起.花
お久しぶりの更新です!
雨上がりの澄んだ空気の中で、一羽の小鳥がヒヨヒヨ鳴いている。
黒くて紅い目の小鳥だ。
ついさっき窓際に降り立ち、一輪の雛菊を持ってきた。
“ヒヨヒヨ、ヒヨヒヨ”と鳴く声と愛らしい姿に、ヒナタは泣くのも忘れ見つめる。
「もしかしてこれ、くれるの?」
そう言いながら雛菊を手に取ると、返事をするかのように小鳥が“ピイ”と鳴いた。
まるで私の言葉が理解出来るみたいだ。
「小鳥さんも目が紅いんだね。奈落の人達と同じ色だ……後は――――」
悲しげな紅い瞳、漆黒の髪……。
(封印は解くな)
私の事を知っていたあの人。
誰だったんだろう……。
「ピィ!」
「あっ……」
考え事をしていると、突然小鳥は大きく鳴き、飛び立ってしまった。
視線を小鳥から森に向ける。
ガサガサと音がしていて、小鳥はこの音で逃げたらしい。
音が近くなり、そこから出てきたのは……。
「蛍さん?」
全身ずぶ濡れだし、あちこちに葉っぱを付けた状態だよ……何してたんだろう。
「蛍さん、風邪引いちゃいますよ」
ヒナタが話しかけると、蛍は何も言わずに窓際まで近付いて、ヒナタが持っていた雛菊を見つめた。
「あっ、これですか? さっき、小鳥が来て貰っちゃいました」
ヒナタは大切そうに雛菊を持っている。
蛍はヒナタのそんな様子を見ると、ゆっくり手を差し出した。
「……貸して」
「え?」
「……」
「この花をですか?」
花を渡すのは問題なかった。
しかし、ヒナタは蛍の瞳を見て不安になる。
いつもは感情を宿していない瞳だが、今は少し暗い感じがしたからだ。
「蛍さん、ごめんなさい。すぐに花瓶に入れてしまおうと思います……しおれてしまいますから」
ヒナタはもっともらしい理由を言い、蛍に背を向ける。
そのままドアに向かって歩き出そうとしたが、後ろから微かに音がして、ヒナタは振り返った――――その瞬間である。
「え?」
ヒナタの手から雛菊が消え、いつの間にか部屋の中には蛍が居た。
蛍の手には雛菊が握られている。
いつの間に!?
「蛍さんっ! 返して下さい!」
ヒナタが叫ぶと蛍はゆっくり顔を上げた。
「……駄目。これ、黒いから」
「黒いって……黒くありませんよ?」
蛍は首を振り、そのまま勢いよく雛菊を握り潰した。
「蛍さんっ!」
ヒナタは驚きの表情の後に、無惨な形で散った雛菊を見て、悲しげな表情になる。
「ひどい……なんで……」
ヒナタは潰された雛菊を見つめ、呟いた。
そんなヒナタに蛍は握っている手をゆっくり開いていく。
“サァッ”と音がしたかと思うと、蛍の手のひらから真っ黒な灰がサラサラと流れ落ちた。
灰は風に乗り、窓から出ていく。
「これって……」
「花……奈落に咲いた花は、黒い。黒い灰は、穢れるから駄目」
穢れ……もしかして、堕ち人になるかもしれなかったって事かな……。
「蛍さん……だから貸してって言ったんですね。灰になる前に……私が穢れないように――」
蛍はゆっくり頷いた。
「さっきはごめんなさい……ありがとう、蛍さん」
ヒナタは蛍に近寄り、微笑む。
「……!」
蛍は一瞬感情が戻ったように、ビックリしたような表情をした。
あれ……いつもの微笑みじゃない?
「蛍さん?」
ヒナタが話しかけると、蛍はヒナタを見つめて首をかしげる。
「……ヒナタ、笑ってる」
「?」
蛍は突然フラフラと窓に向かっていく。
「……が……する。……れる…………ろ」
そのまま窓から見える黄昏を見つめ、いくつか呟き動かなくなった。
蛍さんの様子がおかしい……もしかして、さっきの黒い灰って蛍さんも触っちゃ駄目なものかも……。
ヒナタは蛍の腕を掴むと、揺すった。
「蛍さん! しっかりして下さい! 他の人に診てもらいましょう!」
「?」
蛍はゆっくりヒナタと視線を合わせると、首をかしげる。
駄目だ! 引っ張って行こう!
とりあえず、朔さんの所に!
黒い灰を握っていない方の蛍の手を取り、ヒナタは勢いよくドアを開け放つと、長い廊下を走り出した。




