結-4.いつか素直になれたなら
薄暗い部屋の中、近くで人の気配を感じ、ヒナタは眠りの淵から目覚めた。
ゆっくりと瞼を開いて飛び込んできたのは、槐の綺麗な顔。
槐君!?
ち、近い!
はわはわと動揺しながら体を起こすと、近くにもう一人いる気配がした。
障子の方を見ているようで、背中がこちらに向いているが、暗がりの中でもはっきり分かるツンツンした髪形。
「煌君」
「おう、起きたか」
煌はヒナタの呼び掛けに、にっかりと笑いながら振り向く。
「あれっ? 他の皆は……?」
不安そうにキョロキョロと辺りを見渡すと、彼は自分の口元に人差し指を当てる。
「しーっ。心配すんな、皆各々個室で休んでる。色々考える事もあるだろうから、そっとしとけ」
「あ、うん……煌君、ごめんね。……槐君も寝ちゃってたし、一人だけ起きてなきゃいけなかったんだね」
「いや、気にすんな。俺は問題ねぇけど、槐は何か体調悪そうだったから寝かせた。念のためこいつが起きたら、後でもう一回浄化っぽいの頼む」
ヒナタはその言葉にこっくりと頷く。
“サンキュ”と小さな声と共に、煌はピタリと黙ると、真っ直ぐヒナタを見つめた。
その瞳は優しいようで、愁いを帯びているような眼差しである。
沈黙が続く中、どこか落ち着かない雰囲気にヒナタが口を開いた。
「煌君、何考えてるの?」
「……色々」
そう答えたまま、視線は動かさずにまた黙ってしまう。
煌君、何かあったのかな。
このままじゃ話しにくいから近付きたいけど、槐君の手は離せないし……。
もぞもぞと動くと槐の表情が若干歪む。
「あっ……」
「槐が起きちまう。そのままそこに居てくれよ」
煌の言葉は“お願い”であったが、どこか拒絶にも似た感じがした。
「煌君、そんなに離れていたら話しにくいよ。もうちょっと近くに来てよ」
ヒナタは確かめる為に恐る恐る言ってみる。
――しかし、彼は僅かに微笑み少しも動かない。
「どうしたの?」
「いや……ただ、今の俺はこの距離が丁度良いんだよ。槐は寝ちまってるし、二人しか居ないようなもんだからさ」
「……よく、分からないんだけど……」
戸惑うヒナタに、スッと妖艶に目を細める。
「今近付いたら、その先にも進みたくなっちまうから。それは、フェアじゃねぇし……だから今は、ここでいいんだよ」
薄暗い部屋の中で、煌君の若草色の瞳に、いつもとは違う感情が見え隠れしている気がする。
無邪気に笑ったり、子供みたいにケンカしたりしている時とは違う。
今まで見た事がない一面。
そしてまだ、溢れ出してくる気配。
――――煌君の言う通りかもしれない……今その全てを知ったら、何かが変わってしまう予感がする。
私の様子を窺い、優しげに見つめるその瞳から、目が離せないのだから。
「……煌君」
「ん?」
「そのままでいいから、話そうよ……煌、君」
「…………だな……おうっ、いいぜ!」
一瞬、動きを止めて下を向いた彼が、どういう表情をしていたかは分からない。
顔を上げた時、いつもの“煌君”だったからだ。
「あ」
「うーっ、煌……うるさいよっ!」
「げっ、槐……起きちまった」
いつもの三人に安堵し…………。
「……ねぇ、ヒナタ……熱ない? 体温上がってる気が――――」
「ないっ! 大丈夫! ずっと握ってるせい!」
「……ぷっ! 顔、赤いけど?」
「!」
揺らめく炎のような何かが、心の奥底に宿るのを感じた。




