ひゃくはちかいめ 伝説結成式だね?
その翌日、ルネックスは机の上に置手紙があるのを発見した。そこには見覚えのない字で、三行程書かれていた。
それは丁度ルネックスが学んでいる、古代システマル魔術文字。魔術文字を文字として使うのは非常に高度なレベルが必要だが、一体だれが。
リビングの机で置手紙を持ちながら佇んでいるルネックスをみて、シェリアが怪訝に思ったのか彼に声をかけた。
「どうしたんですか?」
「いや、この置手紙があってね。君を三千世界の王にするとかなんとか書いてあって。だから僕は急いで会議場に行かなきゃならないんだ」
「ええっ!? そんなの聞いてませんよ。ルネックスさんが王になるってことは、私は行けないんですよね。大人しく留守番します……」
「ごめんね。でも僕の計画はまだ、終わってないからさ」
ルネックスは苦笑いをしながら、シェリアの髪の毛を撫でる。彼のもう片方の手に握られた置手紙が、ぐしゃりと音を立てて潰れた。
次の瞬間、手紙が中で爆発して散り散りになる。シェリアが一瞬目を見張る。
『この度は、君を四天世界の統治王の一人に任命することにしたよ。
四天世界の合併に当たって、君を四天統治王にも任命する。
これで君は『伝説』になれる。三千世界の会議室まで来てくれると嬉しい』
ルネックスはシェリアに見送られながら二階に上がると、素早くゲートを起動させた。この時テーラがゲート起動の魔術をルネックスが起こしたことを感知し、ようやくこの時が来たかと汗をにじませたが、勿論ルネックスがそれを知る由はない。
〇
三千の世界が目の前に並んでいる。星が散りばめられている。見れば見る程惚れ惚れするような、幻想的な空間である。
しかしルネックスは迷わず、光も何もないただの白い点に向けて飛んでいく。比喩でも何でもなく、宇宙空間では歩くことはできないので風の魔術を使って飛んでいるのだ。
これがフェンラリアだったならどうするだろう。ちらっと考えてしまって感傷が蘇ってしまったのは、否定できない。
やがて白い点につくと、そのそばで小さな幼女が憔悴したようにへたり込んでいた。
「あの、入らないの?」
「……ふぃりあは、入れないのよ。ふぃりあはつい最近、四天王じゃなくなったから。お前のせいで、ふぃりあの地球は世界列五位に落ちたんだよ」
「僕から言う事はないかな。僕はただアルティディアを強くしたいだけだ。それに及ばなかったのなら、もっと強くなればいいだけの話だからね」
「……っふん。いつかお前を超えてやるんだから、その時は覚悟するんだね!」
フィリアは長いマフラーをなびかせながら、とてとてと走り去ってしまった。宇宙空間では走るというより飛んでいるので、足の動きはフェイクだろう。
ルネックスはあの歳で五位か、と感心しながら白い点の中に入った。その中にはすでにエリス、マリアンヌ、ケティス、ライムがそろっている。
勿論エリスは一位の席に座っていない。ケティスも二位の席に座っている。
ならばルネックスは必然的に上座に座ることとなるのだろうが、今までそのような経験がなかったために少し緊張する。
エリスに手招かれ、強制的に座らせられてしまったので、その心配も杞憂でしかなかったのだが。
相変わらず歯車の中から形成されているエリスは、全員の面子がそろったことを確認して、うんうんと何度か頷いた。
「よしよーし、全員そろいまっしたねー! じゃあまず昨日の会議を振り返りまっす……と言いたいところなんだけど、まずみんな自己紹介をしましょー!」
「私はマリアンヌ・アントブレッドよ。腐食の魔界アルティニの統治王だわ。まあ、ルネックス君、貴方にはかなわなかったけれどね」
「い、いえいえ、そんなことはないよ。腐食の魔界、有名だし……」
マリアンヌの友好的な態度に、ルネックスも思わず敬語を崩す。腐食の魔界アルティニは確かに有名だ。
元世界列二位はだてではなく、アルティディアの文献にも多々記されているうえ、その他小さな世界にも名を轟かせている。
曰く、その世界に能力なき者が入れば死ぬことは不可避である―――、と。
まあ、チャレンジ精神がある者は機会があればアルティニに行きたい、と思う者も多かったらしい。まあ、世界をまたぐことは相当な実力者でなければできないのだが。
宇宙空間に圧迫されることに耐性を持たない者は、宇宙空間に出た瞬間に潰されてしまう。
それはさておき、先程から黙って紅茶を飲んでいたライムが無音でカップを置く。後ろの剣と盾が丁度いい威圧感を放っている。
「俺はライムです。ライム・ルシティラ。剣と盾の世界ティファスの統治王です。四位になってしまいましたが、いつか二位くらいになってみせます」
「……二位?」
「ケティス爺は、超えられそうにありませんから」
そう言ってライムはちらりと二位席を見た。ケティスはほっほっほ、と髭をさすりながら小さく笑っていた。マリアンヌも苦笑いで、自分も超えられないと小さく頭を振る。ルネックスは今更だが恐らくそのケティスを超えている事に冷汗。
「儂はケティス・アルテミスじゃ。魔法科学の世界マヤの統治王じゃが、のう、ルネックス殿よ。貴殿の科学と魔法は、儂らの上を行くか?」
「……分かりません、でも、超える日はいつか来ると思います」
「期待しておる」
「はい。僕はルネックス・アレキ。巡回の世界アルティディアの統治王だよ」
「私はエリス・ファルデアンス。世界のシステムのひとつだよ! 三千から生み出されたひとつの人格でしかないんだけどっね~!」
エリスはぱああと目を輝かせながら手を広げた。システムの持つ感情は彼女が共有している。システムの持つ思いは彼女の思いだ。
ルネックスを愛護するのは三千のシステムが満場一致で決められたこと。ならばエリスがルネックスを愛するのも当然のこと。
恐ろしいのは、それが機械的感情であるところだ。ルネックスも感じる圧倒的な愛は、狂おしい強制だ。システムの持つ力は――それほど恐ろしい。
「それじゃあ、早速で悪いんだけど、アルティディアを四天世界の頂点にしまっす~! それから四天世界を合併して~、割れ目に結界を立てて~四つの世界の住民が自由に四つの世界に行き来できるようにするんでっす~!」
「は、はあ……システムがそう決めたのなら、反論はできないけど」
「やーん! やっぱりルネックスくんは期待を裏切らないでっす~!」
エリスは今にも抱き着きそうな勢いで目をハートにする。しかしこの場にいる全員が、その愛が強制によるものだと察して、分かっているから。
背筋がぞっとする。システムの考えが分からない。やはり機械的な考えとは、そういうものなのだろうか。
この場にいる者達がそんなことを考えている中、ルネックスは一人違う事を考えていた。
いつだったか冥界に行った時に、アデルに三千世界の条理を説明してもらったはずだ。その時確か、アデルとナタリヤーナは―――。
〇
『まず、三千世界には基本となる歯車軸がございますわ。歯車軸は目に見えませんの。それは、世界のシステムのみがたどり着ける、歯車で形成された世界ですわ。歯車軸の中にある歯車は全部で三千個。つまり、三千世界の運命を司っているのです』
『歯車がひとつ動けば、その世界は進展します。世界のシステムが三千もの世界を管理することができるのは、この歯車軸のおかげでもあるでしょう。歯車軸は一人管理者がいれば、オートモードで動きますから』
『……ですが、その三千世界以外で乱星国と呼ばれる、軌道の定まらない星が多く存在しますわ。住民がいない星が殆どですが、王がいる場合もありますの。曰く、それは特殊な星。曰く、それは深い秘密が隠れている星。曰く、それはその世界の王による無限の改ざんが許される星、ですわ』
『軌道も王が定めることができます。それを踏まえて聞いてほしいことがあります。まず、四天世界があることは説明しましたね? その四天世界というのは、どれもが独自の研究を進めてきた強者です』
『その世界を合併すれば、より強い世界を作ることができますの。何故世界のシステムがそれをしないかと言いますと、今言った乱星国のせいですわ。乱星国には、大きな星に軌道を定め、星を破壊することもできますの。いわゆる四天世界二つ分、です。四天世界二つ分の大きさでしたら、破壊することが可能』
『ですから、システムはしたくてもできないのです。しかし、最近乱星国がまとめられ始めている。一人の王によって、段々と大きな星が形成され始めています。三千世界と乱星国が、歯車軸にない変化を見せ始めています。ルネックスさん、そして次の勇者様に、そしてその次、と、三千世界の命運がアルティディアに託されているかもしれません』
〇
「あっれぇ~? ルネックスくん、どうしちゃいましった~? 何か質問がありましたらどんどん聞いてくだっさい。お答えしまっす!」
「なら、遠慮なく聞くよ。……乱星国の危険性は、考えていないの?」
考え込んだルネックスの顔を覗き込んだのは、エリスだった。丁度アデル達の言葉の回想は終わっていたので、慌てて思考を現実に戻す。
どんどん聞いてほしいというのなら、遠慮はしない。言葉を選びもしない。聞きたいことを、ストレートに。
乱星国と言葉を放つと、エリスも、他の三人も、明らかに顔色を変えた。
「ルネックス殿、乱星国の存在を知っているのですな?」
「勿論。明らかに変わりましたね、表情が。どうしたんですか?」
「乱星国はもうコントロールされていまっす。歯車軸に抵抗をしたかったようでっすが、逆に歯車軸に飲み込まれまっした。自力での脱出ができるかは王様次第でっすが、脱出したとて世界としての戦力を回復するには時間がかかりまっす。どうです?」
「それも絶対じゃない。世界のシステムは、百パーセントの確率をなしに行動をするような者達ではない、よね?」
「はあ。やりまっすね。実は、歯車軸全体を使って乱星国を削ってるんでっす。あはは、どんどん小さくなってまっすよ! 他の小さな乱星国もビビッて近づこうともしませんからね~、どうです、他に質問はありまっすか?」
「……いや、十分だよ」
世界を削る、という事はすなわち命を削るという事。歯車軸で削っていくたびに、その世界の命はひとつずつ消されていく。
それに歯車軸は世界を守る盾でもある。それをふんだんに使うという事は、他の世界より乱星国を殺すことにシステムがご執心だという事。
命をどうでもいいと思う姿勢。他の世界を丸投げする大人げなさ。そして何より、命を殺すことの楽しさが、システムにはある。
その事実を徐々に理解し始めたケティス達が、顔を青くし始める。世界のシステム―――それは、ただの巨大な殺戮兵器だ。
英雄や勇者を手伝っているように見えて、自分の都合通りにものを配置しては消す、凶悪な魔王でしかない。
それをすでに理解していたルネックスは、ただ嘲笑の笑みを浮かべるのみ。
次の勇者に提供するための情報は、今日皮肉にも世界のシステム自身が提供してくれた。ならばもう悩むことは無い、次の勇者が世界のシステムを消してくれる。
何故なら勇者とはそうあるべきだからだ。ルネックスのようなイレギュラーではなく、最初から勇者になるために生まれてきた者は、もっと。
エリスが次の話題を始めたので、ルネックス達は一斉に思考をやめる。いつ殺されるか分からない――そんな恐怖がマリアンヌ達には芽生えていた。
(……もう誰も殺させない)
勇者が生まれるまでのルネックスの目標は、今残る乱星国を受け入れる手段を考えることになるかもしれない。
世界のシステム怖い、、、次回の勇者マジで頑張って(゜-゜)
本当に僕ブレ世界観謎になってきたかもしれません。いや、元から謎なんですけど、本格的に。
この作品のキャッチコピー、謎世界観にしようと思います。
それはそれで、今回の話を書いた感想ですが、、、
エリスちゃん、コワカワイイってやつですか? それともただの怖い奴ですか?
多分、残酷な事が嫌いな方は二番、それでもいいよっていう方は一番を選ぶと思います。
ちなみに私は一番を選びました。私のは母は二番を選びました。
みなさんはどっちだと思いますか? 答えが決まりましたら、そっと画面の前で該当する番号の数で指を立ててください。作者の心に響きます。
一番の場合、中指を立てるのはお控えください(゜-゜)