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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: Estella
第六章 伝説の終結点//in人間界
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ひゃくじゅうさんかいめ エピローグ③だね?

※また主人公視点ではありませんが、テーラさん好きには百パーセントお得。

※ミネリアルス、師匠と弟子好きにもお得です。

 とんとん、と扉が叩かれる。しかし襲う眠気に耐えきれず、扉へ向かうことができない。朧気の意識の中、かろうじて扉の音を聞き取る。

 どんどん、と音が一層大きくなる。それでも眠気を吹き飛ばすほどにはなれず、椅子に腰かけたまま目を開けることができない。

 がんっ、と大きな音を立てて扉がきしむ。金具が壊れたような、そんな音で少女はやっと目を覚まし、あくびをしながら扉の前に立った。


「はぁーい、何の用ですかー……」


「テーラさん、大変だよー、いや、悪い話って訳じゃあないんだけどねー!」


「落ち着け、ハルト」


 大賢者であり二人目の勇者であるテーラ・ヒュプスが扉を開けると、そんな彼女の協力者であるハルト・アルティアが飛び込んできた。

 しかも急いで扉を閉め、周りに人がいないか確認までしているあたり、歴史改革のことなのではないかとテーラは予想する。


 そしてその予想は、結果的に当たる事となるのだった。


「歴史改革が、認められたーっ!」


「は? マジで?」


 肩で息をしながらも、ハルトはそう叫んだ。歴史改革は最近段々と批判され始め、もう無理かと人々が諦め始めているのだ。

 そんな時に認められるなど、テーラも思ってはいなかった。人々の心をもう一度団結させるために、今日も演説を終えてきたばかりなのに。

 何故、どうして。確かにそんな感情もあるが、彼女の中で嬉しさが勝った。


 ハルトや商人の家族は裏の手回しを、テーラは表で自分の名前も使いながらたくさんの人を味方に付け、人々の心をひとつにしようとあちこち走り回っていた。

 十分に寝られる日などもう半年ほどなかった。何故ならいつも夜中に帰って来るか、朝まで演説や手回しを続けていた。

 そんな日々からようやく解放されるのだ。

 過去の歴史の一ページに、過去の仲間であった朝霧零夜の名が刻まれるのだ。


「もう終わりかぁ。うんうん、長かったなあ。これでルネックスとの約束を守れたし、零夜の名前も刻めた……あとは次の勇者を待つだけかな」


 原則として、次元の輪廻にはまってしまった勇者以外で、今この世界に存在する勇者は基本現勇者に協力しなくてはならない。

 なのでリンダヴァルトも輪廻から解放されればすぐに協力したし、テーラも同じく協力をした。

 つまりテーラが何らかの事故で死亡しない限り、次の勇者には必ず協力することになる。彼女が次やるべきことは、そのための手回しだ。


 恐らく山から出られないルネックスでは限りがある。そのため人数の収集はテーラに任せられている。

 歴史改革の中で偶然見つけたハルトもその中の一人で、彼はすでに公式的に英雄として認定されている。なので、次の勇者に協力する義務がある。

 候補者を見つける作業は終えているため、後は直接頼みに行けばいいだけだ。


 つまり、それを終えれば特にすることは無い。さあどうしようかな、とテーラは思いながら窓の外を眺めた。


「探しに行きませんか。朝霧零夜を」


「あいつを? あいつは冥界にすら存在できない、存在ごと消された者だよ。あいつが輪廻にはまっているわけではないのは、ボクが調査済みだ」


「だから探しに行くんですよ。存在ごと消された、ですかー。ここは研究所です。一片でも何かの欠片が残っていれば、貴方が何とかできる。違いますか?」


「ハルト、そう言った言いだしっぺなんだから、協力してくれたり?」


「勿論、しますよ。昔からテーラさんの恋愛事情には、興味津々ですからね」


 ハルトのその言葉に、テーラは肩をすくめた。いつだって行動の原因は朝霧零夜。いつだって彼女は彼のことを考えながら動いていた。

 幾星霜、年を重ねても。幾年だって、待ち続ける。


 ―――彼の、彼女の物語は。否。


 ―――勇者ヒーロー英雄ヒロインの物語は永遠に終わらないのである。



「オイ師匠待ちやがれ。お前だけ精霊界行けるのはおかしい。確かに神やら天使やらであふれかえっている神界だが、ちょっと一味違うじゃねぇか、精霊界ってのは。なんか分担しようぜ、俺だけ仕事しねぇの嫌だってこの前喧嘩までしたじゃねーか」


「へいへい、待ちやがりますっての。まあ確かにそうだけどなァ、お前は若者らしく遊んでりゃいいの、って言いたい気分だけどまあ、甘やかすわけにゃいかねぇしな。んじゃあ、精霊界は任せた。俺も神界で色々やりたいことがあったしな」


「何やるんだ?」


「何って……次の勇者の準備じゃねぇか。仮にも勇者が何言ってんだ、お前」


「申し訳ございませんでしたぁークソ師匠ー」


 そしてここは、神界である。相変わらずの静かな喧騒と、神聖な噴水と虹、煌めく雲に満たされた聖なる空間が広がっている。

 そんな中で、二人の男が会話をしていた。あまりにも神界に似つかわしくない二人は、大英雄と勇者その人である。

 幾多の英雄の代表となった大英雄、ヴァルテリア。勇者の輪廻から抜け出し、勇者として認められたリンダヴァルト。


 彼らは人工精霊を生み出す任務を授けられていたが、それをヴァルテリアが一人で実行してしまっていた事に対して喧嘩をしていた。

 しかし周りにいた人工天使や人工神、そしてあの戦いの中生き残った者達の提案により、ゆっくりと話し合う空間を作る事になったのだ。

 まあ、小さな喧嘩と軽口は、やはり二人にとって日常茶飯事だったのだが。


「次の勇者の準備、何するんだ?」


「バカ野郎、カミサマのお告げの準備だよ。それっぽい鏡とか水晶玉とか、マジで面倒くせぇっての。そっちは俺に任せて、好き勝手精霊界弄ってろ。お前が楽しいって言うんなら若者らしく楽しくやれ。おっさんはこっちのめんどいのやるよ」


「お前自称おっさんかよ!? まあ確かに見た目も三十路超えてるけどさァ、俺もお前も千年以上生きてるだろうが……まあいいけど! いいけど! んじゃあ、頼むわ師匠。若者は若者らしく楽しんでくるぜ、師匠おっさん


「オイ今お前なんつったァっ!?」


「は、おい、お前自分で自称おっさん言ったじゃねぇか! 理不尽!」


 先程まで良さげなことを言っていたのに、すぐに言葉と魔術の乱戦が始まる。それを神界の住民は暖かい目で見ていた。

 ちなみにこの魔術の乱戦は意外に危険である。大英雄と勇者に神界で本気の喧嘩をされては困るので、いいタイミングで誰かが止めに行くのが暗黙の了解となったのだった。


 ―――師匠と弟子の物語は、終わるように見えて両者の心の中で続いている。



「暇なのです……」


『何言ってんのよ。任務はあそこにたんまり積み上がっているじゃない』


「あ、あれは違うの! そ、そんなものやるわけないじゃないの……!」


 ところでここは噂の精霊界。事務室の机に大量に積み上げられた書類から目をそらして、ミネリアルスは暇だと言い続ける。

 そんな彼女の現在の最上級護衛フランビィーレは最上級の呆れた目を彼女に向けている。ただ、内心はなかなか楽しいと思っている。

 しかし用意された書類の中には今日中に終わらせなければいけないものや、そもそも今日提出するべきなものもある。

 特に人工精霊を作るための許可書処理などは、最重要書類だ。期限の定められていない、提出が早ければ早い程良いタイプのもの。


『ひとつはやらないと、クビにされるわよ』


「はッ! そ、それはだめなの、仕方ない、やるの……。ちょ、ちょっと待つの! 人工精霊の報告書があるの、フランビィーレ、手伝うの!」


『……手伝わないわよ。今までやってないミネリアルスがわるいのよ』


 フランビィーレは腕を組んでくっくっく、と笑う。ミネリアルスは絶望の表情を浮かべて机に突っ伏し、はああああ、と長いため息をつく。

 しかし仕事を始めればその英雄らしさが分かる。

 彼女は段々と本気になって行ったようで、次から次へと書類を手早く処理していく。寸分も違わず、規則的に一枚一枚終わらせる。


 期限が迫るものも、機嫌がずっと先のものも、彼女がペンを走らせれば全て終わる。


『……っで、できるじゃないの』


「―――ぐはあ」


『って、さっきのかっこよさはどこ行ったのよ!? 起きなさーい!』


 最後の一枚を処理し終えた後、ミネリアルスは机に突っ伏して眠ってしまった。ご丁寧に、ぐはあという擬音まで付けて。

 そしてフランビィーレはまた彼女を起こそうとあれこれ画策するのだった。


 ―――もう、これから面談なのよ~っ!?


 ―――精霊の主とその従者は、騒がしながらも楽しさを忘れない。



 ぱたぱた、ぱたぱた。


「くっそぉ~、暑すぎますのよッ!」


 着せられた無駄に正装な服の襟をぱたぱたとはためかせ、少女は煩わしそうに叫んだ。いや、もはや煩わしいを通り越してイライラしている。

 現在の季節は極寒なのに、少女のいるこの場所ではまるで季節が逆転している。それもそうだ、この世界での季節は概念を持たない。

 何故なら、人間では足を踏み入れられない禁書庫の中であるからだ。


「ぬぁあああああ~っ!」


 その足を踏み入れられる者が限りなく少ない禁書庫の管理者である少女―――フレデリカはついにイライラがピークとなり足をばたつかせる。

 そのおかげでもっと暑くなっているのだが、暑さで神経が鈍っている今のフレデリカの脳ではそこまで考えつかなかった。

 普段の彼女ならば、魔術か何かですぐに対処をとれたのだろうが……。


「もういいわ……そういうときは本を読みますのよ」


 はあ、とため息をつきながら適当な本棚に手を伸ばし___何の運命のいたずらか、上の段から本が落ちてフレデリカの頭にゴン、と当たる。


「あだっ……な、な、なんという無礼! 何と言う不幸! ……って、この本あれじゃない、神殿がコレムに使った特別なリザレクションの使い方……ですのね」


 その本は、禁呪『リザレクション』の使い方、と書かれていて、古代システマル語で書かれているのが分かった。

 恐らくフレデリカかルネックスにしか読めず、ルネックスは今ここに出てこられないので、フレデリカは恐らく翻訳を任せられることになる。

 暇にはならないが、少し忙しすぎるかもしれない。フレデリカは大きくため息をつく。


 そもそも禁呪の使い方すら、長い間見つけることができなかった。フレデリカの禁書庫でさえも見つかったものは数少なく、大帝国にも提供できないような危険なものも混ざっている。

 呪いを解く蘇生魔術ならば提供できるだろう、とフレデリカは思ってため息をついた。自分が忙しくなるか、呪いで苦しむ者達を見捨てるか。


 英雄としてではなくとも、フレデリカの出す答えはひとつしかなかった。


「……禁書庫、ゆきなさい。愚かなる人間どもに我が知恵を見せつけなさい。英雄としてたたえられ、そして勇者になるのですわ___おーっほほ!!」


___ご主人、煩い___



「―――へ? しゃべ、った? 禁書庫、が?」



 ―――彼らもまた騒がしさを忘れず、絶えず新たな発見を続けていく。



「みんな、凄いなぁ」


 モニターを見ながら称賛する声を上げた少年の座る机の傍らには、大きくも小さくもない日記帳が置かれていた。

ルネックスがコレムの病の事情を知っていたかどうかは、ご想像にお任せします。

最後の少年は勿論ルネックスです。暇な時間とか休憩の時間とかは、よくモニターで世界を見ています。まあ統治王ですから当然ですねたぶん。

キャラクターが増えすぎて全員を満足に出し切れなくなってしまったので、こうして違う視点を小分けにして出しています。

そのせいで主人公視点が減っているのですが、まあ完結も近づいているので……。

大団円を迎えるためには!全員の行動を!知ってもらう必要が!あるのですよ!

……無駄な言い訳は此処までにしまして、今回のこれは書いてて結構楽しかったです。と言いながらあんまり更新してませんでしたね(;^ω^)

この調子で四月中に終わるのか……甚だ謎ですね。あと親切な方泳ぎ方教えてください(´;ω;`)

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