第2章 第3話 常識知らず
「これね! 私が初めて殺した標的! 一番の大物はこの政治家かなー。そうそう一番スリリングだったのはこの暴力団の……」
勝鬨が楽しそうにテーブルに写真を並べながら語る。ようするにこの一枚一枚に映っている人はもうこの世にはいないのだろう。気分が悪い。そしてその話が僕の家のリビングで行われているんだから余計に最悪だ。
「そんなのいつも持ち歩いてるんだ」
「仕事だからね、ポートフォリオってやつ。世売くんも作ってみたら?」
「僕と君を一緒にするな」
「そうだよね! だって世売くんすごいもん! 本当にすごい! 私こう見えても結構有名な殺し屋なんだよ? その私を簡単に制圧するなんて……あぁんもう最高!」
頬を紅く染めながら熱く語る勝鬨。やはり僕と勝鬨は違う。培われた常識が違うんだ。
勝鬨は学校に通ったことがないらしい。殺し屋として育てられ、人を殺すことが当たり前になってしまった人間。当然、普通ではない。そしてそれは僕も同じだ。
「あのな、勝鬨。人を殺すのは悪いことなんだよ」
「知ってるよ? だから殺し屋なんていう職業があるわけだし」
「で、君も普通の高校生活を送りたいわけだろ? だったらさ……」
「それはそうだけど、今さら殺し屋を辞めるわけにもいかないしね。そんなことよりさ」
僕も同じ。虐められるのが当然で、人を殺してようやく認められる存在。だから反応することができなかった。殺意なく僕を押し倒してきた勝鬨にまるで抵抗することができなかった。
「私でもわかるよ? 女の子を家に連れ込むってことは、こういうことをしたいってことでしょ?」
抵抗も否定もできない。勝鬨が僕に好意を持っていたのは明らかだった。そしてそんな彼女の家に行きたいというお願いを承諾した。
僕も勝鬨も普通の生活をしたい。そして高校生で恋愛は、普通のこと……だと思う。だから受け入れたんだ。それでも……やっぱり思う。
「ごめん、僕好きな人いるんだ」
「知ってる。調べた。元カノ……っていうか死んじゃった子でしょ?」
僕に覆いかぶさる勝鬨は僕をすさまじい力で抑えつける。さすがは殺し屋ってところか。
「そうだ。僕が殺した彼女だ」
「でももうこの世にはいないわけだしさ。新しい恋に踏み出すのが普通なんじゃない?」
「そう……だと、思う……」
普通に生きてほしい。それは水月の願いでもあった。だから勝鬨と付き合うのも、とりあえずは受け入れようとした。でも……。
「やっぱり……僕は……!?」
殺意を感じ、勝鬨の身体を蹴り飛ばす。暴力的な抵抗に勝鬨の身体は床に倒れるが、殺意の元は彼女ではない。玄関の方から僕を……いや勝鬨を睨んでいる。
「女の子連れ込んで何してるんですかー?」
それは個人の殺意など存在しない機械のような存在。リムの明確な意思だった。




