艶に目を細める。


「今近付いたら、その先にも進みたくなっちまうから。それは、フェアじゃねぇし……だから今は、ここでいいんだよ」


 薄暗い部屋の中で、煌君の若草色の瞳に、いつもとは違う感情が見え隠れしている気がする。

 無邪気に笑ったり、子供みたいにケンカしたりしている時とは違う。

 今まで見た事がない一面。

 そしてまだ、溢れ出してくる気配。

 ――――煌君の言う通りかもしれない……今その全てを知ったら、何かが変わってしまう予感がする。

 私の様子を窺い、優しげに見つめるその瞳から、目が離せないのだから。


「……煌君」

「ん?」

「そのままでいいから、話そうよ……煌、君」

「…………だな……おうっ、いいぜ!」


 一瞬、動きを止めて下を向いた彼が、どういう表情をしていたかは分からない。

 顔を上げた時、いつもの“煌君”だったからだ。


「あ」

「うーっ、煌……うるさいよっ!」

「げっ、槐……起きちまった」


 いつもの三人に安堵し…………。


「……ねぇ、ヒナタ……熱ない? 体温上がってる気が――――」

「ないっ! 大丈夫! ずっと握ってるせい!」

「……ぷっ! 顔、赤いけど?」

「!」


 揺らめく炎のような何かが、心の奥底に宿るのを感じた。

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