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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 流山 ヱリク(旧:神田川 秋人)
第4章 世界樹奪還作戦

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第76話 建国宣言




あっという間に5日間が経過し、建国宣言の当日を迎えた。


私は、ライゼン副将補ふくしょうほやセリカが準備してくれた総督府そうとくふの控え室へと向かうべく、警備隊長であるリヴィアと筆頭秘書官のセリカを連れて廊下を歩いていた。


すると、廊下の向かい側から見知った少女――いや、年齢的には向こうの方が上なのだが、見た目は完全に年下の少女にしか見えない女性が歩いてきた。


金色の髪に翡翠ひすい色の瞳をした美しい容姿である。

おそらく、人族がエルフと聞いて思い浮かべる典型的な容姿だろう。




セナ――いや、()()()()だ。




セナさまは、向かい側を歩く私に気が付くと、満面の笑顔を浮かべて駆け寄り、まるで抱きつかんばかりの距離で話しかけてきた。


「リヒトさ―――」


しかし、この場にはたくさんの人の目があることに気が付いたのだろう。


ごほん、とわざとらしくせきをしてから言い直した。


「リヒト総裁。世界樹の奪還、お見事でした。流石さすがでございます。」


何だか仰々しいもの言いだが、彼女の社会的立場を考えるとこれくらいでちょうど良い。


「お褒めにあずかり光栄です。セナさま。いよいよ、この時が参りましたね。」


私も同じく総裁としての社会的立場があるため、軽く頭を下げて返事をする。


「はい、我々エルフにとっても、そしてもちろんこのわたくしにとっても、この日を待ち焦がれていました。」

「私も同感です。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。」


その後、セナさまはまだ私と話をしたそうにしていたが、お付きのエルフに促されて控え室へと入っていった。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


その姿を見送り、少し間を空けてから私も控え室へと入る。






控え室の中には、既にジンの姿もあった。


クオンやレオナがこの場にいないのは寂しいが、この控え室にはジンやリヴィア、セリカといった側近たちは全員が集まっている。

同じく、手の空いている空軍や陸軍の兵士たち、ウルスタインから移住してきたエルフたちもである。




「さすがに緊張している?リヒト。」


控え室の椅子に座ると、私の後ろに立っているリヴィアが話しかけてくる。

いつの間にか、隣にはジンの姿もあった。


「少しはな……。ただ、高揚感の方が強い。建国は始まりに過ぎないが、それでもようやく、我々の努力が1つの形として現れるのだ。それに、これでもう流浪るろうの民から脱することができる。」


社会的な生き物であるのは、エルフも人族も同じである。

自らの国家や帰るべき場所が無いということは、想像以上に人々を不安にさせるものだ。

祖国の再興により、エルフ社会はこれまで以上に団結を深め、強くなるだろう。


「へー、リヒトが緊張するなんて珍しい。頑張ってよね!かっこいい姿を見せてよ!」


そう言って、リヴィアが微笑みかけてくれる。


「リヒトは有言実行でここまで来たんだ。堂々と建国を宣言すればいい。みんな、お前を信じて付いていくさ!」


隣のジンも、私の肩に手をやり、ニヤリと笑いながら背中を押してくれた。


周りを見渡すと、セリカやライゼン副将補ふくしょうほも黙って頷いてくれる。

その後ろには、空軍No.3のバルト副将補の姿もあった。


皆、私の行く道を支えてくれた仲間たちだ。


世界樹のふもとにある街の復旧と整備が完了次第、事実上の首都をウルスタインからここに移し、ルノアやゼラム、アンフェムといった閣僚たちも移住してくる予定だ。


全て、怖いくらいに順調である。


だからこそ、私は気を引き締め直し、皆に声をかけた。


「皆、これまで私を支えてくれてありがとう。だが、知っての通り、我々の戦いはここからだ。今後ともよろしく頼む。」


そして、私は建国宣言を行うべく、皆を引き連れて総督府のバルコニーへと歩み出した。






総督府のバルコニーに出ると、目の前には世界樹の麓にいる全てのエルフが集まっていた。

その数は、空軍や陸軍の兵士も合わせて3,000人近い規模である。


今後、ウルスタインからの移住や、()()()()により、世界樹の麓の人口は数十万人に達するだろう。

そして、将来的には100万人規模の大都市となるよう都市計画を策定しており、それに従って各種インフラや建物の建設を進める予定だ。


名実ともに、ここがエルフ社会の中心地となる。




司会役をつとめるエルフの進行により、今からエルフ社会の最高指導者である総裁――つまり私による建国宣言が行われることが改めて告げられ、その場にいるエルフたちは一斉に静まり返った。


私は、進行役のエルフと、同じく舞台に立っているジンやリヴィアたちと軽く目を合わせてからバルコニーの前に進み出た。


すかさず、両側からエルフが駆け寄り、風魔法で私の声を拡散する手助けをしてくれる。


私は、万感ばんかんの思いを込めて、口を開いた。






「親愛なる全てのエルフたちよ。」


その場にいる全員が、私だけを見つめている。




「ようやく、我々が夢にまで見た日がやって来た。人族によって祖国が滅ぼされた150年前、全てのエルフたちが涙を流しながら後にした聖地――世界樹を取り戻す日が。」


「上を見て欲しい。」


私の言葉に、その場にいる全員が上を向いた。


そこには、青々とした葉を風に揺らし、天を突くかのように堂々とそびえ立つ、世界樹の姿があった。


枝や葉の隙間から陽光が差し込み、まるで光のシャワーのように降り注いでいる。




「――美しい光景だろう。我々は今まさに、母なる世界樹に抱かれ、その祝福を一身に受けている。」


「この光景こそ、我々エルフが祖先より受け継ぎ、子孫へと伝えるべき、エルフの宝に他ならない。」


「その宝を、我々は取り戻したのだ。諸君の勇気と行動により。そして献身と忍耐によって。」


「だからこそ、もう二度と、失ってはならないものだ。」


私は、そこで声量を少し抑えてから話を続ける。




「私は、本当であれば諸君に宣言したい。もう我々が世界樹を、この地を奪われることはないと。もう我々が、理不尽にしいたげられ、滅亡することはないと。」


「――しかし、残念ながら、まだ我々は滅びの運命に囚われたままだ。」


「確かに、世界樹は奪還した。その前進基地である領都レスターも、空軍と陸軍の奮戦により、我らがエルフの占領下にある。」


「しかし、敵はまだ山のように残っている。目の前にはローレシア王国、その横にはハイマール連邦、そして奥にはグラン・シエル帝国まで控えている状況だ。」


「そして笑ってしまうことに、海を渡った南大陸には、まだまだたくさんの人族国家が存在している始末しまつだ。」


「その全てが我々エルフを欲しており、自らの欲望のために、その尊い命を奪い去ろうとしている。」


「普通に考えれば、もうどうしようもない。何と言っても世界が相手なのだ。ただ滅びゆく運命を受け入れ、最期の瞬間を迎えるその時を、指をくわえながら待っているしかない。」






「我々が―――エルフでなければ。」






私は、さらに一歩を踏み出し、バルコニーの先端におどり出た。


そして、手の平を前に突き出し、勢いよく握り締める。

まるで、目の前の敵をくだくかのように。






「―――我々は、決して滅びない。」






私は、はっきりとした口調で断言した。


その力強い言葉に、その場に集まったエルフたちが息を飲む音があちこちから聞こえてくる。




「なぜならば、我々には風魔法があるからだ。飛竜がいるからだ。一角獣ユニコーンがいるからだ。」


「勇気と誇りがあるからだ。」


「我々を見守る、世界樹があるからだ。」


「共に戦う仲間が――諸君がいるからだ。」






「そして―――この私がいるからだ。」






私は、そこで声量を一気に引き上げる。




「何度でも言おう。我々は、決して滅びない!私が、滅ぼさせはしない!」


「諸君の命を、決して人族に奪わせたりはしない!」


「我々は団結し、世界へと抗い、そして未来をつかみ取る!」


「そのためには、その土台となる存在が――国家が必要だ。ゆえに、私は今こそ、大きな決意を込めて、祖国の再興を宣言したい。」


エルフ社会には国が1つしかなかったため、国名というものが無く、皆が自分たちの国を“祖国”とだけ呼んでいた。


しかし、私は過去からの決別と、未来へ歩む覚悟を示し、そして人族たちに我々の存在を知らしめるため、再興した祖国に国名をつけることにした。




新しい国家の名前は――“エリスティア”


古代エルフ語で“世界樹エリスティア”を意味する言葉であり、まさに世界樹のふもとつどいし我々に相応ふさわしい。






「新しい祖国の名前は――エリスティア。」






「世界樹が見守り、飛竜が舞い、一角獣ユニコーンが踊り、エルフがうたう、精霊の国。」


「我々が建設する理想郷の名前だ。」


新しい国家の名前を聞いて、その場にいるエルフたちの間でざわめきが広まると共に、確かな熱気が伝わってきた。


だから、私は最後に彼らに呼びかける。




「我らがエリスティアには、もう諸君を迫害する存在はどこにもいない。家族と笑い、友人と語らい、恋人を愛する。生ある者として当たり前で――それゆえにどこまでも尊い、エルフとしての尊厳だけが存在する。」


「だが、その理想郷も、守り続けるという強い意志が無ければ、容易たやすく失われてしまう。150年前に、我々が祖国を失ったように。」


「だからこそ、私は諸君に伝えたい。この理想郷を、エリスティアを守れるのは、今を生きる我々だけだということを!!」


その場にいる3,000人近いエルフたちの、真剣な眼差しが伝わってくる。




「我々は、二度と祖国を滅ぼさせはしない!!必ずや人族たちから祖国を、エルフを、未来を守り抜いてみせる!!」


「ここにつどいしエルフたちよ!私の呼びかけに応え、共にエリスティアを永遠のものとする覚悟がある者は、私と共に声をあげよ!!」


私は握り拳を振り上げ、力の限り叫ぶ。






『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』






すると、目の前のエルフたちから、地鳴りのような声があがった。




『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』

『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』

『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』




『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』

『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』

『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』




『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』

『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』

『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』




大歓声はその後も止むこと続いていたが、やがて()()()()も混じるようになった。




『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』

『サー・リヒト・ネイル!!(リヒトさまに忠誠を!)』




『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』

『サー・リヒト・ネイル!!(リヒトさまに忠誠を!)』




『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』

『サー・リヒト・ネイル!!(リヒトさまに忠誠を!)』






私は、湧き立つエルフたちを見つめ、静かに拳を強く握り締めた。




私は、どんな手段を用いてでも、彼らの期待に応え、理想郷を完成させてみせる。


そして導くのだ。我らが祖国を――エリスティアを、もう決して誰にも脅かされることのない、世界に君臨する超大国へと。


私は、必ずやエリスティアを永遠のものにしてみせる。


私の――この手で。






【第4章 世界樹奪還作戦 完】


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