ひゃくじゅうにかいめ エピローグ②だね?
これは、全てが終わった後の話である。伝説と勇者、英雄が決定し、四つの世界が合併され、一時的にすべての世界が休息期間に入った時の話である。
静かな事務室の中、少年は一人灯りもつけず一冊の本をめくっていた。それは、途中で紙を足したりと継ぎ接ぎになったボロボロの日記帳。
涙を流したり怒ったりと、その時に付けられた跡の全てが残る、一人の少年の歴史の軌跡。
あるページには涙が染みた跡が。あるページには怒りで紙をぎゅっと握り、ぐちゃぐちゃになった後で紙を伸ばした跡がある。
少年は一枚ずつそのページをめくってゆきながら、静かに、ただ静かに頬から涙を流すのだった。
〇
帝国歴三十九年 桜暖 三月九日
ブレスレットから女の子が出てきた。
女の子は大精霊様だった。
僕が御主人様だといってきたけど、何だか不安なんだ。
これから先僕は、どう成長するのか、そんな楽しみもある。
帝国歴三十九年 桜暖 四月十二日
大精霊の女の子―――フェンラリアが誕生日を祝ってくれたり、実戦に連れて行ってくれたり、冒険者になると決めたり、ドラゴンが襲ってきたりした。
たったこれだけの日にちなのに、ずいぶんたくさんのことがあったんだ。
もうこれだけのことがあったら、ロゼスのこと恨んでないかもしれない。
帝国歴四十四年 暑熱 八月十五日
フレアルとフェンラリア、シェリアで冒険者になるために町を出ることにした。最近は日記を付けていられないくらい忙しかった。
五年間の間、僕はそれなりに強くなったと思う。
僕の計画もその時に立てたんだ。いつか、この世界を救ってみたいなあ。
そんな子供みたいな希望を抱くことは、僕には資格がないだろうかなあ?
帝国歴四十四年 葉落 十月十三日
王様と意気投合した。まさか信頼をもらうだけで本当に信頼を勝ち取れるとは思わなかった。少し警戒心が足りない気もするが、勿論口には出せない。
多分、噂通りこの国の王様のコレムさんが優しいだけなんだと思う。
この国に来てよかったって、今の僕は心から思っている。少なくとも今は、そう思える。
帝国歴四十四年 極寒 一月二十五日
極寒の時に反乱なんて、コレムさんのお姉さんも自分の事を考えていないのかもしれない。それほどの復讐計画だったのか。
僕はそれを崩して、良かったのか今でもわからない。
僕がしたいと思うことだって、下手したら死人がたくさん出るんだ。
……僕に、反乱を止めるなんて資格はあるのだろうか。ちなみに、カレンが仲間に入った。奴隷として扱うつもりはない。母さんのためにも。
帝国歴四十五年 桜暖 三月十二日
聖神が動いた。リンネとリーシャが仲間に入っている。リーシャはギルドでランクを上げたときに、リンネは国家反乱の時に仲間に入った。
彼女達も聖神の動きに集中してくれている。
それは良いのだが、ディステシアさんが殺された。なぜ、僕のために色々してくれたディステシアさんが僕のせいで殺されなきゃいけないんだ。
僕の仲間が悲しんでる。フェンラリアが泣いている。……絶対に、許さない。
帝国歴四十五年 暑熱 八月十四日
奴隷育成計画を始動した。そもそも計画の名前に奴隷の文字があるのはあまり好きではないが、仕方ないといえば仕方ない。
リエイスという子の成長は凄まじかった。任務を言い渡すと忠実にやってほしかったことを再現してくれるし、こんな人材が今まで奴隷なことに驚きを禁じ得ない。
それにしても、これで神界征服の準備が整ったとは言い難い。
もう少し、何かが足りない気がするのだ。決定的な切り札と言える、何かが。
帝国歴四十五年 葉落 十一月二十六日
様々な世界を征服した。魔界は少しやりにくかったかもしれない。魔界以上に他の世界があるみたいだが、いまの僕ではたどり着けないようだ。
大魔王も魔王も強かった。それに父さんにも再会できた。
もうこれ以上欲しいものはない、と言いたいが、まだ僕にはやることがある。時には本当にこれでいいのかと弱音を吐いてしまう。
だがこれ以上進んでしまえば戻れない。__こうじゃないとダメなんだ。
帝国歴四十六年 極寒 一月三十日 誕生日
誕生日の日、僕の元に大賢者テーラさんが訪れた。彼女は凄い人だった。
僕なんかよりずっと色々できちゃう人で、訓練とかもしたが、やはり僕は彼女を上回れないと思った。
前代勇者はだてじゃないんだなあって思った。
そう言うと、テーラさんは寂しそうに笑うけれど、僕にはその理由が分からない。いつか彼女に追いつけば、その笑いの理由も分かるだろうか。
帝国歴四十八年 極寒 一月十日
戦闘は終わった。あっという間に二年も経っていた。今年の僕の誕生日ももうすぐだ。でも忙しくなるから、きっと祝えない。
それでいいのだ。この世界をみんなが祝えばそれでいい。
まあ、心の中には祝って欲しいなどと思っているところはあるのだが、仕方ない。僕が勇者になることを、伝説になる事を望んだのだから。
さて、道徳は此処までにしよう。これまでのことを説明する。
まず、聖界と冥界がある事が判明した。そして二人共、僕の仲間になってくれた。救世主メルシィアは残念ながら戦闘の中で息絶えた。
メルシィアも素晴らしい根性だった。思えば、ロゼスも僕と道を違えただけで、そう変わらなかったのかもしれない。
僕は、もっと深く物事を考えようと思った。
願わくば、僕がもっと成長した時にフェンラリア達に会いに行けるように。
戦闘の中で息絶えた英雄たち、ゼロの二人、そして仲間たち。勇敢で果敢に挑んで命を散らした彼らに、敬礼。
帝国歴四十八年 極寒 二月十四日
この日はばれんたいんでーというらしい。テーラさん、物知りだな、とまた思った。しかし僕はその日を堪能している暇はなかった。
今まで協力してくれたすべての世界に、貿易を頼んだ直後だからだ。これから四天世界についても考える必要があるし、家のこともそうだ。
人間界から離れることは無いが、きっと二度とハイレフェアさんやコレムさんにも会えないし、元気な宮廷兵達にも会えないだろう。
そう思えば少し寂しくもあるが、こうして回っていくのが世界だから仕方ない。
帝国歴四十八年 桜暖 四月十四日
魔女の森と呼ばれるところにて、グロッセリアの妹、スティセリアを発見した。彼女からの依頼をこなして、今帰ってきている。
走りながら日記を書くと字がずれるが、時間がないのだから仕方ない。未来の僕がこの字を読めているか謎である。
ティアルディア帝国の女帝、ユーリシアさんは英雄の一人だった。僕は直感的に、彼女は次の勇者に関わるんじゃないかと思った。
今のうちに僕が関係の輪を広げて置けば、次の勇者のためにもなる。女帝と接するのは威圧感のせいか緊張するのだが、仕方ない。
帝国歴四十八年 桜暖 五月十五日
最近は段々時間が空いてきたのか、日記をかける時間が増えてきている。最近、宴会が開かれた。
アンジェリーネ皇女が向かってきたが、最後には折れてくれた。彼女は次期帝王セシリス皇子をきっと支え続けられると思う。
貴族が向かってこなかったのが少し意外だった。なんだか、変な感じがする。言いようのない不快感が徐々に迫ってきている気がした。
帝国歴四十八年 桜暖 六月十日
山奥の家に来た。シェリアも付いてきている。テーラさんに早く告白しろと言われているのだが、全くやり方が分からない。
どうすればいいのかと問うと、君なりにやれと言われるので困ったものだ。
コレムさんやハイレフェアさんにはもう会えない。きっと。だってもうこの帝国には平和になって欲しいから。
僕が次にカリファッツェラ大帝国に来るときには、
きっと僕の知り合いなんてもういないだろうけど。その平和な大帝国は僕の知り合い全員で努力して築いたのだと、分かっているから。
帝国歴四十八年 桜暖 六月二十日
大商人の二人が来た。システムから言われた通りに仲間にした。
恐らく彼らは次の勇者に関係があるのだろう、システムは彼らにご執心のようだ。ただ、僕としても彼らの進化はすさまじいと思った。
その元の感情がたとえ憎しみでも、進化できたのなら間違ってはいないと僕は思う。
まあ、それも全て過ぎた話だ。僕もまた研究を始めなくてはならない。あとテーラさんからの任務で、告白も、ね……。
帝国歴四十八年 暑熱 七月七日
最近はこまめに日記をかけて少しうれしい。本日は色々と言いたいことがある。シェリアの実力が上がったこともひとつ、告白してOKを貰ったのもひとつだ。
今は夜中でシェリアに見つかったら寝ろと言われると思うが、嬉しくて今日記を書いている。
初めて好きになった人が、一生続きそうだったから。そう思うと、テーラさんが告白しろといった意味も分かったかもしれない。
だってさ、テーラさんだって続いているんだ。例え傍にいなくたって気持ちはずっと続いている。僕も彼女のようになりたい。そう、思えた。
ところで、四天世界がそろそろ動きを見せると思う。ゆったりしていられるのも、今のうちだ。
帝国歴四十八年 暑熱 八月三十日
システムによると結成式は最近だ。
いつになるのだろうと、研究しながら雑念が湧いてくる……。
帝国歴四十八年 葉落 十一月十五日
伝説になった。
シェリアが勇者になってくれた。
気持ちが浮かれているのだろうか、口角がずっと上がっている。一応僕も世界的に伝説であり勇者として知られている。
つまり一応勇者が二人できたわけだ。
テーラさんも歴史改革が成功したと聞いた。つまり、僕とテーラさんは三千世界初の、時代別ダブル勇者となったわけだ。
ひとつの巡回の時代に二人の勇者がいるのは、前代未聞。
僕が歴史の一ページになれたのは、素直に嬉しかった。とても、嬉しかった。
〇
ぺらり、ぺらり、と室内に紙をめくる音が響く。少年―――ルネックスが誰にも気づかれないように密かにつけていた日記。
今までの活動の全てが記されている、世界でひとつの足跡の記録。
___涙を流すなと、心が訴えている。
___泣けば勇者の資格がないと、世界が言っている。
___誰が死んだって涙は流さないように努力出来たのに。
___ああ、結局人間は自己満足の塊だ。
___自分の事でばかり涙を流して、他人のことはどうでもいいのか。
___そう、勇者であるこの少年もまた、涙を流す。
人は皆、完璧にはなれない。
人は皆、不完全なままだ。
人は皆___自分のために生きる。
だから少年は、ルネックスは、___自分のために泣いている。
「……そうか……」
ひとつ、呟く。
もう一度、日記をめくる。何の運命のいたずらか。また、何の運命の歓迎か。あと一ページだけ、日記には空きが残されていた。
少年は、ペンを持つ。
ペンを持ちすぎて赤みがかった指で、握る。決して放しはしない。
そうして少年は昔の歴史の一ページに、新たな文字を刻み付けていくのだった。
大帝国歴三年 極寒 一月三十日 誕生日
ありがとう。
たった五文字。されど五文字。
人々の脳内に永遠に刻まれ忘れられることのない、最高の、奇跡の五文字である。
えっと、感動の場面なのにすんません。そして作者なのにすんません。
……五文字とか言ってますけど、
「。」付けたら六文字ですね、、、言葉にしたら五文字ですけどね、、、(゜-゜)
五文字の言葉、それは、人々にとって大切な言葉―――とか言われてますから、五文字のままでGOすることにしましたが。
さて今回の話ですが、わざとストーリー性を抜きに日記の形にしました。
すべて記しておくことで、ルネックス自身だけではなく、読者様方にも彼の成長を感じてもらおうかなあという願いです。
これから一連して彼らの(本編で語られる)最後の成長を記していきます。
そのための土台というか、そんな感じですね。……なんかシリアスになりましたが、これにて締めくくらせていただきます<m(__)m>




