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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第三章・煌~対なる扉、想いの狭間で君を待つ~
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承-2.バカはお前

「……」

「蛍……仕方無いとはいえ、今の煌には無理なのでは?」


 とある部屋の一室に蛍と朔は居た。

 そこは、裏庭の大きな木の近くにある部屋である。

 窓を開放していれば会話も筒抜けで、声が大きな煌とヒナタのケンカも、全て二人の耳に入ってきていた。

 蛍は椅子に座り、じっと窓を見ていたが、朔の言葉に下を向く。


「大丈夫じゃない。けど……煌しかいない。正直な所、もし朧が全力で僕達を攻撃してきたら、僕は鎌を握れるか分からない。ヒナタを傷付けるのは許さないけど、朧はそんな事しないって信じてる」

「……精神的に、今は煌に傷付けられてますが」

「……確かに、酷なやり方だと思う。ヒナタにとっても、煌にとっても――――でも、時間がないんだよ。迷ってられない……煌には、心から守りたいって思ってもらわなきゃ困るんだ」

「……」

「朔、記憶がある程度戻ってるなら気付いてるよね? ――――協力してもらうから」

「……分かってますよ」


 朔は頷くと静かに部屋を後にする。

 一人残された蛍はゆっくりと窓の外を眺め、琥珀色の瞳を細める。


「これが、最後のチャンスなんだ。……ダメだったら――――ヒナタだけでも……」


 蛍は小さく呟くと、目を閉じた。



 ***



「だあっ! めちゃくちゃイライラする! 何でだよ! 何で、こんなにモヤッとすんだよ……」


 森の一部が拓けている絶壁の端で、煌が落ち着きなくうろうろしていた。

 見渡す限り緑が広がって絶景だが、気分が晴れる事は無いようで、そのうち地べたに座ってあぐらをかく。

 この場所は、睡蓮の屋敷に行く途中、いなくなった蛍を捜しに訪れた場所で、ヒナタと出会った場所でもあった。


「つい最近までこんな事無かったのによ……あいつに近付くと、何か落ち着かねぇ。…………朔が、変な事言うからだ」


 煌はぶつぶつ独り言を呟いていたが、突然ピタリと喋るのをやめ、後ろを振り返る。

 背後はここまで通って来た森だが、別の何かを感じとったかのように、眉間に皺を寄せて睨み付けた。


「おい、分かってんだよ。てめぇの気配は忘れもしねぇ……出てこいよ」


 風が木の葉を揺らす音に混じり、微かに何かが移動する音がする。

 最後に“ガサッ”と繁みが大きく揺れると、そこから蔓の模様が入った白い仮面を被った人物が姿を現した。

 若竹色の髪が光を帯び、腰の位置まで伸びる三つ編みの髪が緩やかに宙を泳いでいる。


「やっぱてめぇか……仮面野郎」

「――――お前に用は無いよ。あの娘を出してくれる?」

「はっ、誰が言う通りにするかよ! それに、俺には用があるんだよ!」


 煌は勢いよく立ち上がると、両手に能力を発現させ、赤い炎が激しく燃え上がる。

 その様子に槐は蔓を出す事もなく、煌の様子を窺っていた。


「何で構えねぇんだ! 死にてぇのか!?」


 苛立つ煌に、槐は周囲に聞こえるような深く大きい溜め息を洩らす。

 仮面越しではあったが、確実に煌の耳に入ったようで、拳をより強く握った。


「前にも言ったけど、君やっぱり――――バカでしょ。そんな調子じゃ、あの娘にまた酷い態度とってるんじゃない?」

「なっ……!」

「まさか、泣かせたりしてないよね? 朧様の光にそんな事したら許さないからな」

「…………」

「…………」


 しばらくの沈黙後、煌の両手から発現していた炎が“シュン”と消えた。

 槐の言葉に毒気を抜かれたような表情でポカーンとすると、しだいに半笑いをし始める。

 その態度は明らかに槐を小馬鹿にしていた。


「はあ? 光だって? そういや、蛍も最初はアイツの事を“光”とか言ってたな……幼馴染って似るのか? ――――ハハッ、バカじゃね?」


 しかし、その手の毒舌は槐の方が上手であり、一切表情を崩す事はない。

 挙げ句の果てに、嫌なものを追い払うような仕草で、煌に向かって“シッ、シッ”とやっていた。


「うわー、相変わらず最悪な性格してるよね。――――ああ、仕方無いよね、バカだから分からないんだ。バ・カ・だ・か・ら・!」

「んだと!?」

「バカ。本っっ当にバカ。――単細胞ばか」

「バカはてめぇだ! バカバカ言いやがって! 毒舌仮面!!」


 二人は戦闘の構えも取らず、お互いにバカバカ言い合っていた。


「!」


 だが突然、ピタリと槐が黙ったかと思うと、だんだん焦ったような仕草を始め、“分かりました”と誰も居ない空間に話しかける。

 そのままクルリと煌に背を向け、森の中に走って行こうとした。


「待ちやがれ! 逃がすと思っ――ぐはっ!」


 煌が、無防備に向けられた背中を掴もうとした時、槐は素早く仮面から蔓を出現させ、そのまま振り返ると同時に弾き飛ばす。


「これも前に言ったよね? “逃げる”は違うってさ」

「ぐっ、お前っ!」


 勢いよく地面に倒れて歯を食い縛る煌を、槐は冷たい雰囲気で見下ろす。


「今日は帰ってあげるよ。それまで預けてあげるけど、あの娘に酷い事したら――――ただじゃおかないから」

「待ちやがれ!」


 槐は言いたい事だけ言うと、煌の制止を無視してあっという間に森の中へ姿をくらました。


「――――くそっ! 余裕こきやがってっっ! ぜってぇ、お前の思い通りにはやらせねぇ……」


 煌はゆっくり立ち上がると、槐が去った行った森を睨み続けた。


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