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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第三章・煌~対なる扉、想いの狭間で君を待つ~
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転-3.変

 色々話し合っていると、突然部屋に控え目なノック音が響く。


『!』


 二人は同時に体を硬直させ、物音をたてないようにゆっくりと扉の方を振り向いた。


「おい。居るんだろ?」

「!」


 こ、煌君!?

 そういえば、これからお世話になるから、その準備をしに来たんだった……すっかり忘れてた……。

 ど、どうしよう……今入って来られたら見つかっちゃう!


 扉の向こうには、一番見つかってはいけない相手がいる事に戦慄が走る。

 ……しかし、いつもならすぐに扉を開けて入るはずの煌が入って来なかった。


「……話があんから、玄関まで来てくれよ。待ってんから」

「……あ」


 声が聞こえて返事をしようとしたが、何かを言う前に足音が部屋から遠ざかっていく。

 完全に気配が無くなると、二人は同時に息を吐き、ホッとした表情をうかべて目を合わせた。


「た、助かった……ビックリしたぁ~」

「最悪の事態は避けられたけど、すぐに行った方がいいかも。部屋に居る事は分かってたみたいだし、返事をしなかった事を不信に思われたかもしれない」


 確かに、いつもと様子が違った……話し合いで重要な何かが決まったのかな……。

 あまりにも待たせると、また部屋に来られる可能性もあるし、急いで玄関に行かなきゃ。

 ――――と、その前に……。


「じゃあ、一応このクローゼットの中に隠れていて。すぐに戻って来るから」


 ヒナタが一人分入れる隙間を作って手招きをすると、槐はコクリと頷いて入り、小さく縮こまった。


「僕の事は気にしないで。自分を第一に考えていいから……」

「ううん、ちゃんと何とかするから大丈夫」


 心配そうな表情の彼に軽く微笑むと、“行ってきます”と言いながらゆっくり扉を閉めた。


 よし、頑張るぞ!

 隠し事するのは気が引けるけど、やるしかない!



 ***


 気合い満たんで階段の上から姿を捜し、キョロキョロとする。

 煌君は何やら真剣な表情で玄関ホールの壁に寄り掛かっており、私が急いで階段を駆け下りると、こちらに気付いて軽く右手を上げた。


「ご、ごめんね! 丁度着替えてて……」

「……あぁ、何となくそうなんじゃねぇかなって思った。開けなくて正解だな……蛍と朔に殺される所だった」


 心底安心したような表情をうかべると、“着いて来い”と言いながら廊下を歩き出した。


「何処に行くの?」

「ん~? 朔に用がある……まぁ、昴と蛍も居るけどよ」


 ヒナタが慌ててその背を追い掛けると、両腕を頭の後ろで組み、めんどくさそうな態度をしている。


 あれ? 私に話があったんじゃ?

 かなり真剣な事だと思って身構えて――――……って、いきなり皆がいる前で隠し事しなきゃいけないよ!

 いきなりハードル高いよ!


「おい! 何やってんだよ」

「はっ! ごめん!」


 不安げな様子で考えていると、いつの間にか部屋の前に着いた煌が扉を開けて待っていた。

 謝りながら急いで駆け寄って部屋の中に入ると、椅子に座って一斉にこちらを見た昴達と目が合う。


『……?』


 うっ……威圧感たっぷり……この四人と対面はかなり辛い。


 確実に槐の事がバレそうな状況に、先程の頑張ると言った誓いが揺らいでいく。

 自然と体は後ろへと引き返すように動き、一歩後ろに下がりかけた。

 ――――しかしその瞬間、ふわりと背中を支えられ、かろうじて部屋の中から出ないで済む。


「煌君……?」

「……何やってんだよ。しっかりしろよな」


 煌は小さく呟くと、ゆっくりとそのまま背中を押して一緒に部屋の奥へと足を踏み入れた。


「どうした?」


 昴が一瞬目を細め、何かを探るような視線を向ける。


「何でもねぇよ。さっきまでこいつ寝てたらしくって、まだ頭が起きてないんだよ。んで、ふらついたんだよな?」

「え、あ、うん。ありがとう、煌君」

「気にすんなよ!」


 まさか、庇われた? ……煌君が、私以上におかしい。

 昴さんは“何だコイツ”みたいな顔してるし、朔さんや蛍は呆れた表情をしてるような……?

 何よりそのキラキラな笑顔、初めて見たよ……。


「……なら、いいが。それで? お前は部屋の準備をしに行ったんじゃなかったのか?」

「あぁ、ちょっと朔に話があってさ」

「私にですか?」


 意外な言葉に朔が首を傾げる。


「もともと朔が使ってた部屋さ、確か床の一部が脆くなって修理が必要だったよな?」

「えぇ……ですが、普通の人間並な力しか出せなくなって、すぐには直せないので、とりあえず立ち入り禁止にしてますが?」


 あっ……立ち入り禁止の部屋!

 その場所、私が何とか出来ないかな。

 そうしたら、しばらく槐君が安心して――――。


「俺が直す」

「ええっ!?」


 色々考えていたヒナタの計画を、煌の一言が一瞬にしてかき消し、ショックのあまり悲痛な声を出してしまった。

 煌はその様子に少しビックリした表情をしたが、すぐに朔に向き直る。


「朔は飯や掃除で大変だろ? つー訳で、俺がやるから。んで、何かやりたそうにしてるコイツも、無理させない程度に手伝ってもらうから」

「え、私?」


 一瞬にして場の雰囲気が、“何で?”となる。


「…………気まぐれを起こしたと思ったら……何故ヒナタさんを巻き込むんですか」


 呆れた表情で溜め息をつく朔に、煌は“まぁ、たまには……”と歯切れ悪く呟く。

 しかし、その様子をじっと黙って見ていた蛍は、突然クスリと笑い、手を高々と上げる。


「良いと思いまーす。普段から煌はお手伝いしないし、せっかくの気まぐれを利用すればいいんじゃない? それに、ヒナタもやりたいんでしょ?」


 ニッコリと微笑まれ、自然とヒナタは頷いた。

 いまだに渋っていた朔も、その様子に白旗を上げ、“怪我だけは注意して下さい”と言って、仕方なく許可を出す。


「おう、任せろ! じゃ、俺達部屋の準備に戻るな! ――――行くぞ」

「え? あ、うん」


 用は済んだと足早に部屋を出て行く煌に、ヒナタは朔に軽く頭を下げると、慌ててその背を追い掛ける。


「待ってよ煌君! 何が何だか展開早くて――――」

「……」

「!?」


 先程の部屋から遠ざかり、ヒナタが追い付きそうな距離まで近付くと、クルリと振り返ってニカリと笑う。


 うん……? その顔……嫌な予感が――――。


 ヒナタが足を止めて顔を引きつらせていると、横の窓をガラリと開け、颯爽と窓枠に飛び移る。


「じゃ、床の事はお前に“全部”任せたからな!」

「へっ!?」

「あとは、頼んだぜ――――!」


 呆気にとられた表情のヒナタを残し、輝く笑顔をうかべて風のように素早い動きで窓から外へと飛び出す。


「こ、煌君!? それって、押し付け!?」


 慌てて窓に駆け寄り外に顔を出したが、煌の姿は遥か彼方へと消えていった。



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