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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第一章・蛍~忘れること無かれ、君との思ひ出~
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起.花

お久しぶりの更新です!

 雨上がりの澄んだ空気の中で、一羽の小鳥がヒヨヒヨ鳴いている。

 黒くて紅い目の小鳥だ。

 ついさっき窓際に降り立ち、一輪の雛菊を持ってきた。

 “ヒヨヒヨ、ヒヨヒヨ”と鳴く声と愛らしい姿に、ヒナタは泣くのも忘れ見つめる。


「もしかしてこれ、くれるの?」


 そう言いながら雛菊を手に取ると、返事をするかのように小鳥が“ピイ”と鳴いた。


 まるで私の言葉が理解出来るみたいだ。


「小鳥さんも目が紅いんだね。奈落の人達と同じ色だ……後は――――」


 悲しげな紅い瞳、漆黒の髪……。


(封印は解くな)


 私の事を知っていたあの人。

 誰だったんだろう……。


「ピィ!」

「あっ……」


 考え事をしていると、突然小鳥は大きく鳴き、飛び立ってしまった。

 視線を小鳥から森に向ける。

 ガサガサと音がしていて、小鳥はこの音で逃げたらしい。

 音が近くなり、そこから出てきたのは……。


「蛍さん?」


 全身ずぶ濡れだし、あちこちに葉っぱを付けた状態だよ……何してたんだろう。


「蛍さん、風邪引いちゃいますよ」


 ヒナタが話しかけると、蛍は何も言わずに窓際まで近付いて、ヒナタが持っていた雛菊を見つめた。


「あっ、これですか? さっき、小鳥が来て貰っちゃいました」


 ヒナタは大切そうに雛菊を持っている。

 蛍はヒナタのそんな様子を見ると、ゆっくり手を差し出した。


「……貸して」

「え?」

「……」

「この花をですか?」


 花を渡すのは問題なかった。

 しかし、ヒナタは蛍の瞳を見て不安になる。

 いつもは感情を宿していない瞳だが、今は少し暗い感じがしたからだ。


「蛍さん、ごめんなさい。すぐに花瓶に入れてしまおうと思います……しおれてしまいますから」


 ヒナタはもっともらしい理由を言い、蛍に背を向ける。

 そのままドアに向かって歩き出そうとしたが、後ろから微かに音がして、ヒナタは振り返った――――その瞬間である。


「え?」


 ヒナタの手から雛菊が消え、いつの間にか部屋の中には蛍が居た。

 蛍の手には雛菊が握られている。


 いつの間に!?


「蛍さんっ! 返して下さい!」


 ヒナタが叫ぶと蛍はゆっくり顔を上げた。


「……駄目。これ、黒いから」

「黒いって……黒くありませんよ?」


 蛍は首を振り、そのまま勢いよく雛菊を握り潰した。


「蛍さんっ!」


 ヒナタは驚きの表情の後に、無惨な形で散った雛菊を見て、悲しげな表情になる。


「ひどい……なんで……」


 ヒナタは潰された雛菊を見つめ、呟いた。

 そんなヒナタに蛍は握っている手をゆっくり開いていく。

 “サァッ”と音がしたかと思うと、蛍の手のひらから真っ黒な灰がサラサラと流れ落ちた。

 灰は風に乗り、窓から出ていく。


「これって……」

「花……奈落に咲いた花は、黒い。黒い灰は、穢れるから駄目」


 穢れ……もしかして、堕ち人になるかもしれなかったって事かな……。


「蛍さん……だから貸してって言ったんですね。灰になる前に……私が穢れないように――」


 蛍はゆっくり頷いた。


「さっきはごめんなさい……ありがとう、蛍さん」


 ヒナタは蛍に近寄り、微笑む。


「……!」


 蛍は一瞬感情が戻ったように、ビックリしたような表情をした。


 あれ……いつもの微笑みじゃない?


「蛍さん?」


 ヒナタが話しかけると、蛍はヒナタを見つめて首をかしげる。


「……ヒナタ、笑ってる」

「?」


 蛍は突然フラフラと窓に向かっていく。


「……が……する。……れる…………ろ」


 そのまま窓から見える黄昏を見つめ、いくつか呟き動かなくなった。


 蛍さんの様子がおかしい……もしかして、さっきの黒い灰って蛍さんも触っちゃ駄目なものかも……。


 ヒナタは蛍の腕を掴むと、揺すった。


「蛍さん! しっかりして下さい! 他の人に診てもらいましょう!」

「?」


 蛍はゆっくりヒナタと視線を合わせると、首をかしげる。


 駄目だ! 引っ張って行こう!

 とりあえず、朔さんの所に!


 黒い灰を握っていない方の蛍の手を取り、ヒナタは勢いよくドアを開け放つと、長い廊下を走り出した。



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