結-3.新たな約束を
まだ帰らぬ朧を待つ間、一度各々空き部屋で休む事になった。
槐は、泣き疲れて眠っているヒナタの手をしっかり握り、頬の涙を優しく拭う。
そこへ皆を案内し終わった煌が、静かに障子を開けて入って来た。
様子を窺いながらゆっくりと閉め、そっと傍に座る。
「適当に案内したけど」
「うん、ほとんど空き部屋だから大丈夫」
会話が途切れ、ヒナタの顔を眺めると二人は自然と無言になった。
――――どれくらいそうしていたか分からないが、スッと顔を上げた槐は、真剣な瞳をして煌を見つめる。
その表情に、苦笑いを浮かべて首を軽く振った。
「何か心配事か? ちゃんと分かってるって。今はそれどころじゃないけど、無事に帰ったら――――」
「ごめん、違うんだ」
「?」
首を傾げた煌に、ほんの少し顔を逸らしてチラリとヒナタを見ると、何かを決意したような表情を向けた。
「元の世界でした約束なんだけど」
「ああ、……大丈夫だから、ちゃんと守る――――……」
「――――守らなくていい。撤回させてほしい」
「へ?」
頬を指先で軽く掻き、ぎこちない様子だった煌の動きが止まる。
呆気にとられて目を丸くさせていると、槐がクスリと笑った。
「僕達、性格や好みが似てるでしょ? あの時、僕がヒナタに特別な感情を抱いたように、君も同じ感情を持つんじゃないかって思った。だから、友情を盾にあんな約束までして牽制しちゃった」
“卑怯だった”と申し訳なさそうに言う槐に、煌は首を振る。
「何言ってんだよ……んなの、お前の思い違いだって。俺は――――」
「……ダメだよ、怜」
否定しようとした瞬間、それ以上言わせないようにするかのように、言葉を被せる。
「何だよ、いきなり真名で」
「僕に嘘つかないで。確信に至ってないけど、気にはなっていたでしょ? ヒナタが拐われそうになった時、必死な君を見て思ったんだ……あの約束は間違いだったって」
「ストップ、もうやめようぜ。ヒナタが起きちまうから、あっちの世界に帰ってから続きを話せばいい」
話を終わらせようとしてか、気まずそうな雰囲気で背を向ける。
しかし、槐は握っていたヒナタの手を離して立ち上がると、正面に移動して、唖然としている煌を見据えた。
「おまっ!? 何してっ……」
「今言わなきゃいけないんだ。無事に帰れるかなんて分からないし、これを逃したら僕と君はここにいる限り、“煌”と“槐”。あの時の約束に、君は向き合ってくれないでしょ?」
「だからって……ヒナタの手を離すなよ」
慌てた表情をした煌が、手を引っ張ってヒナタに触れさせたが、やはり少し影響があったようで、少し顔色が悪くなっていた。
「お前も少し休んだ方が良い」
ぐらつく体を支えていると、槐はニコリと笑う。
「新しい約束をしよう。どんな結果になっても恨みっこ無しだよ。ね? 怜」
そう言い、ゆっくりとヒナタの隣に体を倒すと、静かに目を閉じる。
「――――分かったよ、翠」
静寂が満たす中、煌の呟きに安心したのか、穏やかな表情で槐は眠りについた。




