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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: Estella
第六章 伝説の終結点//in人間界
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ひゃくじゅうごかいめ エピローグ⑤だね?

 日記帳を閉じた少年-――ルネックスは、その日記帳を机の中に仕舞った。彼はそのまま立ち上がると、扉を開けて下の階に向かった。

 そこには少女、シェリアが未だ自分の技に磨きをかけているはずだ。すでに勇者のレベルに達している彼女だが、シェリア自身はまだ満足していないようだ。

 自分の技を磨くのは良い事なので、シェリアが無理をしない限りルネックスも何も言わなかった。なので最近彼らの中での会話は少なくなっている。

 だが、今日ルネックスは自主的にシェリアを探しに行くため庭へ向かっている。


「シェリア、そろそろ、良いと思うんだ」


「―――……やっと、ですか」


 短い二つの会話の間。ルネックスがシェリアの遥か後ろから声をかけた瞬間、シェリアは自身の修行を止めて彼を振り返った。

 それはステータスだけでは決して成しえない、心と心が通じ合っている証でもあった。


「僕のテレポートで冥界へ行こう。僕が最後に為すべきことを、為す」


「そうですね! ルネックスさんの魔術で行けるのなら私も嬉しい限りです。それに私もみんなに会いたいですから……という事で早速行きましょうよ!」


 ルネックスが微笑みながらそう言うと、シェリアも鮮やかな笑顔を返してくれる。冥界に行くという彼の言葉が何を意味するのか、きちんと理解しているからだ。

 ルネックスが言う冥界というのは、常人が入る事の許されない冥界の深部。そして、特別なことがなければ入った者は一切出られない。

 冥界の主アデル、そしてナタリヤーナのみが出入りを許されている場所でもあった。


「うん、じゃあ行こう。―――テレポート」


 二人以上の転移は手を繋ぐ必要がある。どぎまぎしながらも手を繋いだ二人は、ルネックス自らがくみ上げた詠唱で―――、



 冥界は相変わらずの、深淵の世界をにおわせる不気味な雰囲気を漂わせていた。紫がかった洞窟に、ぽつりぽつりと水滴が落ちる音が響く。

 その度に帰ってくる音が耳を叩き、静かな音が胸を刺した。地面を踏む足は、今にも地面がへこんで飲み込まれるのではないかという恐怖感を身体に漂わせて来る。

 地面は柔らかいとも言えないが、固いとも言えない。微妙な柔らかさを保ったそれは、逆に恐ろしさを物語っているように見えた。


「___うん、相変わらずだよ」


「ルネックスさんと一緒じゃなかったら、私、秒速で帰ってるんじゃないかなあと思います。ところでアデルさんは……」


『あら、来てくださったのです? 今度はどのような御用ですの?』


『冥界へようこそ。どのような御用でございますか?』


 口を引きつらせて言葉を絞り出したルネックスに、真顔でシェリアが答える。そんな二人の苦笑いを吹き飛ばすように、冥界の主二人が歩み寄ってくる。

 こんな空間では似合わない、子どもらしいピンクのドレスを着こなしたアデル、そして大人に着こなしたメイド服が堂に入っているナタリヤーナ。

 相変わらずの二人。相変わらずの世界。少し、懐かしい。


「あぁ、今日は……深部に行こうと思って。最後の願いも達成できたし、もういいんじゃないかなって思ってるよ」


『そうでしたわね、貴方、伝説になったのでしょう。あっという間にわたくしも超えられてしまいましたわね……ひとまず、おめでとうございますわ。貴女も、勇者になりましたのね』


『えぇ、私からもおめでとうございます。貴方がたのおかげでお嬢様の性格も丸くなりましたし』


『なッ、ナタリヤーナ、何言ってるんですの!?』


 少し言いにくそうにルネックスははにかんだが、アデルは気にするわけでもなく優しい微笑みを浮かべ、祝福の言葉を綴る。

 そしてナタリヤーナも何か言うでもなく、祝福の言葉とお嬢様弄りの言葉を吐く。変わりなく仲の良い二人は、更に距離が縮まっている気がした。

 なのでシェリアもルネックスも割って入ることができず、ありがとうという言葉はのどから出かけて消えていったのだった。


 誰から示し合わせるでもなく、四人は一斉に深部に向かって歩き出した。何百メートルか世間話をしながら進むと、固く閉ざされた行き止まりがあった。その行き止まりの壁には、パスワードを入力するための機械が付けられている。


 昔は魔術だったのだが、今は貿易の流通により冥界では電気技術が大人気だった。


『今まで裏ルートから通っていましたわ、ですから、誰にも会わなかったでしょう? 正面から通過するのでしたら、人も多いですしセキュリティももっとしっかりしていますの。このルート、わたくしとナタリヤーナしか知りませんし』


「へぇ、しっかりしてるんだね」


『冥界を舐めないでいただきたいですね。あ、開きました。通りましょう。冥界の深部は最後にテレポートが必要ですので、もう少し時間がかかります』


「それは大丈夫です。とにかく、行ければ」


 確かにロビーを通らなかったな、と思いながらルネックスはナタリヤーナの開けた扉を通る。紫に近い洞窟が、今度はほのかに光っていた。

 黒の見えない完全の紫。幻想的な紫の木もあり、飲み込まれてしまいそうな景色が目の前に広がっていた。

 しかし二人はもう慣れているのか、洞窟の道をつかつかと歩いて行く。


 地面はパスワード入力前の洞窟のように微妙な柔らかさを持っているわけではなく、最近普及し始めたコンクリートのような硬さをしていた。

 勿論引きこもっているルネックスはコンクリートなどという存在を知るはずもないが、歩けばかつかつと心地いい音が聞こえることから地面が固い事は理解した。


『あぁ、そうでしたわ』


 進みながら、アデルは思い出したようにぽん、と掌を叩いた。


『言うべきか迷いましたが……カレンって貴方の仲間ですわよね。彼女が冥界の深部にハッキングしてアーナーの魂を奪っておりますわ。たぶん彼女に会うには魔界に行けばいいと思いますので、混乱しないために言っておきますの』


「えっ、カレンが……!?」


「カレンさんが冥界をハッキングですか? 冥界は魔界よりもレベルが高いはずです、たとえ魔界の主でもこんな短時間で___」


『竜界に協力を仰いだそうです。あとは精神力と集中力、執着力ですね。モニターで見ておりましたので、承知しております。どちらにせよ、貴方方のお仲間たちは誰一人として進歩していない者はおりませんので、ご安心を』


「竜界って言う事は、フレアルと父さんか。交渉したんだろうけど……父さんなら少し渋るだろうな。フレアルも仲間のために行くだろうけど、少し考えると思う。二人を動かせる、納得させられる条件を持っていたという事かな……? いや、もしかしたら___全員成長したのか……もう僕では、はかれないくらいに」


 ルネックスがハッキングの難易度を問うことは無かった。彼が分析したのは最初から最後まで、事の過程のみだった。

 カレンならばできると信じていたから。カレンは、どんなことでもできなくたってやるような人だから。

 やれるかやれないか、じゃなくて、やるんだ。カレンとはそんな性格をした少女であり、その性格がために多くのことを成功させてきたのだ。


 それは、魔界と冥界のレベルを問うたシェリアも同じだ。カレンならばそれができるという前提で、時間の短さを問うているだけだ。

 カレンは努力することで成功を掴むタイプの少女だった。ハッキングくらい、時間をかければ可能なことくらいは分かっていた。

 だがそれを短時間で成功させたのは、紛れもない彼女カレンの実力なのだ。


 シェリアとルネックスが成長すると共に、カレンやフレアル、アデルにリアスでさえも絶えることなく成長し続けている。

 彼女らが、彼らが止まらないのは、ひとえにルネックスという決して超えられない『知り合い』が雲の上にいるから。

 決して超えられぬ壁を超えるために、彼らは必死に藁をも掴む思いで生きている。


「そっか……そう、か。みんな……」


 感動がこみ上げるが、泣きはしない。涙ならもう出たのだ。日記を書いたとき、はたまた別れの時。もしくは、心の涙でもいい。

 この一生で、彼はもう勇者__いや、伝説にしては十分過ぎる程の涙を流した。


 そんなルネックスのこみ上げる感情を抑えつけるかのように、アデルとナタリヤーナは最後の、ここを越えたらもう目的地という最後の扉の前で立ち止まった。


「えっと」


『なぜこの扉から来たのか……理由を教えますわ。此処から先は、冥界の深部の中でもわたくし以外は入れない場所ですわ。ナタリヤーナもここで退出しますの。触れれる、声が聞こえる、表情が見える、匂いが分かる。あらゆる五感、そして第六巻までもを引き出しまるで現実化のような空間、それが此処ですわ。つまり、まるで現実世界にいるかのように貴方達の仲間と話すことができる……これ以上ない空間、そうでしょう?』


『お嬢様、そのようなシステムを御作りなさっていたのですか……。まあ、お嬢様が言うのでしたら、そうなのでしょう。では、お入りください。僭越ながら私もパスワードを知りませんので、ここでお待ちしております。アデルお嬢様、もちろんパスワードは……』


『いいえ、知りませんわ。パスワードはランダム……日替わりですのよ。だから言ったでしょう、わたくし以外は入れないと。なぜならパスワード攻略は不可能。ここへ入るには、わたくしの魔力が認識されないと無理なんですの』


 予想以上のセキュリティだった。主の魔力以外では開くことのできない、絶対の扉。そしてランダムのパスワードは、ハッキングを察知すれば秒速で変わるのだという。今のカレンですら攻略不可能だろう。少なくとも、今の彼女では。


 ナタリヤーナは扉の前で深く一礼をすると、アデルは即座に扉に手をかざす。魔力が読み取られた証に、扉そのものが神々しく輝いた。

 次の瞬間、ナタリヤーナを除いた一行は、花畑の上に立っていた。アデルは既に見慣れているのか、この幻想的な空間を見ても何も言いやしない。

 だが、パステルカラーの色鮮やかな花たちが生え茂り、今にも意識を持っていかれそうな香りを放つこの空間を前に圧倒されぬはずがない。


 ルネックスとシェリアが絶句する中、アデルは一人扉の方へ向かった。


『中からならば、わたくしではなくとも開けますわ。まあ、生きている者に限定されますけれど……思う存分大団円してくださいまし、それでは、失礼しますわ』


 ふ、とアデルは微笑んで扉の奥へと消えていった。本当にセキュリティがしっかりしている。それもこれも、ルネックスの巡回がなければ生まれやしなかったことだが彼に自覚がないのが誠に残念だというのは、みんなの感想だ。


 アデルがいなくなった後の神々しいこの空間は、何処までも静かだった。静かに景色を眺めていると、まるで心まで浄化されていくようで___、


 ___その静寂を破ったのは、少年少女が最も望んだ彼女の姿で。


「るねっくす~! しぇりあ~っ! おかえりなさい、おひさしぶり!」


 かつてルネックスを救い、シェリアを救い___


 ___世界が救われる元となった少女が、そこに居る。


 内部を知る者しか知らないだろう実情。恐らくこの世界で最も偉いだろう少女。過程を無視せず見れば、彼女がいなくては世界は救われなかった。


 大精霊___フェンラリア。

 その名前を聞くだけで、どうしようもなく、愛おしい。それは二人の感想である。

あぁーフェンラリアぁぁ好きでーす。

と、作者らしからぬ(ある意味では作者らしいが)告白の声を投げておきます。えーっと、僕のブレスレットが最強だったのですが、最後のフラグ回収です。

最後の最後にまた主人公視点じゃない作品最大級のフラグ回収がありますが、あんまり期待を高めすぎると心潰されるのでその辺は置いといて……。

今回はもうアデルとナタリヤーナとフェンラリアの回でしかないッ! この三人を書きたかっただけなので、最初の方やる気ない書き方だったかもですね……一応全部全力疾走なんですけど(笑)

あと完結まで三話ほど。

もうブクマ外そうかなあ。つまんなくなってきたなあ。と思われても仕方ない量の主人公以外視点の多さですが、あと三話だけですのでぜひお付き合い頂いたら嬉しいかなあと。

ところでみなさん最近映画を見ましたか?

もしみましたらパソコン、又は携帯などの現在このアトガキを呼んでいるすべての電子機器から対応しておりますので、その映画の名前を呟いてみてください。作者にテレパシーで届きます←

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