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第2章 第2話 恋の殺し屋

「まさか永瀬世売さんに学校を案内してもらえるとは思ってなかったよ」



 僕の前を歩く少女が振り返ることなくそう笑う。勝鬨晴嵐。このタイミングで転校してきた清楚な雰囲気を軽く上回る怪しさ満点の女だ。



「そりゃ、君みたいなかわいい女の子にデートに誘われたらな」

「あれ? 世売さんってそういうこと言うタイプなんだ」



 景色坂と同じだがしっかりと手入れのされた黒髪をたなびかせ振り返る勝鬨。もういいだろう、そういうのは。



「君、殺し屋だろ?」

「うん、当たり前じゃん」



 会った時から変わらない微笑みを浮かべながら勝鬨は頷く。まぁむしろこれで隠してるなんか言われた方が困るからいいが……。



「どこでわかったのかな? やっぱりタイミング? それとも名前を知ってたこと?」

「目の配り方と歩き方。たとえ不意打ちでも殺せないと理解させられた」

「へー、そういうのわかるんだ。さっすがー」



 クスクスと笑いながら勝鬨が歩調を緩めて僕の隣に並ぶ。誰もこの二人が殺人鬼だとは思わないだろう。まぁ犯罪者なんてそういうもんなんだろうが。



「誰の差し金だ?」

「依頼主の情報は喋らないよ。デスゲームの出資者の一人ってとこかな。ダメじゃない? 殺すなら最後までやりきらないと。徹底的に殺さないとまた新しい復讐が生まれるよ?」


「知らない。僕は普通の人生を送りたいだけなんだ。邪魔しないなら必要以上には殺さないよ」

「甘いなー。あまあまだよ。まぁ標的がチョロい分には問題ないけど」


「そっちだって殺すつもりならわざわざ学校になんか潜入しなくていいだろ。標的に気づかれるのがどれだけ危険か、殺し屋ならわかりそうなもんだが」

「ふふっ、問題ないでしょ。だって君雑魚じゃん」



 クスクスと笑いながら僕を煽る勝鬨。校舎の端に近づくにつれ、どんどん人の姿はなくなっていく。



「デスゲームの映像見させてもらったよ。殺人に対する躊躇のなさ。素人の中ではたいしたものだけど、プロからしたらそれは大前提。全く私の敵じゃない」

「ふーん」


「私は殺し屋として生まれ、育てられてきた。だから学校とか通ったことないんだよね。そんな時殺しの依頼が届いた。高校生の殺害……これ以上ないチャンスだった。念願の高校生活を送れる上に、標的はいつでも殺せる。だから存分に使わせてもらうよ。このチャンスをね」

「そっか」



 歩きながら廊下を曲がる。その時だった。勝鬨が仕掛けてきたのに。



「じゃあ殺してみろよ、今すぐに」

「……ぁえ?」



 壁際に追い詰められた勝鬨がすっとんきょうな声を上げる。そりゃそうだろう。自分が取り出したはずの拳銃が奪われ、さらに口に銃口が収められているんだから。



「あ……あんえ……?」

「なんでって? 決まってんだろ。ただ殺しを重ねてきた奴よりも、殺し殺されが当然のデスゲームの経験者の方が危機管理能力は高い」



 勝鬨のスカートの中に手を伸ばし、ふとももに括られたもう一つの拳銃を引き抜いて見せる。



「ま……まって……」

「さて困った。僕の邪魔をした以上殺すしかないんだけど、どうせ殺しても次の刺客が来るだけなんだよな。しかももっと容赦のない奴が。僕も君も普通の高校生活を送りたいだけなのにな」



 銃口に歯が当たりガチガチと小さな音が鳴る。震えているんだ。殺されかねないこの状況に、殺し屋が。



「一度だけしか言わない。君は死にたいか、死にたくないか」

「お……おめんなさ……」

「いいよ、許す」



 唾液の糸が引いた銃口を口の中から取り出す。すると勝鬨は口の端から涎を垂らしたまま力なくへろへろとその場にへたり込んだ。



「ウィンウィンでいこう。お互い普通の高校生活を送るために殺しはしない。そうすれば……」

「……すき」



 僕は誰よりも殺気に鋭い。たとえ殺し屋が相手でも、わずかに殺気を向けられただけですぐに動くことができる。だが今回ばかりは身体が動かなかった。逆に壁に押し付けられ、彼女の顔が僕の眼前に迫る。



 どうして身体が動かなかったのか。油断していたから……ではない。



「こんなすごい殺し屋見たことない……! 私と結婚してっ」

「……はい?」



 勝鬨に全く殺意がなかったからだ。

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