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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第二章・朔~秘めたる大華、君に捧ぐ~
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転-8.蕾

 ヒナタ達が待つ客間に、睡蓮が朔を伴って入ってきた。


「皆、集まっておるな? 早速で悪いが、昴・蛍・煌の三人には呪詛の解除の為、奈落の民・椿を捜してもらいたい」


 睡蓮の言葉に、名を呼ばれた三人は腑に落ちない表情をする。


「だいたいの状況は把握している。しかし、朔とコイツはどうするつもりだ? 呪詛を使って結界の内部に侵入されたら、今の朔では守りきれず、今度こそ連れていかれるぞ」


 昴が厳しい視線で睡蓮の後ろにいる朔を見つめたが、朔はその視線を受け止める事なくずっと下を向いていた。


「……それに関しては、使えぬよう我が封じる。だが急ぐのだ。どうやら荻の時同様、破滅の神の力が影響して、我の力だけでは長く抑えきれぬ」


 ……何だか難しい話になってきた。

 私につけられた呪詛は、結界の外から中に侵入するためにつけられたって事だよね。

 ん? 今度こそって事は、一回この呪詛が使われて侵入されたって事?

 私の知らない間に何かあったのかもしれない。

 朔さんもさっきから青ざめて下を向いてるし……。


 睡蓮と話し出した三人の傍を離れ、朔の様子をうかがいながら近付こうとしたヒナタの目の前で、朔が慌てて自分の口に手をあてがう。


「っぐ……かはっ!」

「!? 朔さんっ!」


 嫌な音をたてて咳き込んだ朔は、そのまま床に膝をつく。

 口にあてがった震える手から、真紅の液体がゆっくり滴り落ちた。

 朔の異変に凍りついたように動かない昴達とは逆に、全て悟ったように睡蓮が口を開く。


「力の代償が大きすぎた……玉を見つけた今なら、自分が何と引き換えに力を得ていたのか分かるであろう」

「……」


 朔は苦し気に呼吸を繰り返し、何も答えない。

 そんな朔に昴が近寄り前まで来ると、朔の顎を掴んで上を向かせる。

 口から吐き出した血が流れて顎をつたい、昴の手も紅く染まっていった。


「やめて下さい昴さんっ! 朔さんが苦しそうです!」

「少し黙っていろ」

「……っ!」


 止めようとしたヒナタに昴は冷たくいい放つ。

 無理矢理上を向かせられた朔は、先程より荒い呼吸をしながらも、昴の手をほどく事なくされるがままであった。


「朔、お前の口から聞く。何を代償にした」

「……」

「答えろ! 朔!!」


 ビリビリとした空気をはらみながら昴は叫んだ。


 ……聞きたくない。

 だって、昴さんの怒りが普通じゃない。

 朔さんは、昴さんが望まない代償を選んでいたんだ……他ならぬ主である昴さんの為に。


「朔、さん……」


 とても小さく呟くようなヒナタの声であったが、スッと朔の視線がヒナタに移る。

 ヒナタを視界に映した朔は驚く程穏やかに笑い、そのままの表情で昴に視線を戻し、ゆっくりと言葉を紡いだ。



「――――――命、でございます。昴様…………」



 ***



 あれから予定通り、三人は椿さんを捜しに15分程度で館を出る準備をした。

 昴さんは怒りを朔さんにぶつける事はなく、颯爽と身を翻して部屋を後にしていく。

 全てを諦めたような顔で笑う朔さん自身が、泣きそうになっていたからかもしれない。

 煌君と蛍は何も言えず、振り返らない昴さんを慌てて追いかけていき、ここにはどうすることも出来ない私と、朔さんだけ……睡蓮さんは私の呪詛を一時的に封じた後、部屋を出ていってしまったから。


「朔さん、とりあえず口許の血を……」


 ヒナタが前掛けのポケットからハンカチを取り出すと、ポロリと何かが落ちた。


 あっ……朔さんの部屋の前に落ちてた万年筆。

 誰のか分からないから返せずじまいですっかり忘れてた。


 ヒナタが万年筆を拾い上げてポケットに戻そうとすると、その手を朔が止める。


「これは、昴様の万年筆です。どこで……これを……」

「朔さんが熱をだした日に部屋の前に落ちていました。昴さんのだったんですね……じゃあ、帰ってきたら返して――――」


 ヒナタの言葉を遮るように朔は首を横に振る。


「いいえ、貴女が返すのだけはやめた方がいいでしょう。その万年筆は昴様がお父様から頂いたとても大事な物。毎日何度もきちんと持っているのを確認するくらいの品なんです」

「……」

「そんな万年筆を無くした事さえ気付かないなんて……」


 朔は納得したような表情をして、心配そうにしているヒナタに微笑む。


「私が熱を出した日……貴女が、私の傍にいたあの光景を昴様が見ていらっしゃった……昴様は私より先に気付いていたんですね」

「朔さん、あの、よく分からないですが……?」


 訳が分からず首を傾げるヒナタに、朔は目をふせる。


「……いえ、無意識でしょうか」


 “それほどまでに、貴方は――――――”


 朔さんの悲しげな呟きが小さく聞こえたと同時に、私の胸はせつなく締め付けられるような感覚が広がっていた……。




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