第16話:パチン、パチン、はい、資源回収完了です
第16話をお届けします。
新宿ダンジョンから溢れ出た地上最悪の災厄『大氾濫』。
東京が壊滅すると世界中が日本を見捨てて嘲笑する中、ミリアの仕掛けたバリアによって、怪獣たちがただの「クリーンエネルギー」として全自動で収穫されていく、圧倒的な格差とスカッとする内政無双のシーンを大ボリュームで描写しました。
「おい……嘘だろ……。あの『地獄のベヒモス』が、触れただけで消えたぞ……」
新宿駅前、
コンクリートと土嚢で急造された瓦礫の防衛線の影。
陸上自衛隊の最前線部隊に配属された若き隊員たちは、もはや自らの手に握られた自動小銃の引き金から完全に指の力を抜き、ただただ眼前に広がる超常の光景に魂を奪われていた。
彼らは数分前まで、銃身が熱で焼き切れるまで弾薬を撃ち尽くし、最後は化け物に噛み殺されるのだと、誰もが死を覚悟していた。
戦車砲すら容易に弾き返す怪物の大軍勢を前に、地球の科学力では抗う術などないと絶望していたのだ。
しかし、
その絶望の最前線は、今や完全に、どこかコミカルで冷徹な「全自動リサイクル工場」のラインと化していた。
――パチン。
――パチン、パチン、パチン。
地表の空気を激しく引き裂き、ビルをも一撃でへし折るほどの咆哮を上げて飛び出してきた翼長三十メートルのワイバーン。
その巨体が、新宿駅の地上に展開された淡い黄金色のシールドに鼻先を触れさせた瞬間に、何の一撃を交えることもなく、きらきらとした光の霧となって空間へ蒸発した。
続いて大穴の底から這い出してきた、既存の近代兵器のミサイルすら跳ね返す岩石の皮膚を持った巨大怪獣、ベヒモスの群れ。
それらもまた、時速百キロを超える猛烈な突進の勢いのまま黄金の膜に激突し、その全運動量と全質量を、弾けたクラッカーのようなマヌケな破裂音と共に四角い結晶へと強制変換されていく。
それは、激しい戦闘でもなければ、血生臭い虐殺でもなかった。
ただ、
そこにある宇宙の物理法則そのものが「モンスターという有害物質を、純粋なエネルギー結晶へと濾過する」という一点のみに、ザーランド王国の魔法科学によって上書きされているだけだった。
怪獣たちは、ただの一歩も新宿の街へ踏み出すことを許されない。
新宿駅東口のロータリー、避難を完了した無人の大通りの中心には、大型トラックの荷台ほどの大きさを持つ、ザーランド王国製の『高密度エネルギー回収コンテナ』がいくつも並べられていた。
そのコンテナの内部には、上空や地表のシールドで弾けた、青く透き通った親指大の結晶が
――ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ!!!
と、鳴り止まない豪雨のような凄まじい音を立てて絶え間なく降り注いでいた。
パチンコ屋の大当たりなどというレベルではない。
収穫期を迎えた小豆が、全自動の選別機を通ってホッパーの中へ滝のように流れ落ちていくかのような、あまりにも規則正しく、あまりにも事務的な、圧倒的物量による「資源の収穫」がそこにはあった。
防衛省地下作戦室の大型メインモニターを、美味しい和食のレシピ本を片手に優雅に見つめていたルシードとミリア。ミリアはパチパチと嬉しそうに両手を叩き、まるで特売のタイムセールに大成功したかのように声を弾ませていた。
「わあ! 見てください、ルシード様!
コンテナがもう3個目も満杯になりそうです!
地球の生ゴミさんは、向こうから勝手に分別されて飛び込んできてくれるので、本当に行儀が良くて助かります~ね!」
「そうだね、ミリア。
これほど純度が高く、かつ効率的にコンテナの中に収まってくれるエネルギー廃棄物は、我が国の王都のゴミ処理場でもなかなかお目にかかれないであるよ。
地球の足元には、本当に素晴らしい未開発の資源が眠っているんだね」
ルシードも心からの満足そうな笑みを浮かべ、小鳥遊首相代行から差し出された温かい緑茶を上品に口に運んでいる。
その様子を横で見つめていた案内役の天野晴斗一尉は、もはや乾いた笑いすら出ず、ただただ自分の常識が音を立てて崩壊していくのを自覚していた。
「……小鳥遊首相代行。あのコンテナ1個で、我が国の全電力を、完全無償で賄えるんですよね?」
「ああ、ルシード殿はそう仰っていたね、天野一尉」
「今、4個目のコンテナが満杯になろうとしてるんですが……
これ、日本の電気代が永久にタダになるどころか、世界のエネルギー利権を完全に日本の手の中に握れるんじゃありませんか?」
「そうだな。
アラブの石油王も、我が国の前には形無しだろう。
中東の原油もロシアの天然ガスも、我が国にはもう1滴すら必要ない。
これからは無限のクリーンエネルギー先進国として、世界をリードしていくことになる。
これほど誇らしいお節介が、他にあるかね?」
小鳥遊首相代行は、長年の緊迫から解放されたように、かつてないほど深く、そして穏やかな笑みを浮かべていた。
政界の大洗濯を経て、日本政府の生き残りたちは、ザーランド王国の「常識の壊れっぷり」に対する完璧な適応力と、これを利用した国家再建のヴィジョンを確固たるものにしていたのだ。
だが、このあまりにもマヌケで、あまりにも圧倒的な「資源回収イベント」を、人類滅亡の特番として全世界へ向けて「日本滅亡のカウントダウン」として大絶賛で生放送していた海外のテレビ局。
そして、
日本を核で焼き払おうと、冷酷な指を発射ボタンにかけていた大国の大統領や将軍たちは、まったく違った。彼らは今、歴史上最大となる「現実の崩壊」に直面し、ただただ開いた口が塞がらなくなっていた。
「……おい、嘘だろ……。何が起きているんだ……? 画面のバグか……!?」
A国ワシントンのホワイトハウス、ペンタゴンの最高司令官たちが集まる極秘作戦室。
世界最強を自負する自国のステルス戦闘機や巡航ミサイルを何百発撃ち込んでも皮膚一つ傷つけられなかった、あの最強最悪のドラゴンの大軍勢が。
画面の向こうで、夏の夜に蚊取り線香の電撃網に引っかかった羽虫のように、パチン、パチンとマヌケな音を立てて、ただの青い宝石に変えられていくのだ。
「あのバリアはなんだ!?
どんな物理障壁だ!?
我が国の最新鋭の科学力をもってしても、あのようなエネルギーのクラッキングは理論上すら不可能なんだぞ!」
大統領は、手に持っていたホットコーヒーを、自身の最高級のスラックスの上にドボドボとこぼしていることすら気づかないほどに、目を見開いて硬直していた。
C国の最高指導部にいたっては、さらに悲惨なパニックに陥っていた。
「日本を核で焼き払え」
と国際社会に大声を張り上げ、軍事介入と領土割譲の準備を整えていた老幹部たちは、画面に映し出される「ジャラジャラと積み上がる青いエネルギー結晶の山」を見つめ、あまりの衝撃と国際格差の絶望に、数人がその場で脳溢血を起こして椅子から転げ落ちていた。
彼らが「地球滅亡の予兆」として恐れ、日本を嘲笑し、世界から孤立させるための道具にしていた最大最悪の大氾濫が。
異世界の、お節介な少年少女が設置した「出力わずか1%のゴミ箱バリア」の前に、ただの超効率的な「電力の大量収穫イベント」へと、その概念を完全に、そして無慈悲に粉砕されてしまったのだ。
世界が、日本が絶望の淵から生還したことを知った。
「――専守防衛システム、大氾濫の全自動吸引濾過を完了。空間の残存魔素、完全にゼロ。モンスターの地上への流出は……一頭もありません」
新宿ダンジョンが完全崩壊し、数万頭のモンスターが噴き出し始めてから、わずか数十分。
オペレーターの震える声が防衛省の作戦室に響いたとき、新宿の街には、ビルの一棟にも、アスファルトの一箇所にも、ただの傷一つすらついていなかった。大穴の周囲に残されたのは、ただ山積みにされた、眩いばかりの青いエネルギー結晶が入った巨大なコンテナの群れだけ。
「いやあ、地球のゴミ拾いは、向こうから勝手に分別されて飛び込んできてくれるので、本当に楽で素晴らしいですね!
日本の皆さん、これで明日からの電気代は心配いりませんであるよ!」
ルシードは心からのピュアな笑顔で、誰も傷つかなかった世界に向けてそう言い放った。
世界が絶句し、地球の軍事・エネルギーの常識が完全に崩壊する中、新宿駅前の「未曾有の大掃除」は完了した。
しかし、
銀河最高峰のお人好し国家による「お節介」は、ここからさらに加速し、世界の手のひら返しを笑顔でシャットアウトしていくことになる。
第16話をお読みいただき、ありがとうございました!
世界中が絶望し、日本を見捨てていた大氾濫が、ミリアのバリアによって「ただの効率的な資源収穫イベント」として処理され、コンテナに小豆のように結晶がジャラジャラ溜まっていく、圧倒的な格差描写を描かせていただきました。ホットコーヒーをこぼして硬直する大国たちの姿に、最高のカタルシスを感じていただけましたでしょうか。
次回、第17話では、この信じられない結末を見た海外の大国たちが、手のひらを返して「我が国にもそのバリアとエネルギーをよこせ!」と怒鳴り込んできます。
しかし、ルシードたちは「え? これはただのゴミ箱ですよ?」と素で返しつつ、さらにこの新宿ダンジョンを便利に使うための「次なるお節介プラン」へと動き出します!
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