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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


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第八十六話「竜が、生まれた」

八十六話目です。


百年越しの瞬間です。


長く待ったことが、一瞬になる。その瞬間を、丁寧に書きます。


では、どうぞ。

音がした後、山が静かになった。


完全に、静かになった。


虫の声も、風の音も、消えた。


光が、少し和らいだ。


目が、慣れてきた。


卵を見た。


卵に、ひびが入っていた。


一本の細いひびが、卵の表面を走っていた。


「入りましたね、ひびが」


「そうだ」と竜は言った。声が、低かった。


「動かなくて大丈夫ですか」


「大丈夫だ。自分で出てくる。手を貸してはいけない」


「待ちますね」


「待て」


オルトが、書いていた。


震える手で、書いていた。


「大丈夫ですか、オルトさん」


「大丈夫です。興奮しています」


「そうですね」


「百年間、待っていたものが、今、生まれようとしています。書かずにいられないです」


「書いてください」


「書きます。全部、書きます」


シロが、ひびの入った卵を、じっと見ていた。


動かなかった。


息も、ひそめているようだった。


「シロも、静かにしていますね」


シロが、耳だけ動かした。


聞こえている、という意味だった。



ひびが、また広がった。


今度は、二本になった。


「広がっています」


「そうだ」


竜が、卵にさらに鼻を近づけた。


「何かを感じているんですか」


「感じている。内側から、押している。もうすぐだ」


「もうすぐですか」


「もうすぐだ」


ひびが、また広がった。


三本、四本。


放射状に、広がっていった。


光が、ひびから漏れた。


細い光が、外に出てきた。


「光が、外に出てきましたね」


「出てきた」と竜は言った。「出てきた」


もう一度言った。


声に、何かがあった。


百年間、待っていた声だった。


ひびが、一つになった。


卵の上半分が、ずれた。


中から、何かが動いた。


小さかった。


とても、小さかった。


「小さいですね」


「小さい」と竜は言った。「でも、生きている」


「生きていますね」


小さな竜が、卵から出てきた。


翼が、まだ小さかった。


鱗が、濡れていた。


目が、開いた。


初めて見る世界に、目を向けた。


最初に見たのは、親の竜だった。


「見ましたね、親を」


「見た」と竜は言った。声が、震えていた。


「竜も、声が震えることがあるんですね」


「百年間、待っていたから」


「そうですね」


「百年間、一人だった。今日から、一人ではない」


「そうですね」


竜が、子どもの竜に鼻を近づけた。


子どもの竜が、親の竜を見た。


見て、光った。


体全体が、少し光った。


「光りましたね、子どもが」


「そうだ。生まれた証拠だ」


「生まれた証拠が、光なんですね」


「そうだ。新しい命は、光る」


シロが、子どもの竜を見た。


子どもの竜が、シロを見た。


目が合った。


子どもの竜が、首を傾けた。


「シロを見ていますね」


「そうですね」


子どもの竜が、シロに近づこうとした。


竜が、少し動いた。


「大丈夫です。シロは、優しいです」とシロに代わって言った。


竜が、少し止まった。


「信用できるか」


「信用できます。シロは、精霊にも触れられる存在です」


「精霊に、触れられる」


「そうです。自然と調和できる者です」


竜が、また止まった。


しばらして、動いた。


子どもの竜が、シロに近づいた。


シロが、動かなかった。


ただ、いた。


子どもの竜が、シロの鼻に触れた。


触れて、また光った。


「また光りましたね」


「新しいものに触れると、光る」と竜は言った。


「生まれてすぐに、新しいものに触れている」


「この山に生まれて、すぐに色々と触れている。良いことだ」


「そうですね」


オルトが、書き続けていた。


全部、書いていた。



夜明けが近くなった頃、ガレスが来た。


護衛と一緒に、山を登ってきた。


息を切らしていた。


「間に合いましたか」


「間に合いました。生まれた後ですが、起きています」


ガレスが、子どもの竜を見た。


「生まれたんですね」


「生まれました」


「百年間か」とガレスは言った。小さく言った。


「百年間です」


「この国の川が、百年間暴れていた理由が、これだったんですね」


「そうです。竜が、卵を守るために嵐を起こしていました」


「そして、今日生まれた」


「生まれました」


ガレスが、竜を見た。


竜が、ガレスを見た。


「セルドの王か」と竜は言った。


「そうです」とガレスは言った。竜の言葉が分かったらしかった。


「川を、使ってもらった。邪魔をした」


「邪魔ではなかったです。川が荒れたから、凪さんが来てくれました。凪さんが来てくれたから、今日がある」


「そうかもしれない」と竜は言った。


「川の問題がなければ、竜の卵のことも知らなかったです。全部がつながっていました」


「そうだな」と竜は言った。


「これから、川は穏やかになりますか」


「穏やかになる。嵐を起こす理由がなくなった。卵が生まれた。守り終えた」


「ありがとうございます、百年間、守ってくれて」


「礼はいらない。親として、やることをやった」


「そうですね」


ガレスが、子どもの竜を見た。


「名前は、ありますか」


竜が、少し考えた。


「まだない」


「ルナという子が、名前を考えていると言っていました」


竜が、私を見た。


「ルナというのは、誰だ」


「集落の子どもです。精霊と友達で、記録をつけています。竜のことを、ずっと気にしていました」


「子どもが、私の子の名前を考えているのか」


「考えたいと言っていました。迷惑でしたか」


竜が、少し動いた。


「迷惑ではない。聞こう」


「帰ったとき、聞いてきます。それから、また伝えに来ます」


「来い。名前を持ってこい」


「来ます」



朝になった。


山に、光が差してきた。


子どもの竜が、光の中で動き回っていた。


まだ、よちよちとした動きだった。


でも、確かに動いていた。


「元気ですね」


「元気だ」と竜は言った。


「良かったです」


「良かった」と竜は言った。


「百年間、守ってきた結果が、この子ですね」


「そうだ」


「報われましたね」


「報われた」と竜は言った。


また、声に何かがあった。


百年間の重さが、一言に込められていた。


ガレスが、その声を聞いていた。


「記録に残ります」とオルトが言った。


「そうですか」


「今日、この山で起きたことを、全部残します。百年後の誰かが、読んだとき、分かるように」


「百年後ですか」


「百年後も、残ります。記録があれば」


竜が、オルトを見た。


「記録係か」


「そうです」とオルトは言った。


「記録が残れば、忘れない」


「そうです」


「私が百年間覚えていたのと、同じだな」


「記憶と記録は、似ていますね」


「そうかもしれない」と竜は言った。「この子のことを、記録に残してくれ」


「残します」とオルトは言った。


「生まれた日を、残してくれ」


「残します。今日の日付、光の様子、生まれた時刻、全部残します」


「頼む」


「任せてください」



昼前に、山を下りることにした。


ガレスも、一緒に下りた。


竜が、見送った。


「また来るか」とガレスに聞いた。


「来ます。この子の成長を、見に来ます」


「来い」


「凪も来るか」と竜が私に聞いた。


「来ます。名前を持ってきます」


「待っている」


子どもの竜が、私たちを見ていた。


また、首を傾けていた。


「不思議そうですね、私たちが」


「初めて見る存在だから」と竜は言った。


「そうですね」


「この子にとって、今日見たもの全部が、初めてだ。山も、川も、光も、お前たちも」


「そうですね」


「全部が、初めての日だ」


「良い日に、生まれましたね」


「そうだな」と竜は言った。


少し間があった。


「良い日だった」と竜はもう一度言った。


今度は、もっと柔らかく言った。


百年間の緊張が、少し解けたような声だった。


「良い日でしたね」と私も言った。


山を下りた。


シロが、先を歩いた。


ガレスが、横に来た。


「凪さん、一つだけ言わせてください」


「なんですか」


「来てくれて、ありがとうございます。セルドの川の問題を、解決してくれたとき。今日、竜の子どもが生まれる日に、いてくれたこと。どちらも、感謝しています」


「気になることがあったので、来ました」


「受け取ってください」とガレスは言った。


「受け取ります」


「全部、あなたが動いたから、今日がありました」


「みんなが動きました」


「あなたが最初に動きました。最初が、一番大事です」


「そうですね」


「受け取れましたか」


「受け取りました」


「良かったです」とガレスは言った。


「ガレス王が笑っていますね」


「笑っています」とガレスは言った。「今日は、笑える日です」


「そうですね」


山の道を、下りた。


川の音が、聞こえてきた。


穏やかな音だった。


嵐を起こす理由が、なくなったから。


「川が、穏やかですね」


「そうですね」とガレスは言った。


「これが、本来の川ですか」


「これが、本来の川だと思います。昔話に出てくる、穏やかな川と同じです」


「昔話の川に、戻ったんですね」


「戻りました」


「良かったですね」


「良かったです」とガレスは言った。


シロが、川を見た。


尻尾を振った。


「シロも、川が好きですか」


シロが、また振った。


「穏やかな川は、好きですね、シロも」


また振った。


川が、静かに流れていた。


山の竜が、子どもと一緒にいた。


百年が、終わって、また始まった。


「帰ります」と川に向かって言った。


「ルナが待っています。名前の答えを聞きに行きます」


川が、静かに流れた。


返事のような流れだった。


「帰ります」


シロが、前を向いた。


帰ろう、という顔だった。


「帰りましょう」

八十六話目、書きました。


「百年間、一人だった。今日から、一人ではない」という竜の言葉。この一言に、竜の百年間が全部込められていた場面でした。


「新しい命は、光る」という竜の言葉。子どもの竜が、親に触れたとき、シロに触れたとき、光った。光ることが、生まれた証拠であり、新しいものに触れた証拠でもある。


シロと子どもの竜が鼻で触れ合った場面。シロは、精霊にも触れられた。自然と調和できる者として、最初に触れ合えた。これは、シロというキャラクターの一番大事な場面でした。


「記憶と記録は似ている」という竜の言葉。竜が百年間記憶してきたことと、オルトが記録することが、同じ構造だった。覚え続けることと、書き続けることは、同じ目的を持っています。


「今日は笑える日です」というガレスの言葉。笑えない日と、笑える日を区別している。ガレスが、今日という日を、ちゃんと受け取っていた場面でした。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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